モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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08. モモンガ、バハルス帝国に所属する(後編)

 

―偽ナザリック地下大墳墓 第??階層― 玉座の間

 

 ジルクニフたちはユリに薦められるがままに大きな扉をくぐった。

 そこで見た景色はジルクニフにとっても、フールーダにとっても、誰もが初めて見る景色だった。

 

 黄金の装飾を施した深紅の絨毯の左右には、見た事のない紋章を掲げた数十体の死の騎士(デス・ナイト)が並んでいた。

 その死の騎士(デス・ナイト)達も、外で見た者とは風貌が違う。

 鎧は全身鎧になっていて、フルフェイスのヘルムはアンデッドの恐ろしい顔を隠している。

 盾も綺麗に磨かれて、マントもボロボロではなく新品のような綺麗さだ。

 所々見える骨が無ければ、高貴な黒騎士と言っても差し支えないほどの。

 

(この騎士たちは死の騎士(デス・ナイト)の上位種なのだろうか?)

 

 一糸乱れぬ姿で整列をする死の騎士(デス・ナイト)達の姿に圧倒されつつも歩みを進めると。

 死の騎士(デス・ナイト)の首元には大きなドッグタグが装備されていた。

 ジルクニフがそれを見ると――――

 

 

 ――――死の騎士(デス・ナイト)01――――

 

 

 と書かれていた。

 ペットの名札みたいで吹き出しそうになったのをジルクニフは理性で押し留める。

 

 先へ進むと目の前には十段程ある階段、そして最上段には空位の玉座。

 左右に視線を向けると、最上段から一段下に角と黒い羽根を携えた爆乳の女性。

 もう一段下には、赤いスーツを着た明らかに悪魔の男。その隣に青白い甲殻を持つ蟲人、そして黒いスーツの老人。

 反対側には双子らしきダークエルフ、そして赤いドレスを身に纏った年齢には不相応な巨乳の少女。

 

(先ほどのメイドといい、目の前に居る二人の女性といい。モモンガというマジックキャスターは巨乳が好きなのか?)

 

 アインズ・ウール・ゴウンの仲間達の趣味から、あらぬ誤解を受けるモモンガ。

 

「ようこそ御出で下さいました、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下。

 わたくしはモモンガ様の秘書をさせて頂いておりますアルベドと申します。」

 

 余計な事を考えてしまった瞬間にジルクニフはアルベドに機先を制されてしまう。

 もちろん、これもデミウルゴスたちの計算の上でだが。

 

「突然の訪問失礼する。私はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。

 バハルス帝国の皇帝をやっている。

 本日はモモンガ殿を帝国に招きたくこちらに参った。モモンガ殿はご在宅かな?」

 

「はい。モモンガ様は皇帝陛下の到着を待ち侘びておられました。

 モモンガ様、皇帝陛下がお着きになられました。」

 

 アルベドがそういうと、アルベド、デミウルゴス、アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティア、セバスと死の騎士(デス・ナイト)は一斉にモモンガが入ってくる予定の箇所に向き直る。そして――――

 

「それではモモンガ様、お入り下さい。」

 

(悪魔の男も蟲の人も直立不動でモモンガの入場を待っているな。彼らもモモンガの配下なのだろうか?)

 

 見かけ上はそうとしか見えないが、何せ人間ではないのだ。自分たちの常識に当て嵌めるのは早計だとジルクニフは思考を巡らす。

 そして、モモンガが入ってくるであろう方向を見つめた。

 

 

 

(―――――なっっ!!!!!???)

 

 

 

――――――――

 

【モモンガ視点】

 

 俺は舞台袖から踏み出し、玉座を目指してゆっくりと落ち着いて歩みを進める。

 余裕を持って優雅に、何度も自室で練習した歩き方で。

 皇帝ジルクニフの顔は見ない。見ると緊張するからだ。

 

 練習通りに歩みを進めて玉座までたどり着く。

 

(よし、Step1クリア!)

 

 ふっわとローブを靡かせて前を向き、そして座る。

 そこで初めて皇帝の顔を見る。

 

(Step2クリア! ――――え? なんで驚いたような、驚愕したような顔?)

