2019年12月8日日曜日

オウム真理教擁護の研究者が立教大学で講演

大田俊寛氏の講演会を告知する立教大学のウェブサイト
立教大学で12月9日、「人文研究センター公開講演会」として宗教学者・大田俊寛氏(埼玉大学非常勤講師)が講演する。演題は〈「人文学と知」われわれは宗教や「カルト」の問題にどのように向き合うべきか——オウム真理教の事例を中心として〉。大田氏は、オウム真理教の一派「ひかりの輪 」(上祐史浩代表)と関わりを持ち、団体規制法に基づく同団体への観察処分を外すための活動に協力するなどしてきた。

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また今回の演題にもある〈「カルト」の問題〉をめぐっては、雑誌による対談企画で、カルト問題に継続的に取り組む人々を「陰謀論者」呼ばわりしたこともある。オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺人事件をめぐっては、坂本弁護士に非があったかのように批判する発言もしている。

オウム真理教の一派に加担し、カルト問題に取り組む人々を中傷する研究者に「カルト問題」を語らせる立教大学の良識が問われる。

問題の講演会は、立教大学人文研究センターの主催。12月9日午後7時から、池袋キャンパス10号館3階X301教室で開催される。一般公開で予約不要、入場無料。


■ひかりの輪にすり寄る御用学者

大田氏は、もともとグノーシス主義などを研究する研究者だが、2011年に『オウム真理教の精神史』を出版。2012年に雑誌『atプラス』(13号)の企画として上祐代表と対談し、2014・17年の2度にわたって「ひかりの輪外部監査委員会」に対して、ひかりの輪は真摯に反省しているなどとして、団体規制法に基づく観察処分の対象外とすることを支持する意見書を提出した。

【ひかりの輪外部監査委員会のウェブサイト 2017年11月17日】「ひかりの輪」の宗教的活動に関する私見(2017年の追記)
念のために繰り返せば、「ひかりの輪」においては、かつてのオウム真理教のあり方に対する反省が、きわめて真摯かつ徹底した仕方で行われている。

同監査委員会は、ひかりの輪脱会者によれば「観察処分を外すためにひかりの輪自身が始めたもの」で、信者やシンパが委員になっている。ひかりの輪の行事「聖地巡り」で無免許のまま運転手をしていたとして警察に摘発された信者も、摘発された2016年当時、同監査委員会の委員だった。

ひかりの輪はオウム真理教の一派。東京新聞などの報道によれば、今年3月には東京高裁がひかりの輪について、オウム真理教と同一性があるとする判決を下している(ひかりの輪側は上告を宣言している)。

2018年7月に教祖・麻原彰晃(松本智津夫)と6人の弟子たちへの死刑が執行された(後日さらに6人に執行)。その際『週刊新潮』(同月11日発売号)が、オウム真理教内で1991年に女性信者が殺害されたものの発覚しておらず事件として扱われてこなかったが、その殺害にひかりの輪の上祐史浩代表が立ち会っていたことを報じた。記事によると、同誌は死刑執行前からその事実を掴み上祐氏に取材をしていたものの、上祐氏は回答を拒否。死刑執行後になって事実を認めたという。

この事件については、殺害された女性信者が「行方不明」とされたことから両親(すでに故人)も娘の行方を探していた。2015年にある弁護士が上祐氏にこの件について尋ねた際も、上祐氏は「知らない」と答えたという。

上祐氏は一連のオウム事件を総括し反省したかのように装いつつ、実は自身が直接目にした殺人事件の存在を意図的に隠し続けてきたことになる。それを、事件に関与した教祖や弟子たちの死刑が執行され自分以外の証言者がほぼいなくなって初めて白状し、自分は手を下しておらず見ていただけなどとした。

こうした上祐氏の態度には、ひかりの輪の脱会者を支援する「インコの会」関係者などからも批判の声があがり、「上祐は事件について反省なんかしていない」との声も聞かれる。

これより前にひかりの輪について真摯に反省していると主張していた大田氏は、この点について以下のように言及し、なおも上祐氏やひかりの輪は真摯に反省していると評価する姿勢を崩さない。

