PFN、ディープラーニングの研究開発基盤をPyTorchに移行。Chainerはメンテナンスフェーズへ

Preferred Networks(以下PFN)は、研究開発の基盤技術であるディープラーニングフレームワークを、自社開発のChainerから、PyTorchに順次移行すると発表した。今後Chainerの開発はバグフィックスおよびメンテナンスのみとなる。

Chainerファミリー(ChainerCV, Chainer Chemistry, ChainerUI, ChainerRL)についてもこの方針に従う。PFNが運用するディープラーニング入門:Chainerチュートリアル(外部サイト)についても今後コンテンツのリニューアルを検討予定だという。

関連記事:【Chainer】ディープラーニング初学者向けのチュートリアルを無償公開。Pythonの使い方から実装までの流れを学べる

同時に、PyTorchを開発する米FacebookおよびPyTorchの開発者コミュニティと連携し、PyTorchの開発に参加する。Chainerは、12月5日に公開されたメジャーバージョンアップとなる最新版v7をもってメンテナンスフェーズへ移行。Chainerユーザー向けにPyTorchへの移行を支援するドキュメントおよびライブラリを提供するという。

PFN代表取締役社長である西川徹氏のコメントは以下の通り。

――西川
「Chainerは、ディープラーニングのフレームワーク黎明期にあってPFNの基盤技術としてトヨタやFANUCを始めとするパートナーとの研究開発を支え、また、NVIDIAやMicrosoftなどの世界的企業とPFNの協業のきっかけにもなりました。これまでパートナー、コミュニティ、ユーザーにご支援をいただきながら開発を進めてきたChainerからPyTorchへ移行することは、PFNにとって非常に大きな決断です。

しかし、現在最も活発に開発が進むフレームワークのひとつであるPyTorchの開発に、PFN自ら参加することで、Chainerを通じて蓄積した技術を活かすとともに、より競争力の源泉となる分野に開発リソースを集中投下することで、ディープラーニング技術の社会実装をさらに加速できると確信しています」

研究者・開発者から幅広く支持されたChainer

PFNが開発・提供しているChainerは、2015年6月にオープンソース化されて以来、PFNの研究開発を支える基盤技術として事業の成長に大きく貢献してきた。

PFNが考案したDefine-by-Run方式は、複雑なニューラルネットワークを直感的かつ柔軟に構築できることから研究者・開発者コミュニティの支持を集め、現在主流のディープラーニングフレームワークのスタンダードな方式として広く採用され、ディープラーニング技術の発展を加速させる一翼を担った。

しかし近年、フレームワークが成熟したことで、ディープラーニングフレームワークそのものが開発の競争力となっていた時代は終わりを迎えつつある。細かい差異による差別化競争を継続するよりも、ディープラーニングユーザーが選ぶディープラーニングフレームワークにおいてコミュニティを継続的に発展させ、ディープラーニング技術のさらなる進化に向けて健全なエコシステムを築いていくことが重要だ、とPFNはリリース上でコメントしている。

PFNのディープラーニングの研究開発基盤をPyTorchに移行

こうした状況を受け、PFNはディープラーニングの研究開発基盤をChainerの開発思想に最も近いPyTorchに移行。

PyTorchをChainerの開発思想に最も近いとする理由として、具体的には、Define by Runの思想を早くから採用したこと、書き方が近いことするPyTorchの設計や実装(特に自動微分機能)に、Chainerを含む先行OSSが影響を与えたことはPyTorchの論文でも言及されている(同社広報)。

参考:
Automatic differentiation in PyTorch
PyTorch: An Imperative Style, High-Performance Deep Learning Library

Facebookを含む熱心な開発者コミュニティを擁するPyTorchは、近年、ディープラーニングの学術論文に最も頻繁に用いられているオープンソースのディープラーニングフレームワークのひとつとなっている。

PyTorchに移行することで、既存のChainer資産を活用しつつ、最新の研究成果を効率的に取りこむなどして、自らの研究開発を加速することが可能となる。今後、PFNはFacebookのPyTorch開発チームやオープンソースコミュニティと密接に連携しながら、PyTorchの開発に貢献するとともに、自社で開発するディープラーニングプロセッサMN-CoreのPyTorchサポートなどを推進していく、としている。

FacebookのAIインフラバイスプレジデントであるBill Jia氏、Toyota Research Institute (TRI)CEOのGill Pratt氏は以下のようにコメントしている。

――Facebook Vice President of AI Infrastructure, Bill Jia
「PyTorch開発をリードするコントリビュータとして、機械学習の先駆者であるPFNが、今後の開発にPyTorchを採用すると決めたことを大変うれしく思います。優れた分散学習機能と推論性能を備えたPyTorchは、PFNの最先端の研究を支援し、機械学習モデルの迅速なプロトタイプ化と顧客環境への実装を可能にします。同時に、機械学習ツールの深い専門知識を有するPFNが提供するコードは、PyTorchコミュニティ全体に大いに貢献してくれるでしょう」
――Gill Pratt, CEO, Toyota Research Institute(TRI)
「TRIとTRI-ADはPFNのPyTorchへの移行を歓迎いたします。PFNはChainerを生み出し継続的に開発してきたことにより、これまで我々との共同研究開発および自動運転技術の先行開発に大きく貢献してきました。TRIとTRI-ADはPyTorchも使用してきたため、PFNの今回のPyTorch採用により、PFNの持つディープラーニング技術を我々が円滑かつ速やかに応用できるようになると信じています」

ONNXでの立ち位置は?

また、異なるディープラーニングフレームワーク間でAIモデルの相互運用性の実現を図る取り組みである「ONNX(外部サイト)」でのChainerの立ち位置についての回答は以下。

「Chainer v7でONNX出力機能を標準サポートしたことで、ChainerのモデルがONNXで出力できるようになっている。(互換性)。ONNX出力機能についても、Chainer本体のポリシーに従ってメンテナンスを行うので、その範囲では引き続き互換性は担保されるはず。また、PFNは現在ONNX workshopなどONNXの標準化に関する議論に参加しており、今後も継続的にコミュニティでの活動を行う予定。(同社広報)」

Source:
Preferred Networks、ディープラーニングの研究開発基盤をPyTorchに移行
Chainer/CuPy v7のリリースと今後の開発体制について

※2019年12月5日18:20 広報からの回答を追記。

職人の勘や経験をAIが守る。養蚕業での初めてのAI導入を成功させた話

【PR】この記事はソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社「Neural Network Console」のスポンサードコンテンツです。

古くは2、3世紀に大陸から伝わったとも言われている養蚕業。1930年ごろには国の主力輸出品だった生糸を支える蚕(カイコ)がいま、存続の危機に瀕している。

「年々規模が小さくなっている産業なので、これまで『どうにか新しい技術を導入したい』と思いを持つ人はいても、新しい挑戦はできなかったそうです。でも養蚕業は他の産業に比べて手作業が多い分、AIが役に立つ余地がある。カイコの世界にAIを入れることに抵抗はありませんでした」

こう語るのは、群馬県蚕糸技術センターの下田みさとさん。下田さんは蚕糸研究係として、カイコの品種育成や繭の品質調査、養蚕農家向けへの卵の提供を担当している。

縮小を続ける養蚕業において、下田さんはいかにAIを導入・活用し、技術の継承に挑んでいるのだろうか。事例を追った。

いま養蚕業が抱える「伝承」という課題

「カイコを育て、繭をつくる」養蚕業は、明治時代は日本の基幹産業として発達していったものの、化学繊維の登場などにより需要が減少。現在では生産量・養蚕農家数ともに減少の一途を辿っている。生産量は1930年の40万トン、養蚕農家数は1929年の221万戸をピークに、2018年には生産量110トン、農家数293戸にまで落ち込んだ※。

「新蚕業プロジェクト方針」(農林水産省)外部リンク

現在、蚕糸業に携わる人材の高齢化と後継者不足により、経験に基づいたノウハウの継承が困難になっている。そうした技術のひとつが孵化卵の見分け作業だ。直径1.5mmにも満たないカイコの卵を、目視で正常なものとそうでないものとにひとつひとつ仕分ける。

卵1蛾区(卵300〜600粒)を見分ける時間は5〜10分と長くないものの数が多く、10名が1日中見分け作業に取り組んでも数日かかる状態だった。

見分けるコツが言語化しづらく、一朝一夕では伝承できない技術。高齢化している作業者の負担も少なくない。こうした現状をどうにかできないか、と考えていた矢先、下田さんは「画像認識」という言葉を思い出す。

――下田
「AI技術について詳しく知りませんが、”画像認識”という単語を聞いたことがありました。卵の画像から卵の状態を見分けられるAIがあれば、この作業を自動化できるのではと思ったのです」

