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ニュース速報

アフガニスタンで中村哲医師銃撃される 現地で医療活動に従事 現地警察(13:44)

 
ただいま表示中:2019年7月3日(水)気づかぬうちに被害者に… 広がるレイプドラッグ
2019年7月3日(水)
気づかぬうちに被害者に… 広がるレイプドラッグ

気づかぬうちに被害者に… 広がるレイプドラッグ

「トイレに立ったあとの記憶がない…」食事に出かけた相手から飲み物などに薬物を混ぜられ、性的暴行を受ける「レイプドラッグ」を使った被害。婚活やマッチングアプリが急速に普及するなか、安易に薬を使って性交渉に及ぶ事例が多発している。使われるのは病院で処方される睡眠薬。不眠を訴えれば容易に処方される手軽さに加え、わずか一日で体外へ排出されるため証拠が残りにくく、多くの被害者が泣き寝入りし、明るみになった事件は氷山の一角だとする専門家もいる。一方、数か月たっても体内の微量な薬物を検出できる「毛髪鑑定」の技術が確立され、立件されるケースも増えてきている。広がる実態と対策について、具体的に提示する。

クロ現プラスでは性暴力について今後も取材していきます。
こちらの掲示板からあなたのご意見・ご感想をお寄せください。

出演者

  • 大藪順子さん (性暴力被害者 フォトジャーナリスト)
  • 石井光太さん (作家)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

知らぬ間にお酒に薬が レイプドラッグ被害

性的暴行を行う目的で悪用される薬物。いわゆる「レイプドラッグ」。その多くは病院で処方される睡眠薬などの“身近な”薬です。

女性
「友達が飲み会で、お酒強い子なんですけど、最初の1時間くらいですごい酔っ払って、そこから先の記憶がないみたいな。」

女性
「そんな大して飲んでないのにもう記憶がとぶってことは、たぶん絶対何か入れてるなって。絶対何かしたよね、みたいな。」

明らかな犯罪。しかし、薬を使う人物に罪の意識は希薄です。

加害者
「(睡眠薬)入れてかき混ぜて、ぐっと飲ませれば気づかないですよ。起きないですね。」

加害者
「飲み過ぎちゃった、で終わってくれればいかなっていう程度でやってるんで。」

さやかさん
「自分って1人の人間としてそのときに見られてなかったんじゃないかなと思って、なんかたぶん、人形のようにしか思ってないんやろうなって思う。」

レイプドラッグを使う動機とはどういったものなのか。それを知るため、私たちは、複数の女性に性的暴行を行った罪で服役中の受刑者に話を聞きました。

受刑者
「出会い系サイトのアプリですね。女性と知り合って、薬とかを使って、相手が無抵抗な状態で性的な行為をしてしまって。」

被害者は、マッチングアプリで出会った女性。薬を使うことに、抵抗感はなかったといいます。

受刑者
「手軽にできるし、後腐れもなく、すごく簡単にできてしまう。安易な気持ちでちょっとやってしまった。暴力を振るって、相手がものすごく嫌がっている状況の女性を無理矢理レイプするとか、強姦する状況に比べたら、自分はまだマシかなという気持ちはあったかもしれない。」

安易な気持ちで繰り返される、レイプドラッグによる犯罪。事件化されたものだけで、去年(2018年)1年で47件。医師や看護師など睡眠薬を入手しやすい立場を利用した犯行もあり、表面化したものは氷山の一角と言われています。さらに取材を進めると、軽はずみな動機による犯罪が二重三重に女性を傷つけていることが分かってきました。
レイプドラッグを使った性的暴行を受けたさやかさんです。加害者の男は今、有罪判決を受けて服役中です。しかし、被害が立証されるまでの道のりは非常に険しいものでした。

さやかさん
「事件に遭ってから裁判が終わるまでしんどいっていう思いしかなかったんですけど、本当にいろいろ、壁を1つ乗り越えたらまた壁が出てきたり。」

被害に遭ったのはマッチングアプリで知り合った男と初めて食事をしたときのこと。異変は、さやかさんがトイレから戻った後に起こりました。

さやかさん
「残っていた飲み物を3口くらい飲んでたら、途中からすごく眠たくなって。 そこからはもう記憶が…。目を覚まして、一番目の前に飛び込んで来たのが自分の家の天井だった。よく見たら自分が裸になっていてベッドに横たわっていて。相手が上に覆い被さってきて。」

意識がもうろうとする中、抵抗することはできませんでした。

さやかさん
「時間がどれくらいたったのかちゃんと覚えてないというか。相手が用事があるから帰るって言って。」

いったい、何が起きたのか…。

(メールの文面)
“22時から翌日6時までの記憶が全くないのでその間のことをお聞きしたいです。”

さやかさんは真相を確かめるため、男に連絡を取ろうとしましたが、一切返信はありませんでした。翌日、さやかさんは警察に相談。捜査が始まりました。しかし、そこで、思わぬ事実をつきつけられます。見せられたのは、防犯カメラの映像。そこには、何も抵抗せず、加害者の男と一緒に自宅へ入っていく自分の姿が映っていました。

