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Remember11「バックログ:Real」

「ようこそ」

聞き覚えのない声……。

「ふふふ」
「待っていたよ」
「そろそろ来る頃なんじゃないかと思っていたんでね」

待っていた? オレを?
こんな男をオレは知らない。会ったことがない。
なのに、オレの海馬に蓄えられた記憶の中には、この男の断片が見え隠れしている。
これも、オレの失われた記憶(あるいは移植された記憶)と関係しているのだろうか。

「おまえは……」
「おまえは、誰だ」
「まったく……困ったことだ」
「本当になにもかも忘れてしまったようだね」
「……」
「私は榎本尚哉」
「どうだい? これでもまだ思い出せないかい?」
「その顔からすると、まったく覚えていない、ということか」
「まあいい」
「私のことなど、どうでもいい」
「今行われていることの重要性に比べたら些末なことだ」
「今、行われていること……?」
「わからないかい? きみの身に起きている事象のことだよ」
「なっ!?」
「それにしても厄介なことになったものだ」
「よもや、これほど面倒な状況になってしまうとは……」
「こんなことなら、きみを時計台になど、のぼらせるべきではなかった」
「──!?」
「おや? どうかしたかね?」
「おまえ、なのか……?」
「オレを時計台から突き落としたのは……」
「オレを殺そうとしていたのは……おまえなのか?」
「なぜ答えない!?」
「おまえなのか!? おまえじゃないのか!? 答えろ!」
「答える必要などない」
「意味のない質問だ」
「それもまた、些末なことなのだよ」
「些末なことだとぉ!」
「人ひとりの命が懸ってるってのに、意味がないとはどういうことだ!」
「それともやっぱり、全部おまえの仕業だったってわけか!?」
「……」
「……」
「知りたいのか?」
「えっ?」
「そんなに、きみを殺そうとしていた人物のことが知りたいのか?」
「当たり前だろ」
「オレはまだ殺されるわけにはいかない」
「だいいち、わけもわからず殺されなきゃならない道理がどこにある?」
「犯人をとっ捕まえて、かたっぱしから事情を訊きだしてやるんだ」
「意味のない行為だと思うがね」
「今のきみが知ったところで、余計に混乱するだけだ」
「どういう、意味だ……?」
「ふっ、まあいい」
「そんなに知りたいのなら、あとで見せてやろう」
「見せる?」
「ちょうど、先程データを整理したんでね」
「きみの欲する場面を、望むままにお見せすることができよう」
「まあもっとも、先程も言ったように、今のきみが見ても意味がないと思うがね」
「それに……」
「あくまでわかるのは表面上の出来事だ」
「本当に重要なこと……きみの内面で起きていることまではうかがい知れない」
「わかるだろう?」
「本当に重要なことは、目に映る事象ではない」
「真理は……」

榎本は人差し指を立てると、そっと額に当てた。

「真理は、ここで『視る』のだ」
「さあ、ここまで言えば充分だろう」
「今のきみに必要な情報は、知るべきことは、きみの身の保障のことではない」
「最も重要なこと、それを説明しよう」
「なんのことを言ってるか、もちろんわかっているだろう?」
「人格交換……だな?」
「御名答」
「やっぱりきみは、頭がいい」
「さて、どこから説明しようか」
「というより、きみはどこまで覚えている……わかっているのかな?」
「まず話はそれからだ」
「オレがわかっていること……」
「そうだ。話してくれたまえ」

