日本人女優を起用した避妊具の台湾広告に私が違和感を抱いた理由

文化

栖来 ひかり 【Profile】

時として驚くほど保守的な台湾社会

近年の統計を見ると、台湾におけるエイズウイルス(HIV)など性感染症の感染者数の増加率は日本に比べても高い。そこで、インパクトのある広告で若者に避妊具使用を周知する必要があるのは理解できる。しかし、だからといって性的なイメージがすでに備わっているという理由で日本人女性を起用することに、目をつぶってもよいとは思わない。

大久保氏がこの商品の広告タレントとして起用されたのは、2017年の初め頃である。大久保氏のフェイスブックを見ると、男性用避妊具使用の重要性を明るく訴えていて、性的というよりむしろ、健康的な感じがして好感を持てた。だからといって、大久保氏もまた「日本女性」という属性から自由ではない。受け手にインパクトを与えたいならば、むしろ台湾人スターの女優・モデル・歌手を起用した方が若い世代への訴求力は大きいように思う。台湾はアジアで初の同性婚合法化を獲得するような進歩性を持つ反面、社会には驚くほど保守的なところがある。そうした中で、避妊具の広告塔になるのは台湾女性スターにとってはリスクが大きいところを、日本人タレントが体よく使われているような印象を、私は持ってしまった。

さらに違和感を感じたのは、大久保氏がセクシータレントではなく、一般女優というところだ。日本人女性という一元的なくくりのために、セクシー女優やセックスワーカーのプロフェッショナルとしての仕事が尊重されなくなる恐れがあるし、今後台湾で活動する日本人女性タレントへの影響も懸念される。またそうした女性の個を軽視する無意識が、ひいては昨今、日本で社会問題化しているアダルトビデオ出演強要などの人権問題と、根っこでつながっているようにも思う。同じく避妊具ブランド「Durex」の中国の広告には、さらにあからさまなものがある。起用されている中国人モデルが、スクール水着を着て座っており、「kawaii―make me sexy 」 といった言葉が添えられ、明らかに日本人女性に付随するゆがんだ性的イメージが意図的に投影されている。台湾の広告の作り手が、そういったことをどれだけ意識したかは分からないが、もし無自覚で作っているならば、問題の根は余計に深いと思う。

次ページ: 安易な発想に頼らない広告作りが大切

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台湾 女性 広告

栖来 ひかりSUMIKI Hikari経歴・執筆一覧を見る

台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)。 個人ブログ:『台北物語~taipei story

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