さやかさん
「すごい、なんか不思議な感じだったのと、衝撃。私が犯人に手をひかれながら歩いていたんですよ。記憶はないのに自分が立って歩いていて。」

そして、警察官から告げられたのは…。

さやかさん
「『睡眠薬を飲まされたら担ぎ込まれたりするのが普通やけど、立って自分の足で歩いて犯人についていっているから、これはもう合意とみなされても仕方ない。これは立件できません』って言われました。合意したつもりはないけど、もしかしたら記憶がない間に合意してたりしたら、ただの男女間のもつれみたいなだけだし、確信がない。」

さらにこの時、大事な検査が行われませんでした。それは尿検査。被害から数日以内であれば、睡眠薬の摂取を証明でき、立件の重要な証拠となりうるものでした。自分の不安や苦しみを、誰にも理解してもらえない。さやかさんは、追い詰められていきます。

さやかさん
「自分1人が強姦されたとかって言って騒いで、色んな人を巻き込んで迷惑をかけたというか。すごい恥ずかしくなりました。」

1週間後、さやかさんに一筋の光が差し込みます。性暴力被害者専門の支援センターの存在を知ったのです。4年前に開設されたこのセンターでは、医療・福祉・法律の専門家と連携し、被害者が必要とするサポートを行います。さやかさんは、ここで睡眠薬の特性として、意識がもうろうとしてもごく普通に行動しているように見えるということを知らされました。

さやかさん
「私の時と同じやって思って、今まで確かな情報とかなかったんですけど、それを目にして、私の言っていることは間違いないのかなって思いました。」

そして、弁護士とともに再び警察に相談したさやかさん。この時、警察が試したのは、新たな薬物の鑑定方法でした。

研究員
「髪の毛の中に含まれる睡眠薬を、髪の毛をつぶしてやることでそこからとりやすくなる。」

毛髪鑑定。この技術を使えば、どんな薬物を摂取したか、数年分さかのぼって検出できるといいます。

研究員
「被害にあった後にちゅうちょしたりとか、なかなか申し出るのに時間がかかるということもあって。申告が遅れた方でも、毛髪であればできると。」

そして、被害から4か月が経過していたさやかさんの髪の毛から、睡眠薬の成分が検出されました。

さやかさん
「自分が睡眠薬を飲まされたということに、ちゃんとその証拠が出た。だから自分は間違ってなかったんやって。とりあえずうれしかったです。」

加害者の男は逮捕され、他の女性たちにも同様の行為をしたことが分かりました。さやかさんの事件とあわせて、2件が起訴。性的同意はなかったとして、懲役7年の実刑判決が下りました。心に深い傷を残しながらも、こうした卑劣な事件を闇に葬りたくないと、さやかさんは声をあげました。

さやかさん
「自分の積み上げてきたことを一瞬で全部崩されたという感じがあって。自分って1人の人間としてその時見られてなかったんじゃないかなと思って。誰にも伝えずに自分の中で忘れてしまうのも1つの勇気だと思うんですけど、なかったことになってしまったら、やっぱりこういう犯罪ってなくならないと思うんですよ。誰か1人信頼できる人にでも、やっぱり話してほしいというか。きっとその話すことによって、やっぱり何か変わるんじゃないかなと。」

レイプドラッグ。被害者を救うには何ができるのでしょうか?

レイプドラッグ 被害をどう防ぐか

ゲスト 大藪順子さん(フォトジャーナリスト)

武田:本当に体が震えるような怒りを感じます。何の落ち度もない人が薬を飲まされ、それまで積み上げてきた人生のすべてを否定されるような苦しみにさいなまれる。こうした犯罪を決して許すことはできません。
今夜は、性暴力被害の当事者で、ジャーナリストとして被害者の取材も続けられている大藪順子さんにお越しいただきました。こうした被害、いまご覧になって、どういうふうに率直にお感じになりましたか。

大藪順子さん:本当にひどい手口であり、人権侵害だと思います。本当に水面下にいる被害者というのはおおぜいいて、先ほどインタビューに答えられた方のように、裁判にまでいくというのは本当に氷山の一角であって、なかなかそこまでいかない。

武田:自分の積み上げたことがすべて壊されたという言葉、胸を締めつけられました。

大藪さん:そうですね。性暴力というのは、その人の根源にある性というアイデンティティーに傷が入ると思います。私もそうでしたけれども、それまで一生懸命積み上げてきた自分が、そこで、その1つの暴力で崩されてしまう。粉々になってしまう。本当に許せない。

ゲスト 宮田裕章さん(慶應義塾大学教授)
ゲスト 石井光太さん(作家)

宮田さん:相手の立場に立って、相手がどう思うかということに対する想像力を、全く欠いているということですよね。これが特にドラッグによって、睡眠薬によって相手が無抵抗に陥るというところで、あたかも罪が減じられてるかのようなことを考えているんですが、そんなことが減じられるわけでは全くない。尊厳を踏みにじる行為であるということを、われわれしっかり社会の中でも理解した上で、この問題と向き合わなくてはいけないのかなと思います。

