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異世界最強の大魔王、転生し冒険者になる 作者:月夜 涙(るい)
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第二十二話:魔王様の戦いと眷属の戦い

 イナゴが過ぎ去ったあと、集中力を高め、力の出どころを探る。

 この試練の塔を黒く塗りつぶしている元凶を見つけるために。

 ただの人になった今でも俺の魂は神の力を感じとることができる。

 俺の感知能力はさほど高くないとはいえ、まるで強烈なサーチライトをつけているような圧倒的な力が溢れており、簡単に見つけられそうだ。

 見つけた。

 元凶は第四階層にいる。


「アロロア、誰でもいいから魔王軍に連絡を取れ。あいつらなら地上に出たイナゴはなんとかしてくれる」


 魔王軍の解散を命じたが、あいつらのつながりは絶たれていないだろう。

 そして、眷属たちなら魔族たちを救うために力を合わせて動いてくれる。

 ……彼らの力を借りるのは心苦しいが、彼らの力がなければすべてが食い尽くされる。


「ロロア様には連絡済。新生魔王軍がルシル様の命令を待っていると、今連絡があった」

「なんだ、その新生魔王軍っていうのは」

「回答。ルシル様が魔王軍の解散を命じたあと、ドルクス様の提案によって作られた組織。構成員は魔王軍と一緒」

「あいつら……自分たちの道を歩けと言ったのに」

「否定。みんなが好きにした結果がこれ。ドルクスの提案した新生魔王軍にみんなが自分の意志で集まった。魔王じゃなくなったルシル様に、私たちを止める資格はない」


 苦笑する。

 それがあいつらが選んだ好きに生きるということか。

 なら、仕方ない。


「わかった。なら、その新生魔王軍にイナゴ退治を頼む。魔王としての命令じゃない、奴らの友人としての頼みだ」

「了解。ルシル様のお願いを伝える」


 これで地上は安心だ。

 イナゴの数は数千、いや数万にも届く。

 それでも、あいつらならどうにかする。


「それから、アロロア、キーアも急いで地上へと退避しろ。俺は少しやることがある」

「否定。ルシル様も帰るべき」

「……そうはいかない。ここから先は大人の喧嘩だ。子供には任せられない」


 神の力に人は抗えない。戦っている次元が違う。

 子は子らの世界があり、大人には大人の世界がある。

 あっちが、大人を出して来たのだから、こっちは俺が行かねばならない。

 人の身に堕ちたとはいえど、俺は魔王だ。その責任がある。

 俺は先へ進む。

 諸悪の根源の元へ。

 しかし……。


「なぜ、ついてくる?」


 アロロアが黙って隣を歩いていた。

 アロロアだけじゃなくキーアもだ。


「回答。今のルシル様はただの人。私の力が必要」

「私はその、急に魔王軍とか言われても、お話についていけてませんが、とにかくルシルさんが何かすっごい危険そうなことを一人でやろうとしていることはわかりました。だから、一緒に行きます」

「どれだけ、危険かわかっていない。とくにキーアはわかってないようだから、わかりやすく言う。さっきのイナゴの群れは人為的なものだ。そして、そんな真似をするような奴を止めようとしている。自殺行為もいいところだ」


 強い口調で脅す。

 だけど、キーアはひるまない。


「それを聞いて余計に帰れなくなりました。帰ってほしかったら、ルシルさんも逃げてください。私たちはパーティです。一緒に進むか、一緒に逃げるかのどっちかです。誰か一人をおいていくなんてありえません」

