2019年11月26日火曜日

名寄市立大学の論文不正

 11月12日に,「名寄市立大学の紀要論文にて,舞田さんがブログで出している県別大学進学率のデータが,出典の記載なく使われている」という情報提供がありました。以下の論文です。

 大坂祐二「教育におけるジェンダー平等:大学進学率の男女差に注目して」『名寄市立大学コミュニティケア教育研究センター年報』第3号,2019年5月。

 匿名のメールでしたが,大学の紀要なんて一般人は読まないので,おそらく研究者でしょう。当該大学内部の関係者の可能性もあります。

 「やれやれ」と現物を確認したところ,県別・性別大学進学率(2018年度)の統計表が,私のブログ記事からまるまる転載されています。舞田が計算したというクレジット表記もなく,ブログから引用したという記載もありません。「資料:学校基本調査」とあるだけです(下記)。


 これは,『学校基本調査』に載っているデータではなく,同資料から私が独自に計算したデータです。他人が作成したデータを,適切な表記なく使うのは「盗用」です(文科省ガイドライン,10ページ)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/1351568.htm

 これは大学の研究論文なんで看過するわけにはいかぬと,大学に「どういうことか」とメールを出しました。数時間後,事務局長より「大学内部で調査している,お待ちください」とリプがあり,2日後の14日に,コミュニティケア教育研究センター長から回答がありました。

 「表のデータの一部は筆者が計算したものであるが,残りは(舞田の)のブログのものである。本文でブログについて触れ,引用文献にもブログ記事を載せていたので,表の下の出典表記を省略してしまった」とのことです。

 なるほど,本文で「舞田がブログで毎年,県別・性別大学進学率を出している。進学率の地域差について,舞田はこういう見解を示している」ということが書かれています。引用文献リストにも,私のブログ記事名とURLが記載されています。しかし,表のデータは舞田が計算したものだということが,どこにも書かれていません。誰がどう見ても,このデータは筆者の大坂祐二が調べたものに映るでしょう。学術論文としては,完全にアウトです。

 さて,「表のデータの一部は筆者が計算したものである」という点が気になったので,それは具体的にどこなのかと質問を返しました。翌週の18日(月曜)になっても回答がないので,督促のメールを出し,翌日の19日に大学事務局に電話し,質問にちゃんと答えるよう要請しました。20日に事務局長から「明日中に回答します」と連絡があり,21日(木曜)にセンター長から再度の回答がありました。要した期間,1週間です。

 それによると,「一部筆者が計算した箇所というのは,表の右端にある『男子/女子』の倍率である。今回の問題について,学識経験者等の意見も聴いて検討していたので,返答が遅れてしまった。本文でブログに触れ,引用文献に記載しているにしても,表のデータは舞田先生が作成されたもので,出典表記を略すのは不適切という結論に至った」ということです。

 筆者が一部計算したというのは,ジェンダー差の倍率を出しただけのことで,私が計算した県別・性別大学進学率をクレジット表記なく使ったこと,それは不適切であることを認めてきました(当然ですが)。

 私は,①筆者の直筆の謝罪文を送ること,②今回の件を大学ホームページで告知すること,の2点を要求しました。後者の告知は,翌日の22日(金曜)になされました。リンクを貼っておきます。
https://www.nayoro.ac.jp/organization/crecc/nenpo/teisei-owabi.html


 大坂祐二の謝罪文も先ほど届きました。自身の非を率直に認め,研究者としての未熟を恥じ,今後は十分に注意するという内容で,反省の念は伝わってきました。

 本文でブログ記事について言及し,引用文献にも載せていた。つい気が抜けて,統計表の下に出典表記を入れるのを怠ってしまった…。まあ,悪意はなかったとみなしておきます。

 厳しい人なら,論文取り下げ等を要求するのかもしれませんが,そこまでは求めないこととしましょう。


********************

 ただ,この大坂祐二という人は研究者失格のように思います。他人が汗水流して作った統計表を転載し,出典表記を怠るなどは言語道断です。文科省ガイドラインにしたがえば,れっきとした盗用。こういう人が学生の卒論等の指導をしているのかと思うと,暗澹たる気分になります。

 私の質問への回答に時間がかかった理由が,「学識経験者等の意見を聴いていたから」というのも気になります。自分たちでは問題の性質について判断しかねるので,外部の専門家の意見も聴いていた,ということでしょうか。

 その結果,「表のデータは舞田先生が作成されたもので,一部改変したとはいえ,出典表記を略すのは不適切という結論に至った」とのことですが,そんなのは当たり前です。他人の成果物を,適切な表記なく使うのは「盗用」(文科省ガイドライン)。こういうことも知らぬ人が,学生の論文指導をする資格があるのかどうか…。

 大坂祐二の問題の論文(実践報告という位置づけ)をみると,内容が陳腐である感が否めません。公的資料に載っているデータやグラフをそのまま使っているようで,大学進学率の県別データは私のブログの丸パクリ。地域格差についての考察も,私がブログに書いているのを,ほぼなぞっているだけ。大学進学率の地域格差の先行研究にも触れていません。厳しい言い方ですが,学生の卒論レベルです。

 査読ナシなんでこのレベルでも紀要に載り,業績としてカウントされ,一応は研究者としての職務を果たしていると見なされる。それで(高い)給与をもらえ,大学に居続けることができる…。

 まあ最近は,査読なしの紀要は採用や昇進に際して評価されないのですがね。私の母校に,50代半ばの某准教授がいます。毎年せっせと紀要に書いていますが,やはり教授昇進の材料としては全く評価されないようです。

 ちなみに大坂祐二の業績を調べてみると,博士号なし,全国レベルの学会誌論文なし,単著なしです。こんな「三なし」が,公立大学によく採用されたもんだと思います。おまけに教授昇進までしているのですから,開いた口がふさがりません。この大学の採用・昇進の基準はどうなっているのでしょうか。

 優秀であっても,底辺私大で死ぬような思いをしている研究者はわんさといます。そういう人からすれば,こんな人が公立大学でぬくぬくとしているは我慢ならないでしょう。私に告発の情報提供をくれたのは,こういう人なのかもしれません。

 文科省は大学にカネを出すを嫌がっていますが,今回のような案件に出くわすと,その姿勢を支持したくなったりもします。

 *今回の事件の経緯は,ツイッターのスレッドでも記録しています。リアルタイムで,私の感情も出ています。スレッド機能,便利ですよね。
https://twitter.com/tmaita77/status/1194103345469906945