“ほぼ完璧”なアップルの「AirPods Pro」にも、重箱の隅をつつくべき点はある:製品レヴュー

変わらぬ人気が続いているアップルのワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」。ノイズキャンセリングの性能や音質、装着感などのバランスが高次元であり、確かに高い評価も納得の製品だろう。しかし、それでも重箱の隅をつつくべき点は存在している──。『WIRED』UK版によるレヴュー

AirPods Pro

PHOTOGRAPH BY APPLE

実はこのようなレヴューはあまり書きたくない。「このような」というのは、過剰に好意的なレヴューという意味である。好意的に見えるレヴューを書くと、有名企業の言いなりになっていると受け取られかねないからだ。しかし、「Apple Watch」が抱えるあらゆる問題の改善に徹底的に取り組んだばかりのアップルは、ワイヤレスイヤフォン「AirPods」でも同じ方法で同じことをやってのけた。

今年3月に発売された「AirPods」の第2世代モデルを評価したとき、多くの欠点を指摘している。そのレヴューではデザインを酷評し、耳栓のようなタイプのカナル型イヤフォンではないという事実、そしてスポーツジムのお供としてあるまじき不安定なフィット感、信頼性に欠けるタップ操作、そして最後に(いちばん重要な)ノイズキャンセリング機能が付いていない点を指摘した。

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問題は、アップルが「AirPods Pro」の開発によって、これらすべての問題を解決してしまったことだ。ある製品の前のヴァージョンについて指摘したほぼすべての欠点にメーカーが対処してしまった場合、評価者としては称賛するしかやることがなくなる。ということで、書いたのが以下のレヴューである。

改善されたデザイン、極めて快適なイヤーチップ

旧型のAirPodsのデザインは気に入らなかった。イヤフォンの形、特に長い軸が、すべての技術を明らかに小さいサイズに詰め込む必要性から生まれたものであることは火を見るより明らかだった。

それでも選択の余地があるとすれば、あれほど長い物が耳から垂れ下がることを誰が望むだろうか。AirPodsを好んで見せびらかす人々は長い軸が気に入ったのかもしれないが、実際あれは妥協の産物を絵に描いたようなものだった。

新しいAirPods Proの軸はほぼ1cmほど旧型より短く、その効果はてきめんである。旧型ではイヤフォンを付けていることが一目瞭然だったが、新型は耳から出ている軸が顔の輪郭にうまくフィットしている。違和感はない。いい感じであると言ってもいい。すべての機能を詰め込まなければならないという制約がない状態で、デザイナーがデザインしたように見える。

AirPods Pro

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ほかの大きな変更点は、AirPods Proではワンサイズのイヤフォンという考え方を捨てて、3つのサイズを揃えた交換可能なシリコーンのイヤーチップを採用したことだ。もちろんノイズキャンセリングにはイヤーチップが欠かせないが、カナル型イヤフォンにするといくつかの技術的な問題が生じる。しかし、アップルはそれらの問題も解決した。

イヤーチップを外すとき、まさに外れてほしくないタイミングでチップが飛んでいってしまうことはよくある。だが、AirPods Proでアップルは、チップが本体に溶接されているかのような固定メカニズムを考案した。別のサイズを試すためにチップを取り外そうとしたとき、チップが引き裂けるかと思ったほどだ。アップルがどうやってこれを実現したのかはわからないが、この解決策を思いついた人物は何らかの勲章に値する。

チップを耳に入れると密閉状態によって吸引力が生じ、外耳道に圧力がかかるため、不快感を覚えることもある。この問題に対処するため、AirPods Proでは圧力を均等にする通気方式を採用しており、不快な吸引力が最小限に抑えられる。これがうまく機能している。いままで装着したなかで最も快適なイヤーチップと言っていい。

原点回帰して生まれたデザイン

旧型より大きいAirPods Proのヘッド部分は細長くなっており、耳にフィットする形状になっている。このため、かさばりが目立たなくなっている。このサイズをかさばりと呼べるかどうかは別の話だが。この新しいサイズと形状を採用した結果、短く幅広なケースはこれまでよりもずんぐりしたものになると思っていたが、実際はまったく問題ない。

