黒崎の独り言

猫は本当に美しく気高い生き物でございます。

見る者を魅了し、誰に媚びることなく、環境に依存することなく、

孤高の人生を・・・猫生を送っております。



私も、猫のように生きたかった。

自分の居場所など、自分一人分のスペースさえあれば満足。

誰に媚びずとも愛され、誰からも憎まれぬ存在。

環境が脅かされれば、より良い環境を求めて放浪する。

そんな猫生が・・・人生が送れたら、どんなに楽でどんなに幸せでしょうか。



しかし神は私に猫としての生を与えてはくれなかった。

人間として生を受けた以上、社会に依存せねば生きてゆけません。

そして厄介なことに、人間にしかない欲求をも課せられた。



マズローの欲求階層説で申しますところの、

「所属と愛の欲求」

自分の帰りを待ってくれる居場所がほしい。

誰かに認められ、存在意義を見出したい。

誰かに愛されたい。



私はこの欲求から逃げ続けておりました。

満たされることがないと、気づいてしまったのです。

なぜなら、満たされたことが一度もありませんから。

そして、満たされることなどこれからもないのであろうと・・・

だから、逃げておりました。



自分は猫でいい。

一人分の居場所で生きていくと決めていた。

もうあきらめておりました。

それでも良いと、前向きに生きようと歩み出すことも出来始めてきました。



なのに、このお屋敷に来てからどうでしょう。

私が茫然自失になれば、使用人の先輩方が我が事のように励ましてくださる・・・

お嬢様の笑顔に触れれば、渇いた心が満ち満ちていく・・・



「きっとここなら・・・見つからなかった自分の居場所があるのかも知れない。」



お嬢様にお仕えしているひと時だけは、

「猫に生まれなくてよかったのかもしれない」

そう思えます。









柄にもなく心の内を漏らしてしまいました。


お嬢様や先輩方の優しさに触れ、

忘れかけていた幸せを掴もうと、

歩み出した一介の使用人の独り言。


お恥ずかしゅうございますから、

どうかお忘れくださいませ。



黒崎
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