Neural Network Consoleとの出会いと活用

AI導入を思い立った下田さんは、職場の後押しも受け、中小企業の技術支援を担う群馬県立群馬産業技術センターの町田晃平氏に相談をすることに。同センターでは2016年ごろからAI技術の活用に力を入れており、町田さん自身も技師として、県内・外の中小企業100社超にAI技術の導入支援を受け持った経験がある。

下田さんの相談にも「データを提供していただければ、画像分析AIを作れる」とふたつ返事で快諾した。

――町田
「AI開発を始める段階で真っ先に思いついたのが、ディープラーニングを詳しく知らない人でも操作できるNeural Network Consoleでした。まずはAIを試してみたい、という下田さんにぴったりだと思ったのです」

NNC導入の決め手は、操作性の良さと運用コストの低さ

Neural Network Console(以下NNC)は、ソニーが提供するAI開発ソフトウェアだ。

出典:SONY、深層学習プログラムを生成する「Neural Network Console スターターパック」でAI活用を加速化

画面上の関数ブロックをドラッグ&ドロップで動かすだけで、コードを書かずにAIの作成・テスト・性能アップの調整ができる。

関連記事:非エンジニアがソニーのNeural Network Consoleで画像分類モデルを作ってみた

無料ダウンロードできるソフトウェア版のほか、Chromeなどのウェブブラウザで利用できるクラウド版もあり、気軽に始められるといえるだろう。

町田さんが「ぴったりだ」と直感したもうひとつの理由が、ランニングコストの低さだ。

AIは導入して終わりではない。データを学習させたら実際に運用して成果を見て、さらに認識精度を上げるために調整し、再び運用する……というサイクルを回す必要がある。

加えて、AIの複雑な演算には、高速で演算を処理する装置(GPU)が必要だ。NNCは高性能の演算処理装置が低コストで活用でき、かつ学習・評価に使った分だけ利用料金が発生する仕組みになっている。

――下田
「専用の画像認識ソフトウェアを導入するのに、いきなり数百万円を投資するのは難しいな、と頭を抱えていたんです。だから町田さんからNNCの話を聞いて、低コスト・プログラミングなしでAIが作れると知ったときは、身を乗り出して『ホントにできるんですか?』と聞き返してしまったくらいです」

100枚の画像から熟練作業者並みに分類ができるAIが完成

こうして町田さんはNNCのサンプルを元に、孵化卵の状態を分類できるAIを制作。数十の卵がまとまった写真をアップロードするだけで、卵を分類し個数を数えられる仕組みだ。

「ディープラーニングの認識精度を高めるには大量のデータが必要」ともいわれる中、AIに学習させた画像は100枚ほど。分析精度も熟練作業者並みと、専用のAI画像認識ソフトに引けを取らない分析結果を出せるという。

下田さんが学習用に提供した画像データ

下田さんが「何よりありがたい」と感じているのが、作業工数の削減効果だ。AIを使った場合の分析時間は、画像1枚(卵300〜600粒)あたり1秒に短縮された。

これまではカイコの飼育1回分の孵化調査に10人、計60時間を費やしていた。しかしAIを使うことで、撮影前の処理や撮影、画像分析を含めての作業時間は6時間未満になり、たった1人で完結できるそう。

作業者の負担を減らしたいと考えていた下田さんにとっては、まさにAIによって課題解決ができたというわけだ。

直感的な操作で、プログラミング未経験者でもAIの調整ができる

NNCを使って感じる優れた点は操作性の良さだ、と二人は口をそろえる。「関数ブロックを選んで、ブロックを積み重ねるかピンを引くだけ」という分かりやすい操作は、AI開発のハードルを下げた。

――下田
「ブロックを動かして直感的に操作できるのが、いいところだと思っています。プログラミングの経験はありませんが、NNCの研修に参加し簡単なニューラルネットワークの組み立てなどは私自身でもできました」

実際に下田さんは、セミナーを1度受けただけでNNCの基本操作を理解できたという。

解説動画も無料で用意されている

恩恵を受けられるのは初心者だけではない。開発を担当した町田さんも、「AI開発スピードが段違いに早くなった」という。

――町田
「認識精度を上げるための数値(パラメータ)を修正すると、他の部分も自動的に調整してくれる自動補正機能が気に入っています。ブロック操作と合わせると、プログラミングの負担が減ります」

制作した画像分析AIは検証段階のため、本格的な導入はもう少し先、とのことだが、今後の展望についてたずねると目を輝かせて語ってくれた。

――下田
「養蚕農家へ安全な卵を提供するための微粒子病の検査など、孵化卵の見分けと同様に年々できる人が減っている技術があります。AI分析によって属人化を防ぎ、次世代の人への継承や教育に役立てたいです。

少し先になるかもしれませんが、ベテラン農家さんの経験と勘をどうにか数値化し、新しく養蚕を始めようという人に、『養蚕アプリ』のような形でわかりやすく情報提供できるようにしたいとも考えています」

――町田
「システムを作れる人を巻き込みながら、『産業用AIと言ったら群馬』と言ってもらえるような体制を整えている最中です。

産業の現場や中小企業の方々にNNCを知ってもらい、私たちはローコストで気軽にAIを活用するお手伝いをしていきたいですね」

NNCでAI開発を始めるには

NNCを使い始めるには、以下サイトの「無料で体験」をクリックし、GoogleアカウントもしくはSonyのアカウントでサインインするだけだ。

操作方法は動画や、サポートドキュメントで説明されているほか、社員が直接レクチャーするセミナーも開催している。

AI開発のハードルを下げるNNC。AI導入の最初の一歩として、利用を検討してみてはいかがだろうか。

高輪ゲートウェイ駅に無人AI決済店舗が出店予定、まずは交通系IC支払いに対応

12月3日、株式会社TOUCH TO GO(タッチ トゥ ゴー)は、2020年春に開業する山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」構内に、無人AI決済店舗の第一号店「TOUCH TO GO」をオープンすると発表した。なお、TOUCH TO GO社はJR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社の合弁会社だ。

TOUCH TO GOは、ウォークスルー型の完全キャッシュレス店舗。12月3日の発表時点では「決済方法は交通系ICでのみ」と明かされた。ただし、順次クレジットカードやそのほかの電子マネーなどにも対応予定とのこと。

店舗では、入店した客と、手に取った商品をリアルタイムでカメラなどによって認識する。決済エリアに客が立つと、タッチパネルに商品と購入金額が表示される。客は出口のタッチパネルの表示内容を確認し、交通系ICで支払いするだけで買い物ができるのだ。

一号店となる高輪ゲートウェイ駅内の店舗は、「ラボ」として位置付けられる。この店舗運用で得たノウハウを、多くの小売業界が抱える労働力不足や、地域店舗の維持などの課題解決に向けて展開していく狙いだ。

無人AI決済店舗の開発は、JR東日本グループとサインポストで、過去2度にわたり実証実験し、実用化に向けて商品認識の精度向上などを進めてきた。

2018年12月には、東日本旅客鉄道株式会社も含めた3社で、JR赤羽駅にてAI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」の実証実験をしていた。赤羽などでの実証実験をふまえ、いよいよ高輪ゲートウェイ駅で本格稼働する。

写真は赤羽駅での実証実験のもの


ユニクロなどではRFIDタグで無人レジ

身近な無人レジといえば、ユニクロやGUで導入されている「RFIDタグ」を使ったシステムだろう。欲しい商品をカゴに入れ、レジ下にある読み取り機にセットすれば、カゴ内の商品と金額がレジに表示される仕組み。

RFIDタグは、非接触でタグ内の情報を読み取ることができる。また、複数の商品を一斉に認識できるため、カゴに大量に衣服を入れてもスムーズに対応可能なのも特徴だ。

これまでは「無人レジの実証実験」というニュースがいくつかあったものの、いよいよ本格導入となる。うまくいけば人手不足問題の解決に大きく貢献しそうだ。

>> プレスリリース(PR TIMES)

AI作曲キーボード、自動コードレビュー、統合開発環境──「AWS re:Invent 2019」機械学習系新サービスまとめ

AWSが年次で開催するカンファレンス「AWS re:Invent 2019」が2019年12月3日〜6日で米ラスベガスで開催中だ。

同イベントで発表された、機械学習系の新サービスをまとめた。

機械学習で音楽を作れる「AWS DeepComposer」

▲AWS DeepComposerの実機。出典:Amazon Web Services ブログより

AWS Deep Composerは、ミュージカルキーボードと最新の機械学習技術を使用し、実際に音楽を作ることのできるキーボード。Amazonで99ドルで発売予定だ。(現在は米国内のみで予約受付中)

