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小説家になろう あなたが信じる『評価数』・『ブックマーク数』を――『ぶっ壊す』。2016改訂版 作者:森永ピノ子
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想いは白雪の中に

 反響定位(エコーロケーション)――。

 海に住むイルカたちが、音や超音波を発し……。

 その反響によって物体の距離や方向、相手の状態を把握して、仲間たちに声援(エール)を送るための能力です。


『元気にしていますか?』

『なにか困っていることはありませんか?』


 物体を通過する超音波を使うイルカのエコーロケーションは、肉眼では見えない傷ついた心の状態も察知します。

 イルカは体に障害を持つ人、心に傷を負った人には特に近づいていくそうです。

 そして違う種の生き物でも、積極的に助けようとする心を持っています。


『作品、とても面白かったです』

 人も、イルカも……本質は同じなのです。

 見返りを求めない、あなたの優しさがつむぎだす言葉……。

 それを“ぬくもり”といいます。


 ×   ×


 神さまが死んで、悪魔も去った真っ白な世界――。

 泣き疲れ、降り積もる雪の冷たさに意識を失っていた魔王は、胸元にあたたかさを感じ、ふたたびまぶたを開きます。

「光り……」

 まるで凍死しかけた魔王を護っていたかのように――。

 抱きかかえた龍の手のひらには、ちいさな光りが輝いていました。


「あたたかい……」

 かすれた声が、魔王の口からもれます。


「俺には勿体のない……あたたかさだ……」

 魔王は自嘲しながらも、澄んだまなざしを光りへと向けます。

 まるで静かに眠る……(おの)が龍の魂を見つめるかのように。


「これは……」

 突如、光りの中にうっすらと文字が浮かび上がってきました。

 最初に見えてきたのは……龍となった稚魚の名前でした。

 ずっと昔に書き込まれ……。

 あの頃の魔王が、気付くこともなかった感想でした。


『どんなに辛くても……。

 初めてブックマークをくれたあなたを目指して、がんばっていきます』


「……()野郎……」

 その感想を見た魔王の目から、手の中の光りと同じ――。

 あたたかい涙が、頬を伝わりこぼれ落ちます。


 魔王は、理解しました。

 稚魚はずっと、魔王の背中を目指し続けてきたことを。

 だからこそ、此処までこれたことを。

 気まぐれな魔王の言葉を、ずっと、ずっと信じて……。

 あんな小さなお魚さんが、誰もが見上げる龍になることができたのです。


「大切なことに……いまごろ気付いているんじゃねぇよ……」

 たとえその身が滅びようとも――腕の中に眠るわが子は、最後の力を使い果たしてまで魔王の魂を救おうとしていたのです。

「……」

 そして雪原を踏みしめながら、魔王へと足音が近付いてきます。

 それが「終わり」の足音であることを、魔王は理解していました。


『いつも小説家になろうをご利用頂き、ありがとうございます。

 小説家になろう……運営っす』

 白い息を吐きながら――。

 うずくまる魔王に対し、なろうさんはペコリと挨拶をし、

『ボクがここに来た理由は……言わなくてもわかっているっすよね』

 これから訪れる裁きに怯えることもなく――命乞いする素振りすらみせない魔王に向け、懐から取り出した拳銃を向けます。


『やっぱ“警告”じゃ済まなかったみたいっすね。――残念っすよ』

 仏の顔も三度まで――。

 悪逆の限りを尽くした魔王には……もはや一度目の慈悲も必要ありませんでした。

 そしてかなしげに微笑んだなろうさんが、引き金をひこうとしたそのとき――。

「なろうさん……」

『はい』

「最後に、ひとことだけ……ひとことだけ俺に感想を書く時間を与えてください」

『……』

 魔王は銃口を向けられたまま立ち上がり、水面へと近づくと、

「ああ……すごいなぁ……本当に……」

 瞳の中に大きく映る龍に向け、嘘いつわりのない気持ちを送ります。

 雨にも負けず――。

 風にも負けなかった、気高く、雄々しい姿……。

 それは魔王が……彼の愛しき龍が、本当になりたかった姿でした。


 魔王はひび割れたスマートフォンを操作しながら、昇ってくる龍の感想欄を開きます。


『にっかんそうごういちい――』

 変換――。

『こんどはわたしたちが――』

 変換――。

「……」

 感想を書き終えた魔王は目を閉じ、くちもとに笑みを浮かべます。


『日刊総合一位おめでとう。これからも頑張ってください。

 今度は私たちが、あなたたちの背中を目指してがんばっていきます』


 そして白雪の世界に鳴り響いた銃声とともに、魔王は消滅し――。

 名前の消えた感想だけが、いつまでも残り続けました。


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