誰も書かないであろうもの。
まあ、括りとしては、オリジナル主人公物に分類されるのでしょうが。
俺の名前は、
職業はなんとあの宇宙刑事だ!
·····なんて言ってみたかったなぁ。皆がどんな反応をするか見てみたかったよ。そもそもこの西暦2138年の世界で、宇宙刑事をどれくらいの人が知っているかって話だよな。
何しろ宇宙刑事シリーズが放送されていたのは、1980年代だ。今から150年以上前だぜ。そりゃ知られていないよなぁ。まあ、俺が宇宙刑事というのは冗談で、俺は昔日本で流行った特撮ヒーロー物が大好きなだけの男にすぎない。
特撮ヒーローと一口に言っても、赤青黄桃緑の五人組戦隊物や、ベルトで変身するバイク乗り系、宇宙から来たシュワッとした巨大変身ヒーローなど色々と種類がある。俺はどれも楽しめる派だが、その中で俺が一番のお気に入りが宇宙刑事シリーズだ。
子供の頃偶然映像を見て以来、漠然と"いつかは宇宙刑事になりたい"などと思っていたが、結果は宇宙刑事どころか刑事にすらなれず、何となく守る側に位置する警備員になるのがせいぜいだったのだが。
ちなみに警備員は、死亡リスクが高い分、学がない俺でもそこそこに稼げる仕事だったりする。まあ、多少マシという程度に過ぎないけど。
そんな俺だが、実はちょっとした楽しみがあった。それはユグドラシルという中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台にした、大人気を誇った自由度の高さが売りのDMMO-RPGを楽しむ事だ。
ん? ファンタジーと特撮に何の関係があるかって?
説明しよう。まず、俺は人気のピークを過ぎたあとからゲームを始めた所謂"後発組プレイヤー"だ。
ゲーム自体はかなり前から知っていたが、そんなのがあって人気なのか·····くらいの認識だった。
俺が興味を持つきっかけとなったのは、ヴァルキュリアの失墜とかいう大型アップデートだ。
このアップデートにより色々とデータが追加されたそうだが、その中に元からいたプレイヤーからは忌避された追加データがいくつかあった。ファンタジー世界に似合わないからというのが主な理由だそうだが、そのひとつに特撮もののデータがあることを知ったことで、俺は遅ればせながらユグドラシルを始めたのだ。
全盛期を知らない俺はレアなプレイヤーかもしれない。それでも毎日インしては、コツコツと頑張ってきた。そんなユグドラシルは俺が始めて以降衰退の一途を辿っていた。実際には俺が始めた頃にはピークを過ぎていたのだから、その前からなのだろう。プレイヤー数は右肩下がりで減っていった。それも時の流れだろう。サービス開始から十年持ったのだから上出来だと思う。
そして、気がつけば俺が所属しているギルドもログインしているのは俺一人になっていた。他の連中と話したのはどれくらい前だっただろうか。いつの間にかギルドマスターを押し付けられていたが、俺はギルドを続ける気はなかった。ハッキリ言って愛着はない。成り行きで参加しただけであり、いつ解散させてもよかったのだが、結局解散してはいない。
何故かと言えば、俺自身が作成した100レベルNPC──名前はミクルという──俺はミクルにだけは思い入れがあったので、解散させることはできなかったのだ。
ミクルは女性のNPCだ。まあ、だいたいわかるだろうが、まあ、あれだよ。少々恥ずかしい話だが、全力で俺好みに作ったからだ。顔も体型もそして性格すらも。現実では絶対に手に入らない理想の女性。せめてゲームの中でくらいはいいだろ? と全力で創り上げた。
それに鳥型に変身できる美女アシスタントは宇宙刑事には必要だろう? って知らないか。
「ミクルともお別れになってしまうのか。本当はミクルを連れて一緒に冒険に出たかったのだけど、結局叶わぬ夢だったか」
ユグドラシルというゲームにおいてNPCはギルド拠点防衛用に配置するもので、連れ出すことは出来ない設定だった。もしかしたらアップデートで変わるかもしれないと淡い期待をしていたが、最後まで変わらないままゲームはサービス最終日を迎えてしまった。
もう一度言っておくが、俺はこのギルドに未練はないし、愛着もない。愛着があるのはミクルに対してだけだ。そもそも所属ギルドの名前すら忘れているのだから程度が知れるな。何というギルド名だったか? 前のギルマスが何と言う名前だったかも忘れた。
「そろそろ時間か。ミクル、君を連れて冒険したかった。いつかまた君に会えると嬉しい」
俺はもう一度ミクルを見る。黒髪のポニテールを赤いリボンでまとめている。ちょい切れ長の目。その瞳はやや茶色がかっている。唇は小さめで薄いピンク。やばいな。何度見ても·····どストライクだわ。胸元に大きめのフリルのついた白いシャツに白いズボン。赤いジャケットを羽織っている。
何度抱きしめたいと思っただろうか。まあ、ゲームの規約に違反する事になるし、そもそも俺はそんな破廉恥な事はできないシャイボーイだ。まあ、ボーイって歳ではないがな。
俺は時計を見る。あと、十秒くらいか。
「あばよ、ミクル。あばよ、ユグドラシル。よろしく明日」
俺は右手の人差し指と中指を合わせて自分の額に当てると、ワイパーのように動かして愛するNPCと、ユグドラシルに別れを告げ、目を閉じた。
00:00
目を閉じたままの俺は、不意に体に風が当たる気配を感じる。
ふー。風が心地良いな。
あれ? 俺は窓を開けっ放しにしていたか? ·····いや、そんなはずは無い。今の日本で窓を開けっ放しなどにできるはずもない。ガスマスクをつけないと表を歩くことすら出来ないほど、大気は汚染されているのだから。窓は外の様子を眺めるためだけにある飾りのようなものだ。
そろそろ宇宙移民とか考えた方がよいのではないかと、SFや特撮などにありがちなことを考えてしまう。コロニーの方がマシか、それとも火星か。たいていトラブルに巻き込まれそうなものだが。この広い宇宙にはバード星はあるのかな。
さて、この風は何かと目を開くと森の入口といったような場所にいた。ここはどこか? と考えようとしたところで、風が獣の臭いを運んできた。
ん、臭い?
