VABELとはなんだったのか【1】

11月23日、TCG LUXURY PARTY『VABEL』が開催されました。

私はいち参加者として会場におり、いわゆる「実況」行為をTwitter上で行っていたことはこのブログをご覧の皆様はご存じかと思います。中には少々否定的なニュアンスのツイートもありましたが、それがリツイートで広く拡散されたことで、非参加者による「叩き」の空気を作り出してしまったようです。

それを受けてかどうかは定かではないですが、このイベントも終了直後から手放しに大成功とはいえない空気が漂っていました。関係者の間でも「これがよかった」「これはダメだった」というような意見の交換が始まっており、自分の意見をブログや動画で発信している方も少なくありません。

(ただ叩きたいだけの人が飽きたため)叩きの空気もひと段落し、ある程度の「総括」が進んできたところで、このイベントの評価もようやく定まってきました。私は当日の終了時に以下のようにツイートしましたが、現在の総合的な評価もおおむねこれに近いところに着地しているかと思います(yukinoさんの件はさておき)。

私自身、このイベントは正直ダメだったと思います。

その場にいた参加者の大半が楽しんでいたとしても、主催者側で設定したリクープラインをクリアできていたとしても、あれだけ大きくブチあげた理念に反したものを世に送り出してしまったのだからそれは明確な失敗と受け止めるべきです。

一方で、会場にいた多くの参加者は肯定的な意見を発しています。彼らが楽しかったという感情は嘘偽りないものですから、これは否定されるものではありません。

このように現場にいた人間からも意見が分かれていることから、このイベント側は主催者側も「賛否両論だった」と発言していますが、その表現は正確ではありません。実際のところは賛否が分かれているのではなく「評価軸が人によって異なっており、それぞれが違う話をしている」だけなのです。

どうしてこうなってしまったのでしょうか。その原因は、そもそもイベントとしての軸が激しくブレており、参加者はおろか主催者と出演者の間ですら完成形のイメージがバラバラだったことにあると私は考えています。

そこで、本ブログにおいては「イベントの理念と実態は大きく乖離しており、当初に掲げた本来の目的は果たされていなかった」ことこそ最大の問題と考え、そこに論点を絞ります。そして『VABEL』がこれまでに辿ってきた過程を振り返りつつ「どうしてこうなってしまったのか」「どこで道を間違えたのか」を考えていきます。

というわけで。
終了直後は「中であったことをもっと詳しく教えてくれ」という声もけっこういただきましたが、その方向では書きません。実際のところほとんどTwitterで書いてしまっていたため今さらブログにしたところで焼き直しにしかなりませんし、そもそもの話としていかに杜撰なイベントであったかという方向で叩くような記事を書いても、正直そんなに面白くならないからです。このタイミングで細かい不備をいちいち指摘していったところで、タチの悪い死体蹴りと同じ。食事が期待したほどではなかったとか一瞬で消えた件の詳細なんて、別に今さらする話でもないですよね?

先に断っておきますが、私の文章はまわりくどいためクソ長くなる見込みです。数回に分けて掲載しますので、ご興味ある方だけお付き合いください。

10月24日:初報

『VABEL』の開催が告知されたのは、10月24日のこと。開催日のほぼひと月前というタイミングでした。発信源は主催である株式会社Unityのオーナー、すーさん氏です。

ティザーサイトなどはなかったものの、この日に告知を解禁することは事前にほのめかされており、後述する池っち店長こと池田芳正氏のツイートも相まってそれなりにTCG界隈では話題になったと記憶しています。

そして、この時点での評価は概ね「言ってることはわからんでもないが何をやりたいのかがわからない」「よくわからんが胡散臭い」といったところだったかと思います。「歴史が変わる」とまで大きくブチ上げたイベントの初報としては、ツカミは失敗だったといっていいでしょう。

多くのユーザーが感じた「よくわからない」感情を細かくひも解いていくと、以下のような流れになります。

  • TCGに対する社会の固定観念を変えたい←わかる
  • そのためにゴージャスなクラブを会場としたイベントをやる←まあわかる
  • 会費は2万円、違いのわかるハイクラスな大人に来てほしい←ギリわかる
  • そんなイベントの内容はこれです!←わからない

「ハイクラスな大人のTCGプレイヤーに来てほしい」までは理解しました。しかし「ハイクラスな大人」となどというふわふわした言葉はターゲット層の定義としては不十分であり、イベントに人を呼びたいのであればもっと具体的にイメージさせる必要があります。同じ大人でもバリバリの現役プレイヤーなのか、あるいは昔触っていたけど今は離れてしまったかつてのプレイヤーなのか、といった具合です。

それの判断基準となるのがイベントの内容なのですが、これが実にとっ散らかっており、初報を見た人たちの多くは混乱したと思います。

  • ダンスやライブペインティングTCG知識が不要
  • TCG対決やトークショーTCGと出演者に対する基礎知識が必要
  • オークションTCGに対する深い知識に加えてコレクター気質と軍資金が必要

