第十五話:魔王様の深層探索
さきほどから元気にキラー・ホーネットが俺たちが潜んでいる石のドームを突きまくっていた。
ざっくざっくとまるで石のドームがチーズのように思えてくるから不思議だ。
そんな音をBGMに俺は料理を作り始める。
たまに外壁を魔術で増強するのを忘れない。
「【石錬成】」
石を創造し任意の形に作り変える魔術。
手には石のフライパンができていた。
「【加熱】」
そして続いての魔術。
フライパンを熱で温める。
火なんてどこにもないのに、フライパンがどんどん加熱されていく。
「それ、なにげにめちゃくちゃずるいですよね。調理器具を持ち歩かないでも調理器具が揃えられて、火を興こす必要もないなんて」
「別に大したことないと思うが」
「大したことですよ! まともな調理器具一式持ち込もうとするとどれだけ荷物を圧迫するか。火をつけるのだって大変です。乾いた木を集めないといけないし、火を付ける道具をもってなかったら、火おこし器作るところから始めて、くるくるするのすごく疲れるんですよ」
「とりあえず、これでも飲んで落ち着け」
俺はそう言いながら、魔術で水を生み出す。
ちなみにコップや皿も石で作っている。
「それが一番のズルです。安全で冷たい水を手に入れるのにどれだけ苦労するか……水がどんどん減っていくのが一番の恐怖ですからね。迷ったとき近くに水源がないと、軽く死を覚悟しますよ」
魔術を使えるというのは、とても重要だと俺も理解している。
攻撃魔術は戦闘で役立つ。
だが、それ以上に旅をする上で非常に役立つのだ。
人というのは、よく食べて、しっかりと寝て、初めてまともに戦える。
こういう生活魔術がなければ、そもそもまともに戦える状態を維持することすらままならない。
魔術なしに安全な寝床を確保することも、火を確保することも、水を確保することも魔術がないと凄まじい時間と労力がかかる。
新しい体に魔術適性があることをロロアに感謝しておこう。
「さてと、そろそろ浸かっているころかな」
さきほどからハチミツに肉を浸していた。
本来、ニ時間ほどは必要だが風の魔術で加圧することでハチミツが浸透するのを早めてある。
「これで本当にお肉が柔らかくなるんですか?」
「ああ、ハチミツは肉の組織に染み込んで、焼いた時に肉のタンパク質が固まるのを防ぐ効果がある」
「よく、そんなこと知っていましたね」
「なんとなくな」
そう、本当になんとなくだ。
魔王時代、食事を必要としていなかったため、食い物の知識なんてほとんどない。
なのに知っている。
そんなハチミツ漬けにした肉を熱したフライパンで焼く。
「うわぁ、いい匂いがします」
肉とハチミツ、どちらも火を通すととてもいい香りがするのだ。
「これを使って、さらにうまくする」
「あっ、それうちの秘伝のタレじゃないですか!」
「マサさんに作り方を教わったんだ」
「一応、門外不出なんですけど!」
「マサさんいわく、『嬢ちゃんの旦那さんだから特別だぞ』ってさ」
キーアの顔が赤くなる。
マサさんの冗談を真に受けて可愛らしい。
きつね亭の秘伝のタレは牛骨ベースの出汁に、肉の切れ端、すりつぶした野菜を加えて作った旨味たっぷりのタレ。少し辛く、ハチミツと混じり合うと甘辛くなっていい感じになる。
フライパンの上で、ハチミツ、肉、タレが一つになる。
「興味。唾液が分泌される」
さきほどから、空気穴越しの射撃で蜂の駆除を行っていたアロロアがこちらにやってきた。
「もうすぐできるぞ。よし、焼き上がりだ」
鞄の中にいれていた堅焼きパンをナイフで開いて、そこにイノシシ肉を置いて挟むとできあがり。
特製イノシシ肉のハチミツ甘辛ホットサンド。
「それ、いくらなんでもむちゃじゃないですか!? そんな分厚い肉、パンに挟んでも肉だけ噛み切れなくて食べ辛いですよ」