「人間だ。人間がいるぞ」
「丸腰だ。食っちまえ」
そんな声とともに狼男が六体現れた。どうやらまだゲームの中なのか? 確か電脳法で嗅覚は制限されていたはずだが、解禁になったのだろうか。それにしてもギルド拠点とは違う場所に飛ばすとは。最後の日までクソ運営だな。だいたいサービス終了時間は過ぎてるはずだぞ。
「チッ、いきなり襲ってくるとはPK集団か」
PKとはプレイヤー殺しの事。一般的なゲームでは嫌われる行為だが、ユグドラシルというゲームは、運営側が率先してPKを推奨している節があった。当然俺も襲われるのは初めてではない。
それに俺は確かに丸腰だが、宇宙刑事は最初は丸腰が当たり前。ちゃんと俺は素手格闘系のクラスは習得している。言っておくが、丸腰でも強いんだぜ? ここは素手勝負だ。
俺は黒い革製のオープンフィンガーグローブを着けた拳を握りしめる。相手のレベルがわからないが、最高レベルが六人がかりだとしたら勝ち目はほぼない。だがせめて二人くらいは倒さないとな。
「爆、気をつけてください」
不意に優しい女性の声が俺の背中から聞こえる。初めて聞く声だが、俺には姿を見ずとも誰かはわかる。何故かはわからないが。
「ミクル、下がっていろ」
俺は腕を広げてミクルを守るように動く。確かにそこにいるのはミクルだ。なぜ拠点の外にいるのか、なぜ彼女が喋って動いているのか理解できないが、俺はミクルを守る。
「とあっ!」
俺は一番近くにいた狼男の腹部目掛けて、左回転してローリングソバット! 左足の裏で蹴り飛ばす! と思ったら、蹴った腹部がだるま落としみたいに体からぽんと飛んでいき、上半身がストンと下半身に落ちてきた。何これ、エグいな。
「イーッ!」
奇声を発しながら爪で襲いかかってくる狼男。俺はひらりと躱して拳を振るう。
「弱っ!」
パンチ一発で顔面が弾けた。リアルな手の感触が気持ち悪い。
「イーッ!」
残りの四人の遅い攻撃を俺は余裕で躱して、カウンター気味に拳を振るい、足を綺麗に伸ばした顔面蹴りなどで一撃で粉砕していく。
「弱っ·····」
意気込んで襲ってきたのに、あっさりと全滅してしまった。
「貴様、よくも俺の部下を」
こんどは虎男が現れた。どうやらボスと思われる。虎を従える狼がイメージにないだけだが。
「貴様がボスか。いきなり襲ってきやがって」
「人間ごときが俺様達に逆らう気か。まあお前はあんまり美味そうじゃないが、後ろの奴は美味そうだな」
おいおい。まさか喰うつもりか? 完全に無理だろ。プレイヤーをプレイヤーが殺すPKは許されているが、喰うとか無理だし。まあ、獣人のロールプレイなんだろう。
「ミクルとこの世界の平和は俺が守る!」
小っ恥ずかしい台詞を吐いたが、まあ正義の味方なんだから仕方ない。ここは変身して戦うかとコンソールを操作しようとするが、出てこない。かわりに俺の脳に変身プロセスが流れ込んでくる。なんだ、仕様変更? それともバグか?
