NAVY★IDOL ~海軍士官が現代でアイドルキャプテンを目指すようです~

作者 板野かも

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★★★ Excellent!!!

板野氏を長らく観察している私からすると、本作ははっきり言って板野氏の成長を強く感じる一作である。成長というか適合というべきか、なろう系のガジェットであるTS転生をまんまと使って自分の好きなアイドル物を書き、なろう系の読者をそこそこ程度集めることに成功している。どこに需要があるのか分からないスクールアイドル物をただ自分が書きたいからと言って書いていたカクヨムコン3の頃の板野氏とは別人のようである。
なぜアイドルと海軍という組み合わせなのかは知らないが、作品のメインテーマである海軍士官のことも本当によく調べている。恐らくはこの一作のために膨大な資料を引いたのであろう、こればかりは脱帽である。地の文での説明がややくどい気はするが、士官としての主人公の行動には一貫性があり、現代人との常識ギャップがなかなか上手く描けている。IDOLIZEで見られた過剰な修飾も抑えられており、ちゃんと主人公の目線で状況を追えるようになっている。
ただやはり付け焼き刃というべきか、TS転生物が通常有しているべき魅力が色々と欠落しているのは、氏の限界であろう。せっかくヒロインと同居して数々の美味しい目を見る機会があるのに、主人公が真面目すぎてことごとく回避してしまうのは、読者にとっては興ざめである。「この主人公ならこういう行動を取る」という考えがしっかりあるのは分かるが、そもそも読者が読んで気持ちよくなる展開が先にありきで、それを違和感なく起こせるような主人公を造形するのがなろう系の書き方である。それを覚えれば、なろうの読者にももう少しは目を向けてもらえるのではないだろうか。

最後に、板野氏は怪しげな星を見抜いて削除する目をもっと磨かれるべきである。

★★★ Excellent!!!

少年誌ばりの熱い戦いが繰り広げられる『IDOLIZE』とは打って変わって、当世流行りのWEBラノベの定番ネタ「TS転生」を主題とした異色のアイドル小説。
『IDOLIZE』と同じ世界をベースとしていながら、読み口は大きく異なっており、作者の作風の引き出しの多さをうかがわせる。

堅物の軍人からアイドルに転生する主人公、飛羽隼一の誠実かつ聡明な人格には非常に好感が持てる。「何の取り柄もない高校生が……」「くたびれた30代の社畜が……」といった主人公像を提示しがちのWEBラノベの中で、しっかりと若きエリートとして好感の持てる主人公を立てていることは、本作の見所の一つだろう。

そのエリートのはずの主人公が、戦前の知識と現代の文明・文化とのギャップに戸惑い、トンチンカンな言動を繰り返す日常パートは大変に愉快。
百合関係を思わせる同居人の林檎嬢との関係も微笑ましいものだが、そうした日常の積み重ねの中に細かな伏線を散りばめておき、クライマックスの事件解決編で一気にこれまでの積み重ねを回収する流れは見事としか言いようがない。
アイドルに興味のない読者でも手に汗握ること間違いなしの一作である。

★★★ Excellent!!!

太平洋戦争末期、海軍士官の主人公――飛羽隼一――は戦死を遂げたのだが、現代の女の子――大和ナナ――として目覚める。それもただの女の子ではない。現役アイドルである。

冒頭は、ジャンルを勘違いしてしまいそうな戦闘シーンから始まる。
ただそれも、隼一の性格やその当時の考え方、生き方を読者に植え付け、そんな隼一がアイドルに転生したらどんな物語になるのかと、興味を与えることに成功している。

実際、物語が始まると、隼一は自分が生きてきた時代と現代とのギャップに苦悩する。その姿がなんともコミカルに描かれている。本人は至って真面目なのだが、その真剣さが返って読者に笑いを与える。クスリと笑ってしまうことが多いのだ。また、隼一への周りの突っ込みも最高に面白い。

