京都市伏見区のアニメ製作会社「京都アニメーション」(京アニ)第1スタジオが放火され、36人が死亡、33人が重軽傷を負った事件で、救護活動などに当たった京都第一赤十字病院(東山区)救急科部長の竹上徹郎医師(49)が、京都新聞社の取材に応じた。現場での活動を振り返り、「最大限のことをしたが、もっとできることがあったのではと考えてしまう」と語った。
市消防局から第一日赤にやけどの重症患者の受け入れ要請が来たのは、発生から約20分後の午前10時52分だった。続いて「10人以上の重症者がいる」と情報が入った。重症患者は1病院で1~2人しか受け入れられない。竹上医師は「広域で対応する事案かもしれない」と考えた。
11時25分、医師の出動要請があり、竹上医師はドクターカーで急行。第1スタジオに近づくと煙がもうもうと上がり、多くの消防隊員が活動していた。放火だというニュースも入り「大変なことが起きた」と緊張感を強めた。
11時50分に到着。治療の優先順位を決めるトリアージで重症と判定された患者は搬送が終わっていて、竹上医師は中等症の1人を診た。病院搬送された負傷者は最終的に36人。だが、竹上医師にはスタジオで出火当時約70人が働いていたという情報が入っていた。「数が合わない。多くの人がまだ中にいる可能性がある」。消火活動が続いていて、屋内の人をすぐに救出できる状況ではない。現場に医師1人を残し、竹上医師は3人の負傷者が搬送された第一日赤に戻って治療に加わった。
病院に戻ってからわずか30分後の午後2時50分。現場にいた医師から交代要請があった。引き継がれた活動は、屋内で見つかった人の死亡確認だった。雨が降り出す中、竹上医師は3時間余り、雨に打たれて立ったまま脈動の有無などを調べた。「丁寧に最後の確認をさせていただくしかできることはなかった」。一度に14人もの死亡確認を行ったのは初めてだった。
京アニ事件では府外も含め複数の病院に負傷者を分散して収容した。竹上医師は府の基幹災害拠点病院の医師として、患者の負傷程度や搬送状況について情報収集を進めたが、やや時間がかかったという。重症患者は設備がより充実した病院への二次搬送も必要となる。府内には情報共有の公的システムはなく、現場の医師の連絡網に頼っている。竹上医師は「当時の検証をしている。悲惨な事件だからこそ今後に生かしたい」と話す。