なざりっく!   作:田島

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第九階層の廊下~デミウルゴスとセバスの会話

「やあおはようセバス、清々しい朝だね」

「……おはようございます」

 第九階層の廊下でセバスが出会ったのは、ナザリックでセバスが一番顔を見たくない悪魔――デミウルゴスだった。理由は分からないがいやに上機嫌だ。

「君達のお陰でこの誉れ高き第九階層は美しく保たれている、実に素晴らしいことだね」

「恐れ入ります。それではわたくしはこれで」

「まあ待ちたまえ、そう急ぐ用事でもないのだろう?」

「立ち話というのもあまり行儀がよろしくありませんし、業務に支障をきたしますので」

「ナザリックの者同士が交流を深める事の重要性をアインズ様が先日説いておられただろう? これもその一環さ。何せ君と私の不仲はナザリック中に知れ渡っている、それがこうして廊下で気楽に立ち話をしたと知ればアインズ様もさぞやお喜びになるとは思わないかい?」

 デミウルゴスのその言葉に、セバスは言い返すことができなかった。任務に私情を挟んだりはしないがそれでもできればデミウルゴスと一緒の仕事は御免被りたいと思っている、だがそれでは作戦立案に支障をきたしたりするかもしれない。デミウルゴスとの不愉快な口論を慈悲深いアインズ様は「もっと喧嘩しないとな」と笑って許して下さったが、その慈悲深さに甘えてばかりいてはいけないとも思う。そもそもあの時はツアレについて報告を怠ったセバスを寛大な心で許して下さったばかりだったのだ、どれだけの度量をお持ちなのかと畏敬の念はますます深まる。

 人間の皮を剥いだのが楽しかったとかそういった類の話をされるのであれば心底不愉快なのだが、多少は付き合うべきかと思いセバスはデミウルゴスに向き直った。

「いいでしょう。至高の御方のお言葉を実行する事は大切な事でもありますから」

「ふふ、それでいい。ところで、どうだい最近、ツアレの様子は。私も気にかけてはいるのだがね」

「ミンチを作らせるために牧場に連れていきたいという話ならば聞けません」

「まさか、そんな事は言わないとも。君と一緒に働きたいというツアレの希望はアインズ様自らお認めになられたもの、それに異議を挟んだりはしない。できれば子供のことを前向きに考えてほしいものだが、それも今は言わないでおこう。私が気にしているのは、ツアレがこのナザリックに馴染めていないのではないか、ということだよ」

 デミウルゴスの指摘にセバスは言葉を詰まらせた。言われた通り、ツアレはナザリックに馴染めていない。メイド見習いとしてメイドの技能を磨いているものの、他のメイド達は人間など下に見て相手にはしないから輪の中に入れよう筈もない。それでもセバスと一緒に働けるこの環境がツアレにとっては何より幸せなようだが、見ている方のセバスとしては辛いものがある。客人待遇で来てくれれば、と何度思ったか分からない。

 目線を下に落としたセバスを見て、ふむ、とデミウルゴスは唸った。

「いけないね、人間という劣等種族を下に見てしまうのは仕方のないことだが、ツアレはアインズ・ウール・ゴウンの名においてナザリックに迎え入れられた存在だ。そこのところがメイド達には理解できていないのだろうかね。君が強く言えないようであれば私から言って聞かせるが」

「いえ、結構です! 第九階層の管理はわたくしの仕事、わたくしの責任において行われるべき事ですので!」

「何もそう遠慮する事はない、君と私の仲じゃないか」

 セバスにそう告げてにこりとデミウルゴスは優しげな笑みを頬に浮かべた。何を言っているんだこいつは、というのが正直なセバスの感想だ。デミウルゴスとセバスの関係など最悪である。ナザリックの仲間でなければ殺している。嫌悪の対象でしかない。

「いえあの、本当に結構ですので……」

「他に何か困っている事はないかね? 君の力になりたいんだ、何でも相談してくれたまえ」

「あの……デミウルゴス様…………何か、悪い物でもお食べになられたのでしょうか?」

「昨日は食堂で作ってもらったサンドイッチをつまんだきりだね。大体、バフにしろデバフにしろ食事による状態変化を悪魔は受けない、勿論君も知っているだろう?」

「あ、はい……左様ですね……」

「私は君と、心の友、親友と呼べる間柄になりたいと思っているんだよ、セバス。まずは胸襟を開き語り合う事から始めようじゃないか。私に言いたい事がもしあるなら何でも言ってくれ、さあ!」

 気味の悪いものを見る目でデミウルゴスをセバスは見てすぐに目を背け、必死に首を横に振った。

「あ、あの、結構です! しし、失礼いたします!」

 逃げるように早足で立ち去っていったセバスの背中を見送ってデミウルゴスはにんまりと笑い、機嫌良さげに尾が揺れた。セバスの顔を見た時何となく思い付いた嫌がらせだったが、思った以上に効果覿面だったようだ。これからしばらくこの線で遊んでみるか、と上機嫌でデミウルゴスは考えたのだった。


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