◎主人公とプレイヤーとのシンクロ
インフィニティという物語の主人公は『プレイヤー自身』です。
石原誠という別の名前を持った『プレイヤー自身』なのです。シナリオを書く上でも、
この『主人公とプレイヤーとのシンクロ』という点に、細心の注意を払いました。
1.主人公の行動は常に合理的でなければならない
プレイヤーに『俺はこんなことしないぞ!』とか『こんなこと言わないぞ!』とか、『俺だったらこうするのに!』とか『俺だったらこう言うのに!』とか、そういったイライラ感みたいなものは、極力抱かせないように注意しました。
2.主人公とプレイヤーの知識量を等価にしなければならない
『主人公は知っているのに、プレイヤーは知らない』といった状況や、逆に、『プレイヤーは知っているのに、主人公は知らない』といった状況は、出来る限り発生させないよう心がけました。
3.主人公に個性を与えてはならない
主人公を個性的に造形してしまうと、どうしてもプレイヤーとのギャップが出てきてしまいます。
この場合の個性とは、性格や、趣味趣向はもちろんのこと、主人公の過去、人間関係、家族構成、住所、身長、体重、容姿、誕生日など、とにかく、主人公のアイデンティティに関するありとあらゆる事柄を指しています。
例えば、主人公の過去――初恋の時期という出来事をひとつとっても、何万人かのプレイヤーがいれば、何万通りもの初恋の時期が存在する訳で、『石原誠の初恋=中学の時』という設定を作ってしまうと、そうでないプレイヤーにとっては、石原誠という人物は全くの別人、架空の存在として印象づけられてしまうことになります。
物語を読み進めていく間に、ほんの些細な事でも『あっ、俺は違うのに……』と思う瞬間が多ければ多いほど、その物語の主人公とプレイヤーとの距離感は、どんどんどんどんと広がっていってしまう……。
『あっ』と思ったその瞬間に、プレイヤーは現実の世界に引き戻されるのです。
すなわち――リアリティの喪失。
我々は、現実の世界を認識しない限り、架空の世界を架空のものとして認識することはできません。
多くの場合、夢が、夢から醒めなければ、夢だということに気づかないのと同じことです。
ですから、プレイヤーを架空の世界に閉じ込めておくために、主人公の個性はできるだけ曖昧にしておく必要があったのです。
我々スタッフは『主人公とプレイヤーとのシンクロ率』を高める為に、まず上のような3つの決まりを定めました。
もちろんこれらは、アドベンチャーゲームを作る上で必要不可欠な決まり、という訳ではありません。ある種のコダワリ……のようなものでしょうか。
とにかく、インフィニティのプロジェクトでは、上の3点を出来る限り守っていこうということになったのです。
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