 

 うっかり怪訝な表情をしてしまい、しまったと表情を引き締め直す。

 

(あぶない、あぶない。俺はこんなに役に立ちますよって、自分を売り込む大切なプレゼンだ。こういう表情一つで評価も変わってしまうものだ。)

 

 俺は心の中で胸を撫で下ろす。

 

(結構やれるもんだな。もっと緊張するかと思ったけど――――)

 

 そこで自分が全く緊張してない事に気が付く。

 そして、緊張してない理由は――――

 

 

 

(しまった――――!!!! 死の支配者(オーバーロード)のまま出てきちゃった!!??)

 

 

 

 精神安定が何度も強制的に発動して、テンパった頭がドンドンドンドン冷えていく。

 

(失敗を反省するのは後だ! 先ずは人間にならないと!)

 

「ウオッホン!!!」

 

 俺はわざと大げさに咳をしてバハルス帝国の人達をビックリさせる事を試みた。

 上手い事成功したみたいで、皇帝やフールーダ、後ろの騎士さん達はビクリと身体を震わせる。

 そして瞬きをした瞬間を見計らって。

 

魔法無詠唱化(サイレントマジック)完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)

 

 運よく速度重視の戦士職に再構成されて、目にも留まらぬ速さで【人化の指輪】を装着する。

 

(よし!何とか人の姿になれた。ここを誤魔化す方法は――――)

 

 バハルス帝国の人たちは先ほどの光景が夢だったのかと思ってくれたのか

 鳩が豆鉄砲を喰らった様に呆気に取られていた。

 

「如何でしたかな? 陛下はサプライズがお好きな様なので、こちらも余興を催させて頂きました。お気に召したでしょうか?」

 

(よし!これで幻術か何かと勘違いしてくれるはずだ!)

 

 

「なるほど、これは一本取られたようだ。」

 

 真っ先に冷静さを取り戻したであろう皇帝が不敵な顔で笑う。

 すると、帝国の騎士達も安心した様に息をついた。

 

(よし、後は皇帝の質問に対しては「なるほど」と頷いて、内政絡みならアルベド、外交絡みならデミウルゴスに話を振ればいい。)

 

 

 

――――――――

 

(ど、どういうことだ……!!)

 

 ジルクニフは顔には冷静さを貼り付けるが、内心は混乱の境地に達していた。

 

(幻術とは言ったが、私の【精神防御のネックレス】は幻術を無効化するはずだ。

 ならば先ほどのアンデッドの姿は本物! だが――――!)

 

 今の人間の姿も本物。ジルクニフの目に映るモモンガという男の姿がそれを証明している。

 

(どういうことだ! 私の装備を凌ぐだけの強力な幻術なのか!? 爺より高位のマジックキャスターなのだ、ありえないとは言い切れない……!)

 

 いくつもの想定が浮かんでは消えていく。

 どれも信用するには決め手が欠けて、これだ!というアイデアには至らない。

 

(爺は知っていたのか?)

 

 ほんの僅か目の端をフールーダに向けると彼は大きな驚きと、はしゃぎ出しそうな程の歓喜の目だった。

 その表情から察するに以前から知っていたとは考え難い。

 

(とするならば、フールーダは白か。

 決め付けるのは早いが、それよりも情報を得なければ答えなど出ない。)

 

 

 

「私もサプライズは好きな方だが、受ける側に回るとなかなかどうして。」

 

「お気に召して頂けたようで何よりです。」

 

 互いに不敵な笑みを浮かべているが、ジルクニフは警戒心をモモンガは安堵を心の内に抱えていた。

 そして、お互いの自己紹介と配下の紹介をした後、ジルクニフが先手を打つ。

 

 

「早速本題に入りたい所だが、その前にいくつか質問したい事があるのだ。いいかな?モモンガ殿。」

 

「ええ、構いませんよ。」

 

 モモンガとしては(アルベド達の)シナリオ通りの展開だ。

 

「デミウルゴス殿と言ったかな?

