望まぬ邂逅
「ちょっと、十羽! もうちょっと自信持って歩きなさいよ! そんなキョロキョロして歩いてたら周りに不審がられるじゃない!」
現在十羽達は、王城シンフォステラの中を歩いている。リオンはいかにも育ちがよさそうな白いレースのワンピースに膝下まである茶色のブーツは履いて、後ろには紫色のローブを深くかぶった見るからに不審人物のように見える十羽を従えている。
「だっておかしいだろ! 俺は今お前の侍女っていう設定なのにこんな怪しい格好して……そもそも他の侍女達はこんな格好してないじゃないか。」
先程からすれ違う侍女は可愛らしいメイド服を着ているのだが、王城を出るまで目立つ訳にはいけないということだったのでリオンから渡されたローブを着ているのだ。だがそのローブがいかにも胡散臭い魔術師のようなローブで悪目立ちしているのだ。
「ぐだぐだうるさい!とっとと城の裏手まで行けばそんなローブ直ぐ脱いでいいわよ!だから今は我慢しなさい」
「わかったよ、それはそうと脱走なんて、正門から大手を振っていってきまーすじゃダメなのか?」
「それができるなら最初からしてるわよ! バカ! さっさと協力者の元へ向かうわよ!」
なぜこんなこそこそと王城の外にでていかねならないのか。それはリオンが王女なので、いつ野垂れ死ぬかもわからない冒険など許されるわけもないというありふれた理由であった。要するにおてんばお姫様が我儘で城の外に出ようとしているのに付き合うことになったということである。
「でもまあ思いきったよなあ、こんなでかい城に住んでるのにワザワザ危険溢れる冒険に身を投じようなんてさ。そりゃワクワクするだろうが。なかなか行動に移せるもんじゃないだろ。」
「こんなお城であばあちゃんになるまでただ生きるなんてまっぴらごめんよ!不自由はしないかもしれないけど、自由ではないの。」
「なるほどねぇ。」
「それに私、蔵書室で呼んだ本の中にでてきた世界中の場所を目で見てみたいの。王女なんかやってたら死ぬまで見れないだろうしね。」
目を輝かせながら言うリオン。
「じゃあ目的地は決まってるのか?」
「……」
「リオン?」
「当たり前でしょ!!目的地どころかいつどこでどんな宿に泊まるかまでも決まってるから心配しなくていいわよ。」
うわ〜絶対嘘だと心の中で思いつつも、あえて突っ込むのはやめた。また暴行を加えられたらたまったものではない。そして十羽は今までずっも気になっていたことを聞いてみることにした。
「あと聞きたかったんだけど、俺と一緒にいた金髪の男はどうなったんだ?向こうの世界で気絶でもしてるのか?」
「あ〜彼ね、彼なら……」
とリオンが説明を始めようとしたとき前方から何人もの人の足音が聞こえた。
「十羽は少し静かにしてなさい。何があっても私の後ろで黙って突っ立ってるのよ!」
小声で催促してくるリオンに十羽は頷くしかなかった。前方からくるのは5人の集団だった。前方には女性と横には鎧を着た騎士が二人、女性を守るように一歩後ろに下がってきて付いている。後ろの二人は鎧が邪魔でよく見えない。そして、その前方の集団はリオンと十羽の前まできて停止した。前方にいる女性は肌は雪のように白く、紫に輝く髪が気品を醸し出している。そしてまるで作り物のように整った美貌。しかしその顔はどことなく見覚えがあった。そしてその理由はすぐに判明した。
「リオン、異世界への旅ご苦労でしたね。この度のあなたの活躍はお父様も認めていますよ」
綺麗だけど、どこか悲しさというか、冷たさが宿った声。
「お褒めの言葉ありがたく頂戴いたします。ミオンお姉様」
リオンの返答に納得がいった十羽。確かに二人の雰囲気は違うが恐ろしく美形であるということと、顔の作りが似ている。
「これでシンフォステラも掟壊武器の探査に乗り出せます。よろしく頼みますよ。駆、舞香。」
(!?!?)
駆はその言葉に耳を疑った。しかし、残念なことに空耳ではなかったようだ。ミオンの横からずっとでてきたのは見覚えのある金髪頭だった。そして後ろには舞香と言われていたメンヘラ女がおどおどして立っている。
「お前か、俺たちをこの世界に飛ばしたって奴は。」
「そうよ。なんか文句でもある?」
金髪ヤンキーの高圧的な態度に押される様子もなく返答するリオン。
「あぁ? 調子乗ってんじゃねえよ? 女のくせしやがって。まあいい。お前に聞きたいことがあんだよ。俺と一緒にいた黒髪の男どこいった?」
十羽の額に汗が浮かぶ。ここで騒ぎになったらどうなるのか予想もつかない。ここはリオンに任せるしかないとダンマリを決め込むことにした。
「彼はこの世界には来てないわ。ヒョロくて弱そうだったしね。この世界は強い人を求めてるの。だからあなたを呼んだ。無許可で連れてきたことは謝罪するわ。ごめんなさい。」
「こっちには来てないだと……チッ、ぶっ殺すって決めたのによお」
「ウフフ、駆は元気がよろしいのね。リオン、私達はこれから紋章授与の儀に向かうわ。それではまたね。」
ミオンが話を切り上げて、リオンと十羽の横を通り過ぎようとした。すると、
「おい、そこの紫フード。お前怪しすぎるだろ。ツラ見せろ」
駆が食ってかかってきた。
(まずいまずいまずい。てか見るからに怪しいしそりゃツッコむよな。俺だってこんな奴がいたら気になるし。そんな場合じゃない。バレたら駆のことだそこの騎士の剣を引き抜いて殺しにかかってくるかもしれない。)
そんなことを考えているあいだに、駆が目の前まで迫っていた。手を伸ばしフードに手をかけようとする。リオンも予想外といった様子で冷や汗をかいている。
(ああ、もう知らないぞ)
十羽が心の中で念じた。自分はどうやって身を守ろうかとい考え出し始めたとき、
「駆、おやめなさい。」
ミオンがそれを制止した。
「そのローブは、顔を傷つけた侍女達の印なのです。それを無理やり剥がそうなど、異世界からの冒険者様がすることではありません。」
今までより厳しい雰囲気のミオンに押されたのか。駆も舌打ちをしながら引き下がった。
あ、危なかった。心の中で安堵する十羽。
「では、リオン。旅立ちのときにまた会いましょう。それと、随分大きい侍女ね。」
そう言い残してミオンと駆達は通路の奥に消えていった。十羽がリオンを見やると、神経をすり減らした様子で壁に手をついて休んでいた。
それからは特に何事もなく通路を通り抜けて、城の裏口に辿りつくことができた。そしてそこで待っていたのは、長身で金髪長い金髪が目を惹くイケメンと、馬の体に鷲の顔と翼を持った生き物、十羽達の世界でいう神話の生き物、ヒッポグリフだった。