石井さん:例えばマッチングアプリだとか、ゲームのチャットだとか、あるいは結婚の見合いサイトとか、そういったようなもので見知らぬ人間と会える。それゆえ加害者のほうも、自分の知らない人間を呼び出して、まるでゲームのように被害者に対して性暴力をして、何の罪悪感も抱かないまま、次、次、次というふうにいってしまう。いまの世の中にどうしてもそういったような犯罪が横行してしまうような空気というか、そういった社会システムがあると思うんですよね。

武田:レイプドラッグとして摘発される犯罪、氷山の一角というお話でしたけれども、取材にあたった小山さん、実は埋もれた被害、たくさんあるんですよね。

小山志央理記者(京都局):レイプドラッグに詳しい専門家の方にお伺いしたんですけれども、被害が埋もれてしまう要因として、薬の特徴があるんです。警戒心も低下してしまいますので、ふだんであればとらないような行動もとってしまう。さらに睡眠薬を飲んでしまうと眠り込んでしまって動けないんじゃないかなとイメージされる方も多いかと思うんですけれども、実はそうではなくて、普通に歩いたり、会話できたりしてしまうんです。

武田:最近は捜査の手法も改善されて、摘発もされるようになっているわけですよね。

小山記者:捜査機関のほうも対応を強化してきています。2017年に警察庁が全国の警察に通達を出したのですけれども、被害に遭ってから数日以内に尿検査をすれば、かなり高い確率でレイプドラッグ、睡眠薬などの検出が証明できます。ですので、レイプドラッグの使用が疑われる場合には、まず尿検査を積極的に検討するようにと指示しています。毛髪鑑定という新しい技術の導入も進みつつあって、期待も高まっています。

宮田さん:われわれの体の中に残った記録というのが、客観的に犯罪を証明してくれるようになってきている。今までは、犯罪があった、言う、言わない、その議論に巻き込まれるだけでもすごくつらかったところを、こういったテクノロジーによって示すことができるようになってきた。PCであったり、スマートフォンだったり、これ、すべて記録として残ります。

武田:小山さん、身を守るために何かできることはないのかと思うんですが、どうなんでしょうか。

小山記者:一般的に言われているのは、飲み物を飲みきってから席を立つこと。それと、最近では、酔い止めだというふうに薬そのものを渡して飲ませてしまうというようなケースもあるようなので、もっともらしい理由で薬を渡されても、それは飲まないということが考えられると思います。

武田:人からもらった薬は絶対に飲まないということですね。

小山記者:ここ数年で、飲み物や食べ物に入れると、青く色が変わる睡眠薬というのも開発が進んでいます。こちらです。睡眠薬に青く色が付いています。錠剤を砕いたものを入れてみます。で、混ぜると。


小山記者:このように結構強い青色が出てきますので、もしも仮に飲み物や食べ物に混ぜられていたとしても、すぐに色で気づけるという、こうした取り組みも進んできています。

石井さん:企業としてある程度責任を持って、販売するのであればそういうことをやっていくべきですよね。そもそも睡眠薬というのはそういった危険をはらむわけですから、そういう犯罪を生む危険をはらんでいるわけで、そこは強く言いたいところですよね。

武田:企業も、これで莫大な利益を上げている会社があるわけですから。こうしたレイプドラッグによる犯罪、取材を進めると、信頼関係を逆手にとって身近な人をターゲットにする手口も明らかになってきました。その実態を伝え被害を防ぐため、私たちはあえて加害者本人の話を聞くことにしました。

レイプドラッグ 身近な人から狙われる?

私たちはインターネットで情報を交換しているという加害者に、取材とは伝えず接触することにしました。やってきたのは、ごく普通の30代、サラリーマンだという男。男は仲間からレイプドラッグの手口を教わったといいます。

加害者
「掲示板で知り合って出会った師匠がいるんですけど、いたずら歴もかなり長くて、疑問があると聞いたりしていますね。」

男はさらに、にわかには信じられないことを語り出しました。

加害者
「嫁はアルコール飲まないので、缶ジュース買って、それに(睡眠薬を)やるんです。」

男は4年間にわたって、自分の妻に対しても、薬を使って何度も性的暴行に及んできたというのです。それはなぜなのか。

加害者
「価値観が合わないのかもしれないんですけど、結構ぶつかることが多いですね。妻に普段怒られてばっかりですからね。(睡眠薬)仕込んだとき、みてろよっ。」

取材を進めると、30代独身だという男が、より狡猾な手口を告白しました。

加害者
「(ネットで)ご主人と相談して、実際に2人でやってみた。自宅に呼んでもらって。」

仲間の妻に複数で性的暴行を加えているといいます。身近な人ほど犯行が発覚するリスクが少ないからだというのです。

加害者
「ばれりゃ大変なことになるけど、優しく介抱してあげれば別に怪我もしないし、まあ好奇心的な感じで、お互い傷つかず、やっちゃったていう」

相手の尊厳を思いやる気持ちは感じられません。

加害者
「自分はいっさいその女性に対して責任を負わないので、ベストは奥さん。(妻は)ご主人のやっぱりモノじゃないですか。それを借りるだけ、こっちは。」

歯止めを失い暴走し続ける、レイプドラッグを使った犯罪行為。大切な人を守るためにどう向き合えばよいのでしょうか。

レイプドラッグ 大切な人を守るために

武田:こういった声を大藪さんに受け止めていただくことが、本当にいいのかという思いがするんですけれども。

大藪さん:本当にあほちゃうかと思います。でも、この加害者たちは、きっと生きている中で、育ってきた中で、人間の関係性とか、そういうもののゆがみというのが、どこかでそうなってしまっているのかもしれません。本当に軽い、あまりにも軽くて卑劣な行動というのは、本当に許してはいけないことだと思います。