機械学習の難しい知識は不要で、

  • AWS DeepComposerキーボードをコンピューターに接続してメロディを入力
  • AWS DeepComposerコンソールで仮想キーボードを演奏

などが可能。ロック、ポップ、ジャズ、クラシックから事前にトレーニングされたジャンルモデルを使用し、オリジナルの音楽作品を生成する。Amazon SageMakerとの連携により、独自のカスタムジャンルを作成することもできるほか、楽曲を自動で編曲し、トラックをSoundCloudに公開して、作品を共有することも可能だ。

オンライン詐欺を素早く検知する「Amazon Fraud Detector」

Amazon Fraud Detectorは、オンラインアクティビティを自動的に識別し、オンライン詐欺を防ぐツール。取引履歴を持たないゲストアカウントの不審な行動や、オンライン支払い詐欺などを検出できる。

コードを書かずに機械学習の不正検出モデルを作成できるテンプレートを用意しており、ユーザーが用途に合ったテンプレートを選択した後は、Fraud Detectorが不正検出モデルのトレーニング・テスト、デプロイを実行する。

機械学習を使って問題のあるコードを自動で特定する「Amazon CodeGuru」

出典:Amazon CodeGuru公式サイトより

Amazon CodeGuruは、機械学習を用いて自動的にアプリケーションなどのパフォーマンスを損なうコードをみつけ、修正や改善などを提示してくれるサービス。Amazon内とGitHubで公開されているオープンソースプロジェクトから、機械学習のトレーニングをしている。

アプリケーション内に修正するべきコードがある場合、そのコードの場所、変更を推奨する理由、問題原因、解決策を提示してくれる。

最初の90日間は無料で使うことができ、以降は従量制の月額料金制。たとえば、500行のコードを含むプルリクエストがある場合、CodeGuru Reviewerを実行するのにかかるコストは$ 3.75だ。

コンタクトセンターでの会話分析ができる「Contact Lens for Amazon Connect」

Contact Lens for Amazon Connectは、コールセンターの機能をクラウド上に構築できるAmazon Connectと統合された、コンタクトセンターでの会話分析ができるフルマネージドサービスだ。これまでAmazon Connectで会話分析を行うには、複数のAWSサービスを組み合わせる必要があった。

Amazon Connectの画面からワンクリックで起動でき、通話の自動書き起こしにも対応。機械学習を搭載しており、顧客との会話における感情分析、会話の傾向、コンプライアンスリスクをなどを把握できる。

関連記事:コールセンター業界に現れた黒船「Amazon Connect」が生む新しい電話体験

エンタープライズ向けコンテンツ検索サービス「Amazon Kendra」

出典:Amazon Kendra公式サイトより

Amazon Kendraは、機械学習を使ったエンタープライズ向け検索サービス。

自社のイントラネットサイトやファイルシステムに加え、Box、DropBox、Salesforce、SharePoint、Amazon S3などに点在するコンテンツを一元化して追加でき、すべての情報をすばやく検索することが可能。

ユーザの使用パターンに基づいて機械学習モデルをトレーニングし、検索の精度を向上させる。今後はクエリの入力補助機能や、1日あたりの上位クエリ、上位ドキュメントなどを分析する機能などを実装する予定。

人間のレビューを柔軟に機械学習アプリケーションに組み込める「Amazon Augmented AI(Amazon A2I)」

Amazon Augmented AIでは、機械学習予測の人間によるレビューに必要なワークフローを簡単に構築できるようになる。機械学習アプリケーションでは、結果が正しいかを判断するために、人間は信頼性の低い予測を確認する必要があった。一方で人間が最初からレビューを確認するのでは、時間と費用がかかっていた。

Amazon Augmented AIを使えば、モデルが信頼性の高い予測を行うことができない場合、または予測を継続的に監査できない場合に、人間のレビュー担当者が介入できるようになる。つまりは、人間のレビューを柔軟に機械学習アプリケーションに組み込めるようになるのだ。

機械学習のための統合開発環境「Amazon Sagemaker Studio」

出典:Amazon Web Services ブログより

Amazon SageMaker Studioは、機械学習のための統合開発環境(IDE)だ。

  • SageMaker Notebooks
  • SageMaker Experiments
  • SageMaker Debugger
  • SageMaker Model Monitor
  • SageMaker Autopilot

など、複数のツールで構成される。以下に発表された各新機能を紹介する。

IDE内でJupyter Notebookが起動できる「Amazon SageMaker Notebooks」

出典:Amazon Web Services ブログより

これまでは自らAmazon SageMaker ノートブックインスタンスを立ち上げる必要があった。Amazon SageMaker Notebooksを使うことで、機械学習で使われるJupyter Notebookノートブックの制作と共有が簡単になる。

機械学習モデルの整理や評価を可能にする「Amazon SageMaker Experiments」

Amazon SageMaker Experimentsは、機械学習の実験とモデルバージョンの整理、追跡、比較、評価を可能にする新機能。すべての反復の入力、パラメーター、構成、および結果を自動的に追跡し、グループ化や、整理することも可能だ。

具体的には、Trial(トライアル)とExperiment(実験)という概念に学習ステップを分割する。

  • Trial(トライアル)
    単一のトレーニングジョブを含む学習ステップの集合。

  • Experiment(実験)
    Trialの集合で、関連する学習ジョブのグループ。

SageMaker Experiments は、できるだけ簡単にExperimentを作成し、それらにTrialを追加し、TrialとExperiment全体で分析を実行することをゴールとする。

機械学習モデルをリアルタイムで分析してデバッグする「Amazon SageMaker Debugger」

Amazon SageMaker Debuggerでは、学習時の複雑な処理をデバッグ、解析しアラートを受け取ることが可能。モデルの自動評価、デバッグデータの収集を行い、それらを分析してリアルタイムでアラートを出し、学習時間を最適化するアドバイスからモデルの質を向上できる。

機械学習モデルを自動作成できる「Amazon SageMaker Autopilot」

Amazon SageMaker Autopilotは、単一のAPIを叩くだけで機械学習モデルを自動的に作成できるツール。用意したデータセットの検査、前処理、機械学習アルゴリズムの選択といったジョブを実行できる。

現在、SageMaker Autopilotが対応している機能は以下のとおり。

  • tabularデータフォーマットに対する自動データクリーニングと前処理
  • 線形回帰、2値分類、多値分類の自動アルゴリズム選択
  • 自動ハイパーパラメータチューニング
  • 分散学習
  • インスタンス、クラスタサイズの自動選択

加えて、データがどのように前処理されたかを示すPythonコードも自動生成する。

機械学習モデルを継続的に監視できる「Amazon SageMaker Model Monitor」

稼働環境で機械学習モデルを継続的に監視し、時間の経過とともにモデルのパフォーマンスを低下させる可能性のあるデータドリフトなどの逸脱を検出し、是正措置を取るよう警告する機能。構造化データセットのドリフトをすぐに検出したり、組み込みルールを実行する前にデータ変換を追加したり、独自のカスタムルールを記述したりすることも可能だ。

ディープラーニングはコスパが悪い?AI開発企業が語る、導入プロジェクト成功のノウハウ

11月27日、日本ディープラーニング協会(以下JDLA)会員企業向けの内部勉強会が催された。「AI導入を阻害する要因」と題したパネルディスカッションでは、数多くのAI開発プロジェクトを進めている2社の担当者が、各々の立場から複数のテーマについて語った。

AI開発者のウラ話のほか、自社へのAI導入を考えている非技術者の学びになるであろうパートもあった。本稿では、「ディープラーニングの弱点」「AI導入を成功させる秘訣」の2つのパートの様子をお届けする。

パネラー
花田賢人氏(画面中央)
株式会社Liaro 代表取締役CEO 

南野充則氏(画面左)
株式会社FiNC Technologies 代表取締役CTO/JDLA理事 


ファシリテーター
井﨑武士氏(画像右)
NVIDIA合同会社 エンタープライズ事業部長/JDLA理事

ディープラーニングの弱みとは?

