おいでよ魔導国   作:うぞうむぞう

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公式人気投票で最下位を争っている(と思われる)彼を微力ながら応援しています。
地味な話ですが読んでいただければ幸いです。




帝国の騎士2

 灼けるような日射しが照り付け、空には雲ひとつない夏の日の朝。

 まだ人気の少ないエ・ランテルの大通りを冒険者風の男が歩いていた。

 

 全身鎧(フル・プレート)を身に着け、身の丈程のグレートソードを担ぐ、強者の風格を漂わせる厳めしい面貌の男。その男に睨まれれば誰もが目をそらさずにはいられないだろう。

 

 だが、それはかつてのエ・ランテルであればの話だ。

 エ・ランテルが魔導国に取り込まれて以来、伝説級のアンデッドたちに慣れ親しんでいる住人にとっては気に留める程のものでもないのだが――

 

 

 果物を店頭に並べていた店主はその男を見つけて声を掛けた。

 

「よぉ! バジウッドの旦那、こんな朝早くからダンジョンかい?」

 

「おう、これが仕事なんでね。それより今日も暑くなりそうだから、親父もぶっ倒れないように気を付けな」

 

 呼ばれた男――帝国四騎士の一人、『雷光』バジウッド・ペシュメル――は愛想よく返す。

 バジウッドは果物屋の親父と仲が良い。客と喧嘩していたところを仲裁に入った事があり、それからの付き合いだ。

 

「旦那こそ大怪我すんなよ! そうだ、これ一個持っていきな!」

 

 店主は店頭に並べていたリンゴをバジウッドに放った。

 

「ありがとよ。それじゃ、また後でな」

 

 親父に片手を挙げて別れを告げると、貰ったリンゴをかじりながら目的地――エ・ランテルの外に作られたダンジョンへ向かって歩き出す。

 

 

 しかし、数歩も行かないうちに隣の安宿から出てきた冒険者らしき男たちに呼び止められる。

 

「おはようございます! バジウッドさん、昨日はどうでした?」

 

 ――白金(プラチナ)級に上がったばかりの冒険者チームだ。魔導国からの給金があるため金には困っていないはずだが、安宿の狭い一室でメンバー五人が共同生活している。其のためか突出した奴はいないがチームワークはかなりのものだ。まだまだ成長するだろう。

 

「分かってて訊いてんだろ……うまくいってたらこんな朝早く起きてねぇよ。また九階層どまりさ」

 

 バジウッドは苦笑する。

 エ・ランテルの郊外に作られたダンジョンは十階層で構成されており、未だに踏破したものはいない。

 そのダンジョンの九階層に僅か一か月で辿り着いたのだが、それから一カ月経つというのに進展がないのだ。

 

「いやいや、九階層って凄いですよ! 他にはモックナックさんのところの『虹』だけなんですから。あ、もちろんダンジョン踏破の一番乗りは絶対バジウッドさんのとこだと思ってますけどね。それに――」

 

 ……話が長くなりそうだ。仲間を待たせていることを伝えて彼らに手を振った。

 

「先いくぜ。お前らも頑張んな」

 

 

 居住区を抜ける門の前まで来ると、門の脇で男の子が泣いているのが見えた。傍には門番のデス・ナイトが困ったように首を傾げながら立ち往生している。

 

「どうした、坊主?」

 

 理由を聞くと、どうやら親と一緒に買い物に来てはぐれたらしい。

 

「……仕方ねぇな、一緒に探してやるよ」

 

 そう言って男の子を片手で抱え上げると来た道を引き返し始めた。一瞬、彼を待っている仲間の顔――特にレイナースの冷ややかな眼差し――が脳裏をよぎったが放っては置けない。

 

「おーい! この子の親はいないか?」

 

 ダミ声ではあるがよく通る声を張り上げながら、人が増えてきた大通りを歩く。リンゴをくれた店の近くまで来たときにようやく母親が見つかった。

 

「本当にありがとうございました……バジウッドさん」

 

 バジウッドは少し考えたが、この母親のことは記憶にない。

 

「悪いがあんたの顔は覚えてねぇな」

 

 すると母親は可笑しそうに笑いながら応えた。

 

