モーニング娘。20周年企画

道重さゆみ(後編)最後のプラチナ期が認めさせた“格好いいモーニング娘。”

  

9期が入って一気に新しい風が吹いた

パフォーマンス至上主義で“格好いいモーニング娘。”を目指していたグループに加わった新たな才能。2011年1月、9期メンバーとして加入した4名の中でも、PerfumeやBABYMETALの中元すず香らも輩出したアクターズスクール広島出身の超新星・鞘師里保のパフォーマンス能力は圧倒的だった。当時、一流タレントや芸人らが並ぶ民放バラエティ番組等で大活躍し、外側からグループを喧伝していた道重さゆみの目にも、彼女の存在はまぶしく映った。

「その直前にメンバーが5人だけになって寂しく感じていた中で、9期が入って一気に新しい風が吹きました。あの時の高揚感は今でもよく覚えています」

  

同年秋、10期の4名が加入した翌日、ずっとモーニング娘。を引っ張り続けた高橋愛がついに卒業する。それまでの4年とはうって変わって次々とメンバーが増えた。翌年5月には高橋の後を継いだ新垣里沙も光井愛佳と共に卒業し、プラチナ期メンバーで残ったのは道重と同期の田中れいなだけとなり、道重がリーダーに指名される。

「根が負けず嫌いだから、昔から『絶対にリーダーになってから卒業する』という気持ちは強かったのですが、実際になってみたら半端なかったです(笑)。8代目として、それまでの7人の良いところを全て吸収して、後輩たちに引き継がなければいけない。しかも当時は15周年のタイミングで歴史を振り返るインタビューや企画が多かったので、余計にそういう感覚が強くなっていました。リーダーになりたかったはずなのに、一気に重みを感じてプレッシャーに押しつぶされていました」

練習時間が一気に増えて、体力的にもキツかった

「でも、そこを救ってくれたのが中澤さん(中澤裕子/初代リーダー)でした。『しげちゃんはしげちゃんらしくていいよ』という一言で、凝り固まっていた考え方がすっとほぐれて、“自分らしくいこう”と思えるようになりました」

この企画で、同じ場面が歴代のリーダーたちから語られていることにお気づきだろうか。リーダーの重責に苦しむ後輩を、OGたちがさりげない気づかいで救っていく。これがモーニング娘。の伝統なのである。

そしてグループは、プラチナ期が目指してきた理想を、ついに具現化する。記念すべき50枚目のシングル「One・Two・Three」(2012年7月リリース)から始まっていく「フォーメーションダンス」だ。

  

「つんく♂さんのことを尊敬しているので、つんく♂さんの『フォーメーションダンスをやろう』という言葉を信頼して、ついていった感じです。ただ、そのために練習時間は一気に増えたし、10代のメンバーがほとんどだったから20代の私には体力的にキツいところもありました。後輩たちはみんな、元々ダンスが上手いから実力もどんどん上がっていく。そんな中リーダーの私が迷惑をかけるわけにはいかなかったので、先輩も同期もみんな卒業してからは、鞘師にダンスを教えてもらうこともよくありました。鞘師もこころよく教えてくれたので、よく2人で練習していました。本当に頼もしい後輩でしたね」

プラチナ期から本格化した激しいダンスはそのままに、ひとりひとりの腕の角度のずらし方まで計算され、立ち位置も絶えず入れ替わるキレの良いフォーメーションダンスは、たちまち観客を魅了した。
先に紹介した鞘師のような才能も生かしながら、11期の小田さくらを加えたメンバー11人のパフォーマンスは、従来のファンの垣根を越え、メディアや著名人の間でも話題になっていく。その結果、2013年1月発表のシングル「Help me!!」にて、約3年8カ月ぶりにオリコン週間ランキング1位を獲得したのだった。

卒業した仲間たちの思いも背負っていた

「13才からずっとお世話になってきて、普通なら学校で教わるようなこともすべてモーニング娘。から学びました。自分を成長させてくれた場所に恩返しがしたいと思っていました。その一番の恩返しとは、『今のモーニング娘。』をたくさんの人に知ってもらうことでした。もちろん私だけの力ではありませんが、オリコン1位を獲ることができました。
私たちが目指すもののために努力している姿は、良くも悪くも必死に見えていたと思うのですが、とにかく地道に頑張っていた時代でしたね。卒業していったメンバーたちの思いも背負っているという自負があったんで、やっと認められた気がして、うれしさは尋常ではなかったです」

また、同じ2013年の夏には6年ぶりとなるテレビ朝日系『ミュージックステーション』単独出演を果たし、番組内ではマツコ・デラックスが絶賛するコメントも紹介された。そして7年後の東京オリンピック開催に向けた“お・も・て・な・し”フィーバーの中、彼女たちは次作以降もオリコン1位を連発。翌年春には、あの黄金期にさえなしえなかった5作連続1位という快挙を成し遂げて再ブレイク――V字回復を世間に印象づけたのだ。

  

2005年よりリーダーに就任した吉澤ひとみは、封建的な組織からの改革を進めた。低迷する中でライブやパフォーマンスにおける質の向上に舵を切り、高橋愛の際立ったスキルを新垣里沙の人柄が支えながら、長く地道に技術を磨いた。
そんな先輩たちと共に築いてきたものを、道重さゆみは自らメディアに露出することで世間に認めさせた。つんく♂という稀代の天才プロデューサーのもと、彩り豊かな才能たちが低迷や停滞に苦しみながら、それでも信じ続け、いま高く評価される“格好いいモーニング娘。”の礎を築き上げた。それがプラチナ期と呼ばれる時代だった。

「現役のメンバーたちはまだ10代なのに深い表現力があって、シングルを出すたびに成長しているなぁと感じます。本当にすごいからこそ、もっともっと新しくしていってほしい。20年の歴史や伝統、引き継ぐものはもちろんあると思いますが、変えることも恐れないでほしいって思うんです。モーニング娘。は常に進化していくものなので。続くことはすごいけど、ただ維持するだけでなく、今こそ本気のステップアップが必要だと思います」
“プラチナ期”までのメンバーへのインタビューは終わり、連載は第9回から現在のリーダー・譜久村聖のインタビューへ移る。復権する過程を見てきた彼女は、グループのいまをどう考えているのだろうか。そこからモーニング娘。の未来をのぞく。

(インタビュー・文:平賀哲雄、撮影:Jumpei Yamada)

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■道重さゆみさん出演情報

【SAYUMINGLANDOLL~東京~公演】
10月16日(火)~21日(日)
会場:COTTON CLUB(東京)
11月13日(火)~18日(日)
会場:STUDIO PARTITA(大阪)

道重さゆみ(前編)夢叶える“最後のプラチナ期”は元落ちこぼれ

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