ファシリテーターの井﨑氏は、クライアントに「ディープラーニングができないことは何か」と尋ねられることが多いそう。そこで「ディープラーニングの弱点は何か?」という問いかけがなされた。

パネラーの2名が語ったディープラーニングの弱みは、メンテナンスコストの高さと、大量のデータが必要になる点だ。

――花田
「ディープラーニングや機械学習を使うと、従来の手法に比べてメンテナンスコストが倍以上になってしまいます。たとえば『分析精度を10%高めるのに、メンテナンスコストが10倍以上に増える』ということもある。

古典的な統計手法で事足りる場合も数多くあります。たとえば弊社の需要予測でも、業態によってはディープラーニングを使っていません」

ディープラーニングの分析精度を高めるには、学習と評価が欠かせない。しかし特徴量が増え、複雑なモデルになっていくほど、値(パラメータ)の設定などチューニングに必要な時間が増えていきがちだ。

一部の手法を除いて、ディープラーニングは判断の根拠が見えない。ゆえに、どうすれば分析性能が上がるのか、が見えづらい。

分析精度を上げるには大量のデータが欠かせない

そのため花田氏は、「ディープラーニングを使うかどうかの見極めが重要」と主張する。

――花田
「コンピュータサイエンスを学び始めた頃に、すでにディープラーニングが登場していたという若いエンジニア(20代前半)は、まずはディープラーニングを使おう、と思いがちなので注意が必要です。

弊社の文章生成でもディープラーニングを使おうと考えていましたが、データ不足と、モデルが複雑すぎるといった理由から違う手法をとっています」

南野氏は、ディープラーニング導入が生み出すROI(費用対効果)に注目すべきだと述べた。

――南野 「ディープラーニングを使ったときと、そうでないときのギャップが大きければ大きいほど、ビジネスチャンスはあるでしょう。
しかし、そうでなければ無理にAI導入を進めなくても良いとも思います。

花田さんが言うように、データ量が少ない場合は分析精度が上がらないので、ディープラーニングを使うのは避けたいところ。そもそもディープラーニングを使わなくても、ある程度解決できている問題は数多くあります」

ディープラーニングは銀の弾丸ではなく、あくまで目標達成のひとつの手段にすぎない。「ディープラーニング(AI)を使う」というように固執しすぎず、課題に対して最適な解決手段を取るべきということか。

AI導入プロジェクト成功の秘訣

「AI導入プロジェクトを成功させる上で気をつけるべきこととは?」というパートでは、自社でAI開発を進める南野氏と、他社AIの開発協力を受け持つこともある花田氏と、両者異なる視点から意見が交わされた。

ディープラーニングを使うことが目的化してしまいがち

井﨑氏いわく、「ディープラーニングは判断の過程がブラックボックスだから、成果が出るかどうか分からない」という。ベストは尽くすものの、顧客が欲しいものを提供できずに失敗する可能性もある中、AI開発者が気をつけていることとは何か。

花田氏は、プロジェクト初期に起きる問題として、ディープラーニングを使うこと自体が目的化しがちだと語る。

――花田
「ディープラーニングより精度が高いほかの手法を使ったとき、クライアントから『え、ディープラニングを使っていないの?』という反応を受けたことがありました」

あわせて、プロジェクトをスムーズに進める秘訣として、

  • 社外秘の情報がないか等を事前に確認し、開発側に分析用データをスムーズに受け渡す
  • 勉強会や説明会などを実施し、プロジェクト関係者に「AIとはどんなものか」を周知する
  • (開発側が)失敗した場合にも、分析の知見をフィードバックするなどして、成果を残す

の3点を挙げた。

いきなり完成形を目指すのではなく、マイルストーンを置くべし

花田氏は、「データを分析して可視化していくうちに、機械学習で期待通りの成果が出るかどうか分かってくる」としたうえで、開発プロジェクトをスモールスタートする大切さを説いた。

――花田
「たとえば、予測を出す自動システムをゴールに据えたとしても、『最初はデータの分析で止める』という風に段階を踏んで進めていくのが良いと思います。

結果、初期で止まったプロジェクトもありますが、そのまま開発を進めていたら、成果が出せず後戻りができなくなってしまっていたかもしれません」

南野氏も、評価手法を決めるための情報収集をしたうえで、プロジェクトの「撤退ライン」を決めることが肝要だと述べる。

第1部、Finc Technologiesの登壇資料

――南野
「改善の見込みがないからプロジェクトを終わりにする、というように、適切なタイミングで指示を出すことが大切です」

実際に、南野氏率いるFinc Technologiesは、CTO直下でAI開発プロジェクトを進めている。AI技術とサービス、ひいてはビジネスインパクトが分かる(経営視点を持っている)人間が決裁権限を持つことで、プロジェクトが円滑に進みやすくなるという。

導入プロジェクト成功のカギを握るのはAI担当者自身

Legde.aiでも、多くの企業のAI導入を取り上げてきたが、一筋縄でいかなかった事例を耳にするケースも少なくない。今回改めて、導入プロジェクトの成否は、AI導入担当者の技術理解度や社内調整力にかかっているのではと感じた。

理想と実用のギャップを埋めるのに、先人の例を知ることは有効だ。レッジが先日リリースしたe.g.(イージー)では、400ものAI導入事例を紹介している。業界や利用用途別にも探せるので、成功したプロジェクトの実例を知るガイドとしても活用してほしい。

関連記事:AIの活⽤事例を探せる検索プラットフォーム「e.g.」を発表します

年間で2万5700時間の工数削減 不動産オープンハウスがAI・RPA導入で手にした「予想外」の成果

興味深い話を聞いてきた。不動産会社・オープンハウスがAIを導入したら、仕事の作業時間や工数を削減できただけでなく、社員のモチベーションを向上させることにも成功したそうだ。

客目線でも、不動産業界にはいまだにアナログ文化が強く根付いていると感じる場面が多い。街にある不動産会社に行き、賃貸物件の契約に行くと、紙の間取り図をいくつも提示される。候補となる物件に内覧に行くのにも、不動産会社の担当者と同行しなければいけない。「スマートロック」などのIoT機器を使う「スマート内覧」も登場したが、普及するのはまだまだ先になりそうだ。

ただ、内覧云々の話は、不動産業界が抱えるアナログのほんの一部にしかすぎない。

たとえば、“帯替え”だ。不動産会社に貼り出されている物件案内図には、“帯”と呼ばれる部分がある。帯には、どの不動産会社が請け負っているのか、連絡先はどこなのか、そして免許番号の記載に至るまで、必要な情報が記されている。不動産の仲介において、他社の取り扱い物件を紹介することは基本的には可能だ。その際、物件案内図の帯は自社の内容に差し替える必要がある(とされている)。その作業が帯替えである。

物件案内図の帯替え

このような手作業がある不動産業界で、AIを導入したのが「東京に、家を持とう。」のキャッチコピーで知られるオープンハウスだ。先日、AI・RPA技術を活用することで、年間2万5700時間の工数削減に成功したと発表。同社でのAI・RPA活用に携わった中川帝人氏に話を聞いた。

オープンハウス株式会社 情報システム部 シニアデータサイエンティスト/課長 中川帝人氏

先端技術の導入に求められるハードルは低くなかった

中川氏は「オープンハウスという会社は、不動産業界でもアグレッシブ。効率化をするためなら、新しいことにもどんどん挑戦できる」と語る。こうした環境から、業務効率化のためにAIやRPAの導入に自然と至ったそうだ。

オープンハウスがAI・RPAを導入した目的はふたつ。「工数削減」と「ビジネス速度の向上」だ。

「工数削減」は文字通り、作業にかかる工数を削減すること。ひとりあたり労働時間を10分減らせれば、400人で4000分の削減になる。削減された時間だけ、新しい仕事を生み出すことも可能になる。これが工数削減がもたらす益だ。

そして「ビジネス速度の向上」。これは不動産業界ならではの目的ともされる。開発(=土地を仕入れて、付加価値を付けて売る業務)を行なうオープンハウスは、土地を仕入れる際に金融機関から仕入資金を借りる。事業期間を短縮し回転数をあげることで借入資金に対する利益を増やせるのである。

これらの目的をもとに、AIやRPAの導入をすすめることになる。しかし、会社から求められたハードルは低くはなかった。

「オープンハウスはビジネスのスピードが早いため、中長期的な結果はもちろん、まずは半年……いや、3ヵ月ほどで結果を出すことも求められる」と中川氏は言う。

そこで、仕事上の課題をさまざまな社員にヒアリング。現場の社員含め、改善できそうな業務をピックアップしたうち、AIやRPAを導入することで大幅な効果を得られそうなものから着手した。

いま現在では完全に自動化され、年間で2万時間も工数削減に貢献した業務がある。それが本稿でも冒頭に触れた帯替えだ。

帯替えは、帯を自社のものに差し替えるだけなので、作業自体はとても単純。そのため、1、2枚であれば何らストレスなくできるが、大量に物件を紹介するとなると、そのぶんだけ帯替え作業が発生する。つまり、非常に手間のかかる作業なのだ。帯替えを効率化させるソフトウェアも登場しているが、いまだに1枚ずつ印刷して1枚ずつ帯を貼り付けてスキャンしている会社もあるという。

オープンハウスが導入した全自動帯替え。PDFファイルを選択するだけなのでお手軽

帯替え作業をディープラーニングによる機械学習を活用することで、大幅な工数削減に成功した。機械学習時に使われた「データ」は、過去に作成された帯替えした案内図およそ4000データ。過去に作った膨大な量の物件案内図を活用したため、データを新たに作成してはいない。

