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 今回、香港島の中西区からはThomas Uruma(日本名:賣間囯信)さんという以前HSBCのプライベートバンキングのマネージャーだった日本人の方が立候補している。香港メディア「蘋果日報」のインタビューに「流ちょうな広東語」で答えたそうだ。彼は「民主、自由、法治のために投票してほしい」と呼びかけている。オランダ系で民主派である司馬文(ZIMMERMAN Paulus Johannes)さんは中国国籍に帰化しているものの、2015年の区議会選挙では建制派に2倍弱の差をつけて当選している。

 大学生でありながら立候補している人もいる。以前、香港大学の学生会で外務秘書だった梁晃維(Fergus Leung)さんは私より1つ年下の1997年生まれで、中西区から立候補している。警察と抗議者の大規模な衝突があった香港理工大学の学生で、まだ21歳の陸梓峂さんも沙田区から立候補している。

香港理工大学の学生でまだ21歳の陸梓峂さんも立候補

抗議活動の今後を左右

 言うまでもなく、今回の区議会選挙は抗議活動の動向から大きな影響を受けるだろう。私が聞いている限りでは、「香港中文大学での抗議活動は警察の突入がなかったのにもかかわらず、一部の抗議者が爆弾の製造や車両への放火など過激な行動に出たことで有権者の民主派への反感を生じさせた」という声は少なくない。一方、その後起きた香港理工大学での抗議活動では、抗議者よりも警察の強硬な姿勢の方が目立ち、再び中間層も含めた政府・警察批判が強まり、また民主派が有利になったように思える。ただ従来は民主派に投票していたが、今回の香港の混乱を終わらせるために、思想的には民主派でも、あえて建制派に投票するという声もちらほら聞くので、結果はそう単純ではないかもしれない。

「香港IDを持っているからといって香港人を意味するわけではない」。ここでは、投票などで行動しない香港人は香港人ではないという意味だろう。香港理工大学にて

 香港の問題について、国際社会からできることは少ないだろう。中国政府は、香港に関する問題は中国の内政であると繰り返し述べ、海外からの干渉を拒絶している。そのため、人権問題として働きかけるほかはない。米議会は上院と下院で、香港での人権尊重や民主主義を支援する「香港人権・民主主義法案」を可決した。英BBC放送(電子版)は20日、香港の英国総領事館に勤務していた香港人の男性(29)が8月に中国で身柄を一時拘束された際、拷問されたと報じている。

 しかし国際社会は、この選挙が抗議活動を反映するだけではなく、これからの香港に影響することを理解する必要がある。民主派が今回の選挙で勝利したとしても、抗議活動は終わらないどころかむしろ過激化する可能性もあるということだ。民主派は勢いづいて政府への圧力を強めるかもしれないが、結局は立法などで直接的な影響力を政府に行使することはできない。建制派が大敗北をすれば、建制派の中での責任問題が発生するだろう。現状でさえ政府をコントロールできていない建制派はさらなる混乱に陥り、誰も香港をコントロールできないという状況が長期化してしまうことが懸念される。

 一方で可能性は非常に低いが、民主派が勝利せず建制派が現状程度の議席数を確保すれば、建制派や政府は「このままでいいのだ」という認識を持ちかねず、それが政府にさらなる強硬策を取らせることになるかもしれない。どちらが勝利してもさらなる混乱しか予想されないわけだ。最悪のケースは、一部報道で林鄭月娥行政長官が検討しているとされる区議会議員選挙が中止される場合に予想される混乱だ。

 いずれにせよこの区議会選挙の結果は、今後の抗議活動やそれに対する香港政府の対応に大きな影響を与えることになる。だからこそ、香港だけではなく世界がこの選挙の行方を注視している。