外資系出身者が感じる、日本企業へのある違和感

澤円氏:さて、ある人の物語でちょっとお話をしましょう。これは日本企業に転職した元外資系のマネージャーです。すごく優秀なやつだったんですけど、最近このパターンが多いんですよね。外資系出身で日本企業に転職。三顧の礼をもって高待遇で転職をするということもあるんですけれども。

いい待遇なので、さぞやちやほやされていい気分だろうなと思って、「どう? ちやほやされていい気分でしょう」と言ったら、「いや、確かにみんなすごくよくしてくれるんですけど、ある悩みがあるんです」。それはなにかというと、考える時間がぜんぜん取れないんだそうですね。「なんで? 嫌がらせされるの?」「いや、そういうわけじゃないんです」。

ある時、電話がかかってきたんですよね。コミュニケーションの手段は、やっぱり電話なんですね。「先月までの売上に関してちょっとご報告したいんですけど」と言うわけですよ。「わかりました。先月までの分ですよね。データを見ますね。メールで送っていただけます?」と言ったんですね。

そしたら、「はい」と言うのかと思ったら、「いやいや、とんでもない」とか言い出すんですね。「あなたにメールで、そんなご報告するなんて失礼なことはできません。全員でおうかがいして、全員で報告をさせていただきます」と。キングダム流に言うと、全軍前進というやつですね。ザッザッザッと(軍が行進するように報告に)来るわけです。

部屋中ぎゅうぎゅうですよ。20人とかで来るんですね。しゃべるのは1人か2人で、5人ぐらいは暑くて寝てて。そんな状態なんですね。それが儀式のように朝から晩まで(報告会が行われる)。これはオーバーに言っているんじゃなくて、本当にそうなんです。

過剰な礼儀はコストでしかない

どうしてもこういう「みんなで情報共有をしましょう」というのが儀式として成立しちゃっているんですね。結果的にはその人間は朝から晩までずっと会議漬けになります。そしてゆっくり考える時間が取れないので、その都度その都度判断して言っていかなきゃいけないので、判断ミスをするようになっちゃったんだそうです。ゆっくり考えることができないのが悩みなんです。

そして、その時点まで情報が自分の手元に来ない。なぜかというと、本人たちもどこにあるかわからないからだそうです。そして、その事実をとっとと知らせてくれればいいんだけれども、残念ながらそうはならなくて。なぜかというと、礼儀というのがトッププライオリティ(になっているからです)。

これを僕は「礼儀正しく時間を奪う」と言っているんです。礼儀は正しいんですよ。あなたのためにきちんと準備しましたという儀式が行われる。だけど、使われるのは時間です。いろんな人の時間が同時にどんどん減っていくわけですね。この礼儀正しく時間を奪うというのがすごく効率が悪い。

過剰な礼儀は残念ながら、ただのコストなんですよね。ですので、もっともっとコストカットはできるはずなんです。

エストニアでは「日本企業の視察お断り」

コストをおさえる。どうしてもコストと言うと、なんとなくハードウェアのコストとかソフトウェアのコストとか、目に見える計算をしやすいコストのほうに目が行くんですけれども。実際に一番高いのはなにかというと、時間なんですよね。時間というのがすごく高いものだと意識しなきゃいけない。これを念頭に置いていただきたいなと思います。

それがあんまり浸透していないがゆえに、こういったことが起きるんですね。エストニアで日本人お断りのスタートアップが増えている。これは、何年か前まではシリコンバレーでした。ちょっと前までは深圳でした。そして、今はエストニアです。

とにかく視察旅行が多すぎってやつですね。そして、行くのはかまわないとして、何にもギブしないんですよ。テイクだけしてくるんですね。なぜかというと、これも礼儀なんです。「あなたにそんな教えることなんて我々にはありません。あなたから教わるだけです」ということでテイクだけしていく。

そうすると向こうは、時間を取られたおまけに情報まで抜かれたということで「冗談じゃない」となるわけですよ。せっかく来たんだったら投資の話とか協業の話ぐらいその場で判断しろと思っているんですけど、「私にその権限がありません」(の一点張り)なんです。

ですので、もしこれから行く機会がある方であれば、必ず手土産を持っていってください。とらやの羊羹の話じゃないですよ。ビジネスを1歩でも2歩でも先に進めるための手土産です。その場でDecisionするんです。その場で判断をして、結論をつけて、アクションをするんです。これがすごく大事です。

それができないから、日本は今、働きたくない国No.1に輝いているんですよ。これはアジアの中の11ヶ国の中で、トップタレントと呼ばれる層に嫌われているのは、残念ながら日本だそうです。

印鑑を押すために会社に出社?

なぜこんなことになるのか。やっぱり年功序列(が原因です)。トップタレントの連中はアーリーリタイヤが前提ですからね。そして自分の好きなことをやりたい。例えばスタートアップのエンジェル投資家になるとかアドバイザーになる。あるいは大学の先生になる。そういったことをやりたいわけ。

なので、年功序列なんかで時間を取られたくない。とっとと自分のパフォーマンスをガーッと出して、結果もドーンと出してとやりたい。だけど、年功序列で時間かかると。おまけにその間はやたら給料が安いと。

真ん中が厚いというのが我々の感覚ですけれども、トップタレントです。あくまでもトップタレントです。本当にジョブホップをするような連中からすると、「とにかく給料が安すぎるだろう」というわけです。

そして、「IT化が進んでなさすぎる」と彼らは思うんですね。僕の上司は去年まではスウェーデン人だったんです。3年前まではオランダ人でした。(彼らが)日本の法人のほうに鞍替えするんですけれども、そのときには必ずあるものを渡されます。印鑑です。

「ピーター」と書いてあるんです。おもしろがってあちこち押す。パコパコって。「でもさ、これを持っているってことはさ、(会社に)来なきゃいけなくない?」と気づいちゃうんですね。「よくわかったね。それがジャパニーズスタイルだよ」と言うと、すごく嫌な顔するんですけど。電子サインで済むところを印鑑にしちゃっているところ、これが嫌なんですね。場所の制約を受けます。

レポート作成は過去の焼き直し

そして、もう1つ。レポート作成をやたらします。これは麻薬なんですよね。でも一歩も進んでいません。なぜかというと、過去の焼き直しだからです。

さて、あるデータをちょっとご紹介しましょうか。うちの会社の資料を持ってきたんですけど、この真ん中、これは何かというと、社長を含む営業会議なんですね。社長を含む営業報告会議を開くために役員が事前の会議をします。11会議体、2万時間が使われています。

「なんか役員がミーティングするらしいよ」「じゃあうちもちょっと打ち合わせするか」といって部課長会議を開く。21会議体、6万3,000時間が使われます。「なんか部課長がミーティングするんだって」「じゃあうちらもすり合わせしとく?」ということで担当者レベルで130会議体・21万時間を使います。

結果30万時間・34億円が飛んでいくという、そういったデータがアメリカにありました。これ、日本じゃないんですね。米国の製造業でもこんなもんなんです。アメリカの生産性は日本の倍ぐらいあります。ちょっと怖くて数字も出したくないですよね。日本はこれの倍だとしたら……ということなんです。

だいたい主役は紙だと言いました。紙の問題点は、印刷にかかる時間。これはプリンターの性能の話をしているんじゃないんです。例えば事前のすり合わせであったり、データ集め、そういったところも含めてです。

あるいは、データが古いんです。印刷した状態というのは、ある時点のスナップショットです。ですので、オンライン上でアップデートされたものは紙の上には反映されません。そして当然、場所の制約を受けますよね。配るのは同じ空間じゃないとできませんから。