端的に言えば、新デザインは旧モデルの単なる改良ではなく、アップルはスタート地点に立ち返って最初からつくり直したと言える。そして大成功を収めた。

イヤーチップのほかに生活防水(IPX4相当)に対応したことで耐汗耐水性能(IPX4規格)が加わり、AirPods Proはエクササイズ時の有用性も格段に向上した。ランニング、ジャンピングジャック、腹筋、腕立て伏せ、フリーウェイトでのトレーニングを行ってみたが、まったく問題はなかった。

運動時にこれだけの性能を発揮するとなれば、AirPods Proがフィットネス用のイヤフォンとして有効な選択肢のひとつになってくるのは間違いない。だが、Beatsのワイヤレスイヤフォン「Powerbeats Pro」の開発責任者がどう思っているのかは、気になるところだ。

トップクラスのノイズキャンセリング性能

バッテリーの駆動時間は、従来のAirPodsがノイズキャンセリングなしで5時間だった。これに対してAirPods Proは、ノイズキャンセリング稼働時で4.5時間とわずかに短くなっている。だが、充電ケースで追加充電すれば合計24時間以上の再生が可能で、緊急時には5分間充電すれば1時間の音楽再生や通話が可能だ。

バッテリー容量が減ったのは、当然ながらアクティヴノイズキャンセリングが追加された影響が大きい。だが、そのおかげでAirPods Proはソニーのワイヤレスイヤフォン「WF-1000XM3」などと肩を並べる性能を手に入れた。

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ノイズキャンセリングの際にAirPods Proは、2つのマイクでバックグラウンドノイズを除去している。外向きのマイクが外部音と環境ノイズを検知し、内向きのマイクが耳に聞こえる音を聞き取る。そしてノイズキャンセリングソフトウェアが、音声信号を1秒間に200回、調整する。

AirPods Proのノイズキャンセリング機能がすべてのヘッドフォンやイヤフォンのなかで最高とまでは言わないが、ユニットのサイズを考えればトップクラスの製品と肩を並べられるほど高性能であることは確かだ。また、ノイズキャンセリングイヤフォンの一部で見られるようなヒスノイズや金属音などが、一切ないのもありがたい。

AirPods Pro

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素晴らしい音質

外部音取り込みモードは、いまやノイズキャンセリングイヤフォンに必須とも言える機能だが、こちらもしっかり機能している。この機能はノイズキャンセリング機能を抑えて外部の音を取り込むことができる。圧力を均一にする優れた通気孔システムとソフトウェアの調整により、若干のノイズキャンセリングを維持し続けるものだ。

これは駅や空港で人の話やアナウンスを聞くための機能だが、しっかり機能するかと聞かれれば、答えはイエスだ。不気味なほど自然に聞こえるのかと言えば、その答えはノーだろう。 電車内で反対側の席にいる人が、自分の隣に座って話しているように聞こえることがときおりあった。それでも歓迎したい機能であり、便利である。

それ以外にも、ほかのAirPodsとのオーディオ共有やSiriの利用といった非常に役立つ機能もあるが、みなさんは音質のことを知りたいのではないだろうか。実際のところ、音質は素晴らしい。アップルが開発したアダプティヴイコライゼーションは耳の形に合わせて自動で低域と中域を調整し、ハイダイナミックレンジのカスタムアンプと高偏位で歪みの少ないスピーカードライヴァーが、20Hzまでの低音を生み出す。

ミーターズの「Just Kissed My Baby」の最初の30秒を聴けば、AirPods Proの高域、中域、低域がいかに優れているかわかるだろう。だが最も感動したのは各音域のバランスで、ヴォーカルと各楽器が互いをつぶし合うようなことが一切ない。

ピーター・ガブリエルのアルバム『Secret World Live』のように壮大で低音に深みがある場合は、さすがのAirPods Proもよさを発揮できないのではないかと思われるかもしれないが、そんなことはない。ポッドキャストや詩の朗読なども同じようにいい音で聞くことができる。

向上した操作性

アップルは、これまでのAirPodsで採用していたマルチタップシステムによる操作を廃止し、両軸に感圧センサーを搭載した。アクティヴノイズキャンセリングと外部音取り込みモードの切り替えは、この感圧センサーで行う。トラックの操作についてはセンサー1回押しで再生、一時停止、着信への応答。2回押しで曲送り、3回押しで曲戻しができる。