【大田俊寛氏のウェブサイト 2019年9月14日】「ヴァジラヤーナの一群」に関する試論――オウム真理教の隠された教団構造について
上祐氏やひかりの輪によるオウム総括は、基本的に真摯な姿勢で行われていたが、吉田氏の殺害事件に関しては、さまざまな心理的障壁に阻まれて告白することができなかった、と理解するのが妥当であると思われる。上祐氏は『週刊新潮』の記事において、「麻原への信仰が続いているうちは言えませんでした。(アレフを)脱会した後も恐怖と不安で言えなかった。告白したら自らに危険が及ぶという不安がありました」と発言しているが、私はそれが、氏の率直な心境であったのだろうと受け止めている。

前出のインコの会の事務局長・藤倉善郎氏は言う。

「それがどうした、としか言いようがない。仮に大田氏の見方が正しかったと仮定しても、上祐が反省していることにならない。大田氏の主張は『上祐は心理的障壁によって反省できずにいた』というのと同義だ。上祐が反省しない理由を説明しているにすぎない。上祐やひかりの輪を持ち上げてきた大田の誤りが、この女性信者殺害事件をめぐってより一層はっきりした」

■カルト被害者・批判者への中傷

上祐氏との対談がひかりの輪のサイトにも掲載され、教団の宣伝に利用されている大田俊寛氏
大田氏はひかりの輪を擁護し正当化するのと並行して、長年カルト問題に取り組んできた人々や、オウム真理教問題で尽力し家族とともに殺害された坂本堤弁護士をも中傷してきた。

2012年『日経ビジネスアソシエ』(7月号)で「反カルトのカルト性」を指摘。2017年には雑誌『宗教問題』主催の公開座談会(大田、上祐、西道弘3氏)で、〈「カルト問題に携わっている」と称する人の少なからず〉を陰謀論者と語った。また、同誌で記事として掲載されたものには収録されていないが、公開座談会の席ではマインド・コントロール研究で知られる社会心理学者・西田公昭氏(立正大学教授・日本脱カルト協会代表理事)を名指しして〈宗教の知識が全くない〉と言い放った。

2018年には『中日新聞』(3月31日号)に掲載されたインタビュー記事〈オウムとは何だったのか〉で、カルトによる信者等への心理操作や影響力を指摘するマインド・コントロール論について根拠も挙げずに〈疑似科学〉〈オウムの解明にも実質的にほとんど寄与していません〉と発言。直後にTwitter上で、『中日新聞』記事で大田氏と並んでインタビュー記事が掲載されたフォトジャーナリスト・藤田庄市氏を名指しし、反体制運動にかかわる左翼学者の影響を受けているとの趣旨で中傷。藤田氏はカルト問題を含めた宗教取材を長年続けてきたジャーナリスト。

さらにこのとき大田氏はTwitter上で、カルトを批判する脱会者について〈あなたも元々はカルトの信者や支援者だったのでは? そんなに偉そうなことも言えないはずでしょう?〉などと投稿。直後に批判を浴びて削除している。

同年4月には、雑誌『Journalism』(4月号)〈残存し続ける「私刑」体質 日本社会はオウムの総括に失敗〉の中でも、マインド・コントロール論を疑似科学としたばかりか、坂本弁護士一家殺害事件の原因を坂本弁護士によるオウムへの対応ミスであるかのように評し、カルトの暴走を、カルトを批判する側の対応のまずさのせいにした。

■「思想史」研究者なのに歴史認識を誤る

同年9月に開催された鎌田東二氏を中心とする「心身変容技法研究会」での発表においては、1940年代からのアメリカの心理学者による研究・実践や1960年代からの「ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント」(人間性回復運動)や、それ以後の自己啓発セミナーの登場やカルト化といった歴史を社会心理学の責任とし、マインド・コントロール論を〈「科学的な精神操作が可能である」という幻想〉とした。さらに社会心理学について、〈カルトが(略)マインド・コントロールしているという、短絡的かつ責任転嫁的な非難へと転じ〉たとする。

要約すれば「科学的な精神操作が可能であるという幻想によってヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントのカルト化を招いた社会心理学が、カルトによるマインド・コントロールを批判するのは責任転嫁である」という趣旨だ。

ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントとは、1960年代のアメリカで起こった民間の心理学ブームのこと。背景としてカール・ロジャースやアブラハム・マズローといった心理学者の研究が影響しているとされており、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントの中心地となった「エサレン研究所」の活動には心理学者も関わっていたと言われる。「ニューエイジ」や「精神世界」と呼ばれる、心理学とオカルトが渾然一体となった分野の成立につながり、マルチ商法のセールスマン研修を生業とする人々の参入により「自己啓発セミナー」が生まれた。70~80年代にかけて日本にも上陸してブームとなり、その一群に属するセミナー会社だった「ライフスペース」(代表=高橋弘二、故人)による1999年に「成田ミイラ事件」(199年)や、X JAPANのTOSHIを広告塔とした「ホームオブハート」(実質リーダー=倉渕徹氏)で施設から複数の子供が児童相談所に保護された事件(2004年)など、カルト的な事件の発生にもつながっている。

しかし歴史的にマインド・コントロール研究とは全く無関係だ。大田氏が名指しで批判する社会心理学者の西田氏自身、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントの信奉者でも研究者でもない。ニューエイジや心理学の研究者から見たら、失笑モノだろう。大田氏はもともとグノーシス主義などの宗教思想史の研究者なのに、歴史の捉え方を知らないようだ。

また、仮に大田氏の主張通り「科学的な精神操作が可能である」ことが幻想だというなら、自己啓発セミナーで精神を変革できると信じ込むような心理操作も幻想だということになってしまう。もし本当にそうなら、自己啓発セミナーに騙される被害者が存在するわけがない。

大田氏の主張は、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントとマインド・コントロール研究のそれぞれの歴史への無知をさらけ出すもので、なおかつ主張の論理自体も破綻している。

加えて、前述のように大田氏は、坂本堤弁護士やカルトの元信者たちに「自己責任」の論理を突きつける。カルト被害者やその遺族へのセカンドレイプと言わざるを得ない。

■学会でも疑問視

さらに問題なのは、こうした諸々の言説を、ひかりの輪を擁護する宗教学者が社会に向けて発信している点だ。こうした動きには、当然のことながら研究者の中からも疑問視する声が挙がっている。

今年10月に東京女子大学で開催された「第92回日本社会学会大会」では、宗教社会学者・塚田穂高氏(上越教育大学助教)が〈社会調査の倫理と「調査(者)を利用しようとする被調査者」問題―オウム真理教とアカデミシャンの関係を事例に〉と題して発表。その中で、オウム真理教に利用された宗教学者の山折哲雄・中沢新一・島田裕巳3氏の事例を挙げ、「オウム真理教とアカデミシャン」問題を提起した。3氏の事例は過去のものとして。そして現在の問題として、鎌田東二氏と大田俊寛氏のケースを報告している。会場では「彼らのこうした言動・論評は、そもそも学術的な水準での社会調査に基づいているとは言えないのでは」といった厳しい指摘もなされた。

両氏ともにひかりの輪を好意的に評価し、ひかりの輪のウェブサイトなどでその内容が宣伝に利用されている。また前出の鎌田東二を中心とする「心身変容技法研究会」にひかりの輪幹部が出席した際には、一般参加者の唯一の参加申込窓口をその幹部が務めていた。

前述の、大田氏が意見書を寄せたひかりの輪外部監査委員会の報告書は、公安調査庁に提出されている。オウムに利用されたことで有名な島田裕巳氏ですら、オウムに利するために行政に働きかけたという話は聞かない。大田氏を「遅れて来た島田裕巳」と評する声もあるが、やっていることは島田氏以上に、研究者の領分を逸した悪質なものかもしれない。

この大田氏が講演する12月9日の講演会の説明には、こう書かれている。

【立教大学ウェブサイト】「人文学と知」われわれは宗教や「カルト」の問題にどのように向き合うべきか——オウム真理教の事例を中心として

1995年に地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教が、歴史的に見ても比類のないレベルの「破壊的カルト」であったことは否定できない。しかし同時に、そうした団体が日本社会のなかから生み出されたこと、不適切な対応が繰り返されたためにその暴走が少なからず加速されたことも、見落としてはならない事実である。この講演では、オウム問題の来歴や現状を振り返りながら、近代社会が宗教や「カルト」に向き合う際の基本線を再検討したい。

坂本弁護士一家殺害事件の原因が坂本弁護士にあるかのように捉え、自己責任論を振りかざしてカルト脱会者をなじる大田氏が語る、カルトへの〈不適切な対応〉〈近代社会が宗教や「カルト」に向き合う際の基本線〉とは、いったい何なのか。注目したい。

1 コメント:

匿名 さんのコメント...

>自己責任論を振りかざしてカルト脱会者をなじる大田氏が語る、

「カルトに騙される方が悪い」的な?