帯替えの自動化の仕組み。帯の部分を検知する「物体検出モデル」

インターン生が作ったシステムで年間2万時間の工数削減

驚きなのは、この全自動帯替えシステムを構築したのはインターン生(当時)ということである。

インターン生当時、全自動帯替えシステムを作成したファム・ゴックタオ氏。現在は同社の情報システム部で働いている。

ゴックタオ氏は「帯替えを全自動化するまで、プロジェクト開始から2、3ヵ月で実用化できた」と言う。

豊富な過去のデータがあったから、というのもスピード感のあるAI導入の理由だと思うが、そもそもゴックタオ氏のような人材をどうやって見つけられたのか。

「AIは使える人が限られている。そこで、海外での新卒採用に目を付けた。いま、AI・RPAに携わるチームには、自分を除くとゴックタオをはじめベトナム人が3人いる」(中川氏)。

オープンハウスでのAI・RPAの運用は基本的には内製だ。自社開発をしたほうが「現場が必要としている機能や解決したい課題」へのズレが生じにくい、と考えているからだ。

ベンダーに委託しないため、構築・運用するには「AI人材」が必要。国内だけで人材確保をしようとすると苦労するが、海外にまで目を向ければ若くて優秀な人材に出会えることをオープンハウスが証明した。

AIの導入で得られた大きな副産物とは

AIやRPAの技術を導入し、年間の業務時間を大幅に削減できたオープンハウス。だが、先端技術を導入したことで思いもよらない成果を生み出した。それは、現場社員のモチベーションの向上だ。

中川氏は「『作業の速度も上がったし、ほかの仕事に時間を割けるようになった』という声が挙がっている」と言う。

オープンハウスの営業担当者は、朝の出社後から夕方前まで営業活動をする。営業活動後は、翌日の営業で使う資料作成などの準備時間だ。この営業活動後と、翌日の資料を作る間に帯替えの作業を進めなければいけない。

非常に単純な作業なので、経験やスキルはあまり求められない。そのため、帯替えは新人社員など、経験の浅い人が担当する業務でもあった。ただ、何十枚、何百枚と付け替える作業は、正直なところ「手間のかかる仕事」と感じてしまう。あくまでも筆者の主観だが、単純作業が合間に挟まると、なかなかモチベーションも上がりづらそうだ。

そんななか、帯替えの自動化により「帯替えに要していた時間」が大幅に削減された。帯替えに人手を割くこともなくなったし、手間がかかるという心理的負荷も軽減されたのだ。帯替えの自動化で削減された時間だけ、早く帰宅することができたり(=働き方改革の促進)、上司との会話の時間を増やすことで細かなスキルアップに挑戦できたりしているそうだ。

工数削減に目を奪われがちなAIやRPAは、いうなれば「面倒な作業を押し付けられる相手」と言ってもいいかもしれない。工数削減によって空いた時間をどう利用するかは企業によって異なるだろうが、現場社員のモチベーション向上に貢献できることも覚えておきたい。

営業活動に集中できる環境をAIで作りたい

業務効率化を担った中川氏は、今後のオープンハウスでの“AIの立ち位置”について次のように語った。

「現存するAIはできることが限られている。だからこそ、AI“でも”できることと、人間に“しか”できないことを分けて考えている」。

中川氏が考える人間にしかできない仕事というのは、営業活動だそうだ。とくに、不動産のような高額な商材を扱うのであればなおさらだ、と。

経験や才能、そのほかの要素を含めた“人間のスキル”は、おろそかにできない。高額な商材を扱う不動産営業は、一般的に何回(=何日)も時間をかけて営業し、顧客が満足できる物件を提供する。ところが、優秀な営業担当者は、初回営業で契約を獲得できることもあるという。

将来的には、わずか一日で顧客が満足する契約を結べる“神かがった営業スキル”をAIが学習することで業務効率化を図れるかもしれない。しかし、オープンハウスがAIやPRA活用で見据えているのは、営業自体の自動化ではなく、営業担当者がストレスなく営業活動をできるようなサポートだ。

事実、オープンハウスでは本稿で紹介した帯替え作業以外に、「宅地の区割り」「物件資料の取得」でもAIやRPAを導入している。とくに後者の資料取得は、外回り中でも社内システムから物件の必要資料をすぐに取得できるように構築したため、仕入れを検討できる物件量が増えたそうだ。

区割りの自動化

物件資料の取得

中川氏は「今後は、営業時に顧客に送るメール作成も自動化したい」と言う。メールの開封率などに応じて、最適解を見つけることが当面の目標だそうだ。

アナログな文化が根付いていた業種だからこそ、AIなどの活用で大幅に業務内容を改善できている。そして、働く人たちのモチベーション向上にも貢献した。いま、オープンハウスは不動産業界に新たな風を巻き起こそうとしているのだ。

「国際AI囲碁協会」設立、AIを活用し囲碁の普及・発展を目指す

株式会社アンバランスは11月29日に「国際AI囲碁協会」(外部サイト)の設立を発表した。

国際AI囲碁協会が掲げる事業は以下だ。

  • AIを利活用した囲碁ソフトの提供による囲碁の普及と発展
  • AIを利活用した棋力判定及び段位認定
  • AIを利活用したプロ棋士の育成及び普及
  • オンライン、オフラインでの公式大会、公式イベントの企画及び実施
  • その他、この協会の目的を達成するために必要な事業

棋力の判定から、段位認定、オンラインイベントまで企画

いま現在、アンバランスは独自の「棋力判定システム」を開発中だ。棋力判定システムでは、国際AI囲碁協会の会員を対象に、棋力の上達に必要な助言をする。今後は、独自のアルゴリズムを用いた「段位認定」も提供予定としている。

また、初心者から有段者まで時間を選ばずにスキルアップできるオンラインツール、「人間らしい対局」を可能にするAIを提供することで、継続的な棋力アップと、国内の棋士の育成・普及に貢献していく。


<韓国プロ棋士はAIの進化を理由に引退>

さて、AI囲碁と言えば韓国のトップ棋士で、李世ドル九段が11月に引退したことが報道されている(ソウル・共同通信)。李氏は、2016年3月にGoogle DeepMind社の人工知能「AlphaGo(アルファ碁)」と対局したことで注目を集めていた。

李氏は引退について「AIは倒せない存在になったから」とコメント。なお、李氏は今月12月に「ハンドル」(=韓国NHNが開発した囲碁AI)との対局予定が組まれている。再び“神の一手”を見ることができるのか、いまから対局が楽しみである。

>>プレスリリース(PR TIMES)

AIで会議の議事録を自動作成、つくば市で実験「業務の負担を軽減したい」

Photo by Pexels on Pixabay

茨城県つくば市では今年12月から、AIを活用した会議録などの文字起こし作業を自動化する実験を開始する。

狙いは議事録作成業務における業務負荷の軽減だ。負担を減らすことで、よりよい市民サービスの創出や、職員のワークライフバランス推進に役立てたいと期待している。

会議時間の何倍もの時間を要していた議事録作成

これまでつくば市では、各種会議の議事録を作成するために、職員がICレコーダーの録音データを何度も聞き返しながら作業をしていた。この作業には、会議時間の何倍もの時間を要し、議事録作成に対する職員の業務負担が過大になっていた。

今回の実験では、IBMが提供するクラウドサービス型のAI議事録ソリューション「AI Minutes for Enterprise」を利用する。音声をリアルタイムでテキスト化したり、翻訳にも対応していたりするのが特徴だ。さらに、音声に関連する情報が記載されている文書をテキスト、データで事前に読み込ませると、認識率の向上が可能だ。こちらはコピー&ペーストで簡単に学習させることができる。

茨城県庁ではすでにAI議事録作成サービスを導入

今年6月には、茨城県庁がAI音声認識を活用したクラウド型議事録作成支援サービス「ProVoXT」(株式会社アドバンスト・メディア)を採用したと発表があった。

Ledge.ai編集部が取材した6月当時、茨城県庁の担当職員は「単調な文字起こし作業から職員を解放し、本来的な業務に集中させたい」とコメントしている。

文字起こしは時間がかかるうえに単調な作業だ。その負担を軽減することで、別の業務に集中できる環境を作ることは、時間削減以上に大きなメリットをもたらしてくれそうだ。


<Web会議で発生しやすい“ノイズ”を削減>

ここ最近、会議形態としてよくあるのが「Web会議」。テレワークを推進している企業も増えつつある一方で、Web会議をする環境ごとにノイズなどのストレス要素が発生してしまう。生活音や、周囲の人の声、さまざまな環境音によって相手の声が聴きづらくなる場面も少なくない。