というように、プログラムによって要求されるTCGリテラシーがバラバラのため、主催者側がどういった層を想定しているのか見えてこないのです。さらにダンスパフォーマンスはアニソン系ダンサーを招きつつもライブペインティングのアーティストは美術畑の方というように、オタク色を残したいのか排除したいのかすらよくわからないありさまでした。端的にいうと初っ端から軸がブレています。

「これは俺のためのイベントだ!」と思わせるには魅力も統一感も足りていない。それは言い換えるなら自分がこの会場で楽しんでいる姿がイメージできないということであり、イベントの第一印象としては致命的だったといえます。

この時点で好意的に受け止めていたのは、おそらくはその大部分がゲスト出演者たちのファンでしょう。逆にいうと、それ以外に魅力はなかったのです。

池田氏の参戦と暴走

ただでさえイマイチな印象が広がった中、ゲストの一人である池っち店長こと池田芳正氏がTwitter上で持論を展開し始めたことで、さらに状況は悪化します。

池田氏は一貫して自身をゲストと位置づけており、一般的にはゲストがイベントの「理念」や「意義」にまで踏み込んだ発言をすることは稀です。しかし本件に関しての池田氏は、すーさん氏をはじめとした主催者サイドの面々をはるかに上回る勢いで多弁でした。あまりにも言葉が多かったため、池田氏はゲストであっても限りなく主催者に近い位置にいるだろうと、多くのユーザーは受け止めたと思います。これは「事実誤認」ではなくあくまで「印象」の話です。

※なお、この池田氏の不可解な行動については次回で深く掘り下げる予定です

以下、10月24日付近の池田氏のツイートを引用します。

このツイート群を見て、皆さんは何を感じたでしょうか。池田氏はターゲットを定義する言葉として20~30代のリア充という表現を使用していますが、私たちと氏の間での「リア充観」に、大きな隔たりを感じたのではないでしょうか。

ここで唐突に自分語りをしてしまうと、私自身はいわゆる社会人カードゲーマーであり、TCG仲間も基本的に同世代かつ同じような境遇です。仕事の合間を縫ってTCGで遊ぶこともあれば、たまに集まってお酒を飲んだり、車でどこかに出かけたり、アウトドアをしてみたりとTCG以外でも交流を楽しんでいます。自分でいうのも恥ずかしいのですが、私自身やその仲間たちは世間一般の基準であれば「リア充」寄りであり、「リア充TCGユーザー」というまさに池田氏が定義したターゲットにそのまま当てはまるといえます。

なのですが、池田氏の一連のツイートは「リア充」側である我々からするとクエスチョンマークが大量に飛び交うものでした。キリがないのでひとつひとつ言及は避けますが「ピンとこない人の為に」で始まる一連の情報を筆頭に、リア充目線だと「それはない」「盛りすぎ」と一目でわかってしまうような「ウソ・大げさ・紛らわしい」表現のオンパレードなのです(なぜわかるかというと、それに近い実体験を判断基準として持っているからです)。「ピンとこない人の為に」といっている池田氏自身が、ピンときていないままツイートしていることは明白でした。

もちろんこれは商売であり、商売の手法として多少の誇張表現を交えて対象をより大きく見せる行為自体はよくあることです。初めての試みですし、多少のハッタリを効かせたほうがいいことは間違いありません。

なのですが、今回に限っては池田氏の発言は完全に誇張のさじ加減を見誤っていました。これは意図的に「吹いた」のか、あるいは本当にイベントや会場のスケール観に誤った認識を持っていたかは定かではありませんが、いずれにせよ商売に必要なハッタリの域を超えていたのです。そしてそういったツイートを連発したことで、取り込めるターゲットだったかもしれない「リア充」たちを一気に手放してしまいました。「あぁ、この人たちはリア充向けのイベントをやろうとしてるのにリア充をわかっていないんだな」と見透かされてしまったのです。

この失敗の根底にあるのは、リア充という極めて定義が広く曖昧な存在に対する本質的な無理解です。より語気を強めたキャッチーな表現を使うのであればリア充エアプ」といってもいいかもしれません。

リア充」という言葉は基本的に「非リア充」の側が使うものであり「俺とは違って友だちが多いやつら」を自嘲的に指す表現というニュアンスが色濃く出ています。それが大学生であれば、イベントサークルやテニスサークルのメンバーはもちろん、学外活動に精を出している人もみんなリア充。クラブでウェイウェイいっているパリピはもちろんリア充ですし、なんなら休日の公園を散歩しているファミリーのような「フツーの大人」たちだってリア充です(先ほどの私自身の例はまさしく後者ですね)。つまりイベントに参加する人物の属性と定義するにはいささか範囲が広すぎる言葉であり、認識のズレを招きやすいのです。