武田:小山さん、これは確認ですけれども、全く罪の意識がないように見えましたが、これは罪に問えることですよね。

小山記者:もちろん、いくら夫婦間であったとしても、睡眠薬を飲ませて性的暴行を行うと、これは十分に犯罪に問われる可能性があります。最新の内閣府の調査によれば、無理やり性交等された被害経験のある女性のうち、加害者が配偶者または元配偶者というケースが、およそ3割というデータもあるんです。意外に見知らぬ人からの性暴力が多いんじゃないかというふうに考えられる方が多いかもしれないんですが、実は違うんだというような状況もあります。

武田:万が一、被害に遭ってしまったと気づいた場合、ご本人はどうすればいいんでしょうか。

小山記者:まずは、すべての都道府県にあるワンストップ支援センターというところに相談することができます。性犯罪被害者の方専門の支援センターを開設していて、この支援センターに行けば、妊娠だったり怪我が心配な場合には病院に付き添ってくれたりとか、心理カウンセリングを受けることができます。警察に行きたい、でもなかなか1人だと心細い、という場合に、警察に一緒に付き添いもしています。

武田:周りにいる人たち、家族や友人というのは何ができるんでしょうか。

大藪さん:まず受け止めるということでしょうか。例えば娘がそういう被害に遭って、お母さんに言ったと。そこでやはり、すごくお母さんもショックを受けると思います。すごく悲しいし、怒りっていうのもきっと出てくるだろうし。その感情っていうのは、私はもっと素直に共有するべきだと思います。とっさに出た言葉が、「誰にも言ったらだめよ」とか、「あなたどうしてそんな人と一緒に歩いていたの」とか、そういうのではなくて。

武田:本人を責めるような言葉になってしまいがちですよね。

大藪さん:はい。そうではなく、きちんと受け止めるということ。それが実際に起こってしまって、愛する人がいますごく悲しんでいて、苦しんでいるんだということをきちんと受け止める。きっと何を言っていいか分からないかもしれませんけれども、分からなければ何も言わなくていい。ただ一緒に悲しむ、一緒に怒る。そういう感情を共有することがとても大切だと思います。

武田:大藪さんがこれまで撮り続けてこられた、性暴力被害者の皆さんのポートレートをご覧いただきたいと思います。



武田:大藪さん、なぜ性暴力被害者の方々のポートレートを撮ろうと思われたんですか。

大藪さん:被害者だからかわいそうな人たちだったり、いつも怒ってるとか、その感情だけで被害者は生きてるわけではなく、その1人の存在があって、その人にはいろんな感情があって、ちゃんと名前があって、1人の人なんだということを見てもらいたいということがありました。どうしてその人たちが顔を出して実名で語りたいのか、なぜだろうって考えるんですよ。そこで共通していたことは、どうして私にこういうことが起こったのかという疑問の答えを、一生懸命見つけようとしていたことですね。

石井さん:僕自身もこういった人たちの話を、物語というか、1つの本にまとめたりもするんですけれども、彼女たちと話をしていて非常に思うのが、レイプの被害に遭った、性犯罪の被害にあった瞬間に、その人の人格みたいなものが、1回すべて壊れてしまうんですよね。壊れた人ってどうしなきゃいけないかというと、それを再構築していく必要がどうしても出てくるんです。同じような被害に遭った方が大藪さんのような方の活動を見た時に、考える選択肢になると思います。

宮田さん:先ほどのVTRで出てきた犯罪者、彼らはまさにその点の想像力が欠如していたと。自分は女性に生まれることはないので、そこに対する想像をしない。だからといってそれでいいということではなく、相手の立場に立った時に、その人がどういう人生を背負っているのか、そこにどういう痛みがあるのか。こういったことを考えながら共に生きていくことは、非常に重要ですよね。

大藪さん:私自身、自分が被害に遭うまでは、自分とは全く関係ないことだと思っていたんです。私は、みんなが安全だという場所に住み、夜中1人で歩くこともなく、服装だってきちんとしていたはず。先入観にがんじがらめになっていて、自分には関係ない話だと思ってた。それが、無関心でいることが、いかに加害者を野放しにする社会に加担していたのかいうことに気づいた時に、私も加害者側にいたんだなっていうのがすごくはっきりして、非常に大きなショックでした。

武田:私たちはこういうことが起きていることを、きょうまでしっかりと把握できなかったということがありますし、皆さんがどういうふうにして笑顔にたどりついてきたのかということさえも、なかなか分からない。そういう中で、私たち1人1人がどうあるべきか。こうした犯罪が起きないように、私たち1人1人が監視の目を光らせなければいけないし、何より許してはならないという決意を持つ。そういう責任があるんじゃないかと感じました。