株式会社ブイキューブはノイズキャンセリングアプリケーション「Krisp(クリスプ)」を11月19日から提供開始した。これは、マイクスピーカーなどのハードウェアから入力された音を「人の声」と「騒音」に分解し、人の声のみを送受信できるようにする独自技術を用いている。もとは、Krisp Technologies, Inc.(米・カリフォルニア)が提供していたものだが、このたびブイキューブが日本国内で独占販売契約を締結した。

議事録はもちろんのこと、会議そのもので活用できる技術が大きく進化している。つくば市や茨城県庁のように、自治体や官公庁が率先して導入することで、AI技術の普及速度は急上昇しそうだ。

>> プレスリリース(PR TIMES)

量子コンピュータとディープラーニングで、人間は救われる

Netflixなどに使われているレコメンデーション技術によって、私たちは自分が思いもよらない作品に出会うことが可能になり、天候や顧客データを加味した商品の需要予測によって、欲しい製品を高い確率で手にすることが可能になった。AI技術はすでに、生活の「屋台骨」としての機能を持ち始めている。

今回インタビューしたAIと量子コンピュータを組み合わせたソリューションを提供する株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長の最首英裕氏は「AIが量子コンピュータと組み合わさることで、『より人間らしい温かみと豊かさを持つ社会』になる」と語る。

同氏へのインタビューを、前後編にわたってお届けする。今回は後編。

前編はこちら:「人間の本能としての多様性」が顕在化しつつある

量子コンピュータとは何か

「より人間らしい温かみと豊かさを持つ社会」がどんなものかを語る前に、そもそも量子コンピュータとは何かを知っておく必要がある。最首氏は筆者の無知さも気にする様子もなく、丁寧に解説してくれた。

量子コンピュータとは
量子力学特有の物理状態を積極的に用いて高速計算を実現するコンピュータ。
出典:絵で見てわかる量子コンピュータの仕組み
――最首
「量子コンピュータ、その中でも量子アニーリング方式というものは『エネルギーが一番低いところに安定する』という理論物理学上の性質を利用して、最適化問題(与えられた制約条件のもとで目的関数を最大化/最小化する解を求めること)を解くことに特化した観測装置なんです」

たとえばものから手を離せば落ちるように、エネルギーは低いところに安定しようとする性質がある。高いものは低いところに落ち、温まったものは冷める。この「エネルギーが安定する」という物理現象を計算処理に利用するのが量子アニーリング方式と呼ばれるという。

▲組合せ最適化問題の例
出典:グルーヴノーツプレスリリースより

たとえば、運輸業に置ける輸送ルートを最適化する場合、ドライバーの数や健康状態、道の混み具合など、変数が多く存在する。

それらの中から、最適な組み合わせを探すのには、膨大な計算による探索が必要になり、デジタルな古典コンピューターには手が負えない。対して、エネルギーの性質を利用して最適解を導くのにもっとも適しているのが量子アニーリングだといえる。

――最首
「量子コンピュータを使うには、社会課題をエネルギー式に変換する必要があります。エネルギー式には、問題の大きさという概念がありません

問題の大きさという概念がない、とはどういうことか。

たとえば、ある店舗で3人のシフトを最適化を行うとする。3人の最適化も3億人の最適化も、条件が同じなら、量子コンピュータにとってそれは同じ式問題となる。

あとは、量子コンピュータのハードウェアが対応できるか。現状では量子コンピュータには限界があるが、進歩の速度は早く、限界は徐々に改善されているという。

――最首
「量子コンピュータの性能は、量子ビットの数と量子ビット間のつながり(結合数)の数で決まります。現在、性能は2年で倍くらいになっている。また新たな方式の量子コンピュータも開発されており、開発速度は年々早くなっています」

つまり、同じ課題なら大小は関係ないからこそ「今後を見据えたときに『今』取り組むことが重要」と最首氏は語る。

量子コンピュータとディープラーニングで、人の行動を最適化

量子コンピュータは、制約条件さえ決定すれば、最適解を求めることができる。

前述のとおり、量子コンピュータの性能が上がるほど、解くことができる最適化問題の規模は大きくなる。人間ではまかないきれない情報量と世の中の変化の速さには、テクノロジーでしかついていけなくなるかもしれない。

最首氏は、「量子コンピュータで解くことができる課題の単位が大きくなることで、社会に劇的なインパクトを与えうる」と話す。たとえば、人の行動の最適化などだ。

――最首
「量子コンピュータによるレコメンドで、社会における人間の最適配置が分かるようになります。そして、最適化できる単位が『全社員』『都民全員』『日本人全員』といえる瞬間が来るでしょう。そうなれば、ずばり社会全体に対して最適化を適用できる。このブレイクスルーはディープラーニングの比ではありません。

そのため、テクノロジーで社会が連携し合える状態を作ることが重要になります。オープンデータとかではなく、居心地のいい都市を構成するためには、企業間の連携が欠かせません。そこはもう一つのチャレンジだと思います」

最首氏が描くシナリオはこうだ。

まず、量子コンピュータで人間の最適配置を算出する。しかし、算出した最適配置をもとに、テクノロジーで「こうしたほうがいい」とレコメンドしても、人間はコンピューターの指示どおりには動かない可能性は高い。一定の割合で従わない人間が出てくる。つまり、量子コンピュータによって最適解は出せるが、それが実行されるかどうかは確率的になる。

――最首
「今日はこっちの道を通って会社に行ってね、とレコメンドしたのに、無視して直接向かってしまう……ということが起こるでしょう。当たり前ですよね、CMなどで「買え」と直接売り込まれると買いたくなくなるように、気持ち悪いと思われたとき、人間はいうことを聞きません」

テクノロジーによるレコメンドが「嫌ではない」世界

そこで、ディープラーニングが有用となってくるという。膨大なデータをもとに、確率的に予測するのはディープラーニングの十八番だ。

どのような言い方をすれば、どのくらいの人間が言うことを聞く/聞かないのかを予測。その結果を踏まえたうえで、量子コンピュータでふたたび最適化問題を解くサイクルを回す。

――最首
「こうすることで、言うことを聞かない人間の割合が把握でき、制約条件が分かってきます。将来的には、サイクルを多く回すほど、テクノロジーの指示が人間的になっていくでしょう。

『今日、桜の開花日なんで出社前にちょっとだけ寄っていきませんか?』というように、人間に言うことを聞いてもらうよう、機械からの伝え方が変化していく。量子コンピュータ時代のAI(ディープラーニング)の本質はパーソナライズだとも言えますね。

人間が一人ひとり趣味や嗜好までも違うということをふまえて、レコメンドする物事から伝え方に至るまでパーソナライズしていく。AIは人間をロボットのように扱わないで、一人ひとりが違うということを理解し、効率よく社会を回す仕組みになっていく。

その結果はきっと、人間にとって『嫌ではない』世界。テクノロジーが指し示すことを聞いたほうが気持ちいい世界になるかもしれません

たとえばAlexaやSiriなどのパーソナルアシスタントは、今後精度が上がれば、自分だからこう言ってくれるんだ、というふうに、より「個人」を理解していくだろう。この流れが加速すれば、最首氏の言うことはありえない話ではない。

そうなったとき、人間は人間性を保ったまま、より幸福を追求できる社会を作ることが可能になるかもしれない。「一人ひとり求めていることは違う」という多様化と、「テクノロジーが人間的であることの快適さ」が融合し、それを幸せとする社会。それは案外悪いものではないのかもしれない。

前編はこちら:「人間の本能としての多様性」が顕在化しつつある

放置自転車をAIで監視、実証実験を神戸市でスタート

Photo by danfador on Pixabay

フューチャースタンダードは11月29日から、神戸市と協働でAI技術を用いた映像解析システムによる放置自転車監視の実証実験を開始している。

放置自転車撤去の効率化ツール実証開発として、フューチャースタンダードの映像解析プラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を利用する。

放置の多い歩道上や、駐輪場周辺にカメラを設置。収集した動画や画像をAIで解析することで放置自転車の台数をカウントする。リアルタイムに自動で駐輪状況を定量的に把握する手法の検証・開発し、放置自転車対策への活用を目指す。

放置自転車対策を立案することがプロジェクトの目的

本プロジェクトは「Urban Innovation KOBE」の事業として取り組まれている。

Urban Innovation KOBEとは、神戸市が抱える地域・行政問題を、スタートアップと行政職員が協働することで解決するプロジェクトのこと。この事業は国内自治体では初めてのことだそうだ。

もともと、神戸市では歩行者と自転車などとの安全で快適な道路空間の創出を目指し、放置自転車の撤去や駐輪場を整備している。しかし、放置状況の詳細な現状把握が十分ではないため、解決には至っていなかった。

そこで、SCORERを使い、曜日や時間帯ごとの放置傾向や駐輪時間など、放置自転車の多い箇所の状況を詳細に把握し、データに基づいた効果的な放置自転車対策を立案することを本プロジェクトの目的としている。

