- 山崎純醒編
- 価格 1700+税円
- 判型:A5判、104ページ、並製
- ISBN 978-4-8265-0654-0
- 初版発行年月 2016年11月25日
- 発売日 2016年11月25日
内容紹介文
源義経周辺系図は著者自ら作成したオリジナル系図である。『義経北紀行伝説』をより深く理解するために作成したものだが、系図は作る人の歴史観や歴史認識によって違ってくる。それぞれの専門家が互いに争論しながら、より充実した系図を作成することが大切である。
しかし、江戸時代まで系図に女性の名前がしるされることは殆どなく「女」と記されるの普通であった。清少納言も本名は不明で、出身家の姓が清原で再婚した夫の官位が少納言だったので清少納言と名乗ったという。これは名前がなかったからではなく、女性が名前を明かすときは嫁ぐときで、それ以外に名を明かすことはなかった。従って名前のわからない女性は「女」としたが、名前がわからないと本文の流れが進まないときは、義経を題材にした小説から引用させていただいた。
『義経北紀行伝説』を読み解く
源義経周辺系図解説について
この『義経北紀行を読み解く 源義経周辺系図解説』(以下、別冊本)は、同時刊行した『義経北紀行伝説』(以下、本書)をお読みいただき、理解を深めていただくための参考資料として編集・発刊したもので、掲載された系図は、筆者自身が様々な史料や伝承譚を調べ尽くし、それらを分析・複合させて作成したオリジナル系図である。
極力、余白いっぱいの解説を加えたが、これは本書の主張に添った筆者自身の解釈であることをお断りしておく。また、系図の中に解説を加えられなかったものは、本書の文中に解説を入れた。
系図は、諸説学説入り乱れており、筆者の判断が正しいとは言えないが、歴史を学ぶ資料としての価値はあると考えている。従来の系図と見比べながら楽しんで頂けたら幸いである。また、併せて掲載した付録図も参考資料としてご覧頂きたい。
系図一、二は奥州藤原氏周辺の系図、系図三は源氏及び頼朝周辺の系図、系図四は樋爪氏系図、系図五は清原氏系図、系図六は安倍氏関連の系図、系図七?十は頼朝の御家人・家臣の系図(但し、系図八は藤原氏家臣の佐藤氏系図)、系図十一は南部氏系図として分けた。
なお、系図三―?A・B、系図三―?、系図四―?、系図五―?、系図六―?は、伝承をもとに作図したもので、参考程度の位置付けで見て頂きたいと思う。
また、数字のない系図は、天すめらみこと皇を含む神々とその子孫たち、及び古代の主要人物の系図で、併せて作成・掲載した。こちらの系図は、本書の次巻以降で登場する人物のための解説系図である。
古代の系図に関しては、正確な史料が少なく、また口碑伝承に頼るしかないものが多く、作図には相当の苦労を強いられた。互に異なる系譜が示されている資料のどれを採用すべきか、選択する者の歴史認識と歴史観によって違ってくる。
本来であれば、歴史の専門家たちが相集い、喧けんけんがくがく々諤々意見を闘わせ、より正確な系図を作成することが正しい有り方だと考える。所詮、一人の見識と情報量には限界があり、誤りがあっても誰も指摘してくれない訳で、正確な系図が作れるはずがない...と常々思っている。だから、「系図作成は一人で行ってはならない」という信条を掲げながら、結果的に、一人で作ってしまったことに一種の罪悪感を抱いている。しかし、資金も時間もなかった筆者には、やむを得ない決断であった。
作図においては、怪しい系図は除外し、史学界に支持されているもの、または使用頻度の高いものを選択し、さらに筆者の解釈を加えた。従って、筆者が作成した系図を「正しい系図」と鵜呑みにせず、読者自身も検証しながらご覧頂きたいと思う。そして、もし誤りや修正が必要な個所を発見された場合、編集部までご一報頂けたら嬉しい限りである。