2019年7月2日(火)
“老後2000万円” 将来不安につけ込まれるな! 現役世代に落とし穴も…

“老後2000万円” 将来不安につけ込まれるな! 現役世代に落とし穴も…

「老後30年間でおよそ2000万円が必要」などとした報告書が大きな波紋を呼んでいる。現役世代に広がる不安。いま、老後に備え少しでも収入を増やそうと、投資や副業に乗り出す人も少なくない。しかし、知識も経験もない中で失敗し、苦境に陥る人も続出している。専門家は「不安があおられ、甘いもうけ話の餌食になっている人たちがいる」と警鐘を鳴らす。現役世代は何をするべきか、“将来不安”につけ込まれない術を掘り下げる。

出演者

  • 山崎元さん (経済評論家)
  • 深田晶恵さん (ファイナンシャルプランナー)
  • 武田真一 (キャスター)

老後資金の不安から…不動産投資の落とし穴

老後資金への不安から、不動産投資に手を出し、多額の負債を負った人がいます。都内のサービス業で働く、54歳の男性です。

4人家族の、この男性。2人の子どもは私立の大学に行ったため、貯金を取り崩し、毎月20万円の教育費を賄うようになりました。教育費を除くと、手元に残るのは月30万円。一方、支出は生活費や携帯代、生命保険など、29万円に上ります。

そのため、老後に回す貯金ができず、将来への不安が大きかったといいます。

サービス業勤務(54)
「(老後)2,000万、3,000万必要だ。イコール、それがほぼ退職金だな。ただ何歳まで生きるか分かりませんし、健康ならばいいですが、病気になった場合は、きっともっとお金がかかるだろうと思ったときには、それだけで本当に足りるの?というところもありました。
紹介をされたのが、この会社ですね。」

そんな中、1本の電話がかかってきました。アパートを経営する不動産投資の勧誘でした。勧められたのは、関東近郊や金沢のアパート4棟、合計で2億6,000万円。勤務先の信用があるため、全額ローンで借りられると説明されました。

サービス業勤務(54)
「満室だという説明資料はこれをもって。」

資料によれば、アパートが現在満室となっていて、ローンを支払っても月の収支では30万円のプラス。

さらに、「将来の年金不安に対し、投資で自分の身を守ることができる」「家賃保証もあるため、空室のリスクも抑えられる」と言われました。子どもが独立し、老後の資金がたまるまでと考え、投資を決めました。

サービス業勤務(54)
「ローンの支払いの金額を見ると、月々プラスなんですね。返せる見込みの借金だなと。特段その辺の不安は、実は、今思うとぞっとしますけど、その当時は何も思わずに、5年とか10年しか持つつもりはなかったので、それぐらいの年数だったらいいかな。」

しかし実際は、説明とは異なるものでした。このアパートでは7部屋中5部屋が空室。家賃保証はされず、全体で月46万円の赤字となってしまったのです。

この不動産会社に話を聞こうと訪ねてみると…。

取材班
「違う会社みたいですね。」

すでに移転していて、所在がつかめなくなっていました。結局この男性はアパートを売却し、2億円余り残ったローンの返済に充てることにしました。しかし、その見込みはまだ立っていません。

サービス業勤務(54)
「このままずっと借金を背負って、退職して、まさに年金と退職金だけになってしまったら、かつそこに、それを上回る借金があると、本当に日々の生活すらできない状況になるので、なんでそうなってしまったんだろうという後悔ですね。」

老後の不安を語り、投資を勧誘していたという、不動産会社の元営業マンに話を聞くことができました。

この男性が販売したアパートやマンションです。その数、年間100棟以上に上るといいます。

元不動産会社 営業
「アプローチの切り口としては、将来の老後の資金計画はどうなってますかというところから入って、将来、今30代40代の方が年金をもらえるとしたら、多分これぐらいになりますよ。この金額で家族みんなでやっていけるかどうか不安に思っていないか。それを解消するために何か資産形成しませんかと、きちっと説明すると、ああどうしようという感じになる。」

将来への不安が投資のリスクを見えにくくしていると指摘するのが、消費者トラブルに詳しい、荒井哲朗弁護士です。

荒井哲朗弁護士
「投資というのは、お金を預けたらなんか増えて戻ってくる。なんか預金のちょっと得なバージョンみたいに思っておられるんだと思いますが、そうではなくて、リスクを引き受けるという行為です。投資に対するその意識の低さと、その低さを知りつくした加害者の存在と。こういうスパイラルで被害が増えていっているんだと思います。」

リスクの高い投資を勧められ…増えるトラブル

投資を巡るトラブル、将来に不安を抱く若い世代の間でも急増していることが分かってきました。去年(2018年)友人を通じて、ある投資ツールを購入した20代の男性です。

