【ソウル=鈴木壮太郎】韓国大統領府が2018年6月の統一地方選に介入した疑惑が浮上している。南東部の蔚山市長選で、野党系現職市長の側近による不正の捜査を警察に指示し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に近い与党系候補の当選を後押ししたとされる。検察が捜査に乗り出しており、「公正公平」を掲げる文政権の支持率に影響する可能性もある。
蔚山市長選は保守系で現職の金起炫(キム・ギヒョン)氏と、文氏と親交がある革新系の人権派弁護士、宋哲鎬(ソン・チョルホ)氏の一騎打ちだった。
警察は昨年3月、金氏の側近が特定の業者に便宜を図ろうとしたとして、金氏の秘書室長室などを家宅捜索。5月に側近らを送検した。韓国メディアによると、金氏は市長選序盤の世論調査で宋氏を15ポイント上回っていたが、捜査の影響で逆転され落選した。
勝敗を分けた警察の捜査が「大統領府からの下命だった」というのが疑惑の核心だ。11月27日付の朝鮮日報によると、大統領府の民情首席室が疑惑を警察に伝え、警察が捜査に動いたという。当時の民情首席秘書官はスキャンダルで法相を辞任した曺国(チョ・グク)氏。曺氏は2012年の総選挙に出馬した宋氏の後援会長でもあった。
大統領府の民情首席室は、国政に関する世論の把握と大統領周辺の人事管理が主な業務だ。選挙を経て就任する高位公職者は情報収集の対象ではなく、越権行為の可能性があるとして検察が捜査に着手した。
こうしたなかで、当時大統領府に勤務していた職員が1日、検察の参考人聴取を前に遺書を残して死亡しているのがみつかった。疑惑に関わったとみられていた職員は検察から大統領府への出向者で、遺書には「検察総長に申し訳ない」と書かれていたという。
市長選で敗退した金氏は2日に記者会見し、選挙の無効を求めて提訴すると発表した。
大統領府は一連の疑惑を否定している。盧英敏(ノ・ヨンミン)秘書室長は11月29日、国会で「金氏を監察したことはない」と述べた。ただ「不正の情報を警察に伝えただけだ」とも語り、警察に情報を伝えたことは認めた。
大統領府の報道官は2日、自殺した元職員について「昨年1月、蔚山に出張したことはあるが、(疑惑になっている)捜査とは関係ない」と否定した。
大統領府に浮かぶ疑惑は蔚山市長選への介入だけではない。文氏の盟友である故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が信頼を置き、釜山市経済副市長などを歴任した柳在洙(ユ・ジェス)氏の収賄疑惑をもみ消したとの指摘もある。「身内びいき」の疑惑が晴れなければ、苦境が続く文氏の政権運営にさらなる打撃となる可能性がある。