 彼は如何見ても悪魔のようだがどういう経緯でモモンガ殿と行動を共にしているのかな?」

 

 ジルクニフから見れば、デミウルゴスがモモンガの配下である保障はない。

 仲間とも配下とも取れるニュアンスで質問を投げかける。

 

「デミウルゴスは皇帝陛下の仰る通り悪魔です。

 随分昔のことですが、彼は魔神としてこのあたりでヤンチャをしていましてね。

 私が彼と戦い降したのですよ。

 デミウルゴスの名前もそのとき彼に与えたのです。」

 

「ほぅ……!魔神だったのか。もしかしたら古代の文献に遺っているかも知れない。

 よろしければ、以前のお名前を聞いても?」

 

 ジルクニフの質問に対してデミウルゴスは困ったように笑う。

 

「申し訳御座いません。当時は世間知らずでして若気の至りでした。

 あの頃の事は自分の心の奥にしまっておきたいのです。

 ご無礼かもしれませんが、何卒よろしくお願いします。」

 

 深々と頭を下げるデミウルゴスを見ては思考を巡らす。

 

(デミウルゴスという魔神は随分礼儀正しいヤツだな。

 悪魔というのは大抵不遜な態度を取るものだが、これもモモンガが支配しているからなのだろうか?)

 

 魔神にもピンからキリまでいる。

 200年前の十三英雄の戦いでは数多くの魔神が倒されている。

 それに近年では蟲の魔神を蒼の薔薇が倒したともジルクニフは聞いている。

 フールーダより強者なのであれば、魔神を下すことも不可能ではないとジルクニフは判断した。

 

(モモンガがアンデッドであればグルの可能性もあるが、とりあえずは納得しておこう)

 

 

「そうか、ならば仕方ない。

 ではもう1つ、そちらのコキュートスという彼はどの様な経緯で?」

 

 明らかに怪しいデミウルゴス、コキュートス、アルベドの3人は何らかの情報を得ておかないとモモンガを勧誘すべきかの判断材料に出来ない。

 

「彼はアゼルリシア山脈で武者修行をしていた蟲人でしてね。勧誘させて貰ったのですよ。

 陛下のお膝元、闘技場にいる武王と似た様なものです。」

 

「モモンガ様ノ下デアレバ、自ラノ能力ヲ更ニ高メル事ガ出来キルト判断シ、モモンガ様ニ付キ従ウ事ヲ決メタノデス。」

 

 コキュートスの話を聞いたジルクニフは――――

 

(思ったより普通の受け答えだな。まぁ、優秀な者の下に優秀な者が集うのは当たり前の事だ。

 自慢ではないが自分も優れたものである事は自覚しているし、フールーダは言わずもがなだ。

 コキュートスという者は中身はしっかりしているようだ。見た目で判断してはいけないな)

 

 バハルス帝国にも闘技場のチャンピオンとしてトロールの武王が存在する。

 確かに事実として存在する者を例えにされると意外と納得してしまうものだ。

 

 

「なるほど、ありがとう。

 最後だがモモンガ殿の秘書であるアルベド殿は悪魔とお見受けするが?」

 

 モモンガの頭脳であるデミウルゴスとアルベド二人が悪魔であれば、モモンガがアンデッドであれ人間であれ、騙されている可能性も出てくる。

 

「彼女の角と羽根はマジックアイテムでして。

 アルベド、頭の角を外してくれないか?」

 

「はい、モモンガ様」

 

 そういうとアルベドは何事もなく頭の角を取り外した。

 

(マジックアイテムだったのか。不思議な形をしたマジックアイテムというのは数多くある。

 アルベドは秘書だから手厚く装備を与えているのか?)

 

 ジルクニフがそう考えていると、モモンガが話を切り出す。

 

「皇帝陛下、このマジックアイテムは【精神攻撃に対する完全防御】を持ちます。

 よろしければアルベドに装備させておきたいのですが、もう宜しいでしょうか?」

 

「あ、あぁ……すまないな。もう大丈夫だ」

 

 精神攻撃に対して備えるのは確かに必要だ。

 ジルクニフは自身がその恩恵に与っているので、モモンガはアルベドの身を案じたのだと安易に推測できる。

 デミウルゴスは悪魔ゆえに精神攻撃に対して先天的な耐性を持っているのだろうとジルクニフは予測する。

 

「羽根の方は衣服を脱がないと取り外す事が出来ないので、ご容赦頂けると助かるのですが。」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

 モモンガの言葉にジルクニフは頷く。

 念のためとも思うが、この場で女性に脱げという選択肢を取るほどジルクニフは愚かではない。

 

 

 

(さて、一通り聞いたが。特に違和感があるところは無かったな。

 上手く繋がっているのが不自然とも取れるが、何もやましい所が無いのならそれも当然だ。

 それに、余り疑いすぎても余の狭量さが疑われる。)

 

 本題の勧誘に入る前にジルクニフは状況を整理する。

 モモンガのアンデッドの姿を見て、本当に勧誘するのが正しいのか判断に困ったのだ。

 

(先ず、モモンガがアンデッドか人間か。何故両方の姿を見せたのか?