警備会社ではカメラ映像をAIで解析する動きがある

カメラが捉えた映像をAIが解析する技術は、さまざまな企業が活用しようとしている。

Ledge.aiでは2018年に綜合警備保障株式会社(ALSOK)に取材し、その活用事例を聞いていた。当時のコメントでは「助けを求めている人や、不審者を検出したら警備員にメールで伝達する」という仕組みだった。いわば、警備員の“目”が増えたようなものだ。

今回の神戸市での実証の目的は、あくまでも「放置自転車対策の立案」だ。ただ、いずれは放置者に対し、何かしらアクションを取るような仕組みにつながる可能性もある。


<ゴミの不法投棄対策での活躍に期待>

AIによる監視……とだけ書くとあまりいい感じはしないものの、放置自転車をはじめ、“放置対策”という面においては非常に役に立ちそうだ。

たとえば、最近地上波テレビ番組でも話題になった、茨城県潮来市の農業用水路から10トンを超す粗大ごみが撤去された話。テレビや洗濯機、冷蔵庫などが用水路に投棄されていて、2トントラック7台ぶんを撤去したとのこと。

「監視カメラがある」というだけでも、放置や不法投棄への抑止力になるため、自転車対策だけにとどまらずさまざまなシーンでの活躍に期待したい。

>> プレスリリース(PR TIMES)

失われゆく豚肉、AIによる養豚自動化で供給の減少・価格の高騰を防ぐ

Photo by Peggy Choucair on Pixabay

Eco-Porkは11月29日、養豚場で収集したIoT、豚育成データをもとに、豚肉の生産性、資源効率性を改善する「畜産自動管理システム」の実証開始を発表した。育成条件や環境をAIで自動的に最適管理および制御するもので、国際特許出願済みだ。この自動管理システムによって、生産量50%向上(日本平均比)を目指す。

また、この「養豚自働化プロジェクト」において、Eco-Pork、田中衡機工業所、リバネスの3社が業務提携したことも明かされた。

将来的に豚肉不足に陥る可能性、価格も40%高騰か

2025年~2030年、世界的にたんぱく質の供給量が需要に追いつかなくなる可能性を専門家が報告している。これは、世界全体での人口増加の加速と、中間所得層の拡大によって肉・魚の消費量が増加したためだ。

とくに養豚においては、ほかの産業よりも早く、2021年には需要と供給のバランスが崩れる恐れがある。これにより、ひとりあたりの分配量が減少し、価格はおよそ40%も高まると予想されている。

養豚は全世界の米の生産量の1.3倍もの穀物、人類使用量の1.2倍の抗生物質、18億トンの水など多くの資源を使っている。その生産量を増やすことで今後多くの社会課題の原因となる可能性がある。そのため、資源効率性の改善に取り組む必要があるという。

すでに、豚肉不足という課題は世界最大の豚肉消費国の中国ですでに発生している。アフリカ豚コレラにより生産量が減少し、一部の州で豚肉の配給制度や価格の70%上昇という問題に直面。世界中で豚肉不足という問題は現実になろうとしている。

生産量と資源効率の課題を解決するシステムを作る

Eco-Pork、田中衡機工業所、リバネスの3社が協業して目指すのは、「テクノロジーによって豚肉の未来を創出する」ことだ。まずは、ICTにより養豚データを蓄積、さらにデータを活用した飼養方法最適化のAIを開発。そして、AIが出した最適値を機械設備に展開することで、給餌・給水などの最適な自動オペレーションを実現し、データによる改善のサイクルを構築する。これにより生産量・資源効率の課題を解決し、豚肉の未来を創出していくという。


<2048年には、食卓から魚が消える可能性も>

豚肉だけでなく、我々がふだんから口にしている「魚」も食卓から消える可能性があるされている。いわゆる「2048年問題」(技術的特異点の「2045年問題」ではない)だ。いま現在の漁獲や環境の状況が変わらなければ、2048年には食用の魚介類が絶滅する可能性があるそうだ。

技術の発達によって、代替食品が作られる可能性も大いにあり得るものの、まずは無駄な食品ロスなど身近な問題の解決を求められそうだ。

>> プレスリリース(PR TIMES)

「人間の本能としての多様性」が顕在化しつつある

Netflixなどに使われているレコメンデーション技術によって、私たちは自分が思いもよらない作品に出会うことが可能になり、天候や顧客データを加味した商品の需要予測によって、欲しい製品を高い確率で手にすることが可能になった。AI技術はすでに、生活の「屋台骨」としての機能を持ち始めている。

今回インタビューしたAIと量子コンピュータを組み合わせたソリューションを提供する株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長の最首英裕氏は「AIが量子コンピュータと組み合わさることで、『より人間らしい温かみと豊かさ』を持つ社会になる」と語る。

同氏へのインタビューを、前後編にわたってお届けする。今回は前編。

後編はこちら:量子コンピュータとディープラーニングで、人間は救われる

人間は「その土地に生きる生き物」でしかない

量子コンピュータ、ディープラーニングと、字面だけ見ると、話題の技術にいち早く取り組めているように映る。しかし、それら先端技術の普及に取り組むのは、最首氏の人間社会に対する捉え方があった。

――最首
「人間を生き物として捉えると、企業の所有物ではなく、たとえば東京に生きているなら、その人は東京という土地に生きる生き物、でしかない。

そして土地全体を人間という生物が共生している空間だと考えたときに、企業活動は都市空間を快適にするため、継続的に富をもたらすという点で重要です」

一方、一人ひとりが特定の企業組織に属する必要があるのかは疑問が残る。ましてや、人口減少社会という課題に直面する今こそ、働く場所や時間、仕事内容ひとつとっても、一人ひとりの働き方を最適化できる仕組みが必要だ。

個人の強みを活かして短時間の労働で別々の企業を支援することで、人間が生きている空間全体を効果的に運営していくという選択肢もある」と最首氏は言う。

――最首
「人間が生きている空間全体を豊かにすることが、ある意味で人間がもっとも目指していることに近い……それは統制経済といった観点ではなく、豊かさの追求と多様性のバランスをどう図っていくのかを考えるべきです。

都市全体の効率良い人材配置と捉えると、昨今、企業で短時間労働を推進する取り組みが進んでいるのは、多様性を求める現代の潮流と重なります。

ビジネスにおいても、近年は自社だけの個別最適を目指す考え方ではうまくいきません。MaaS(※)も移動手段のことだけを考えるのではない。人間は目的を持ってどこかに移動するとした場合、目的地での快適な過ごし方もサービスとして提供できたらいいはずです。

年齢や性別といったステレオタイプに当てはめるのではなく、何をその先で求めるかは個人の自由であり、一人ひとりの個性の多様性を受け入れ、それに応じた快適な空間をつくること。ただ、現状そこまでたどり着いていないのは、都市機能の最適配置ができていない、その解がまだ導き出せていないからだと思います」

MaaSとは
MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念。
出典:国土交通省資料

人間の本能としての多様性が顕在化してきた

今社会には、人口が減るのに多様であることを許容しようという潮流がある。その逆行する状態をどう解消するかの部分に答えを出せるかが大きい、と最首氏は言う。

――最首
「たとえば、子どもの教育だってそうです。良い大学に入学することだけがすべてではなく、子どもにとって学ぶべきものの本質は何なのかを考えることが大切だと思います。教育現場という確立された枠組みから一歩引いて捉えると、大人には子どもに何か自分の得意分野を教える、ということができます。

つまり、大人の数だけ先生がいる。プロフェッショナルという先生がいなくなることもないが、先生だけが教える人ではないとも言えます」

多様性を許容する傾向は、未来が不透明であればあるほど現れてくるという。一方で、「周りと同じにする」という同調圧力が強い、とも言われる日本においてはどうか。

――最首
「もちろん、みんなと同じようにしたい人もいるでしょう。そういう意味で幅はありますし、幅があることこそが多様性です。多様性こそが人間の本性だとすれば、それが現代になって顕在化してきた背景には、劇的に変化し続ける未来を想像できないことにあります。

一様に同じようなことをしていると、何かが起った際に一斉に滅びてしまう。生活に危険がなくなり、安心・安全な社会だからこそ、素直に人間の本性が顕在化してきたのだと思います。そして、選択肢に幅があるからこそ、人間は個の可能性を広げることができるのです」

本能的に許容できない不合理を解決するのがテクノロジーの存在意義

最首氏が量子コンピュータに注目したきっかけは何だったのか。

――最首
「そもそも、量子コンピュータありきでサービス化したわけではありません。しかし、AI、特にディープラーニングを突き詰めると使わざるを得なかった。

たとえば、コールセンターにかかってくる電話の本数をAIで予測したとする。その後、重要なオペレーションとしてあるのが、その予測結果に基づいてオペレーターのシフトを組むということ、つまり組合せ最適化の問題になるわけです。AIの精度を向上させ、より正確な予測ができるようになればなるほど、AIの出口として最適な状態を設計することが求められるのです

