春物語

穏やかな風、背中をじわりと温める日向、仄かに香る緑。


春でございますね。




ふと考えてみました。


かつて地球上の生物をあまねく絶滅に追いやった氷河期が、

再びこの現代に襲いかかり、

すべての光、すべての命を閉ざす氷の世界になっていたとするならば...


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「春」


もはや伝説じみたものとなった。

世界に二度と春は来ない。

幾年待とうとも、朗らかな春の日差しを頬いっぱいに受ける日は来ない。

作物の育たぬ不毛の地。

凍てつく風はすべての生命をかっさらっていく。

いつしか人々の目からは希望の光は消え、

この氷の世界と共に、命の灯火が消えゆくのを待っていた。




春などという言葉の意味すら失われ、

この永久に不変で、普遍な世界に訪れたある日の朝。

朝といっても、光のささぬこの世界において朝夕の区別などどうでもよいことだが...

しかし、その日だけは違った。

瞼の裏がやけに明るい。

頬に当たる優しく暖かな光。

全身をかけめぐる血液が、

眠りについた体を無理矢理覚まさせる。

眩しい。

しかし、電球から放たれる刺々しい光の眩しさではない。

優しく包み込んでくれるような柔らかな光が、

凍てついた体と心をじんわりと溶かしていく。

その光は世界一面を照らし、一斉に命が芽吹き出す。

いつしか世界からは絶望の色は消えていた。

これが…「春」


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このような妄想ばかりしていると、

毎年当たり前の様に来る春にも、

私一人だけ、一際喜びを感じております。


何世紀ぶりかの様にやってきた春ならば、

お嬢様も花粉への苛立ちも少しはお許しいただけるのではないでしょうか。


なんて....


そんな妄想で花粉への怒りが和らぐはずもございませんよね。


申し訳ございません。

生まれてこの方花粉症に悩まされたことのない私の、

出過ぎた妄言でございました。



黒崎
Filed under: 黒崎 — 20:30