誤操作が多かったタップシステムを廃止したのは正解だ。感圧センサーによる操作はより直感的で確実になっており、従来のものよりも改善している。それでもタップ式のインターフェースほどではないにせよ、誤操作が起きることはある。

また、つまむという動作は、耳の横をタップするほど大げさには見えないのも優れた点だ。大半の人は、着信を受けたり曲を飛ばしたりしているのではなく、イヤフォンの位置を直しているだけだと思うだろう。それにApple Watchがあれば、イヤフォンをつまんだりすることなく、オーディオの操作、ノイズキャンセリングと外部音取り込みモードの切り替え、ノイズキャンセリング機能の完全オン・オフの切り替えができる。

こうした技術的な特性を支えているのは、従来のモデルにも採用されてきたアップル製のカスタムチップ「H1」である。このため、特によくなった点はなくとも、従来のAirPodsと同じく安定したBluetooth接続と素速いペアリングが可能だ。これはAirPods Proにも受け継がれてしかるべき点だったと言える。

AirPods Pro

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価格差以上の価値

では、AirPods Proは完璧なイヤフォンなのか? ほぼ完璧だ。

ここからは重箱の隅をつついていかねばならない。例えば、新型のケースは従来のものより幅が広くなったからか、若干ゆるくなっており、いつもの高水準とは言えないだろう。

イヤーチップ装着状態テストは、適切なサイズのイヤーチップを使用しているか、正しく着用されているのかをiPhoneが教えてくれる優れた機能である。だが、アップルが考えているほどのものには仕上がっていない。

実際に試してみたところ、SサイズとMサイズ両方のチップで緑のライトが点灯し、どちらがよりフィットしているのかは教えてくれなかった。アップルはこの機能のために世界中から数千人の耳をスキャンしたというが、この点は期待していたほどではなかった。

ノイズキャンセリングは非常に優秀だが、ほかのヘッドフォンやイヤフォンでは可能なノイズキャンセリングレヴェルの手動での調節ができないのは残念だった。また、AirPods Proのバッテリーはいまだに交換不可能なので、いずれ充電できなくなったら廃棄しなければならない。これはまったくエコフレンドリーとは言えないし、250ユーロ(日本では27,800円)という価格を考えれば、財布にも優しくない。

こうした少数の欠点を指摘し終えたら、わたしたちが初代と第2世代のAirPodsについて気に入らなかった部分を、アップルは実質的にすべて改善してしまったことを認めざるを得ない。前世代モデルとは約50ユーロの価格差(日本では5,000円差)があるが、数々の明確な改良点は間違いなく価格差以上の価値をもたらしている。

アップルはよくやった。AirPods Proは、憎らしいほどいい製品だ。

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら

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トランプに抗うべく、新世代の“魔女”たちが立ち上がった

人々は、これまで長い間「魔術」というかたちで権力への抵抗運動を行なってきた。しかし、米国の現代史のなかで、魔術による抵抗が大いに盛んになった時期は2度しかない。1960年代、そして、現在だ。

TEXT BY EMMA GREY ELLIS
TRANSLATION BY KAREN YOSHIHARA/TRANNET

WIRED(US)

Inserting Straight Pin In Voodoo Doll

RAINER FUHRMANN/GETTY IMAGES

全米各地の魔術師同盟「Magic Resistance(魔術による抵抗運動)」のメンバーたちは、そのとき一様にタロットカード、羽根、オレンジ色と白色のロウソク、針、水、塩、マッチ、灰皿、そして米国のトランプ大統領のイケてない写真を並べていた。これらは「拘束の呪文」を唱える儀式に必須のアイテムだ。この呪文は多くの場合、「魔法の拘束衣」のごとく相手を呪縛し、自分やほかの者に危害を加えられないようにするために使われる。

呪縛の儀式では、まずオレンジ色のロウソク(小さなニンジンでも代用可)に、針で「Donald J. Trump」と名を刻み、それから呪文を声に出して読み上げる。オンラインプラットフォーム「Medium」に最初に投稿されたこの呪文の出だしはこうだ。

