「……そんなことが……」
「あぁ」
モモンとナーベは先程の戦闘が行われていた場所で立っていた。現在会話をしており、その内容は先程出会ったセバスについてだ。
「セバス殿は強かった。正直いって私よりも強いだろう」
「モモンさんよりも!?…ですが勝負は互角だったのではなかったのですか?」
「"互角"という表現は正しくはない。いや…こちらが<課全拳>を限界まで上げたにも関わらず、彼は汗一つ流すことなく行動していた。要するに彼が"互角"に合わせてくれていたんだ。それに…」
「何でしょうか」
「…彼はまだ余力があった。もしかすると…師匠と同じで<課全拳・10倍>までを使いこなせるのかもしれない」
「!」
「私はあくまで『十戒』を"使えるだけ"だ。だが彼は違う。恐らく"使いこなせる"のだろう」
「それは……」
「あぁ。間違いない。彼は師匠の弟子だ。私からすれば兄弟子だな」
「彼が最初の弟子……」
「あぁ。最初は信じられなかった。だが……あの言葉を聞いて確信した。師匠のあの言葉を……」
「"誰かが困ってたら助けるのが当たり前"……ですか…」
その言葉を言えるのはナーベが知っている限り、二人だけだ。
純銀の聖騎士、それと目の前にいる漆黒の戦士。
"誰かが困ってたら助けるのが当たり前"。その言葉の意味を考えると言える者は限られるのは当然だ。
だけど三人目がいた。
それがセバス・チャンという人物。
ナーベは考える。
ナーベはモモンの方に目を向ける。
「どうした?」
「いえ……」
「おーい!」
「ん?あの人は?」
モモンの視線の先にはレエブン候の元にいた男だ。確か名前はロックマイヤー。元オリハルコン級冒険者だったと記憶している。
「良かった。間に合った」
「間に合った?一体どういう意味ですか?」
ナーベの問いにロックマイヤーは困ったように笑いながら口を開いた。
「緊急事態だ。悪いが依頼は後回しで……ついてきてほしい。レエブン候から、そう頼まれたんだ」
(この感じ…)
モモンはロックマイヤーのその表情を見て瞬時に察した。
(間違いない。レエブン候の身に何かがあったのか……)
モモンはナーベの顔を見て頷くとロックマイヤーについていった。
三人が屋敷に戻った。
自慢の庭園に入った瞬間、モモンは違和感を覚えた。
(……屋敷のメイドがいないのか……)
だがその景色を見て推測する。
(この感じ……人払いをしているのか)
それは過去、エ・ランテルの冒険者組合で何度かあった状況と似ていたのだ。
「どうしたのですか?」
部屋に入ってすぐに口を開いたのはモモンだ。
レエブン候のいる書斎に四人はいた。机に座り頭を抱えるレエブン候、その正面に立つモモンとナーベ。出入り口であるドアの横で背中をつけているロックマイヤーだ。
「……『六腕』壊滅の依頼は……"中止"です」
「何故かお聞きしても?」
「……理由は話せません」
嘘だな。そうモモンは確信する。正確には理由は言えないのだろう。恐らくレエブン候の方で何かしらの不都合があったのだろう。問題はそれが彼個人の問題なのか、国家の問題となるのか……。いやそこは重要ではないのだろう。
「……すみません。"漆黒"のお二人に来て頂いたにも関わらず……報酬は必ずお支払いいたしすので…」
(……この様子だと"理由"を聞くのはまず不可能だな。……となるとこの状況を打破するのは非常に困難だな)
「……行こう。ナーベ」
「はい。モモンさん」
モモンとナーベが書斎を後にしようとした時であった。突如ドアが開いた。思わずロックマイヤーはドアから距離を取る様に跳んだ。
「あなた!」
そこには血相を変えて扉を開けていた女性がいた。その綺麗な恰好からして使用人ではないだろう。恐らくレエブン候の妻である女性なのだろう。
「お前!何故入ってきた」
「"漆黒"のお二人に全て打ち明けてしまいましょう!そうすればきっと!」
「駄目だ!」
「……あの子の為ですか?」
「やめろ!」
「"あの子"を助けることが出来るのはこの二人だけではないの」