「この街でモモンさんとバジウッドさんの事を知らない人なんていませんよ」

 

 豪胆なバジウッドであるが、さすがにあの大英雄と並べられては気恥ずかしさを隠せなかった。

 そそくさと母親と子供に片手を挙げて別れを告げると、急いでダンジョンを目指した。

 その後も幾人もの人々に声を掛けられては律儀に手を挙げて挨拶を返していった。

 

 

 ――エ・ランテルに来てから二ヶ月。

 バジウッドはエ・ランテルという街にすっかり溶け込んでいた。

 

 エ・ランテルでは様々な種族――人間種、ゴブリンなどの亜人種、アンデッド――が混在しながらも、種族の違いによる差別もなく住民は生き生きしている。冒険者は未知への冒険という夢のために日夜励んでいる。

 当然、ここには帝国四騎士の肩書きを気にするものはいない。

 

 バジウッドはこの街と今の生活を気に入っていた。

 

 

 

 

 ――エ・ランテル郊外のダンジョン入り口。

 約束の時間から大分遅れてダンジョンの入り口に着くと、彼の仲間――『激風』ニンブルと『重爆』レイナース――が待っていた。

 ちらっとレイナースを横目で見る……仁王立ちだ。腕を組み微動だにしない。

 

(……レイナースの奴、メチャクチャ怒ってるな)

 

 とても話し掛けられる雰囲気ではなかったが、こうしていても時間は過ぎていくばかり。覚悟を決めると深く息を吸い込む。

 

「すまん!遅くなった!」

 

 踵を付けて深々と腰を曲げる――見事なお辞儀だ。バジウッドは帝国四騎士の筆頭、そして皇帝の側近でもある。だが、自分の非をきちんと認めて謝罪ができる男だ。

 そんな様子を見ていたニンブルが苦笑しながら話し掛けてくる。

 

「もう慣れましたからね、私は気にしてませ――」

「――いい加減にして欲しいですわ」

 

 レイナースは冷ややかな眼差しでバジウッドを睨んでいた。彼女の言葉に被せられたニンブルは瞠目して押し黙ってしまった。もはや援護は期待できない。

 

(これはマズイな……)

 

 瞬時に判断したバジウッドは行動に移す――

 

「すまなかった!」

 

 いろいろ試した結果、彼女の機嫌を宥めるにはこうするしかなった――即ち、ひたすら頭を下げる。間違っても容姿を誉めるようなことは言ってはいけない。

 

 彼女は三人の中でも特にダンジョン踏破に拘っていた。執念と言いかえても過言ではない。己に掛けられた呪いを解くためにダンジョンを踏破し、褒美として魔導王に呪いを解いてもらう――それが彼女の願い。つまり、怒るのは当たり前だ。

 

 矢継ぎ早に繰り出される彼女の苦情を受け止めながら、バジウッドはここに来た経緯を思い返していた。

 

 

――帝国の重鎮である彼らがエ・ランテルに滞在しているのには理由がある。

 二か月前、彼らの主人――バハルス帝国の皇帝ジルクニフ――から、ダンジョンを踏破するまで戻ってくるな、と申し付けられたのだ。

 

 その話を皇帝から笑顔で切り出されたときには理由を問い質そうと必死に詰め寄った。あの魔導王が作ったダンジョンを人間が踏破できるとは到底思えなかったから――正確には、非力な四騎士の解雇通達と考えたから。

 四騎士を鍛えるため、配置された敵もデス・ナイトより遥かに劣るものと聞いて、ようやく安堵してエ・ランテルにやってきたのだ。

 

 とはいえ、今まで四騎士でチームを組んだ経験はフールーダとの模擬戦で一時的に組んだくらいだ。

 ニンブルは良い奴だが、レイナース……正直、苦手な部類に入る。だが、チーム形成はリーダーの責務だ。陛下の期待に応えるため、チームとして難度の高いミッションを乗り越えなければならない。いや、乗り越えようと心に誓った。

 しかし……現実はなかなか思い通りにはいかないものだ。

 

 

