北陸発【石川】収穫断念も「来年こそ」 トキ元営巣地の稲作 イノシシ被害七尾の住民団体、前向き
国特別天然記念物「トキ」が戻る里山を目指し環境保全活動をする石川県七尾市の住民団体が、かつての営巣地だった山間地で栽培している米が、五年目の今季は収穫できなかった。九月の台風15号で水田を囲む柵が壊れ、イノシシが侵入した。無人集落の休耕田を使ったユニークな取り組みに水が差された格好だが、代表の唐川明史(めいし)さん(72)は「これも自然を相手にする経験」と前を向く。(中川紘希) 団体は同市中島町釶打(なたうち)地区を中心とする住民約四十人でつくる「朱鷺棲(ときす)む里山釶打クラブ」。地区内の須久保(すくぼ)集落(中島町河内)に一九六二~六三年、トキが生息していたことから、当時の環境を取り戻そうと、二〇一〇年に唐川さんらが生物調査や勉強会などを始めた。唐川さんは「トキは豊かな自然の象徴。もし戻ってきたら、能登もこの土地の農作物も評価される」と語る。 別所岳を水源とする熊木川上流の山間地にある同集落は半世紀前に人口がゼロに。人の営みを絶やさないようにと、団体が四年前に約八百平方メートルの水田を借りて無農薬で稲作を始めた。一年目にイノシシ被害を受け、翌年にトタンや木の板で柵を設置したが、今回の台風で倒れるなどして再び侵入を許してしまった。 例年は四十~五十キロを収穫し、付近の公園や温泉施設で販売してきた。もともと収量が少ない上、自然栽培に賛同する人も多く毎年売り切れ。直接注文するファンもいる人気ぶりだった。 今年は水田に入ったイノシシが稲を食べたり、踏み倒したりして、においが米に付いたため商品にならないと判断し、全てを処分した。 水田があるのは、人が通らなくなった草木が茂る砂利道を約八キロ上った先。日照時間が短い谷間にあるため、稲の生育も遅く、世話をするメンバーの負担は大きい。唐川さんは「春先から頑張ってきたので皆さんが気の毒」と語る。 来年は柵を張り直して再挑戦する予定。「不便な場所だが、やらないと須久保もトキがいたことも忘れ去られてしまう。イノシシ被害も経験として次につなげる」と気を取り直す唐川さんは、「能登には豊かな自然が残っているが、意識しないと失われる。多くの人が自分の問題として考えてほしい」と話している。 今、あなたにオススメ Recommended by PR情報
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