「"やめろ"と言ってるだろう!」
書斎にレエブン候の怒声が響き渡る。
「…すみませんが…」
"帰ってくれ"。そう言われる前にモモンは口を開いた。この状況を打破できる可能性が少しでもあるならそうするべきだと判断したからだ。
「失礼ですが、レエブン候、もしや誰かを人質に取られたのですか」
「………」
「安心して下さい。先程、武技で周囲の気配を探りましたが怪しい者はいません。だから話していただけませんか」
モモンのその問いかけにレエブン候は口を開こうとしたり首を横に何度も振ったりしている。そのことからモモンは人質がレエブン候の身内で家族だということを察した。
「……分かりました。お話します」
レエブン候は机の上の水の入ったグラスを一度飲み干すと話し出した。
「…実は"八本指"から手紙が来たんです。その内容がこれです」
レエブン候から渡された手紙をモモンは見る。
『 親愛なるレエブン候へ
あなた様の大事なご子息を預かっています。
あなた様同様非常に聡明でいられる。将来が楽しみですね。
そういえば最近、王都では"黒粉"というものが流行っているだとか。
何でもこれを吸ってしまった者はこれに強く依存し、最終的に精神崩壊を引き起こしてしまっているとか。
あなた様の大事な人が吸ってしまわない様に気を付けて下さいね。
そうそう忘れるところでした。
あなたのご子息が遊んで欲しいと望まれています。
ですが我々は玩具道具など用意しておらず、
用意しているのは病気になった時の為の"薬"くらいしか用意していません。
間違えて、ご子息が使用しないようにしっかり管理させて頂きます。
つきましてはご子息が退屈されない様に玩具道具を買ってあげたいので
白金貨500枚を用意しておいて下さい。二日後、こちらの従業員を向かわせますので。
それではご機嫌よう。
指が八本の友人より 』
「"八本指"…っ!」
「それがこちらに届いたのがつい先ほどです」
「ということは明日まで時間はあるのですね?」
「えぇ」
「ならば早速…」
モモンが書斎から出ようとした時だった。開きぱなしになったドアから何者かが現れる。
「旦那様!」
その声の主が姿を見せる。メイド服を着ていた。レエブン候の使用人なのだろう。
「どうした?今は大事な話が!」
「坊ちゃまが帰ってこられました」
「なっ!?りーたんが!?どこだ!?どこにいる!」
「正面入り口に…」
使用人が全て言う前にレエブン候は書斎を飛び出した。それをモモンたちも追いかけていった。
庭園に出て正面入り口に向かうと一人の少年がいた。
「りーたん!」
「パパ!」
二人が抱き合う。
「無事だったかい?何か嫌なことされなかったかい?」
「怖いおじさんに怖い所に連れて行かれたの。でもあの人が助けてくれたの」
そう言って少年が指さした方向には男が立っていた。
モモンにはその姿に見覚えがあった。いや忘れるはずがない。そこにいたのはつい先ほど言葉を交わした相手だったからだ。
「セバス殿!?」
「モモン殿!彼は一体?」
その不安そうな声色にモモンは思わずレエブンの顔を見る。そこからは何ともいえない不安があるのを感じ取った。
(恐らくレエブン候はセバス殿が"八本指"の関係者だとでも思っているのでだろう)
「レエブン候、安心して下さい。彼…セバス・チャン殿は信用できる人です。」
「…それは!?是非お礼をしたい!どうぞ屋敷に入って下さい」
「いえ、結構です」
そう言ってセバスは手で制した。
「ありがとう。セバス殿…いえセバス様。あなたは私の恩人だ」
「いえいえ、"誰かが困ってたら助けるのが当たり前"ですから」
セバスが背中を見せようとした時であった。
「セバスさん、ありがとう!」
そう言ってレエブン候のご子息が手を振るう。それを見たセバス殿は優しく微笑むと手を振り返した。
(セバス殿……)
やはりその背中には"純銀の聖騎士"の姿が重なった。
p.s
楽しみにしていた人がいたらすみません。
更新が非常に遅れました。
質は決して高くはありませんがどうか見て頂けたら幸いです。