 アンデッドであるならば、人間の姿のみ見せるべきだ。

 敢えて見せるメリットとデメリットは?)

 

・人間である場合、何故アンデッドの姿を見せたか?

メリット:私を欺くほどの幻術を行使できる力を示す

デメリット:私が警戒心を持つ

 

・アンデッドである場合、何故アンデッドの姿も見せたか?

メリット:????

デメリット:私が警戒心を持つ

 

(くそ、メリットが全く見えてこない。将来的に姿を曝す事があっても、少なくとも今ではないはずだ。

 今までのやりとりから、モモンガがそれすら考えられない愚か者とは到底思えない。)

 

 

 ジルクニフが悩むのも無理はない。

 モモンガは単純に失敗しただけなのだから。いわばファンブルだ。

 ジルクニフはモモンガを知者として評価しているため、モモンガが失敗したとは微塵にも思ってないのだ。

 

 モモンガがアンデットか否かを考える時間に取られすぎて、ジルクニフは本題に入るためのタイムリミットがドンドン削られていく。

 少なくとも黙ったまま会話を先に進めないのは相手に不信感を与えるだけでメリットは何も無い。

 

 数秒の思考ではあったが、それが致命的な時間でもある。

 

(駄目だ。把握できない事が多過ぎで頭が回らん!

 これ以上引き伸ばすことも不可能だ。今ある情報からモモンガを帝国に勧誘すべきか判断せねばならん。)

 

 

分岐条件は2つ

1.モモンガは人間orアンデッド

2.モモンガが帝国に所属する。他国に所属する。

(※この場合、竜王国or王国に行くと仮定する)

 

 

(ケース1、モモンガ人かつ帝国に所属する。

 この場合、知者でありかつ、フールーダクラスのマジックキャスターと死の騎士(デス・ナイト)の部隊が帝国の戦力となる。

 ここに居る7人は未知数ゆえに計算に入れない。

 正直願っても無いチャンスだ。国力増強は当たり前で、モモンガを護りに置けばフールーダを前線のサポートにも回せる。

 何より、エ・ランテルがモモンガ領になり王国・法国・竜王国と国境を接する。

 帝国は国家連合へと戦線を絞れるため総力戦を7軍まで引き上げられる。

 それにアンデッドやゴーレムによる経済効果も計り知れない。

 メリットを上げればキリがないな。)

 

 国土も増えるし国力も増える。ジルクニフにとっていい事尽くめだ。

 だから自ら足を運んで此処まできた。

 

(ケース2、モモンガがアンデッドで帝国に所属する。

 メリットに関してはケース1とさして差はない。モモンガが理知的なのは言うまでもないからだ。

 デメリットが問題で最悪の条件を考えると帝国が死の都と化す。沈黙都市ではなく沈黙国家となるな。

 さらに法国が感づいた時に宣戦布告される恐れがある。)

 

 ケース2はかなり危険な綱渡りだ。

 アンデッドの思考など読めないとジルクニフは考えている。

 

(ケース3、モモンガがアンデッドで他国に所属する。

 メリットは沈黙国家となるのが幾分か遅くなる。当たり前だ、竜王国や王国にモモンガを止められるはずが無い。

 隣国が死の都となれば、次はバハルス帝国だろう。

 デメリットはフールーダがバハルス帝国から消える。爺の性格だ、アンデッドと知って尚モモンガについて行くだろう。

 オマケに呪いを解かれたレイナースも消えるかも知れんな。

 王国・竜王国どちらについてもバハルス帝国の未来はない。

 フールーダ一人で帝国軍全軍を抑えられるのだ。前衛に死の騎士(デス・ナイト)が数体付くだけで終わりだ。

 

 法国と共闘してもバハルス帝国は上記の通りフールーダで手一杯だ。

 法国が残り全部を相手取れるほど強力とは思えん。2国纏めて死の都だろう。

 国力に圧倒的差があるならば、とっくに周辺国家を束ねててもいいはずだ。)

 

 ジルクニフは番外席次、第一席次を知らないため国力差がそこまであるとは思っていない。

 