隼一の真面目な性格故なのか、転生しても本来の身体の持ち主が戻ってきても困らないように、必死にナナの人生を生きる。物語が進むにつれて明かされるナナの事情や性格を知ると、中身が隼一であっても何ら違和感なく読み進めていくことが出来る。むしろ、軍人的発言や勘違いに周囲の人間も違和感を覚えるようだが、結局ナナの性格故と納得しているようにも思う。

そんな勘違いからイベントが発生するも、隼一の知識や技術がその問題を切り抜けていく様は、可愛くもカッコいいとも感じた。

基本的には、某アイドルグループをオマージュしており、彼女たちを知っている人たちであれば、「あの話か」とワクワクしながら読むことが出来るだろう。当然、それを知らなくとも楽しむことが出来る。

最後に、本作は、冗長と受けるエピソードが全くなく、その全てに意味があり、何らかの伏線になっている。それに気付いたときの爽快感と没入感は、この物語に出会えたことの感激をより一層強めることだろう。

★★★ Excellent!!!

旧海軍の攻撃機乗りが現代のアイドルに転生——TS転生物としてはかなり異色の作品だが、華のアイドルでありながら鋼の精神を宿した主人公の王道サクセスストーリーは非常に面白く心躍るもので、気づけば私は彼女(彼?)の虜になってしまった。

私が最初に驚かされたのは考証の緻密さだ。旧海軍の風習や用語からアイドルグループの裏事情まで、本作のために作者がどれだけ調査を重ねたがひしひしと伝わってくる。特に前者については、時折挿入される「ワンポイント講座」から凄まじい熱量が感じられるし、後者についても、某アイドルグループに精通し、実際に解説記事も執筆している作者の膨大な知識が遺憾なく発揮されている。

肝心のストーリーも綿密に構成されており、各話もサクッと読める分量で無駄がない。ネタバレになるため詳しくは言えないが、東京湾に浮かぶとある「島」に関するエピソードなどは、作品テーマをうまく活かした上に伏線回収の手際がお見事。画面の前の私も思わず「おおっ」と唸ってしまった。

そして何より気に入ったのは、やはり主人公のキャラだ。1944年から転生してきた主人公は、21世紀の日本社会の変貌ぶりに圧倒されつつも、アイドルグループの仲間たちとの友情や信頼感を築き、彼らを救うべく新たな戦いに挑むことを決意する。壮絶な戦闘に身を投じてきた海軍士官の魂が、ステージという「戦場」に立つアイドルに宿るとき、比類なきレベルで「かわかっこいい」女の子が誕生するのである。

アイドルに関しては完全に素人な私だが、だからこそ今回の読書体験は非常に新鮮なものだった。さあ、そこのあなたも、彼ら、彼女らと共にいざ出航!

★★★ Excellent!!!

アイドルも、軍隊ものも大好物な私にとって、これほど自分得な設定無いなッ!!と思ってアッと言う間に読んでしまいました。
思えば、アイドルグループも軍隊も、集団生活集団行動ですもんね。
意外と設定がマッチするんだな〜と感心しました。
本文の情報量は多いですが、不思議とうんざりしません。筆者の文章力の高さでしょうか、これはいらないんじゃと思うような文が無いんですよね。
アイドル好きも、軍隊好きにもオススメしたい小説です。

★★★ Excellent!!!

戦時中の海軍の飛羽少尉が、アイドルの大和ナナの体に入ってしまうことから始まる物語です。
彼の目線から見た現代と昭和初期との違いが、とても精細に書かれていて、作者さまの知識の深さを感じます。
(ワンポイント講座もとても読んでいて楽しいです)

飛羽少尉はとても真面目で、絵に描いたような軍人さんです。
そんな彼が大和ナナの体である以外に、エイトミリオンというアイドルグループに心を寄せていくのですが、そこには真摯にアイドルとして頑張っている女の子達の姿があるからだと感じます。
テレビに映る明るくて華やかな姿だけでなく、努力して、傷付いて、それでも負けない強さ……。
アイドルってかっこいいなって思いました。


二章の公開楽しみにしています。