まだオレは終わっていない―。そんなメッセージが伝わってきた。柔道の東京五輪選考会を兼ねた11月23日のグランドスラム大阪。男子73キロ級決勝では2017年世界選手権金の橋本壮市に、ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪で66キロ級2大会連続銅の海老沼匡が相対していた。代表争いで最有力の大野将平を追う橋本に対し、29歳の海老沼は階級を上げてから優勝がない。大方の予想は橋本優位だった。
同じパーク24に所属する2人の決戦は、延長で海老沼が執念の抑え込みで橋本を破った。海老沼は「なかなか勝てず、今回は泥くさくても優勝したかった」と感極まった。特別な対戦でもあった。「橋本は強化選手じゃないところからパークに入ってきて、僕を慕ってくれて、しつこいくらい『きょう何やりますか』と。強くなるという思いが伝わってきた」。弟子のような橋本との真っ向勝負がうれしかった。
背負い投げを軸にする海老沼の攻撃柔道は必ずと言っていいほど名勝負を紡ぎ出すが、近年はここ一番で勝ちきれなかった。いつしか代表レースでは大野や橋本に後れを取った。海老沼は「『いい試合』は聞き飽きた」とこぼす。橋本戦には、勝負師としての再生も懸かっていた。
「夢とか目標ってあきらめるのは簡単。やっぱり東京五輪が最後かなと思っている。代表入りの可能性はほぼないと思うけど、決まらない限り、そこに向けて突っ走りたい」。今大会の優勝で「最後」と表現する東京五輪へ望みを残した。柔道家としての最終章を、海老沼はどう彩るのか。 (木村尚公)