この日休みだったアウラは、たまたま休みが一緒だったアルベドに引き摺られるように手首を掴まれて第九階層を歩いていた。アルベドがこれからエステへ行くので付き合えというのである。
「ちょっとアルベドー、あたしはいいってばー!」
「何を言ってるのかしらアウラ、若いからって油断は命取りよ。若い内からのケアが年齢を重ねた時に差となって現れるんだから」
「……アルベドってそれ以上歳取らないよね?」
「そう、私は不老。でも日々のケアは大切だわ。何せアインズ様のお側近くに仕えるんですもの、いつでも美しい姿をお見せしなくては」
「その努力が実ってる気配全然ないけどね」
「ぐっ……」
アウラのツッコミに痛い所を突かれたアルベドが呻く。そう、アルベドの努力は悲しいかな全く実りがない。いつまで経ってもアインズはアルベドを寝所に呼ぶどころか近くに侍らせようとすらしないのだ。
「アインズ様ってアンデッドだしさあ、そういうの興味ないんじゃないかな?」
「そんな事はないわ! だってアインズ様は、わたくしの、そう! わたくしの! この豊かな胸を! 熱心に揉まれてらっしゃったのよ!」
「それってこの世界に来た直後だよね、うーん、何か調べたい事があったとか……?」
「……その可能性は否定できないわ、でもそれって胸を揉まなければ調べられない事だったのかしら」
「アインズ様のお考えなんて難しすぎてあたしなんかに分かるわけないよ。でもさあ、ナザリックの絶対なる支配者であらせられるんだからもししたいなら命令すればそれで済むじゃない? 命令しないって事は興味がないからなんじゃないかなぁ」
「そんな……もしそうなら、何としても興味を持って頂かなくては!」
決意に燃えるアルベドをアウラは冷ややかな目で見やった。
「……アルベドさあ、シャルティアもそうだけど、あんたたちのそういう何ていうの? がっついてる所さあ、アインズ様にご迷惑をおかけしてるんじゃない?」
「そんな事はないわ」
「あたしにはとても困ってらっしゃるように見えるけど……それにアルベドががっつくから何回も謹慎食らってるんでしょ? もし歓迎してるなら謹慎になんてしないと思うけど……」
「ふふ、アウラ、だからあなたはまだ子供だというのよ。アインズ様とわたくしの謹慎合戦は最早言葉を超えた愛のやり取りなのよ」
「は?」
分かってないわね、と言わんばかりのドヤ顔をしたアルベドがアウラを見下ろす。勿論その言葉の意図するところがアウラに分かる筈などない。
「アインズ様は絶対なる支配者でありながらとても慎み深い方、そう、あの方は照れてらっしゃるのよ。だから素直に心を開いて頂く為にもわたくしがリードしなければならないのよ。サキュバスとしてのプライドというものもあることだし」
「……照れてるんだったら謹慎にはしなくない? 後で寝所でな、とかやりようはいくらでもあるじゃん」
「そこが! アインズ様の……こう言ってしまったら不敬かもしれないけれども、とてもお可愛らしい所なのよ! 慎み深すぎて、そうやって素直に言葉にできないのよ……ああ、アインズ様、お会いしとうございます……」
「アルベドは毎日会ってるじゃん。それにそれ、自分に都合のいい解釈すぎない……? 毎回あんたを引き剥がすあたしやマーレやデミウルゴスやコキュートスやセバスの身にもなってよね」
「あら、デミウルゴスとコキュートスはわたくしがアインズ様の子を成す事には賛成だと思うけど? そもそも
「あの二人はそれには賛成してるけどあんたを引き剥がすのには苦労してるよ……特にデミウルゴスは守護者の中では腕力ない方だから何かあんたを引き剥がす用の器具でも作った方がいいかって考え込んでたよ。アインズ様のお許しがないのに飛びかかるのやめた方がいいんじゃない? お世継ぎだって、アインズ様が望まれたらという大前提があるじゃない」
「アインズ様は照れ屋でらっしゃるから、待ってるだけでは駄目なのよ! こちらからガンガン攻めなくては!」
「そういう所が引かれる原因なんだと思うけどなー……」
「分かっていないわねアウラは。仕方ないわ、まだ子供ですものね。さあ、少しでも大人の女に近付く為に、女磨き、まずはエステよ!」
「……結局そうなるのかぁ……だからあたしはいいってばー!」
アルベドの怪力に引き摺られ結局エステは目前に迫っていた。アウラがまだ必要もない退屈なエステティックに時間を浪費せねばならないのは最早決定した事実のようだった。こんな事する位ならフェンと遊んであげたいのになぁ、と内心だけでぼやいてアウラは深い溜息をついたのだった。