「普通の肉ならな。ダンジョン産の肉は柔らかい。それだけじゃない、焼く前に叩いて肉の繊維をずたずたにしたし、ハチミツパワーでさらに柔らかくした。まあ、食べてみればわかる」
そうい言いながら、キーアとアロロアに特製のホットサンドを渡す。
そして、二人がかぶりついた。
パンと一緒に肉がかんたんに噛み切れる。
「美味しいっ。信じられません、こんな分厚いお肉が簡単に噛み切れるほど柔らかいなんて! とってもジューシーです」
「驚愕。甘辛いタレと肉汁が絶妙」
二人はそのまま夢中でサンドイッチを平らげてしまう。
ようやく俺の分も出来て、かぶりつく。
うん、実験は大成功だ。
パンと一緒に分厚い肉を容易に噛み切れる。
分厚い肉を口いっぱいに頬張るというのは快感だ。イノシシ肉という旨味は強いが癖が強い肉と甘辛く濃いタレがよく合っている。
ダンジョン素材を組み合わせたダンジョン飯。
ダンジョン産の材料じゃないとここまで柔らかく仕上がらなかっただろう。
ただ、一つ不満があるなら。
「……この肉、絶対米で食うほうがうまいな」
「お米ってなんですか?」
「何って言われてもこまるが、白くてつぶつぶで、見た目的には大麦みたいなやつだ」
「大麦みたいなやつですか、たしかにこれ麦粥と一緒でも美味しそうです」
けっこう違うがうまく訂正できる気がしない。
なにせ、俺だって米なんて見たことがない。
なんとなく、頭に白くてつやつやな白米が浮かんでいるだけだ。
「アロロアちゃんは知っていますか?」
「肯定。米はルシル商会でも取り扱っている。麦を育てることが難しい気候の東の地域だと、麦に代わって主食になっている作物」
「へえ、こんど買ってみましょうか。面白そうです」
「賛成だ。もうれつに米が食いたい」
普通に流通しているなら、ぜひ手に入れたい。
「了解。売っている店を調べておく」
アロロアがこくりと頷く。
「さてと、食事も済んだし、そろそろ出るか」
「そうですね、蜂さんもいなくなったみたいですし」
「アロロア、念の為に周囲の探索を」
いつの間にか、キラー・ホーネットの大群がいなくなっていた。
どれだけ頑張っても貫けない石のドームに根負けしてくれたようだ。
「確認。……周囲三〇メートルにキラー・ホーネットの影はない」
俺は頷いて、石のドームを解体する。
そして、周囲を見て驚いた。
「ハチミツがいっぱい落ちてるな」
「アロロアちゃんが、けっこう撃ち落としていましたからね」
なんとハチミツが七つ、ローヤルゼリーと毒針が一つずつドロップしていた。
「さすがにハチミツはこんなに要らないだろう」
瓶詰めしている形でドロップしており、瓶一つにつき一キロはある。
それだけの量のハチミツを店で消費しきれる気がしない。
「何を言っているんですか! お肉よりずっと高く売れるんですよ!」
「そういうものか」
「甘いものは貴重ですからね。お砂糖は南のすっごく暖かいところでないと作れないんで、とっても高いんです。ハチミツも高いんですよ。この島の蜂、ほとんど肉食でミツが採れなくて。そうですね、ギルド買取り価格で一瓶六万バルはします」
なかなかいい値段がする。百グラムにつき六百バルか。肉よりもさらに高い。
そして、ギルドでそれだということは店売りだと百グラム千バルはする。
高級品だ。
「ふふふっ、一つ六万バルが七つも。三人で山分けしても十四万バル。やっぱり、ダンジョンは最高です」
「その代わり、一歩間違えれば死んでいたがな」
「私たちなら大丈夫です!」
石をチーズのようにぷすぷす貫く毒針を持った蜂の群れに囲まれる。たいがいの冒険者はその時点で死ぬ気がする。
通りで、ほとんどの冒険者は浅い階層から動かないわけだ。
二階層ですらこれなのだから、先はどれだけ魔境なのだろうか?