「水、火、土そして空気の精霊たちよ、天使よ、地獄の悪魔よ、先祖の魂よ、耳を傾けたまえ……ドナルド・J・トランプを拘束し、その悪行のすべてを水の泡にするのだ」

最後にトランプ大統領のイケてない写真に火をつけ、それに向かってこう唱える。「You’re Fired!(お前はクビだ!)」。

この呪縛の儀式が執り行われたのは10月25日の深夜のことで、今回で33回目である。17年2月24日以降、Magic Resistanceは逆三日月の夜に毎回この呪文を唱えてきた。儀式を執り行う魔女たちやオカルト信仰者たちによると、いずれも成功したのだという。

60年代のペンタゴンにかけられた「浮遊」の魔法

ヴェトナム戦争中の1967年、戦争に反対していた米国の青年国際党とその支持者である通称・イッピーたちが、ペンタゴンに悪魔払いと空中浮遊の魔法をかける必要があると判断した。

青年国際党は、ペンタゴンを地上300フィート(約90m)の高さまで浮遊させる許可を申請したが、規制当局からはほんの10フィート(約3m)までの許可しか出なかったという。同年10月、ある大規模な反戦デモ行進の一環として、デモ参加者のうち約35,000人がペンタゴンを取り囲もうとした。結局、その試みは警備隊により鎮圧され、逮捕者が出るにいたった。しかし、そんなことは大した問題ではない。

「ペンタゴンの浮遊は、軍事権力の神秘のヴェールを剥ぐ出来事になりました」と、悪魔払いを計画した当事者のひとりであるアレン・ギンズバーグは話す。「ペンタゴンは象徴的な意味で人々の心のなかで浮遊したのです」

魔法(とりわけ魔術)は何十年、いやおそらく何世紀にもわたり、抗議形態のひとつだった。しかし、抗議の魔法がメディアで大きく取り上げられて世間に広く認知されるに至ったのは、ここ最近で言えば1960年代と、トランプ政権下にある現在のたった2回だけである。

60年代にはイッピーたちのほかに、とんがり帽子をかぶって女性解放運動を展開する「Women’s International Terrorist Conspiracy from Hell(地獄から来た国際女性テロリスト陰謀団)」、略して「W.I.T.C.H.(魔女)」の存在もあった。しかし、『ニューヨーク・タイムズ』が最近指摘していたように、近ごろの米国はどこもかしこも魔女だらけのようにすら感じられる。

友人や同僚、カフェのバリスタのほかにも、魔除け用の水晶や魔法書を売るTumblrやInstagramのコミュニティ、Twitterで絵文字を使って呪文を唱える人々、さらには「わたしたちは火あぶりを逃れた魔女の孫娘だ」といったスローガンを書いたプラカードを掲げるデモ隊などもいる。

福音派キリスト教徒向けニュースサイトが魔術や悪魔崇拝の台頭を非難する一方で、Netflixやその他のスタジオは、ドラマ「サブリナ:ダークアドベンチャー」といった作品の成功に後押しされ、次々と魔女関連作品を積極投入中だ。さらにトランプ大統領はしょっちゅう、自分は「魔女狩り」の被害者だと主張している。新たなる魔女の時代だ。

魔女はいつの時代も存在していた

もちろん、魔術やウィッカ[編註:魔女の宗教の呼称]、オカルトといったものが、これまで完全に消え去っていたわけではない。ただ、社会における許容度に変動があったのだ。

サウジアラビアなど一部の国では、魔術はいまだに重罪とされ、ときには死刑に相当する罪とみなされる場合もある。19年4月には、雇用主のサウジアラビア人家族に対して魔術を用いた罪で死刑を宣告されていた元家政婦のインドネシア人2名が、10年間にわたる収監を経た末、インドネシア政府の介入でようやく減刑された。

一方、米国や英国などの文化は、「魔女に対して中立」あるいは「肯定」に傾いてきている。スコットランドでは、400年前に魔術を使ったとして処刑された女性たちのための追悼式を求める声が上がっている。オレゴン州ポートランドでは19年10月下旬、数百人もの魔女たちが、チャリティ活動としてウィラメット川をパドルボードで下っていた。一方、米国内の別のコミュニティでは、「自分は魔術を使う」と告白することは危険なことだと考えられている。

