久保田直己 不撤不散
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エリック・クラプトンの人種差別発言

30/11/2019

2 コメント

 
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Photo by ev on Unsplash

クラッシュやスティール・パルスらがコミットし、1970年代から80年代にかけて展開された反人種差別の運動 “Rock Against Racism” について調べていく中で、発端となった1976年のエリック・クラプトンによる差別発言に辿り着いた。

エリック・クラプトンが人種差別発言を行ったということを薄々知ってはいたが、この機会に発言の原文を読んでみたところ、吐き気を催す酷いものであった。
私自身は40年以上にわたって彼のファンであり続け、当ブログでも「エリック・クラプトン 70年代の武道館セットリスト」を書き起こすなどしている。
しかしこの差別発言に関してあまりにも無知かつ無自覚であったと猛省するしかなかったので、その内容を記録しておくことにした。

​エリック・クラプトンがライブ会場のMCで露骨な人種差別発言を行ったのは、1976年のイギリス・バーミンガムでのことだった。
事の一部始終は書籍「ロック・クロニカル 現代史のなかのロックンロール」(広田寛治著 河出書房新社)に詳しいので引用させていただく。
76年9月、バーミンガムで開かれたエリック・クラプトンのコンサートで、時間が凍りついてしまったかのような奇妙な静寂の時が流れたという。
クラプトンがMCで「エノックは正しいんだ。ウォッグスを送り返して、英国を白人だけのものにするべきだ」と発言したのだ。
エノックとはイギリスで有名な極右政治家エノック・パウエルのことで、彼は移民を停止し本国に送還するための法律を推進する中心人物として活動し、人種差別撤廃を主張する人々からやり玉にあげられていた人物だった。
​そして、「ウォグス」というのはイギリスでは黒人を侮辱する言葉だった。
この時の実際の発言そのものは様々な報道やサイトで断片的に掲載されており、またFacebookグループのComunidade Cultura e Arte がそれらを取りまとめている。
この中に出てくるwogsやcoonなどの差別語は、現在の欧米の報道ではwxxx、cxxxなどとマスクされるものであるが、ここでは敢えてそのまま引用しておく。
Do we have any foreigners in the audience tonight?
If so, please put up your hands.
Wogs I mean, I'm looking at you.
Where are you?
I'm sorry but some fucking wog...Arab grabbed my wife's bum, you know?
Surely got to be said, yeah this is what all the fucking foreigners and wogs over here are like, just disgusting, that's just the truth, yeah.
So where are you?
Well wherever you all are, I think you should all just leave.
Not just leave the hall, leave our country.
You fucking (indecipherable). I don't want you here, in the room or in my country.
Listen to me, man!
I think we should vote for Enoch Powell.
Enoch's our man.
I think Enoch's right, I think we should send them all back.
Stop Britain from becoming a black colony.
Get the foreigners out.
Get the wogs out.
Get the coons out.
Keep Britain white.
I used to be into dope, now I'm into racism.
It's much heavier, man.
Fucking wogs, man.
Fucking Saudis taking over London.
Bastard wogs.
Britain is becoming overcrowded and Enoch will stop it and send them all back.
The black wogs and coons and Arabs and fucking Jamaicans and fucking (indecipherable) don't belong here, we don't want them here.
This is England, this is a white country, we don't want any black wogs and coons living here.
We need to make clear to them they are not welcome.
England is for white people, man.
We are a white country.
I don't want fucking wogs living next to me with their standards.
This is Great Britain, a white country, what is happening to us, for fuck's sake?
We need to vote for Enoch Powell, he's a great man, speaking truth.
Vote for Enoch, he's our man, he's on our side, he'll look after us.
I want all of you here to vote for Enoch, support him, he's on our side.
Enoch for Prime Minister!
Throw the wogs out!
​Keep Britain white!
あまりにも酷い内容なのでとても全文翻訳する気にはなれないが、ざっくり要約するとこんな塩梅だ。

