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 東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる国立競技場が完成した。膨れ上がった建設費や設計の白紙撤回など、混乱が続いた「スポーツの聖地」は、ようやく12月21日のオープニングイベントでお披露目となる。ただし、難題はまだ残る。莫大な維持費を抱えながら、収支をどうやって黒字化するか。先が見通せない3つの理由を解説する。

11月30日に完成した国立競技場(写真:AFP/アフロ)
 

 国立競技場の未来に、早くも暗雲が垂れ込めている。政府は国立競技場の五輪・パラリンピック終了後の「後利用」に関し、民間企業に運営権を売却する方式を検討している。当初は年内にも民営化計画を作成するはずだったが、2020年秋以降に先送りにする方針だ。事業者の公募も五輪後に先送りする。運営権に興味を持つ民間企業から「採算性などを判断できない」という意見が相次いだためだ。

 「うちは手を挙げないつもりだ」。スポーツ施設の運営実績がある民間企業の担当者はこう話す。なぜか。詳細な図面などを五輪のセキュリティーの観点から開示していないことも理由の一つだが、複数の民間事業者に取材すると、国立競技場が抱える根本的な問題が見えてきた。

理由1 屋根がないことで音楽イベントが敬遠する

 “屋根なし”とは思い切った決断をしたものだ──。明治神宮野球場関係者は、2015年8月に発表された国立競技場の新たな整備方針を見て、こう思った。整備費の乱高下で計画が白紙に戻り、政府は「屋根は観客席の上部に限ること」「機能を原則として競技に限定すること」などの方針を打ち出した。建設コストを抑えるためだ。

 この関係者が「思い切った決断」と評したのは、屋根の有無が施設の収益性を大きく左右するから。「神宮球場は多くのコンサートやイベントに敬遠される。当然、雨天での中止を全ての事業者が避けたいと思っている」(先の神宮球場関係者)。

 東京都市大学が全国のスタジアムやアリーナ、球技場など108施設を対象に実施した調査によれば、「高収益型」と呼ばれるコンサートや展示会といったビジネスイベントの稼働率(年間のイベント回数を365日で割ったもの)は、屋根のあるドームが17.1%だったのに対し、屋根のないスタジアムは1.4%にとどまった。屋根なしスタジアムの高収益イベントの開催日数は平均でたった年5日だ。