自動運転「安全」黄信号 公道実験中事故、5年で6件
緊急手動対応、プロでも困難
自動運転車の公道走行実験中の事故が全国で相次いでいる。警察庁によると、ここ5年間で6件発生し、大分市では9月、九州で初めて自動運転バスが物損事故を起こした。自動運転でも緊急時は人が運転する必要があり、プロドライバーでも瞬時に対応できず事故に至ったケースが大半だった。政府は来年をめどに、事故など緊急時だけ人が対応する「レベル3」の自動運転を目指すが、課題は山積している。
9月25日未明、自動運転バスが大分市の交差点を左折した際、縁石に車体が接触する事故を起こした。
バスは、衛星利用測位システム(GPS)やセンサー、カメラで周囲の状況を把握し、自動走行する仕組み。ところが、交差点の周辺は高い建物が多く、GPSが正常に機能しなかった。時速は7キロ。運転席にいたタクシー運転手は「左寄りに走っているのは分かっていた。それでも曲がりきれると思った」とハンドル操作をしなかったという。
市と連携して走行実験を行った群馬大は2017年にも自動運転車の事故を起こし、その教訓からタクシー運転手に緊急時の対応を指導していた。同大の小木津武樹准教授(カー・ロボティクス)は「事故の原因は運転手の自動運転への過信にあったが、まだ万全ではない。事故の防止策は手探りの段階だ」と話す。
愛知県豊田市では8月26日、直線道路を時速14キロで走っていた自動運転車のハンドルが突然右に切れた。運転席のタクシー運転手は0・8秒後にブレーキを踏みながらハンドルを戻したが、別の車と衝突した。
実験を行った市の担当者は「運転手の対応は速かったのに、衝突するまでハンドルやブレーキ操作をする余裕は0・5秒間しかなかった。人が対応するまでのわずかな時間のロスが大きい」と頭を抱える。
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自動運転車の公道走行実験は13年以降、企業や大学、自治体が各地で行っている。警察庁などによると、6件の事故のうち、3件は運転席にプロドライバーが座っていた。
来年5月までに施行される改正道交法はレベル3の自動運転を想定している。緊急時に直ちに手動運転に切り替えできる状態なら、運転席で携帯電話の通話やカーナビを注視するなどの“ながら運転”も認める。
ただ、実現できるかどうかは不透明だ。横浜国立大の高田一教授(機械工学)によると、時速80キロで走行中の車は、50メートル先の車が急ブレーキをかけた場合、1・5秒以内にブレーキを踏まないと衝突する。「事故を防ぐには運転状況を常に把握しないといけないが、自動運転ではドライバーは運転操作をしないので集中力が持続せず、眠気も生じやすい。ながら運転では反応はさらに遅れる」と指摘する。
筑波大の稲垣敏之副学長(人間機械共生系)は「自動運転車のシステムが道路状況をどう認識し、進路変更など車をどう動かそうとしているのか、ドライバーに明確に伝える仕組みが必要だ」と語った。(御厨尚陽)
【自動運転】ハンドルやブレーキを自動操作して走行するシステム。技術レベルは5段階に分かれ、レベル1は速度かハンドル操作のどちらかを、レベル2は両方の操作を自動制御する。レベル3は事故など緊急時だけ人が対応。レベル4はほぼ全ての操作が自動になる。レベル5は人の対応は不要。現在、レベル2まで実用化している。政府は2020年をめどにレベル3、25年ごろにレベル4の本格的な運用を目指している。