「この会場に外国人のクソ野郎はいるか?いるなら出ていけ。会場だけじゃない、国からもだ。よく聞け。エノック・パウエルに投票しろ。黒人やアラブ人やジャマイカ人は出ていけ。イギリスは白人のための白人の国だ。」
​
言うまでもなく、エリック・クラプトンはブルースでキャリアを開拓し、この発言の数年前にレゲエで復活を遂げた人物である。
その彼が黒人やジャマイカ人を差別し罵倒するとは。
さらに驚くべきことに、エリック・クラプトンはこの年、ボブ・マーリーのライブを観に行き、またフレディ・キングとセッションを行った記録が残っているのである。
1977年に発刊された写真集「エリック・クラプトン」(新興楽譜出版社)の巻末の年表には、次のような記載がある。
1976/5/25
パティと連れ立ってロスアンゼルスのロキシー・シアターで開かれたボブ・マーリー&ウェイラーズのコンサートを見に出かける。

1976/7/31
​クリスタル・パレスで開かれた「第9回ガーデン・パーティー」と銘打ったフェスティバルに出演する。
エリックは自分のバンドの演奏の他、フレディ・キング、ロン・ウッド、ラリー・コリエルとブルース・セッションで白熱のジャムを展開、観客の大喝采を浴びた。
当然ながらこの後、エリック・クラプトンは人種差別発言を生涯にわたって非難されることになった。
2017年に伝記映画 “Life in 12 bars” (邦題「エリック・クラプトン~12小節の人生~」)が制作されたが、この映画に関するメディアとのQ&Aセッションでも、1976年の人種差別発言について質問されている。
ローリングストーン誌に掲載されたエリック・クラプトンの発言は次のようなものだった。
根拠もなく半人種差別主義者のようだった。
友人の半数は黒人で、僕は黒人音楽のファンであり継承者でもある。
​でもボトルを持っている間は、そういうことをすっかり忘れてしまっていた…
一応反省の弁は見せているが、発言の前半は文字通り差別主義者の典型的な言い訳 “I have a black friend” である。
​本当に反省しているのか、疑問に思わざるを得ない。
また差別発言をアルコールのせいにしているが、酔っているときほど本音が出やすいものではないのだろうか。

残念ながら “Rock Against Racism” を経ても、ロック・ミュージシャンによる人種差別発言が止むことはなかった。
近年ではモリッシーが差別主義者になってしまったことで知られている。
例えば2016年8月、モスリム系として初のロンドン市長となったサディク・カーン氏についてモリッシーは「ハラルを食ってる野郎が早口で話すからさっぱりわからねえ」と発言している。

また本邦でも最近、小沢健二が次のようなツイートを残している。​

​「圧死笑」。何なんだ。
​いい加減にしてもらいたい。
再び「ロック・クロニカル 現代史のなかのロックンロール」から引用しておく。
歴史的にみれば、自国の植民地支配を正当化し、偏狭な愛国主義をテコに失業問題を人種差別の理由にする考え方こそが、世界中で差別を生み出してきた原因であったのだ。
​パンク・ムーブメントが批判していたのはまさにこうした安易な愛国主義に走る保守的な体制に寄り添うロックに対してのものだった。
なお “Rock Against Racism” の詳細は、HEAPSの記事「ステージとフロアの上でぶち壊した「音楽と人種の壁」パンクとレゲエ、白と黒が混ざり合った音楽ムーブメント、あの5年間」を一読いただければと思う。
2 コメント
BlackSesame
30/11/2019 20:48:38

"Yellow Monkey,HaHaHa"

'76、私はEC Bandのライブにゆきました。
幸い前から4列目で、やや左側という座席に恵まれ、ステージのやりとり会話もほぼほぼ聞こえていました。

ECの一挙手一投足にワァワァキャーキャー歓声があがり、私も「ちょっとミーハーすぎやしないか?」と感じていたところ、彼(Eric Clapton)が、冒頭の言葉をバンドメンバーに発し、そこで私は席を立ち帰路につきました。「なんで、こんな奴に惚れ込んでいたんだろう」と悔しくて悔しくて、数年間はEC関連の情報には耳を塞いでいたことがありました。

酷い話ですよね。友人には信じてもらえませんでしたが、私の記憶にはシッカリと、しかもず〜っと残っています。

返信
SNAOANS
3/12/2019 10:00:26

古くはワーグナーから、差別と音楽の関連を考える機会は枚挙にいとまがありません。だからこそ、音楽そのものとそれを作った芸術家の感性と、創造した製作者の品性は分けて考える必要があると思います。決して優れた人格が優れた音楽を奏でるわけでは無いのです。人間の業ですよね。

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