――レイナースの苦情が止まった。

 頭を下げたまま上目遣いに彼女の様子を窺えば、まだまだ言い足りないといった表情だったが、彼女もこれ以上は意味が無いと分かっているのだろう。

 バジウッドは顔をあげると、コホンと咳払いした……気まずい。それでも言わなければならない。

 

「二人とも! 今日こそは十階層に到達しようぜ!」

 

 これが今の帝国四騎士の日常だった――

 

 

 

 

 ――ダンジョン九階層。

 ダンジョン入り口のログハウスに設定してある木枠のようなマジックアイテムの間を通り抜ければ目的の階層に移動できるようになっている。もちろん、移動が許されるのは自力で辿り着いた階層だけだが。

 

「昼間は街中にいるよりダンジョンの方が快適だな」

 

 魔法の明かりが灯されている薄暗い岩壁の通路を慎重に進んでいく。

 先頭を歩くのはバジウッドだ。彼は索敵や罠外しのスキルをこのダンジョンで習得していた。たとえ罠解除に失敗しても体力の高い彼ならば安心だ。

 来たばかりの頃、盗賊系スキルを持たない彼らはことごとく罠に引っ掛かり盗賊系スキルの重要さを痛感した。そして、魔法を使えないバジウッドが担当するのは自然の流れだった。

 何度も失敗しながらも短期間で盗賊系スキルを習得したのは感嘆に値するだろう。

 

 

「確かに、ダンジョンは涼しくて助かりますね。蒸し暑い中で肉が溶けかかったようなアンデッドと組み合いたくはありませんからね」

「むしろ踏破するまではダンジョンで生活したいくらいだわ。……バジウッド、もう少し早く進みなさいよ。日が暮れるわよ」

 

 バジウッドは苛立たし気なレイナースに向き直ると彼女をなだめる。

 

「分かってるって。だが、急いでもダンジョンに潜れるのは一日一回って決まってるだろう? 失敗しないように慎重に行こうぜ」

 

 厳つい面貌のバジウッドだが意外にも空気を読み、周りに対する気配りが上手かった。帝国で彼の帰りを待っている妻たちとの生活や皇帝の側近としての経験が活かされているのかもしれない。

 

 

 暫く進むと広間に出た。前回はここにボロボロの真紅のマントを羽織り、魔法のブレスト・プレートとラウンド・シールドを装備した骸骨戦士(ナザリック・エルダーガーダー)が二体いたはずだが……今回は見当たらない。

 カッツェ平野では何度か骸骨戦士を討伐したことがあるが、ここにいる骸骨戦士は魔法の武具を持つ上に剣の腕も比較にならない。

 それでもバジウッド達ならば、一対一なら武技や魔法を使わずともなんとか勝てる強さだ。

 

「こんな見晴らしの良いところに罠も無いでしょ? 進みますわ」

 

 バジウッドが広間の様子を慎重に窺っていると、レイナースが我慢しきれずに広間の中央を歩いていく。

 

「おいおい、ちょっと待って――」

 

 慌てて後を追うとレイナースが広間の中央に差し掛かろうというところで、天井に黒い穴が開きそこから二体の骸骨戦士が落ちてきた。狙いはレイナースだ。

 レイナースも一瞬遅れて気付いたようだが上空からの奇襲に対応しきれていない。

 

「させるかよっ!! <流水加速>、<神技一閃>」

 

 駆け寄りながらグレートソードを引き抜く、と同時に武技を発動する。閃光のような剣速で落下中の二体まとめて叩きつける。一体は壁際に吹き飛ばし、もう一体はそのまま地面に叩きつけた。

 

(――効いているようだが、まだ動くか!)