少し、わくわくしてきた。
◇
それから第二階層を歩き続けた。
三階層への青い渦はまだ見つからないまま、日が暮れ始めていた。
第二階層のジャングルは広い、マッピングされている部分だけでも二十キロ四方はある。
そんな中、たった一つの出口を探すのだから時間がかかって当然だ。
それでも俺たちはロロアフォンⅦがあるだけマシだと言える。
こんな広いジャングルの地図を歩きながら書くなんて、とてもできる気がしない。
「……あの、どうしてこんなところで野営を」
「高いところのほうが安全だ。獣型の魔物のほとんどは地上を徘徊しているからな」
日が暮れて視界がないなか、探索は危険だと判断し、野営をすることにした。
俺たちと違い野生の獣どもは夜目が効く、そんな連中と戦うのは自殺行為。
そして、俺は魔術で拠点を作れるという力を活かし、なんと樹木の上に簡単な小屋を作っていた。
「それはわかりますが、これ、落ちませんか」
「そのあたりはきちんと計算している。キーアの体重が二百キロを超えているなんてことがない限りは大丈夫だな」
「その四分の一ぐらいです!」
「なら、問題ないな……雨、降ってきたな」
「本当ですね。いつもなら雨が振ると地獄なんですが、ここは楽です。ああ、快適すぎます。快適すぎて、ルシルさんとの狩りになれちゃうと、ルシルさんなしじゃダンジョンにもぐれない体になっちゃいそうです」
当たり前だが、普通の冒険者はこんな立派な小屋で夜を明かすことなんてできない。
寝具、防具、その他生活補助を兼ね備えたマント一つが頼り。
大所帯になるとテントを運ぶぐらいの余裕ができるが、普通のマントにくるまって樹木に体重を預けるのがせいぜいだ。
「快適ついでにこんなのはどうだ」
俺は苦笑し、大きな石のタライを生み出し、水を生み出し、火で加熱した。
「そっ、それは」
「たっぷりのお湯だ。これで体を清めてくれ。さっぱりするぞ。お湯が余れば洗濯もできるな。使った湯は外に捨ててくれ」
「うっ、なんて、贅沢な。ダンジョン探索中にこんなたっぷりお湯が使えるなんて」
キーアも女の子だ。
いくら劣悪な冒険者暮らしになれているとはいえ、綺麗にしておきたいだろう。
「アロロアもそうしろ」
「了承。衛生的に必要と判断」
「じゃあ、体を拭き終わったら声をかけてくれ。それまで後ろを向いている」
そう言って、俺は二人に背を向けた。
「覗いちゃいやですよ」
「おまえたちみたいな子供に手を出すほど女に飢えていない」
「むう、子供扱いしないでください! そんなに歳は変わらないじゃないですか」
千年をそんなにというのはどうだろう。
「なんだ、見てほしいのか?」
「そうじゃないです。もう、とにかく見ないでくださいね」
後ろで布擦れの音が聞こえる。
……こうは言ったもののの興奮している自分がいた。
これが雄の本能か。
理性じゃなく、本能のほうが振り向けと騒いでいる。
だが、俺は元魔王。こんな欲望に負けるほど愚かではない。
一時の情欲で仲間の信頼を裏切るような真似はしないのだ。
ロロアフォンⅦが振動する。
アロロアからのメールだ。写真が添付されている。
中を開く。
『配慮。ルシル様が見たがっていると思って』
……アロロア。おまえ。
俺はアロロアにこういうことはするなとメールを送り、それからせっかく出し送ってもらった写真を楽しんだ。
その、あれだ、仲間の好意を無駄にするのも失礼だし。
いつも応援ありがとうございます! 「面白い」、「続きが読みたい」と思っていただければ画面下部から評価をしていただけるととてもうれしく励みになります!