(さらにケース2ではモモンガは一応臣下であるが故にある程度の行動はつかめる。

 だがケース3ではどのように動くかすら全くつかめなくなる。

 モモンガに尻尾を振れば、バハルス帝国だけでも死の都にならなくて住む可能性があるだけケース2の方がマシだ。

 ケース3の場合、一度勧誘をやめたのだ。尻尾を振るにも遅すぎる。)

 

 ジルクニフはケース2であれば、一定量の生贄と引き換えに国の体裁を保てるかもしれないと懐柔策を考える。

 

(ケース4、ケース1、モモンガが人かつ他国に所属する。

 考えるだけ時間無駄だ。それを選ぶ位なら、私は後継者の育成に力を入れて退位の準備をすべきだ)

 

 ジルクニフは数秒で考えた結果を纏める

 

ケース1(人間、帝国):◎

ケース2(不死、帝国):▲

ケース3(不死、他国):×

ケース4(人間、他国):××

 

 

(なるほどな、最早勧誘するという選択肢しか残されていないわけだ。

 どちらであれ完全にモモンガの手の内という事か。)

 

 ジルクニフは選択肢があるようでなかった事を察し覚悟を決めた。

 

(いいだろう!

 余はバハルス皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ!

 清濁併せて飲み干してみせようではないか!!)

 

 

「モモンガ殿、単刀直入に言おう。

 フールーダから聞いた領土についての件、(うけたまわ)った。

 今年の戦争で勝利し、貴公をエ・ランテル領領主および、トブ領領領主、アゼルリシア領領主、カッツェ領領主として封じよう。」

 

「おぉ!真に有難う御座います、皇帝陛下。

 微力ではありますがバハルス帝国の末席として必ずや陛下のお役に立つことを約束しましょう!」

 

 

 モモンガはジルクニフの悩みなど露知らず、単純に喜ぶだけだった。

 

 

「ありがとうモモンガ殿。詳しい話はアルベド殿とデミウルゴス殿に任せた方がいいかな?」

 

「えぇ。それでお願いします。」

 

「ロウネ、任せるぞ。」

 

 

 

 目玉の話が終了すると、モモンガは玉座から立ち上がり会談を一歩ずつ降りていく。

 デミウルゴス達知者も、モモンガの行動を読めず見守っているだけだ。

 そしてジルクニフの元までたどり着き――――

 

「皇帝陛下。今後ともよろしくお願い致します。」

 

 そういってモモンガは手を差し出す。

 

(偉い人の会談の後って握手するよね! きっと必要なことなんだよ)

 

 ハバルス帝国や王国ではアンブッシュを警戒して握手などはしない。

 というより、平和ではないこの世界で握手するほうが稀なのだが、モモンガの意図を察したジルクニフは応対する。

 

「あぁ、帝国の発展に尽力してくれ。

 それと、これからはジルと呼んでくれ。」

 

 愛称で呼ぶことで少しでも親近感を与える腹づもりだ。

 モモンガが人間、アンデッドどちらであったとしても有効な手であると。

 そう思い、モモンガと握手をすると――――

 

(――――!!!!

 温かい!? 血が通った人の手だ!)

 

 幻術の類も考えたが、防御を突破してここまで騙せるのであれば如何あがいても自分が看破する事は不可能。

 人であるという自分の直感をジルクニフは信じる。

 

 モモンガは握手が出来て、本当に無事終了したという安心感に包まれた。

 そして、ジルと呼んでくれというジルクニフに好印象を与えられた事に安堵した。

 

(よかった。陛下はサプライズが好きなのかな? 失敗したと思ったけど、結果的に成功したのかな?)

 

 見当違いも甚だしいが、結果だけは見事に一致している。

 

「ありがとうございます陛下。時が熟しましたら、そうお呼びさせて頂きます。」

 

 モモンガとしては結果を出してから呼ぶようにしますという思惑。

 ジルクニフは自身の思惑通り、時と場を弁えて私用でのみジルと呼ばせて貰うという解釈で受け取った。

 見事にすれ違う二人だが、結果だけ一致する離れ業を披露した。

 

 

 そうして、ジルクニフは胃が痛くなる思いをしつつ会談は無事終了した。

 

 

 

 




こんな大げさに書いたけど、全部ジルの思い過ごしです。
普通にケース1で話は進みますよ。

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