20代 男性
「こちらのUSBですね。」

取材班
「これをいくらで買ったんですか?」

20代 男性
「53.4万円で購入したものです。」

代金は消費者金融で借金して工面しました。「バイナリーオプション」と呼ばれる、金融取引に役立つと説明されたといいます。「バイナリーオプション」とは、外国為替の相場が現在より高くなるか低くなるかを、二者択一で予想する金融取引です。例えば、高くなると予想し、その通りになれば、決められた金額を受け取ることができますが、外れれば投資した全額を失うため、リスクが高いとされています。

USBの中には、為替相場の値動きを予想するシステムが入っていて、月に20万ほどの利益が出ると説明されたといいます。

20代 男性
「矢印が上だとか下だとか出てきて、その矢印のとおりに取り引きボタンを押す形です。ツールどおりにやっても、聞いていた話どおりにはもうからなかった。30分しないうちに10万円くらい溶かして(負けて)しまったことがあります。」

当時フリーターだった、この男性。USBを購入するまでの間、業者から繰り返し、年金不安などを語られたといいます。

20代 男性
「年金が将来もらえないだとか、いま始めないと将来やばいから、いま始めて一緒に楽しい人生にしたいんだよね、みたいな話をされます。やらないと将来やばいという不安感を植え付けられて。」

高額で販売されたUSBは、一体どれほどの価値があるのか。国民生活センターの担当者に、中身を分析してもらいました。

国民生活センター 相談情報部 飯田周作さん
「過去にトラブルになった事案などで、同じようなバイナリーソフトのチャート画面を見たことがあります。フリーのソフトなどがベースになっていることも考えられます。」

結局、男性は投資で利益を出すことはできませんでした。業者からは、USBを買う人を紹介すれば、1つあたり6万円の紹介料を得られると勧められました。男性は友人や知人たちを業者に紹介。いわゆる「マルチ商法」に巻き込んでしまったといいます。

20代 男性
「縁が切れてしまった人も何人もいます。人を裏切ってしまったり、人に借金を背負わせてしまった。人生を変えてしまったと言っても過言ではない。多くの友人も失いましたし、結果として後悔している。」

国民生活センター 相談情報部 小池輝明さん
「バイナリーオプション全体では、(相談件数は)400件くらいで推移してきた。昨年度は800件台と2倍になっております。若者がターゲットにされているからだと思います。若い人の交友関係、学生の間のつながりとかを利用して、マルチ取引的な勧誘でどんどん友人知人へ勧誘が広がっている。」

要注意!SNSのもうけ話 違法性の指摘も

業者はどのように甘いもうけ話に誘い込むのか。今、SNS上では、将来への不安を語り、簡単に稼げると勧誘する内容があふれています。中には、消費者庁が誇大広告などと違法性を指摘したものも現れています。その1つ、「真似っこビジネス」と称する情報商材です。1万5,000円でマニュアルを販売。真似をするだけで稼げるなどとうたって、さらに高額な契約に誘導していました。

半年ほどで3億円を売り上げ、違法性を指摘された業者のもとを訪ねました。記載された住所は都内にあるマンションの1室。

「用件は?」

取材班
「『真似っこビジネス』について、話を聞かせてほしい。」

「申し訳ない。勘弁してもらっていいですかね。本当に僕は関係ないんで。(経営者の)かなり後輩。」

応対した人物は会社とは無関係で、経営者は不在だといいます。
消費者庁の調査に基づいた、この業者の手法です。初めにフェイスブックなどのSNSに「やることは真似をするだけ」「毎月150万円以上を狙う」などと記した、虚偽の広告を掲載。さらに、電話相談するよう求め、巧みに勧誘していたのです。

(再現)
「お金を支払わなくてもできますけど、コースにあるサポートが付かないので、売り上げを見込むのは絶対、難しいですよ。35万払っても、目安ですが最低の額で60万なんですよ。絶対、稼げます。みなさん、続々と利益出てますよ。」

業者は電話を切らせず、その場で契約まで押し進めていたといいます。この業者からマニュアルを購入した人はおよそ2,900人。そのうち数十万円もの代金を支払った人は1,200人に上りました。

50代 女性
「電話はビジネスの指導で勧誘と思わなかった。1か月やっても収入は全く得られなかった。」

30代 女性
「夫から家計のために働くよう求められ、家事・育児で忙しく、警戒のハードルが下がっていた。」

消費者庁は、似たような手口を行う業者を30社以上確認しており、注意を呼びかけています。

消費者庁 財産被害対策室 小泉勝基室長
「事業者から『詳しいことを知りたければ、LINEの友達登録を』という手口が一番多い。スマホをピポパとするだけで、一日、何万も稼げている動画とか、そういった人が優雅な生活をしている動画で、なおかつ顔を出しているので、消費者の人は顔まで出しているのだから嘘はないだろうと信じている人が多く見受けられます。」

老後不安につけ込まれないようにするには、どうすればいいのか。スタジオで、さらに詳しく見ていきます。

不安につけ込まれないポイントは?

