想いは白雪の中に
海に住むイルカたちが、音や超音波を発し……。
その反響によって物体の距離や方向、相手の状態を把握して、仲間たちに
『元気にしていますか?』
『なにか困っていることはありませんか?』
物体を通過する超音波を使うイルカのエコーロケーションは、肉眼では見えない傷ついた心の状態も察知します。
イルカは体に障害を持つ人、心に傷を負った人には特に近づいていくそうです。
そして違う種の生き物でも、積極的に助けようとする心を持っています。
『作品、とても面白かったです』
人も、イルカも……本質は同じなのです。
見返りを求めない、あなたの優しさがつむぎだす言葉……。
それを“ぬくもり”といいます。
× ×
神さまが死んで、悪魔も去った真っ白な世界――。
泣き疲れ、降り積もる雪の冷たさに意識を失っていた魔王は、胸元にあたたかさを感じ、ふたたびまぶたを開きます。
「光り……」
まるで凍死しかけた魔王を護っていたかのように――。
抱きかかえた龍の手のひらには、ちいさな光りが輝いていました。
「あたたかい……」
かすれた声が、魔王の口からもれます。
「俺には勿体のない……あたたかさだ……」
魔王は自嘲しながらも、澄んだまなざしを光りへと向けます。
まるで静かに眠る……
「これは……」
突如、光りの中にうっすらと文字が浮かび上がってきました。
最初に見えてきたのは……龍となった稚魚の名前でした。
ずっと昔に書き込まれ……。
あの頃の魔王が、気付くこともなかった感想でした。
『どんなに辛くても……。
初めてブックマークをくれたあなたを目指して、がんばっていきます』
「……
その感想を見た魔王の目から、手の中の光りと同じ――。
あたたかい涙が、頬を伝わりこぼれ落ちます。
魔王は、理解しました。
稚魚はずっと、魔王の背中を目指し続けてきたことを。
だからこそ、此処までこれたことを。
気まぐれな魔王の言葉を、ずっと、ずっと信じて……。
あんな小さなお魚さんが、誰もが見上げる龍になることができたのです。
「大切なことに……いまごろ気付いているんじゃねぇよ……」
たとえその身が滅びようとも――腕の中に眠るわが子は、最後の力を使い果たしてまで魔王の魂を救おうとしていたのです。
「……」
そして雪原を踏みしめながら、魔王へと足音が近付いてきます。
それが「終わり」の足音であることを、魔王は理解していました。
『いつも小説家になろうをご利用頂き、ありがとうございます。
小説家になろう……運営っす』
白い息を吐きながら――。
うずくまる魔王に対し、なろうさんはペコリと挨拶をし、
『ボクがここに来た理由は……言わなくてもわかっているっすよね』
これから訪れる裁きに怯えることもなく――命乞いする素振りすらみせない魔王に向け、懐から取り出した拳銃を向けます。
『やっぱ“警告”じゃ済まなかったみたいっすね。――残念っすよ』
仏の顔も三度まで――。
悪逆の限りを尽くした魔王には……もはや一度目の慈悲も必要ありませんでした。
そしてかなしげに微笑んだなろうさんが、引き金をひこうとしたそのとき――。
「なろうさん……」
『はい』
「最後に、ひとことだけ……ひとことだけ俺に感想を書く時間を与えてください」
『……』
魔王は銃口を向けられたまま立ち上がり、水面へと近づくと、
「ああ……すごいなぁ……本当に……」
瞳の中に大きく映る龍に向け、嘘いつわりのない気持ちを送ります。
雨にも負けず――。
風にも負けなかった、気高く、雄々しい姿……。
それは魔王が……彼の愛しき龍が、本当になりたかった姿でした。
魔王はひび割れたスマートフォンを操作しながら、昇ってくる龍の感想欄を開きます。
『にっかんそうごういちい――』
変換――。
『こんどはわたしたちが――』
変換――。
「……」
感想を書き終えた魔王は目を閉じ、くちもとに笑みを浮かべます。
『日刊総合一位おめでとう。これからも頑張ってください。
今度は私たちが、あなたたちの背中を目指してがんばっていきます』
そして白雪の世界に鳴り響いた銃声とともに、魔王は消滅し――。
名前の消えた感想だけが、いつまでも残り続けました。