2019-12-07

インフルエンザについて,救急外来より愛をこめて

今年も寒くなってきました.真冬救急外来からインフルエンザについて,よく患者さんから尋ねられることについて,少しだけお話したいと思います

Q1.これは風邪なんですか? インフルエンザなんですか? 

 風邪というのは,ある種のウイルスがはなやのどで悪さをする病気です.インフルエンザ特定ウイルスがそれを起こしたものです.実際,そのふたつを完全に見極める方法はありません.一般論として,インフルエンザのほうがより熱が高く,突然調子が悪くなり,全身の節々の痛みがあることが多いですが,徐々に発症して37度台というようなインフルエンザもあります(とりわけ予防接種を打たれた方に多い印象があります).

 そもそも,この2つを区別する医学的な意味はあまりありません.子供とお年寄りを除けば,この2つの病気はどちらも自然に良くなる病気からです.「インフルエンザなのかどうか,会社にはっきりさせろと言われたんです」という方も良くいらっしゃいます社会要請に応えられず申し訳ないですが,この区別現代医学では不可能です.この話をするたびに,よく憮然とした表情をされます......あなたに悪さをしているウイルスが何であれ,体調が悪いときはみんなが休める世の中になるといいなと思います


Q2. どうしてインフルエンザ検査をしてくれないんですか?

 よくおこなわれるインフルエンザ検査は,鼻水のなかにインフルエンザウイルスに含まれ特別タンパク質が(ある程度多く)含まれいるかどうかをみています.鼻の奥に綿棒を突っ込んで,大抵の人にとってなかなかの苦痛を伴うこの検査は,インフルエンザだと判定した場合インフルエンザであることはほとんど間違いないですが,実際にインフルエンザの人々を捕まえてきて検査をおこなっても,悪いデータでは半分程度しかインフルエンザだと判定してくれません.すなわち,インフルエンザでないという判定でも,その人がインフルエンザでないという保証にはこれっぽっちもなりません.

 私たちは,この検査を「インフルエンザかどうか悩ましい」患者さんに限って用いることにしています流行期に,典型的な症状をおもちで,インフルエンザ可能性が非常に高い方には,この検査をする意味がありません.インフルエンザではないという結果が出ても,結局インフルエンザ可能性をまったく捨てられないためです.

 ※ この検査において綿棒は鼻の奥まで深く突っ込み,そこでしっかりと鼻水を染み込ませることが推奨されています.真面目にやると,結構痛い検査です.もしあなたが鼻の入り口を少し拭う程度でほとんど痛みを伴わないような検査をされた場合は,もしかすると少し検出率が下がってしまうかもしれません.


Q3. どうしてお薬を出してくれないんですか?

 タミフルその他,インフルエンザのお薬は,症状を半日~1日程度はやく治す効果があると言われています.逆に言えば飲まなくとも(健康な成人であれば)治ります.お薬には様々な副作用がありますタミフル場合下痢特に目立ちますが,アレルギーを起こす方もいらっしゃいます.完全に利益けがある治療というのはありません.利益不利益をてんびんにかけて,私たちは常に患者さんに最も良いと思われる治療提案しています半日~1日程度症状が早く取れることは,忙しい現代人にとってそれなりに大きなメリットだと思いますので,私はこのことを説明した上で,患者さんと相談しています(おそらく,問答無用で処方する医師も多いと思います).

 ※ 一時期話題になった,若い方の異常行動については,タミフルなどのお薬が原因ではないことが明らかになりました.インフルエンザにかかった若い方は,非常に稀ですが異常な行動をとることがあります.出来れば誰かが見守ってあげるとよいと思います

 ※ ゾフルーザを希望する患者さんがたまにいらっしゃいます.これまでのお薬とは仕組みが違うお薬です.様々な議論があり,この文章で立ち入ることは避けますが,私は処方しません.


 インフルエンザ流行している時期に,高い熱と,はなみず・せき・のどの痛み・節々の痛みが「すべて」揃っている場合は,ほとんど間違いなくインフルエンザです.あなた健康な成人なら,混んでいる病院に行かず,水分をしっかり摂って家で休むという選択肢もあります.もちろん少しでも不安ときには,あなた病院を訪れることを私たちは歓迎します.国民皆保険制度はそれを可能にしています一般に,医療スタッフ患者さんとの間のコミュニケーションはしばしば不十分であり,それによって不幸なすれ違いが時折生じていることは,よく承知しており,大変心苦しく思っています患者さんの病気を治す手伝いができることが,医療スタッフの何よりの喜びです.

 ※ 注意:高い熱だけで他の症状がないときや,のどの痛みだけが異常に目立つときなどに,安易にかぜやインフルエンザ判断するのは危険です! あくまでもはなやのど,せきの症状がみな同じぐらいに出る場合に,風邪インフルエンザを考えてください.

 ※ より詳しい情報をお求めの方は,厚生労働省ホームページ等を御覧ください.また,参考文献を示していないことをお許しください.

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