 

 壁際に吹き飛んだ一体にニンブルが駆け寄り、手にもつロングソードで追い討ちをかけていく。

 ニンブルは剣技において四騎士最強だ。まさしく激風の如くフェイントを混ぜながら上下左右に打ち込んで骸骨戦士を防戦一方に追い込んでいく。

 

 もう一体はレイナースが相手だ。手にもつハルバードの先端の斧で立ち上がろうとしている骸骨戦士の頭部を目掛けて振り降ろす――が、盾で防がれて魔法の武具同士の接触により激しい光が飛び散る。

 

 しかし、無防備になったその瞬間をバジウッドは見逃さない。狙いを定めると横払いで首を刎ねた。

 骸骨戦士は首を失ってなお戦闘を継続する意思を示すが、先程とは比べようもなく動きは緩慢だ。油断せずバラバラに砕いていった。

 

 ニンブルを見ると、彼も同じように骸骨戦士を砕いているところだった。

 

 

 

 

「……ごめんなさい。軽率でしたわ」

 

 珍しく殊勝なレイナースの態度に面喰い、ニンブルと顔を見合わせて苦笑いした。

 

「さすがに俺も肝を冷やしたぜ……こんな悪質な罠を仕掛けてくるなんてダンジョンの主は性格歪んで――」

 

 そのときニンブルが大きく咳払いすると声のトーンを落として話しかけてくる。

 

(聞かれてる可能性が高いですよ。会話には気を付けてください)

 

 迷宮の主を刺激して罠や敵を増やされたらたまったものではない。慎重なニンブルに感謝しつつ、自分もレイナースを刺激しないよう慎重に言葉を選ぶ。

 

「……まぁ、あれだ。俺も少し油断してたかもしれん。最初に吹っ飛ばせたから楽になったのは良かったな」

 

 レイナースは神官系の魔法も使えるため対アンデッドは得意分野だ。事実、彼女がいなければ九階層まで辿り着けなかったに違いない。

 だから、心のどこかでバジウッドを見下していたのだろう。それが今回彼女が招いた危機によって逆にチームの結束が高まったかもしれない。

 バジウッドはようやくチームになれたという手ごたえを感じた。

 

 

 その後もバジウッドは策敵スキルをフルに使ってダンジョンを慎重に進んでいく。何度も来た経験から敵に遭遇しないルートは分かっている。レイナースはもう文句を言ってこない。

――やがて九階層最奥の広間に到達した。

 

 広間の中央にいるのは今までの骸骨戦士とは格が違う、全身鎧(フル・プレート)に身を包んだ骸骨戦士(ナザリック・マスターガーダー)一体とエルダーリッチが二体だ。敵の数はメンバーの数に応じて増減するように設置されているのだが、そのことは冒険者には明かされていない。

 

「準備を始めてくれ」

 

 ここからが本番だ。

 ニンブルとレイナースは頷くと強化魔法を掛け始めた。

 

「<属性への抵抗(レジスト・エナジー)>、<聖別(コンセクレイト)>、――」

 

 バジウッドたちの幾度目かの挑戦が始まろうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

「おーい! バジウッドさん達が十階層に到達したってよ!!」

 

 十階層到達――この報が伝わると、ダンジョン前で突入待ちをしていた多くの冒険者チームが歓声を挙げ、辺りは熱気に包まれた。

 傷の治療を終えたバジウッド達がログハウスから出てくると、冒険者たちは口々に彼らの偉業を称えた。

 バジウッド達は手を挙げて歓声に応えていった。レイナースも……引きつった笑顔で冒険者たちに応じているので満更でもなさそうだ。

 

 後ひとつ、残すは十階層のみだ。終われば妻たちや陛下の待つ帝国に帰れる。嬉しい。嬉しい……はずだ。

 歓声に応えながら、バジウッドは胸につかえる微かな違和感の正体を掴み兼ねていた。

 そんな彼に声を掛けてくる者がいた。

 

「おめでとう、バジウッド。先に行かれちまったな」

 

 声を掛けてきたのは()()()()()()級冒険者チーム『虹』のモックナックだ。彼はダンジョンの攻略を競い合う良きライバルであり、飲み仲間でもあった。

 

「……ああ、ありがとよ」

 

「どうした? お前らしくないな。嬉しくないのか?」

 

 彼の反応に違和感を覚えたようにモックナックが首を傾げる。

 

「気にすんな、ちょっと疲れただけだ」

 

 少しの間、俯いて何事かを考え込でいたモックナックはバジウッドに向き直った。

 

「……バジウッド、ちょっと付き合ってくれ」

 

 

 

 

 バジウッドとモックナックはダンジョン前の喧噪から少し離れた場所に移動する。モックナックが立ち止まるとこちらに振り返って話し始めた。

 