要するに、オカルトを利用した政治的駆け引きは、奇妙で複雑で地域性もあるが、ほぼ常に存在してきたのだ。これは理にかなった話である。というのも、魔術(そして魔女狩り)は、要は力を巡る問題だからだ。そして、いまはまさに多くの人々が自分を無力だと感じている時代なのである。

一部の人たちは、魔法の力を審美的なものとしてとらえている(Instagramで水晶を販売している人のほとんどは、周りの人に呪いをかけようとしているようには見えない)。だが、自分は正真正銘の魔術師だと心から信じている人々にとっても、自分の魔法が具体的にどのような力を発揮するのかを説明するのは容易なことではない。

呪文が世間の関心を動かした

ネット上で拡散された「トランプ大統領を拘束する呪文」を書いたマイケル・ヒューズは、自らを「マジシャン(奇術師)」と呼ぶ(あのデヴィッド・ブレイン的な奇術師という意味ではない)。

ヒューズは17年、オカルトに興味をもつ何人かの仲間に向けて、ふざけ半分でダイレクトな政治的メッセージが含まれるこの呪文を書いた。「世間の意識を向けさせるには、トランプ大統領自身やトランプ政権下の世界がそうなりつつあるように、奇妙で、超現実的で、突飛なものが必要だったのです」とヒューズは言う。

「わたしは『ウィメンズマーチ』や『マーチ・フォー・サイエンス(科学のための行進)』を見てきましたが、何万人もの人々がワシントンD.C.でデモ行進をしても、ほとんどニュースに取り上げられないんです。わたしたちがいる小さなソーシャルメディアの世界での抗議であれば、なおさらです」

ヒューズが投稿したこのささやかな魔術は、世間の関心を引きつけるうえで十分な奇妙さを備えていたようだ。ヒューズのもとには、たちまちメディアからの取材依頼が殺到した。

しかしヒューズによると、(基本的に人前に出たがらない)魔女たちをどうにかして映像にとらえようとするテレビ局に苦しめられたあまり、嘘をついてしまったという。「魔女たちはニューヨークのトランプ・タワーの外に集まって、呪縛の儀式を執り行う予定です」と。

だが、ヒューズがそう発言したことにより、嘘は現実となった。さらに、ヒューズが自作の拘束の呪文をライヴ配信した際には、60,000人もの人々が視聴した。それを受けて発足したFacebookグループ「Bind Trump(トランプを呪縛せよ)」では、全米ライフル協会(NRA)に呪いをかけたり、連邦最高裁判事ブレット・カヴァノーを呪縛したりという活動も行われてきた。「効果は確かに現れていると思いますよ」とヒューズは言う。

拘束呪文は、「自分のための悪魔祓い」

ヒューズは、ハリー・ポッターの拘束呪文「ペトリフィカス・トタルス」のごとく、自分の呪文によってトランプ大統領の手足を文字通り拘束できるとは思っていない。「わたしたちは自分の無力さを感じ、打ちのめされやすい状態にあります。こういった儀式は、自分自身のための悪魔払いのような意味をもつのです」とヒューズは言う。

これは議員に抗議の電話をかける代わりというよりも、抗議活動のための精神的な支えのようなものだというのが、ヒューズの意見だ。言ってみれば、試練のときにも前進し続け、信念を貫くためのひとつの方法なのだ。「進歩的な社会運動には、参加者の燃え尽きを防いだり、関心が薄れたりしないようにするために、精神的な側面が必要なのです」とヒューズは話す。

ヒューズは、自分や仲間たちの魔法が実際に功を奏していると感じている。ネット上のグループも、魔術師たちが成功の証拠とみなす現象に沸いている。「ワールドシリーズを観戦しに来たトランプ大統領にブーイングが起きたのは、呪縛の儀式から2日後だった。これは偶然? そうは思えない」と、グループメンバーのひとりは書いている。

トランプ大統領が発表していたユタ州のベアーズ・イヤーズ国定記念物の保護地域縮小に待ったがかかったことを、呪縛の効果を示す証拠だと考える者もいる。これによって「やった! トランプへの呪縛が効いた!」という書き込みもあった。

呪縛の儀式は本当に効果があったのだろうか? あのとき、ペンタゴンは浮遊したのだろうか? そんなことは、まったく重要ではないのかもしれない。

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