事実、池田氏リア充像は過剰に(空想上の)パリピ側に引っ張られているように感じられます。同様に、TCGプレイヤー像は過剰にコミュ力の乏しいオタク側に引っ張られており、その中間にいるニュートラルな存在を見落としているように見えました。

これが大きな落とし穴であり、池田氏の中にはリア充世界について適当な発言をしても、TCGプレイヤーにはバレないだろう」という驕りがあったのかもしれません。ですが実際のところは、リア充とオタクなどという単純な二元論で分けられるようなものではなく、TCGプレイヤーのほとんどはリア充の自分とオタクの自分を共存させているのです。なので自身の発言が見透かされる可能性が想像できなかったのだと思われますが、主語を大きくしたことでそういった層にまで声が届いてしまったことは、皮肉というほかありません。

地に落ちた主催者への信頼

一連の池田氏の発言は、大人のTCGプレイヤーを大いに落胆させただけではありません。主催者ではないが近い位置にいる第三者(むしろこの時点では「主催の代弁者」といっても過言ではなかった)がこのような発言をしたことで、結果的に主催者への信頼度も下がってしまいました。

これはあくまで池田氏の話であり、主催者サイドがどのような「リア充観」を持っていたかはわかりかねますが、定義が曖昧な言葉を使用しているのは主催者の使った「ハイセンスな大人」と同じです。似たような例が重なったことで、主催者やその関係者が本来ターゲットにすべき顧客層の本質を理解せずに進めている、という印象に至ってしまったのです。

そしてできあがったのは「ぼくのかんがえたおとなでりあじゅうのかーどげーまー」という、実態のない空想上の生き物です。そのため、ダンスやパフォーマンス、高級クラブといった「なんとなくリア充が好きそうな要素」を寄せ集めていくことしかできず、結果としてよくわからないものができあがってしまったのではないでしょうか。

すーさん氏の犯したミスは、腹落ちしないまま企画を進めてしまっことです。

V2TOKYOという立派なハコをブッキングできたことやここまでのキャリアを見るに、TCGの世界でバリバリやってきた方ではないのでしょう。なのでリア充的な嗜好」はわかるものの、リア充TCGユーザーという存在に対しての掘り下げが足りなかった。すべてをご本人が企画したのかはわかりませんが、内容のひとつひとつに迷いが感じられましたし、見切り発車に見えました。開催日ありきの企画だったのかもしれませんが、せめて初報の段階でもう少し精査できていれば、と思うと残念でなりません。

池田氏に関しては、そもそも出しゃばってきたこと自体が間違いでした。

主催者でないと自ら断っておきながら主催者の意図を代弁するような発言をすること自体まったく一貫性のない行動なのですが、それがよりにもよって誇張にまみれていたのだから目も当てられません。人は「わかってもいないのにエラそうに語る人間」を忌避するものなのです。

 結果として、この段階でチケットの購入まで進んだ層の多くはゲストであるYoutuberのファン層であったと思われます。この時点でもっとも直接的な訴求力を持っていたのは「彼らと交流できること」であり、「リア充っぽい遊びができる大人のパーティー(しかし何がやりたいのかよくわからない)」の魅力を大きく上回っていたのです。

本来、ゲストの存在は参加者の人数を底上げするためのサブプランだったと考えられます。メインプランである大人のパーティー路線は主催者にとっても参加者にとっても未知の領域であり、どこまで受け入れられるかの予測が難しい。ならば、チャンネル登録数という明確な指針があり、ある程度の支持層が見込めるYoutuberをゲストとすることで最低限の人数を確保しておこう、という思惑があったことは想像に難くありません。

そもそもの話として、一般的には若年齢層が支持する文化とされているYoutubeと大人のパーティー路線は相性がいいとはいえなかったのですが、サブプランにほかの選択肢はなかったのでしょう。一方で大人のパーティー路線は指針が定まっておらず、結果としてはサブとメインの立場が逆転することになってしまいました。この一連の流れは参加者の分断に繋がり、当日の模様を「Youtuberのオフ会」と揶揄されることになった一因といえます。

まとめ

だいぶ長くなってきた上に横にそれてきたので、そろそろまとめます。初報の段階で『VABEL』が抱えていた問題点とその原因は以下の通りであると推測されます。

  • 企画に統一感が見られず、訴求対象が明確になっていなかった
  • 池田氏の一連の発言は誇張であると見透かされ、主催者サイドへの信頼性が著しく下がった
  • 「大人のリア充像」の分析が杜撰であったことがそもそもの原因
  • その結果、メインプランである大人のパーティー路線の魅力は乏しいものになる
  • 本来ではサブプランであったゲストYoutuber路線に惹かれるユーザーの方が多いという逆転現象に繋がる

とはいえ、この時点ではまだ初報です。全貌が明かされず「COMING SOON」になっているものもたくさんありました。初報の時点で警戒視していた人たちも、今後の情報しだいでは認識を改めるチャンスがあったのですが……

今回はここまで。次回「前パブとnoteとYoutube」に続きます。