ゲスト 山崎元さん(経済評論家)
ゲスト 深田晶恵さん(ファイナンシャルプランナー)

武田:消費者庁や国民生活センターに取材を続けますと、違法性があるとしたケースの勧誘手口に共通の特徴があることが分かってきました。まず、「簡単にもうかる」「大金を稼げる」など、何もせずに大金が入るかのようにうたう。そして、最初は具体的な手段、つまり、どのように稼げるかというようなことをあえて説明しない。今なら無料、あるいは割引しますよと言って、今すぐの契約を求める。その後、高額な商材などを販売する。「もうからなければ、返金しますよ」と安心させるということです。

その上で、どういうことに注意したらいいのか、投資に詳しい経済評論家の山崎さん。「不安喚起は常とう手段!」ということですが、これはどういうことでしょうか?

山崎さん:いろんな商品やサービスを売る時に、まず心配させておいて、「老後の生活が心配じゃないですか?」ということで、それを安心して解決できるようなイメージで商品を売るというのは、パターンとして常とう手段なんです。VTRで取り上げた金融商品ほどひどくないと思いますけれども、それでも「人生100年時代です」「資産の寿命も延ばさないと大変ですよ」「では、資産形成のために投資しましょう」というような形で、手数料が高い投資信託だとか、外貨建ての保険だとか、そういうようなものを勧誘するパターンが多いので。「人生100年時代」というのは、実は金融業界がとっても大好きな言葉で、要するに「寿命が長いので、お金が足りなくなりますよ」というイメージを喚起できる上品な言い回しなんです。この言葉が出てきている広告は、ちょっと疑って考えたほうがいいですね。

武田:ただ、言葉巧みに勧誘するんだと思うんですけれども、どういう心構えでいればいいんですか?

山崎さん:そもそも、その情報をくれている人が何でもうけている人なのかと、その人の立場を考えるということ、それから、その情報がもし本当の情報なら、例えば「バイナリーオプション」でもうかるんだったら、それでどんどんお金を増やしていけばいいだけのことで、人に教える必要がないのに情報を教えてくれているっていうことは不自然じゃないかって、この2点を疑うと、大体、防げるはずです。

武田:そして、ファイナンシャルプランナーの深田さんは、こうした不安を感じてしまう私たちの心理を「お化け屋敷理論」と呼んでいらっしゃいます。このことを、まず知っておくほうがいいということですね。

深田さん:お化け屋敷って、どこでどんなお化けが驚かせてくるのか分からないから怖いのであって、分かればそんなに怖くない。老後不安も同じで、どこでどんなお金のお化けが出てくるのか分からないから怖いのであって、それを具体的にお金のお化けが分かれば、それほど漠然とした不安ではなくなると思います。

武田:どんなお化けですか?

深田さん:老後不安でいうと、まず、60歳で定年になった時に、そのあと、再雇用で働いたとしても、多くの場合は収入が大幅にダウンします。これを私は「収入ダウンの崖」と呼んでいるんですが、5年間、無事、再雇用で働いたとしても、65歳で年金生活に入った時に、もう1回、収入ダウンの崖があって、そのあと年金だけになると、また収入がダウンするんですね。それに備えて、具体的に何をしていけばいいのかということを考えていかなくてはいけないです。

武田:こうしたトラブルに陥らないということはもちろんなんですけれども、投資で老後の資金を増やしたいと考えている人は、どんなことに気をつければいいんでしょうか。投資にまつわる訴訟などを手がけている荒井弁護士は、このように言っています。「投資しなければという強迫観念にとらわれていないか」。そして、「常にリスクを伴うことを念頭にしなければならない」というふうに言っています。

ただ、老後のお金はやっぱり不安があると思います。ここからは私たちに何ができるのか、具体的に考えていきたいと思います。

老後資金の不安 何をしたらいいのか?

この日、家計コンサルタントのもとへ相談に訪れたのは、50代の主婦。家族は、会社員の夫、大学生と高校生の子どもです。

主婦(50代)
「老後のことなんですけど、全く想像がつかない状態なんです。実際どれぐらい(老後資金が)あったら安心かというのが1つなんです。」

コンサルタントが提案したのは、夫が定年退職するまでにためられる老後資金を計算すること。どれくらいの貯蓄で、老後の年金生活をスタートできるかを把握することが狙いです。
その計算方法です。夫の収入から1年間にためられる額を算出。その貯金を定年退職するまで続けると仮定します。そこに、退職金や財産を合わせたものが老後資金。これが分かれば、不安の解消につながるといいます。

家計コンサルタント 八ツ井慶子さん
「ベースが今になっているので想像しやすいのと、ご自身でいくらぐらいためられそうかという数字になるので、いま、これで足りなそうだったら何をしたらいいのかという次のステップにつなげていける。」

次のステップとしてコンサルタントが提案したのは、日々の支出の見直しです。

家計コンサルタント 八ツ井慶子さん
「日々の支出を見直す余地がないかな。」

レシートを点検し、本当に欲しくて買ったものや、必要だった買い物には「○」を。なくても困らなかったものや買って後悔したものには「×」を記入していきます。例えば、このレシート。ホワイトチーズのオイル漬けには「×」、アールグレイの紅茶には「○」をつけました。

主婦(50代)
「これは紅茶を買いに行ったんです。これ(紅茶)はいつも飲んでいるんですけど、切れてやむなく買いに行ったんです。ただ、これ(チーズのオイル漬け)はなくてもいいものかなと。」