少なくともこのバトルが終わるまでに改善はされなそうだ。
「装着!」
一度しゃがむような体勢から天に拳を突き上げ、俺は装着コードを唱えた。直後俺の体を眩い光が包み、あっという間に
『説明しよう。宇宙刑事トリガーこと百目城爆が装着コードを唱えるとわずか0.07秒でコンバットスーツが転送されるのだ。·····ではその装着プロセスを最初から見てみよう』
本来ならこのようなナレーションが入るところだが、もちろん入らない。
代わりに説明しよう。これは外装データを早着替えに入れているだけだ。
だが、瞬時にこの姿になれることは変身と変わらないだろう? この黄金色のコンバットスーツ。ファンタジー世界に近未来的なデザインのスーツそりゃ、既存のプレイヤーに忌避されるよな。まあ、黄金のフルプレートといえなくもないか。無理やりだけど。
「な、なんだ貴様は。いきなり姿を変えるとは貴様
「魔法? 貴様は何を言っているのだ。俺は宇宙刑事トリガーだ。ビースの怪人め俺が退治してやろう」
ビーストだからビース。ああ、俺にネーミングセンスはないよ。
「レーザーブレード」
俺は剣を取り出し、左手で下から刀身をなぞるように動かした。
剣は青白い光を放ち始める。これこそが宇宙刑事の必須アイテムであるレーザーブレードだ。俺の装備品で
所詮は後発プレイヤーだから大したものは持っていない。
「殺す!」
虎男は鋭い爪で切りかかってくるが、遅い。
「よっ、ほっ、とっ、ぬんっ!」
俺は全て余裕で回避する。こいつが一味のボスだと思うのだが、よくこんな動きでPKしようなどと思ったよな。
「遅すぎる。こいつレベルいくつだよ」
俺は素直な疑問を口にする。もちろん回答など求めていない。
「トリガー、その虎頭のビーストマンのレベルは12です」
ミクルが非常に耳障りの良い声で教えてくれた。そういや、アシスタントとして相手のサーチをするスキルとか持たせてたっけ。
「12だと? 本当かよ」
「トリガー、間違いないです」
12レベルなど、ちょっと強いゴブリン程度の相手だ。こんなレベルのプレイヤーがまだいたのか。それでPKとか頭悪すぎる。
「くそっ、ちょこまかと」
「おい、よけないでやるから全力で来いよ」
俺はミクルのデータを信じる。12レベルなど俺の相手ではない。一応後発とはいえ俺のレベルは最高レベルの100なのだから。
「後悔しろ! 死ぬえっ!」
奴はやはり爪で切り裂きにきたが、コンバットスーツに弾かれて爪が砕けただけだった。
「ぐああああっ! 貴様何をしたっ!」
「なにもしていないさ。お前の爪が柔らかすぎただけだろ。もういいよ。トドメをさしてやる。トリガービッグバンアターック!」
俺は右上から袈裟掛けに斬り、根元で剣を返して左上へとVの形に斬って捨てた。特撮ではないが古いアニメからインスピレーションを得た斬り方だ。昔の作品には味がある。夢がある。
そして虎男は爆発し四散する。これは剣に仕込んだ特殊効果だ。やはり爆発しないと特撮ぽくないからな。
俺はミクルへと近づいていく。なぜミクルが動き喋っているかはわからないが、話ができるなら話すべきだろう。コンバットスーツを解除し元の姿に戻る。
「お疲れ様、爆」
やはり設定通りなんだな。ミクルの設定文に俺はこう書いていた。変身中はトリガーと呼び、普段は爆と呼ぶと。
「ああ。たいしたことないさ。それにしてもミクルは何故話している? それにここはどこだ?」
「私にも詳しいことはわかりません。データにない世界だということはわかります。私は爆、貴方とずっとお話がしたかったので、こうやって話せて嬉しいです。爆は嬉しくありませんか?」
いや嬉しいけどさ、戸惑いがね。
「嬉しくないわけないだろ。だが色々分からないことがあるが、ここはユグドラシルではないって理解すればよいのかな?」
「そうですね。地図もみえませんし、間違いなく違う場所ではないかと思います」
俺のサポート役であるミクルがそういうのなら、間違いないのだろう。しかし、風が吹くとミクルからふわっと香る良い香り。これがゲームではないと教えてくれているようだ。
「それじゃ、わかるようになるまでミクル、冒険に行こうか」
「はい。行きましょう、爆」
どうやら知らない土地にゲームのアバターのまま飛ばされたという事らしい。帰る手段とかあるのだろうか。
色々とわからないことだらけだが、ミクルと冒険に出たいという夢は叶うようだ。
俺たちの冒険が今始まった。
レベル差は、ヒーローをより強く見せる。
海外のヒーローは、"黒と緑"で書いたから、ここは日本のヒーローを書いてみました。
主人公の百目城爆は、一条寺烈、十文字撃、と初代、二代目のギャバンが来たので、次は百だろうと。
色が金色なのは百に合わせました。肩に百とか暁とは書いてないですが。