「俺たちはもうすぐ冒険に出る」

 

「おいおい、ダンジョン攻略は諦めるのか?」

 

「仲間たちが早く冒険に出たいって聞かなくてな……ダンジョンは戻ってからまた挑戦するつもりだ」

 

 そこで一息吐いた後、モックナックは真剣な表情で問いかけてきた。

 

「バジウッド、冒険者に興味は無いか? ……出来れば俺たちのチームに入って欲しい」

 

 突然の申し出にバジウッドは驚きを隠せなかった。チーム『虹』で純粋な戦士はモックナックだけだ。だがオリハルコン級まで上り詰めたチームに自分は必須ではないだろう。それに――

 

「……何言ってんだ。俺は帝国四騎士の一人で皇帝陛下の側近だぞ? 国には妻たちも俺の帰りを待ってんだ」

 

「知ってるさ。だが、お前にはこっちの方が合ってると思うんだ。お前もそう思うから迷ってるんじゃないのか? ……返事はそのうちで構わない。まぁ、まずはダンジョンを踏破だろう。帝国に戻ってからでもゆっくり考えてくれれば良いさ」

 

 

 

 モックナックと別れた後、レイナースとニンブルに明日の集合時間を伝えて宿に戻った。宴を開こうと多くの者が声を掛けてきたが、バジウッドはそんな気分になれないため丁重に断っていった。

 バジウッドはベッドに寝転ぶとエ・ランテルに来てからのことを思い返していた。

 

 ――ダンジョン攻略では新しいスキルも覚えた。冒険者たちや街の住人たちと親しくなった。めでたい時には飲んで馬鹿騒ぎし、誰かが悩んでいれば親身に相談にのることもあった。

 

――楽しかった。

 

……それもダンジョンを踏破すれば終わりだ。祖国には待っている人たちがいる。

 バジウッドは正直に言うと冒険者に魅力を感じていた。自分に一番合った生き方なのではないか? 気心の知れた仲間たちとともに未知の領域を目指す。冒険に疲れたら家族のもとに帰ってのんびりしたり、自分や他の冒険者の冒険譚を酒の肴にして語り合い、また未知を求めて冒険に出る――それはとても素晴らしいことのように思えた。

 

 鬱屈した思いを抱えたまま、バジウッドは眠りについた。

 

 

 その日の夜、バジウッドは夢を見た――子供のころの記憶だ。

 

 バハルス帝国の貧民街に生まれたバジウッドは、常に死と隣り合わせの生活だった。物心がつく前から盗み、恐喝など生きるためにやってきた。時には盗みに入った貴族の家の用心棒たちに捕まり殺されかけたことも何度もある。

 

 そんな心を擦り減らす生活を送っていた彼にも夢があった。それは、家から遥か遠くに見える皇城――いつかあの城で働く騎士になること。ただの騎士ではない。誰にも負けない騎士になる。そのためには強くならなくてはならない。

 

 そう信じて強く成長していった。そして――ジルクニフに出会った。不敵な笑みを浮かべる傲岸不遜という言葉が相応しい男。

 最初はただ騎士になれれば権力者のこと等どうでも良いと思っていたが、ジルクニフは違った。

 どんな危機に陥っても堂々とした振る舞いを崩さず、時には王国との戦争で最前線に立つこともあった彼に、気付けば心から忠誠を誓うようになっていた――

 

 ――目が覚めた。

 

 思い出した。自分が何を求めていたのかを。何を大切にするべきかを。

 この街での出来事は泡沫の夢のようなものだ。だが、夢はまだ終わっていない。

 この甘い夢を終わらせて、そして――日常に還ろう。

 

 

 ダンジョン入り口の前ではニンブルとレイナースが若干緊張した面持ちで彼を見ている。バジウッドは彼らに向かって近づいていくと、最後になるかもしれない出発の宣言をした。

 

「次があるとか考えんな。最期だと思って気を引き締めていこうぜ」

 

 様々な想いを抱きながら、彼らは前人未踏の十階層を進んでいった――

 

 

 





個人的にはこんなイメージです。
イケメンよりオヤジっぽいのが好みです。

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