「同意。私もルシル様が行くなら行く」


 まっすぐな瞳。

 強い決意。それを言葉ではどうにかすることもできない。

 実力行使も厳しい。

 たとえば、二人を気絶させることができても、今のダンジョンに安全な場所はなく、結果的に彼女たちを殺すことになる。

 石……いや、鉄で作ったコテージすらもイナゴは食い散らかしてしまうだろう。


「……わかった。ついてこい」

「はいっ」

「感謝」


 そうして、俺たちは諸悪の根源のもとへ向かうことになった。

 このシチュエーション、千年前を思い出す。

 あのとき、俺はロロア、ライナ、マウラの三人を置き去りにして一人先に進み、千年の眠りを余儀なくされた。

 そのときの判断に後悔はない。

 結果的に、魔族たちを守り、あの子たちも無事で、俺もこうして目を覚まし、我が子らが作った世界を楽しんでいる。


 でも、こうして三人で先へ進むと、こう思ってしまう。

 もし、あのとき、あの子たちと一緒に進んでいれば、また違った結末があったかもしれない。


「考えるべきは過去じゃなく今だな」


 どうやって、キーアとアロロアを守る。いや、二人とどう戦うかを考えなければ。


 ◇


 イナゴの群れ、その第二陣が押し寄せてくる。

 さきほどと同じように【炎嵐】で凌ぐのは避けたい。あれは魔力の消耗が大きすぎる。

 だから俺は飛ぶ。

 風を呼び、遥か上空へと。


「キーア、サポートを頼む」

「はいっ!」


 さすがに三人を浮かせるのはきつい。

 高度を保つのは俺がやり、推進力はキーアに任せる。

 予想以上にうまくいく。ほとんど消費なしにイナゴの群れを避けられそうだ。


「シャリオさんは大丈夫でしょうか?」

「なんとかするだろ」


 フロジャス・ファングの生き残りであるシャリオ。

 あいつは生存能力が非常に高い。イナゴに喰われた仲間を見て絶望しながらも、【炎嵐】が解かれると同時に走って逃げていった。

 ああいうタイプは、長生きする。


「そろそろ着地する」


 イナゴの津波が過ぎ去った、荒れ地に着地。


「……一回目と同じぐらいの数でしたね。あれ、何回ぐらい続くんでしょう」

「さあな、わからない。だからこそ止めないといけないんだ」


 魔王軍の力なら、何万ものイナゴでも対処できる。

 しかし、疲労するし、物資も魔力も消費してしまう。

 無限に湧き出る物量というのは最大の脅威。誰かがもとを絶たないといけない。


「がんばりましょう!」

「ああ、俺はあの街が好きなんだ。守りたい」


 冒険者も楽しいが、きつね亭でも働くのも好きだ。

 我が子らは素晴らしいものを作り上げた。

 それを人ならざるものが理不尽に壊していいわけがない。


「警告。第三陣がきた」

「また、跳ぶぞ」

「はいっ」


 急がないとな。

 魔王軍の限界が来る前に。


 ◇


~浮遊島 魔王城~


 円卓には無数のモニターが映っていた。

 ここは十二人の眷属が集まる場でると同時に司令室でもある。

 エルダー・ドワーフのロロアが街に配置された無数の目と耳を使い、情報をまとめ、各員へ適切に通達。

 その情報を元に最高責任者たる黒死竜のドルクスが指令を出す。


「んっ、周辺の街と村に現状の報告は終わった。城壁は十五分以内にすべて閉まる。街の軍も出動中」

「うむ、それでしたら多少のウチ漏らしがあっても問題ありませんな」

「低層の冒険者たちの保護も順調。……これで、ライナが暴れられる」


 モニターには第一階層の映像が映っている。

 ライナたちが本気を出せば、街の一つや二つ、余波で吹き飛ばすため、あえてそこを戦場にした。

 そして、全力で戦うために今の今まで魔王軍の一般兵を使い、冒険者たちを避難させていたのだ。逃げることを拒むものもいたが、そういう場合は意識を刈り取り、無理やり外に放り出している。

 今は緊急事態だ。手段を選ばない。


 モニターにイナゴの津波が移る。

 その数、一万七百三十ニ。全長二メートル、高さ九十センチなんていう異形のイナゴが二万弱。あまりにも圧巻だ。


「ライナ、あと三分で接敵。要望通り、その階層にいるのはあなただけ。対応できる?」

「愚問なの。ライナの炎を甘く見るななの!」


 ライナの尻尾が黄金色に輝く。

 朱金の炎が全身から迸っていた。

 そして、三分後。

 この世に煉獄が顕現する。


「千年積み重ねた力と想いが織りなす炎を見せてあげるの。【朱金絢爛】」


 半径数キロが朱金の炎に蹂躙された。

 あまりにも幻想的で。

 あまりにも理不尽で。

 あまりにも美しい炎。

 一瞬であっけなく二万ものイナゴが灰となる。

 あまりにも規格外。

 冒険者たちが千人集まろうと、この真似事すらできない。

 これこそが、魔王の眷属として進化した天狐が千年かけて磨き上げた力。


「さすが、ライナ」

「当然なの!」

「でも、悪いニュース。第二陣が第二階層の半ばまで来てる。あと三十分でそちらに行く。……ライナ、何回、今の規模の炎を使える?」

「うーん、確実なのは四発、五発目は撃てるかどうかわかんない。六発目は百%無理なの」

「把握した。四発目を撃つと同時に、魔王様を目指して先へ進んで護衛を。それだけ時間を稼いでくれれば、マウラたちがそっちへ着くから、イナゴの一掃はこっちで引き継げる」

「やー。わかったの。気持ち的には今すぐ魔王様のところへ行きたいぐらいなの」

「んっ、同感。でも、今近くにいる特級戦力は、ライナだけ。みんな出払っているタイミング……運が悪い。ライナじゃないと魔王様が大事にしているものを守れない」

「わかってるの。向こうは魔王様とあの子たちにお任せなの」

「今日のライナは物分りがよくて逆に気持ち悪い」

「むうー、ライナだって成長したの。でも、ちょっとだけ、ううん、ちょっとじゃなくて、すごく悔しい」


 その言葉の意味にロロアはすぐに気付く。なぜなら、ロロアも同じ気持ちだからだ。


「んっ、私もそう。あのとき私たちは魔王様においてかれた。でも、キーアとアロロアは一緒に進んでいる。それがすごく羨ましい」


 ライナとロロア、二人の声には切なさと悔しさと、嫉妬が混じっていた。あのとき一緒に居ることができれば……そう何億回も二人は悔やんできた。

 自分たちができなかったことを、キーアとアロロアはやったのだ。

 ライナがうつむき、それから顔をあげた。

 その顔にはもはや弱さはない。

 虫が押し寄せてくる。


「こいっ、虫ども。今日のライナは機嫌が悪いの。この感情、ぜんぶ叩きつけてやるの!」


 そして、再びライナは力を高める。

 煉獄の業火を放つために。

 奥へと進むルシルたちとは違う戦場が、ここにはあった。

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