2017年末ごろから、未来予測に加えて最適解を導くソリューション開発の構想を練っていた。その際、技術トレンドや進歩をみながら、行き着いたのが量子コンピュータだったという。

2018年初夏には、独自の量子アルゴリズムの開発を実現。量子コンピューティングマシンとして、カナダを拠点とする量子コンピュータ企業であるD-Wave社の「D-Wave 2000Q」で試しに動かしてみたところ、実業務で使えるレベルのいい結果を出すことができたため、商用サービスとして提供するに至ったという。

グルーヴノーツは、ノンプログラミングでディープラーニングによる未来予測ができるクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」を提供している。2019年4月には、前述の量子コンピューティング技術を活用した組合せ最適化ソリューションの提供を開始した。

これにより、小売業や交通業の勤務シフト、運輸業の配送ルートの最適化が可能になる。現在はD-Wave社以外のハードウェアでも動作検証を進めているという。

――最首
「人間は働き方においても多様であることを求めていると思います。朝9時から夕方5時までの勤務ですらなく、週休3日や4日も許容する世界です。一方で、それは現実の社会ではまかり通っていない。

仮にAIと量子コンピュータで、そのときの業務量、数時間だけ働きたい人、必要なスキルなどを考慮して、うまく仕事の割り振りができたら、働き方の課題が解消するのではないかと考えています

▲機械学習と量子コンピュータを組み合わせたソリューション
出典:グルーヴノーツプレスリリースより

世の中を効率的、合理的にしたいのではなく、目の前で困っている人を助けたいと最首氏は言う。

非効率な業務や不合理な意思決定は人件費を圧迫し、企業にダメージを与える。しかし、人間が非効率・不合理を嫌う理由は、もっと本能的なものだと最首氏は言う。

――最首
そもそも世の中は不合理・非効率が常です。たとえば今、ビルの下に車がたくさん走っていますが、そもそも移動は必要でしょうか? 会おうと思えば、オンラインで会ってもいいはずです。

つまり、不合理・非効率には、本能的に許容できる部分とできない部分があり、許容できない部分こそが、社会が感じている課題そのもの。その解決にテクノロジーを使っていきたいと考えています」

後編はこちら:量子コンピュータとディープラーニングで、人間は救われる

LINEがAIを軸として生活インフラに一層溶け込もうとしている

LINEとヤフー(Zホールディングス)が経営統合に関して基本合意した、というニュースは多くの人の耳に届いたことだろう。

この経営統合によって目指すのは、メディア、コマース、フィンテックなどのさまざまな事業でシナジー効果を発揮させ、成長させていくことだとされる。

そしてこのシナジーの行きつく先はAI(人工知能)事業だ。経営統合に関する記者会見でも「AIを基軸に積極的な中長期投資を行ない新たな価値を創り出す」と説明されていた。

LINEとヤフーの経営統合で世界をリードするAIテックカンパニーを目指す
画像出典:Zホールディングス株式会社(外部サイト)

経営統合に関しての基本合意を発表する直前、11月15日に開催の「MOBILITY TRANSFORMATION 2019」でLINEのAI事業に関するカンファレンスが実施された。ここでは、LINEが目指すAIの展望が明かされた。

需要が高まるとされる音声認識が可能なカーナビ

LINEのAIといえば、AIアシスタント「Clova」だ。スマートスピーカーのひとつで、話しかけることでコミュニケーションアプリ「LINE」でのメッセージの送受信や、「LINE MUSIC」で音楽を再生などができる。いわゆる音声認識による機能だ。

このClovaは、今年9月からサービスを開始した「LINEカーナビ」にも搭載され、自動車の走行中も“声”でカーナビを操作できる。

LINEカーナビは、話しかけるだけで操作できるのが最大の特徴だ
画像出典:「LINE カーナビ」公式サイト(外部サイト)

「古くから、声によるナビ操作は普及することを目指されていたが、音声認識の精度向上などによってやっと実現できるタイミングが来た」とLINE 中村 浩樹氏は語る。

LINE株式会社 Clova企画室 室長 中村 浩樹 氏
編集部撮影

LINEカーナビのサービス開始から約2ヵ月。アプリで行なわれている全操作のうち、半数以上が“音声”での利用だ。利用者からも、自動車と音声操作の相性がいいと言われているという。また、後部座席からもナビ操作できるのも音声ならではのメリット。ドライバーがナビから流す音楽が好みではないときに後部座席から変更する……といったこともできなくはないだろう。

音声によるカーナビ操作は、今後さらに需要が高まる見込みだ。今年12月1日から道路交通法が改正され、運転中にスマートフォンを持って通話をしたり、メールなどを確認したりする「ながら運転」が厳罰化される。

改正前の11月30日までは、運転中にスマホの画面を注視していると、違反点数は1点で5万円以下の罰金などとなる。また、交通の危険とされた場合、違反点数は2点で3ヵ月以下の懲役もしくは5万円以下の罰金を科せられる。

これに対し改正後の12月1日からは、画面の注視による違反点数を3点に引き上げ。罰則は6ヵ月以下の懲役または10万円以下の罰金などに重罰化する。交通の危険とされる場合にいたっては、違反点数は6点にもなり、罰則は1年以下の懲役または30万円以下の罰金だ。免許停止(免停)の前歴がない場合でも、違反点数が6点になると30日間の免停になる。端的に言えば、道路交通法の改正後は以前よりも違反点数が3倍重くなる。

この改正により、ハンズフリーで操作できるカーナビは、ながら運転厳罰化の追い風を受けそうだ。Clovaを搭載したLINEカーナビは、ナビとしてだけでなく、LINEメッセージのやり取りもできるなど、さまざまな活用も可能なためアドバンテージは多いだろう。

生活に「LINEというプラットフォーム」を溶け込ます

だが、LINEがAIで目指すのは「カーナビの使い勝手の向上」だけではない。あくまでもLINEカーナビは“LINEというプラットフォーム上のひとつ”にすぎない。

LINEが目指しているのは“トータルでの体験”だ。LINEのプラットフォームで使えるサービスに横のつながりを強固にしていく。

カギとなるのは、LINEカーナビに加えて、「LINE Search」「LINE AiCall(LINE BRAIN Project『DUET』)」「LINE Pay」だ。

LINEのプラットフォーム上で体験できる一連の流れ
編集部撮影

「LINE Search」は検索エンジン事業。過去に一度撤退したものの、今年6月から検索エンジン事業に再参入。LINE上で検索エンジンを使えるというものだ。

次にLINE BRAIN Project「DUET」(サービス名「LINE AiCall」)。これはLINEが開発中の“飲食店の予約管理サービス”のこと。利用者が電話するとAIが人間のように電話応対するもので、いずれは予約管理の完全自動化を目指している。

そして「LINE Pay」。LINE上で決済などが可能なキャッシュレスアプリのひとつ。すでに利用者も多いだろう。

これらのLINEサービスはそれぞれの親和性が高いと言う。LINE Searchで気になる飲食店を検索。LINE AiCallで予約し、LINEカーナビで道案内。そして飲食店の支払いはLINE Pay。こうした一連の体験をつくることをLINEは目指しているそうだ。

つまりは、生活インフラにLINEが溶け込もうとしているのである。

ヤフーとの統合の先にあるもの

LINEが目指している生活への溶け込みという観点では、先日のヤフー(Zホールディングス)との経営統合は大きな一歩を踏み出すことになりそうだ。

ヤフーが持つサービスはLINE同様に豊富だ。また、大きなシナジーを持つサービスも数多い。それこそ、カーナビ事業ではヤフーも「Yahoo!カーナビ」を展開中。また、キャッシュレス事業においても、ヤフーは「PayPay」という最大規模の事業を抱える。

豊富なサービスと、それぞれの利用者規模が多いことは、AI事業においても大きなメリットだ。多くの人がサービスを使うことで、多くの人に利益をもたらせるかもしれない。たとえば、Yahoo!カーナビとLINEカーナビのそれぞれで集めたデータをもとに作る渋滞予測は、かなり高精度な内容になりそうだ。

LINEとヤフーそれぞれがもつサービス群
画像出典:Zホールディングス株式会社(外部サイト)

現時点ではPayPayとLINE Payをはじめ“競合サービス”も多いが、両社の統合によって我々が得られるモノも多いはず。具体的なそれぞれが持つサービスの行く末は、実際に経営統合をする2020年10月ごろにならないと不明だ。

いずれにしても、両社の今後の発表や展開は「AIテックカンパニー」を目指すという観点からも注目していきたい。