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 日米貿易協定の国会での承認手続きが、終わった。米政府が求めていた通り、来年1月1日に発効する見込みだ。

 しかし、今後の交渉にゆだねられた日本製の自動車と自動車部品の関税撤廃の行方や、国内農家への影響など、多くの疑問は残ったままだ。

 安倍政権が国民への説明責任を果たしたとは、とうてい言えない。政府は今後も国民の疑問に真摯(しんし)に向き合い、説明を尽くす責務がある。

 国会の議論は政府の不誠実な対応が続き、深まらなかった。

 参院で審議入りした2週間前、安倍首相は「丁寧な説明に努める」と述べた。

 ところが政府は、野党が求めた自動車関連の関税が撤廃されない場合の経済効果の試算の提出を、「撤廃は前提」として、衆院と同じく拒んだ。米国が日本車に追加関税をかけない理由は、「首脳間の合意事項」との説明を押し通した。

 国内農家への影響に関しても、政府は米国産の農林水産品の関税撤廃率を品目数ベースでしか公表していない。輸入額で見れば、影響の度合いはより大きくなる可能性がある。

 従来の答弁を繰り返すだけの政府の姿勢を、野党は「国益と法の支配を無視し、国民のみならず国際社会の信頼をも裏切る暴挙」と糾弾した。

 「国際社会を裏切る暴挙」とは、協定が世界貿易機関(WTO)のルールに違反する可能性があることだ。二国間で貿易協定を結ぶ場合には、貿易額のおよそ9割の関税撤廃が必要だ。日本にとって輸出額の割合の高い自動車関税が撤廃されなければ、9割に届かない。

 今後の焦点は、第2段階の交渉でどの分野を扱うかを決める「協議」に移る。9月の日米首脳による共同声明で、「発効後、4カ月以内に終える」と約束されたものだ。

 茂木外相は、日米双方が合意した分野のみを対象とし、「農産品その他の関税交渉は想定していない」と話すが、本当にそう言えるのだろうか。

 トランプ米大統領は来年11月に大統領選を控える。日本側が自動車などの関税撤廃を求めれば、農産品やサービス分野でさらなる市場開放や譲歩を迫ってくるのではないか。現に米国は、協定の付属書に「農産品に関する特恵的な待遇を追求する」と書き込んでいる。

 首相が「自由で公正なルールに基づく経済圏を世界へと広げる」とうたうのであれば、自動車分野の交渉を、米国に確実に迫るべきだ。

 ルールに反する日米協定となるようでは、今後の世界の通商交渉に禍根を残してしまう。

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