中国の選挙介入疑惑、防衛策へ法整備 台湾、NZなど

中国・台湾
南西ア・オセアニア
2019/12/6 18:07

【シドニー=松本史、台北=伊原健作】中国による選挙や内政への影響力行使を警戒し、アジア・オセアニアの各国・地域が相次ぎ法整備や新組織の設立に動き出した。来年に総統選を控える台湾では中国の選挙介入を防止する新法が年内にも成立する。中国系実業家による献金スキャンダルに揺れたニュージーランド(NZ)は外国人からの献金を禁止する法案を可決した。中国側は内政干渉を否定するが、同様の動きが他国に広がる可能性もある。

台湾の蔡英文総統

台湾の蔡英文総統

「『海外敵対勢力』による浸透(介入)を防ぐ」。対中強硬路線の台湾与党・民主進歩党(民進党)は11月末に「反浸透法案」を提起した。名指しこそ避けたが、中国が対象なのは明らかだ。敵対勢力からの指示や資金援助を背景に選挙活動、政治献金、フェイクニュースの拡散などを実施した場合、5年以下の懲役などが科される。民進党は年内にも同法を成立させる構えだ。

台湾では中国が中台統一に向けて情報工作を進めているとの危機感が強まり、警戒を訴える6月のデモは10万人規模に膨らんだ。11月にはオーストラリアに亡命申請した中国人男性が台湾での情報工作を暴露したと報じられた。

2020年1月の総統選では民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が対中警戒感の高まりを追い風に、野党・国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)氏を大きくリードする。国民党側は、反中色の強い新法は再選に向けたアピールだと批判する。

NZ議会は3日、改正選挙法を可決した。リトル法相は「外国による選挙介入のリスクは世界的な現象だ」と述べ、警戒感をあらわにした。改正法は政党や候補者が外国人から50NZドル(約3500円)を超える献金を受け取ることを禁じる。

背景にあるのは18年、最大野党・国民党で起きた献金スキャンダルだ。中国系実業家から多額の現金を受け取った疑惑を党首は否定したが、中国の干渉の懸念はくすぶる。リトル氏は20年の総選挙に向け、外国からの干渉を防ぐ追加措置を講じる可能性も示唆した。

ビクトリア大学ガバナンス・政策研究所のサイモン・チャップル所長はNZ改正選挙法について「問題なのは中国共産党と近いNZ企業やNZ国籍保持者らを通じた献金だ」と述べ、外国人の献金を禁じるだけでは不十分だと指摘する。

モリソン豪首相

モリソン豪首相

オーストラリアでも対策が進む。モリソン首相は2日、8700万豪ドル(約65億円)超を投じて豪情報機関や連邦警察などが連携し、外国の内政干渉を捜査する特別チームを組織すると発表した。中国情報機関の関係者が5月の豪総選挙に中国系男性を立候補させようとしていたと11月下旬に報じられたばかりで、早急に対抗措置を取った。

18年に選挙を実施した民主主義の先進国の半数がサイバー攻撃の標的になった――。カナダの情報機関、通信保安局(CSE)は今年4月、こんな報告書を発表し、注意を呼び掛けた。

トランプ氏が勝利した16年の米大統領選ではロシア政府の介入が取り沙汰されるが、ある関係者は「中国の手法はロシアより洗練され、より深刻だ」と指摘する。豪チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授は「中国からの干渉を防ぐため、より多くの財源や人材を投入する必要がある」と強調する。

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