Remember11「バックログ:Trinitity」

「ブラボー」
「いや、見事だ」
「よくもまあ、限られた情報の中からそこまで導き出せたものだ」
「素晴らしい」
「……」
「青鷺島から朱倉岳への転移は、その発生時刻に規則性はなく、完全なランダム」
「しかし、朱倉岳から青鷺島への転移の場合は33分間という時間内で『現象』は維持され、元に戻る」
「この転移は、同時並行的に発生するのではなく、1年間のブランクを挟んで行われる」
「つまり、2011年と2012年の間で行われている」
「要するに、時間跳躍と人格交換を一緒に行ってるということなんだろ?」
「その通りだ」
「大枠については、だがね」
「それでも、いくつかわからないことがある」
「いや、わからないことの方が多いと言ってもいい」
「それはそうだろう、当然だ」
「まずは、なぜこんな現象が起きたのか」
「ふっ、いきなり核心をついてきたね」
「まあ、いいだろう」
「『装置』のおかげさ」
「『装置』の処理によって、この『現象』は起きている」
「説明は以上だ」
「悪いが、ちっともわからない」
「『装置』ってなんだ? どういう仕組みなんだ?」
「そもそも、そんな大がかりな装置があったとして、仮に停電にでもなったらどうするつもりなんだ?」
「それで『現象』は止まったりしないのか?」
「中途半端な状態──例えば人格交換の途中で『装置』が停止してしまったら、
とんでもない事故になってしまうんじゃないのか?」
「まあ待てよ。立て続けに質問しないでくれないかね。順番に行こうじゃないか」
「まず後者についてだが、心配はいらない」
「このスフィアには発電装置が設置されている」
「自家発電ってやつだ」
「しかも、いざというときには予備電源に切り替わるようになっている」
「予備電源でも数十時間は稼動できる」
「99.999999999%、事故は起こりえない」
「次に前者についてだが……」
「細かい説明はあとにさせてくれないか?」
「順を追って説明しないと、こちらもやりにくいんでね」
「……わかったよ」
「疑問は他にもまだある」
「どういうことなんだ?」
「それを解く前に、ひとつ言っておくことがある」
「きみは勘違いをしている」
「勘違い?」
「きみ達は人格交換──人格が転移をしているんじゃない」
「本当に転移しているのは……」
「空間」
「えっ!?」
「空間自体が転移しているんだよ」
「正確に言えば、空間が時間を飛び越えて転移している。つまりは……」
「時空間転移だ」
「時空間……転移……」
「そうだ」
「きみの導き出した推理とは、つまりこういうことだろう?」
「2011年の朱倉岳にいる冬川こころ……それと2012年の青鷺島にいるきみ──優希堂悟」
「それぞれの意識が肉体から乖離し、時空を飛び越え、互いに入れ替わる」
「こんなふうにね」
「そして、きみは2011年の冬川こころの肉体に憑依し、逆に冬川こころはきみの肉体に憑依する」
「人格交換」
「こう考えたわけだろう? 違うかい?」
「そうだ」
「だが、それでは説明のつかないことがある」
「月と海のことだろう?」
「ああ」
「当然だ、矛盾するとも」
「繰り返すが、きみは勘違いをしている」
「この考え方は間違っているんだよ」
「時空間転移、とか言ったな……」
「それはいったい……?」
「こういうことさ」
「2011年、朱倉岳、冬川こころ」
「2012年、青鷺島、優希堂悟」
「この初期条件は、先程と同じだ」
「しかし、ここから先が違う」
「きみ達に起きている現象は、人格の移動ではないのだ」
「さっき、空間自体が転移してるとか言ってたな」
「そう」
「空間……朱倉岳の避難小屋を中心とした半径110m」
「それと、青鷺島のスフィアを中心とした半径110m」
「その半径110mの球体に含まれる空間が転移しているのさ」
「この球体の中に含まれるありとあらゆる物質がゴッソリと入れ替わる」
「こんなふうに」
「これが『時空間転移』と呼ばれる現象だ」
「こうすることで、避難小屋の半径110mの円……」
「仮に『サークル』とでも呼ぼうか」
「すると、避難小屋のサークル外に、青鷺島の海が広がっていることになる」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「オレとこころのことはどうなる? オレの肉体とこころの肉体はなぜ入れ替わってしまうんだ?」
「それに、月のことはどうなる?」
「オレが13日に見た月は、どちらも2012年のものだった。間違いない」
「きみ達は例外なんだ」
「例外……だと?」
「きみ達の意識は転移せずに、その場に残留しているんだ」
「残留……?」
「見たまえ」
「転移の際、きみと冬川こころの意識だけは、肉体から乖離して、その場に残留する」
「きみの意識は2012年の青鷺島に、冬川こころの意識は2011年の朱倉岳に」
「そして、きみ達の意識を除いた物質と他の人間だけが転移をする」
「肉体というウツワを失くしたきみと冬川こころの意識は、
新たにやってきた代替品としてのウツワの中へと、それぞれ憑依する」
「すると……」
「こうなるわけだ」
「……」
「きみは冬川こころの肉体に……冬川こころはきみの肉体に……」
「どうだい? 頭のいいきみならもう理解できただろう?」
「これが、きみ達の身に起きた転移現象の正体だ」
「だ、だから……オレは常に2012年の月を見てたわけなのか……」
「その通りだ」
「なんで……オレ達だけが、オレ達の意識だけが残留するんだ……わけが、わからない」
「さてね」
「どういうわけかな」
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