貴族家の厄介者として不遇な人生を送っていた少年が、不遇な死を迎えた。 次に少年が目を覚ましたのは、夢でプレイしていたVRMMOによく似た世界。 しかしその世界の//
【ヒーロー文庫から書籍版1巻が発売中!】 地方貴族の家で妾腹の子として生まれた少年・リオン。 嫡母や兄から蔑まれ、不遇な日々を送っていた彼は、あるとき自分の//
【web版と書籍版は途中から内容が異なります】 ※書籍3巻とコミック2巻好評発売中です! どこにでもいる平凡な少年は、異世界で最高峰の魔剣士だった。 //
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
其れは、【パリイ】を極めし者の物語――。 ◇◇◇ 「全てにおいて、一切の才能がない」 十二歳でそう判定された才能なしの少年、ノールは一人、生まれ育った山に//
「また転生してしまった」 とある赤ん坊レクスは、英雄と賢者という二つの前世を持つ転生者だった。 「今度の人生では陰謀や騒動に巻き込まれないように気をつけよう」 //
ブラック企業に酷使された男が転生したのは、ステータスやスキルのある世界。 その世界で彼は、冒険者になることさえ難しい不遇職『テイマー』になってしまう。 //
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中! 魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
勇者になって魔王を倒し、王様になれば、毎日ぐうたら過ごせると考えた主人公、ジレイ。 勇者に選ばれるために過酷な鍛錬をこなし、ときには格上のモンスターと死闘をす//
Eランク魔術学院の貧困劣等生、アーヴィスは魔術学院生に支給される奨学金で生活している。 貴族が優遇される学院において、平民のアーヴィスはいじめと差別の対象。 そ//
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。 彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。 そうして導き出された//
※ヤングエースアップ様にてコミカライズがスタート。無料で掲載されています ――世界そのものを回復《ヒール》してやり直す。 回復術士は一人では戦えない。そんな常識//
4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//
【書籍版、描き下ろしありで発売中(GAノベル)】【コミカライズ決定(マンガUP&ガンガンGA)】 『人と魔族が争って勇者が魔王を討伐……』なんてのは遠い昔の話。//
【アース・スターノベルさんより書籍版発売中】 女神から祝福を受けて〝職業〟を与えられたアレル。 しかしそれは《無職》という何のスキルも習得できない最低の職業だっ//
【令和元年、年間1位の人気作! 書籍版第1巻は富士見ファンタジア文庫より、10月19日(土)に発売決定!】 剣術学院の落第剣士に『一億年ボタン』を持ちかけた謎//
◆カドカワBOOKSより、書籍版18巻+EX巻、コミカライズ版9巻+EX巻発売中! アニメBDは6巻まで発売中。 【【【書籍版およびアニメ版の感想は活動報告の方//
勇者パーティは強力な魔神の大群におそわれた。このままでは全滅必至。 パーティーの一人、最強魔導士ラックは、敵を足止めすることを決意する。 「ここは俺に任せ//
世界一の暗殺者が、暗殺貴族トウアハーデ家の長男に転生した。 前世の技術・経験・知識、暗殺貴族トウアハーデの秘術、魔法、そのすべてが相乗効果をうみ、彼は神すら殺す//
◆◇ノベルス6巻 12月15日 & コミック3巻 12月13日より発売予定です◇◆ 通り魔から幼馴染の妹をかばうために刺され死んでしまった主人公、椎名和也はカ//
フォーゲル大陸にあるアードラシア帝国。 強大な軍事力と広大な領土を保有するこの帝国では、帝位を巡って争いが起きていた。 皇太子が決まらず、皇帝の子供たちがあの//
十三王子として生まれたノアは本来帝位継承に絡める立場ではないため、自分に与えられた領地で自由気ままに過ごしていた。 しかし皇太子が皇帝より先に死んだことにより、//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
冒険者に憧れていた少年・ジオ。しかし15歳になった彼が神々から与えられたのは【家庭菜園】という、冒険には役立たない謎の加護だった。仕方なく冒険者になることを諦め//
直前まで安酒で晩酌を楽しんでいた男は、気づいたら貴族の子供の肉体に乗り移っていた。 いきなりの事でパニックになったが、貴族の五男という気楽な立場が幸いした、魔法//
■2020年1月25日に書籍8巻発売決定!■ 《オーバーラップノベルス様より書籍7巻まで発売中です。本編コミックは4巻まで、外伝コミック「スイの大冒険」は2巻ま//