
年末を意識させる物事はいろいろありますが、かつてはそのひとつが年の暮れの11月に発行される『現代用語の基礎知識』でした。
昔の電話帳のように分厚くて重たく、およそ1200ページにもおよぶ、いわば「ことばの年鑑」。
この時期になると、後追いで登場した『イミダス』(集英社)、『知恵蔵』(朝日新聞社)とともに書店に平積みされて存在感を放ったものです。
ところが時代の変化とともに、これらの年鑑に対するニーズも下降線をたどることになっていきました。
急速に普及したインターネットでなんでも検索できる時代になったのですから、ある意味では当然の話。
そんなこともあり、『イミダス』と『知恵蔵』は、2006年発行の「2007年版」を最後に相次いで休刊となったのでした。
しかし、先駆者である『現代用語の基礎知識』はなんとか持ちこたえ、2018年には創刊70周年を記録。さすがの実力を見せつけたのですが、とはいえ紙媒体離れが進行しているのは事実。
あの重量感のある媒体が今後どうなっていくのだろうということについては、個人的にも気になってもいたのでした。
そんななかで驚かされたのは、この11月に発売された最新版『現代用語の基礎知識 2020』(佐藤優、金田一秀穂 他、自由国民社)を目にしたとき。
というのも大幅にリニューアルされ、これまでの約約1/4の300ページ弱となっていたからです。
もちろん従来の分厚い体裁にも(インパクトを含めた)魅力があったのですが、現代的な感覚からすればこのくらいのほうが適切にも思えます。
重たくないので持ちやすく、紙質もしっかりとしたものに変更されているため、より実用的になっているわけです。
話題の人物から出来事までを総括
巻頭の「2019年のキーパーソン」というページでは、「あいみょん」「樹木希林」「稀勢の里」「ジャニー喜多川」「小泉進次郎」「望月衣塑子」などなど、さまざまな方面で話題を呼んだ人物についてコンパクトに解説。
続いて2020年の東京オリンピック・パラリンピックについてもページが割かれています。
そして「特集 どうなる令和新時代」では、「皇室」「改憲論議」「政党メディア戦略」をクローズアップ。
また、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」などにも触れている「現代用語ジャーナル」のなかで特に注目に値するのは、「『見えない』ことにされている人たち」。
具体的には、「ひきこもり」「性的マイノリティ」「外国人」「障害者」「性暴力被害者」が取り上げられているのです。
現代社会においては、だれもがひきこもる可能性をもっている。受験の失敗、いじめや退職などの挫折体験から始まることもあれば、原因やきっかけがはっきりしない場合も少なくない。
引きこもり状態は悪い意味で安定しており、長期化しやすい傾向がある。こうした長期化が、高齢化の背景にある。
今後懸念されるのは「親亡き後」で、家族の支援を失った当事者が福祉に頼れば、その膨大な人口ゆえに福祉財源を圧迫し、さりとて頼らなければ孤独死のリスクが高まるという問題がある。(77ページより)
たとえば、医学博士の斎藤環氏による「ひきこもり」の解説から引用したこの文章からもわかるように、必要な情報や考え方がコンパクトにまとめられているのです。
「見えない」ことにされている人たちのことを改めて考えてみるためにも、読んでおく価値がありそうです。
また、「あおり運転」から「日韓関係の悪化」まで、“忘れたくない”2019年の16トピックスも「おさらい」というかたちで紹介されています。
したがって、いろいろなことがあった今年を振り返るには最適だということ。
「聞くに聞けない、けれど知りたい」情報満載
そして本書の大定番といえる「用語解説」においては、「政治」「時代・流行」「経済」「世界情勢」「情報メディア」「社会」「スポーツ」とカテゴリーごとに分類したうえで必要な用語を解説しています。
試しに、「情報メディア」のなかからいくつかを拾ってみましょう。
▶︎5G[5th Generation] 2020年ごろ実用化が見込まれている次世代の携帯電話サービス。正確には第5世代移動通信システムという。通信速度が最大10ギガビット/秒と超高速になるほか、通信の遅延が減る。さらにIoT(モノのインターネット)の普及拡大などを見越して、ネットワーク全体の通信許容量が増える予定。(212ページより)
▶︎GAFA(ガーファ) グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の頭文字をとった造語。この4社は、それぞれの事業分野で巨大な顧客情報をもち、他社の追随を許さない強いビジネスを展開している。こうした企業をプラットフォーマーという。(212ページより)
たとえばこのように、「聞くに聞けない、けれど知りたい」情報が簡潔にまとめられているわけです。そのため知識を補填するには最適。
また的確な情報を得ることによって、狭くなりがちな視野を広げることも可能になるのではないかと思います。
全体的に、とても現代的なリニューアルがなされている印象。本質的な部分を守りつつ、しかし過去のスタイルに執着しすぎず、ちょうどいいバランスを保っているように思えます。
いまやスマホさえあれば多くのことがわかりますが、それでも深いところまで理解しづらいことがらも少なくありません。
そういう意味では、いまだからこそ本書に存在価値があるのだとも言えそうです。
年末の休みに、パラパラとメージをめくってみれば、意外な気づきがあるかもしれません。
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Photo: 印南敦史
Source: 自由国民社
印南敦史
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