家計コンサルタント 八ツ井慶子さん
「なぜ買ってしまったと思います?」

主婦(50代)
「わりとレジの近くにあって、結構おいしそうだったんですね。まだ買ったことがなくて、なんとなく試してみるにはいい金額だった。」

こうした必要のない買い物をやめるだけで、食費を2割削減できるとアドバイスされました。

主婦(50代)
「少しずつ数字を積み上げていくことによって、はっきりした輪郭ができあがってきたので、これをベースに考えたらいいのかなと、そういうのを教えていただけたので、すごく私の中では安心した。」

家計コンサルタント 八ツ井慶子さん
「具体的にどれぐらいためられそうか、大体皆さん1回も計算したことがないので、それを聞いただけで、結構驚かれたり、まとまった資金を見て単純に安心されたり、それをもってして初めて老後を想像できるようになる。」

老後のお金の不安をどう解消すればいいのか。このあとのスタジオでも専門家に教えてもらいます。

武田:つまり、老後にいくら必要かということを気にするよりも、現役時代にどのくらい資金を準備できるかということを考えるべきだ、イメージするべきだということなんですが、山崎さんはどういうふうにお考えになっているか、こちらです。「1人1人違う。個別に計算を!」ということなんですが、これはどういうことですか?

山崎さん:高所得の人はたくさん使うし、老後もたぶん、そういうことでしょうし、低所得の人は逆だと思うんですよね。自分の数字で平均値とかということではなくて、自分の数字で計算してみるということが大事だということですね。

武田:1人1人?

山崎さん:個別に違うので、個別の数字で計算してみるということが大事です。

武田:深田さんは、どういうことに気をつけて、例えば何割ぐらいイメージすればいいんですか?

深田さん:皆さん、「50代の時に何割ぐらいをイメージすればいいんですか?」と聞かれるんですけれども、何割っていうのは結構危険で、まず50代の時は住宅ローンもありますし、子どもの養育費もありますけれども、それが年金生活になったらかかんないですよね。お付き合いも、飲み代もかからなくなるので、まず、今かかっているお金を書き出してみて、「あっ、これは年金生活になったらなくなるな」っていうのを省いていくと、自分の年金生活になったときの支出のサイズが予想しやすくなるので、手を動かしてみることが大事です。

武田:では、どうやってその資金をためていけるのかということなんですが、深田さんは「ためる力を高める」。そのために「数千円をあなどるな!」「足し算とかけ算が重要!」とありますが、これはどういうふうにすればいいんでしょうか?

深田さん:毎月の貯蓄額をアップしたいと思った時に、なかなか1つだけ見直して、2万円という支出減ってないんですよ。なので、固定費、つまり生命保険とか、携帯電話の見直しなどで、1回やったら、来月からはもう努力が不要の固定費の見直し、それを数千円のものを積み上げていって、初めて2万円になるので、まず、ここで足し算をします。例えば月2万円、1年でかける12で12万円、50歳から60歳までの間の10年で240万円の老後資金をアップすることができます。なので、数千円の支出を積み上げて足し算をするということをあなどってはいけないということですね。

武田:固定費のほうがいいんですね。例えば食費とか光熱費ではなく?

深田さん:それは次の段階で。固定費を見直すことによって、努力をしなくても、ちゃんとお金がためられる成功体験を身につけると。

武田:そして山崎さんは、「計画的な貯蓄・取り崩し」。

山崎さん:「資産の寿命を延ばす」という目的に対して、お金を運用して、増やして、それで寿命を延ばそうっていうふうに考えるのではなくて、あくまでも、そこにあるものを計画的に取り崩すっていうことで延ばす。そういう手段の割り当てが大切だと思うんですね。あるお金自体は、自分が取れるリスクの中で運用することはかまわないんですが、「これは適切に」というか、できるだけ商品の手数料の小さいもので運用していただくのがいいと思います。年間の手数料0.5%を下回るもの、というふうに考えていただくのがいいと思います。

そうすると、コストが高すぎる商品を避けることができますし、それからコストが高い商品を売りに来る人間の悪い影響、現実のお金の運用というのは、株価の変動みたいな市場のリスクのほかに、悪い人間がいろんなアドバイスだとか、セールスだとかをしてくる、そういうリスクがあるので、この0.5%っていうのを意識していると、そういう人間を近づけないというようなことができます。

武田:見極める1つの目安が「手数料0.5%」と。

山崎さん:前回、この番組に出させていただいた時に、控室で思いついたんですけれども、これは、いろんなところで当てはめてみると、なかなか具合がいいかなと思うので、また紹介させてもらいました。

武田:そして、計画的に老後も取り崩していくと。

山崎さん:あくまでも自分の条件に従って、計画的に取り崩していくということが、お金をもたせるための確実な手段です。リスクを取って足りなくなったからといって誰かがカバーしてくれるということがないので、そこは慎重に取り崩していくということを割り当てるべきですね。

武田:定年後の生活のイメージがつきにくいんですけれども、やっぱり月々、計画的に使っていくことも大事だということですね。

深田さん:割り算ですね。

武田:これは割り算ですか。足し算とかけ算から、引き算と割り算にどう移行できるかということですね。