糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの

12月04日の「今日のダーリン」

・旅の目的にならないような行き先がある。

 箱根に行くといえば、それはその地名が目的になる。 
 金沢に行く、盛岡に行く、志摩へ行く、沖縄に行く。
 すべて、そこで止まって、さらには泊まって、
 どういうことをしようかという内容が想像される。

 ぼくは、昨日、西荻窪に行った。
 ギャラリー「URESICA(ウレシカ)」さんで、
 石黒亜矢子さんの個展があったからだ。
 新作絵本『九つの星』の原画が展示されているはずで、
 それを見るのが目的であったが、これを旅とは言わない。
 しかし、ちゃんと調べればよかったのだけれど、
 「URESICA」は火曜と水曜は定休なのであった。
 そうなると、駅までの電車、駅からの道のりが、
 なんだったのだろうと思えてくる。
 いったん吉祥寺まで井の頭線でやってきて、
 JRに乗り換えて少し戻るイメージで西荻窪に着く。
 日頃見ている景色と、それなりにちがっている。
 西荻の町を歩いていると、パン屋が多いなぁと思う。
 前に来たときにも、そう思った。
 今回は、豚肉の店や、ハム・ソーセージの店が目立った。
 そうかといって、牛肉も負けていないようだ。
 古い道具を商っている店もちらほら見かける。
 西荻って、「古い皿にハムのサンドイッチが乗ってる。」
 そういう感じの町なのかもしれない。
 ぼくにはそう見えた。
 こういう視線は、別府で湯けむりを見ているときと
 同じようなものなのだと思う。
 つまり、「いつもじゃない色やかたちや、なにか」を、
 感じたり見つけたりして遊んでいるというわけだ。

 「旅という目的」にはならない土地に、
 旅のようなものがある。
 全国のどこにでもあるかどうかは知らない。
 チェーン店で埋め尽くされた地方の町よりも、
 東京都内の其処此処のほうが、おもしろいと思える。
 観光地でもなく、繁華街でもなく、住んでいる人たちが
 それなりにおもしろくやってそうな町というのは、
 わざわざ行ってもたのしい町なんだろうな。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
西荻窪から両国にも行きましたが、これもよさそうでした。