真プロローグ
ここは王城シンフォステラにある、王族のみが知る地下へと続く通路の最奥地『封武の間』だ。地下とは思えないくらいに大きい石造りの空間には柱が立ち並び、柱には松明の代わりに青い魔力を帯びた魔炎が不気味に周辺を照らしている。
そして部屋の中央にある禍々しい黒い台座の上では、つい先程まで十羽のお仲間だったはずの青年が目を血眼にしながら半狂乱、とうに正気など失った様子で奇声を上げ、右手に持った鎖状の武器を荒れ狂う暴風のようにうならせている。その武器の威力は凄まじく、石の柱を削り取り、粉砕していく。鎖が巻き起こす風圧で体は軋み、立っているので精一杯だ。擦っただけでも痛いじゃ済まないのは明白である。
「ちょっと十羽! あんた何とかしなさいよ! 私達このままだとあの鎖に巻き込まれてひき肉にされちゃうわよ!! それでも男なわけ~!?!?!? ねえええええええ!!」
十羽の胸ぐらを掴み、戦闘力皆無の十羽にあまりに無茶な要求をするのはシンフォステラ王国第二王女、リオン・シンフォステラ、十羽をこの場所に連れてきた張本人である。
「むむむ無茶言うな! あれは王家がずっと封印してきた伝説の武器なんだろ!? こんなそこらの武器やで売ってるような剣で勝てるわけないだろ!? 」
十羽はつい昨日までは日本で暮らすただの高校生だった。剣術の心得などあるはずがない。仮にあったとしても目の前の伝説の武器を持った男をどうこうできるわけがないのだ。なぜなら今半狂乱で十羽達を殺しにかかっている男は、その武器でこの部屋を守っていた聖騎士を一瞬でミキサーにかけられたかのようにミンチにしたのだ。聖騎士にすら手も足も出なかった十羽達に勝機など露ほどもあるはずがない。
半狂乱の男が手に持っているのは、シンフォステラ王国地下迷宮の最奥に封じられた伝説の武器。ゲームに出てくるような聖剣のような神々しさはなく、漆黒の柄には刀身の代わりに鎖が繋がれており、その鎖の先にひし形のクナイのようなものが取り付けられている。全体が魔力を帯びているようで、禍々しく薄紫に怪しく発光している。
「あれじゃあ伝説の武器じゃなくて、呪われた武器、呪いの武器じゃねえかああああああ!!」
一歩ずつ、確実に死が十羽達に近づいてくる。粉々になった石の柱が頬を擦ってそのことを実感させる。もはや諦め、停止しつつある思考の中で何故昨日まで平和な……とは言い難いが今の状況に比べたら確実に安全な高校生活を送っていた自分がこんなことになっているのか、十羽は悠長にここまでの道のり思い出し始めた。