ところで、系図作成に当って、筆者の頭を悩ませ続けた問題があった。それは、「女性の名前」である。江戸時代までは、系図に女性の名前が書き込まれることはほとんどなく、多くは、「女」と記されるのが通例である。名前が記される女性は、よほど高貴でやんごとなき人物であり、それすらも、本名で記されることはなかった。
例えば、系図五―?に登場する清少納言の場合、彼女の父が清原姓であるので、その一字を取って「清」とし、再婚した夫である藤原信義の官位が少納言だったので、「清少納言」と宮中で名乗ったのであって、彼女をもってしても本名は謎のままなのである。
これは名前がなかったからではなく、名前をあえて隠匿する必要があったから記されなかったのである。特に中世日本では、武将が女性を略奪して結婚するという理不尽がまかり通っていた。美人の女性がいて、
その女性の名前がうっかり横暴な武将に知られてしまうと、たちまち略奪されてしまったのである。だから、女の赤子が生れると、その子の名前は親兄弟だけが知り、そしてその名を決して他に洩らさなかったと言われている。隣近所でさえ、女性の名は嫁ぐまで知らされなかったのである。
この風習は中世だけの話ではなく、大正時代まで続いていた。野良仕事をしている若い女性に、通りすがりの男性が道を尋ねるような場合、男性は礼を述べたとしても、決して女性の名を聞いてはいけないことになっていた。女性の名を聞くという行為は、即ち結婚を申し込むことを意味していたからである。女性もまた、自分の名前を明かすのは結婚相手のみであったので、その女性の名前を知るのは許いいなずけ婚か、もしくは、結納が済んでからであった。系図に女性の名が記されないのは、こういう事情も含んでいた訳である。
しかし、筆者が本文の中で、女性を紹介しなければならない時に、「女」もしくは「〇〇の娘」と書くことは、いかにもまどろっこしく、また読者にストレートに伝わりにくい不便さを強く感じていたことから、名前の知られた女性は、極力系図に名前を記すように努めた。従って、その名が公文書ではなく、伝聞・伝承・伝記に語られる名前であったとしても、それを採用し、系図の中にその名を記載したことを予あらかじめ断っておきたいと思う。
また、どうしてもその女性の名前が判明せず、しかしながら、その女性に名前を付けないと本文の流れが進みにくいと言う問題も出てきた。この場合、筆者の創作で名前を付けることは出来ないので、義経を題材にした小説の作品中から引用し、少しでも、読者に対し、親しみを感じてもらった方が良いだろう考えた。
名は体を表わすと言われる。それ故に、名前のイメージで性格も想像できたりする訳である。また、言葉は言ことだま霊であり、人から本名で呼ばれることは魂を抜かれると信じられてきた時代もあり、古代・中世の人々の名前に対する畏怖は相当なものがあったと考えなければならない。だから、作家が作品中に登場する人物の名前を名付ける場合、当然、こうした背景を承知の上で決めたはずだと筆者は考えたのである。その意味でも、筆者が安直に考えて名付けるより、作家の考えた名前の方が、はるかに重みがあることは言うまでもなく、その名を生かすことによって、本文の流れも、より活き活きとしてくるに違いないと思ったのである。
その一例を紹介すると、系図二の「奥州藤原秀衡系図」は、三好京三氏の作品『朱
あけの流れ』(中央公論社)から多くを引用している。秀衡の妻である乙おとな那、柔やすこ子・恵めぐむこ子、アサメ(作品中では阿佐女)がそれである。読者からお叱りを受ける前に、予あらかじめ、その理由を申し述べ、お断りをしておきたいと思う。
このように、本系図群の一部にこうした作為を加えてしまったために、自ら学術的価値を放棄する結果となったが、そうした犠牲を払ってもなお、本文の流れを尊重することの方が重要と考えた次第である。
中世以前の歴史は謎が多く、系図においても偽系図がはびこっているのが現状である。例えば、系図六―?藤崎流安藤氏系図は、世に三十種も流布しているといわれ、互に大きく異なっていて、いずれが正しい系図なのか、今もって結論が出ていない。歴史は勝者の側の歴史と言われる如く、敗者の歴史は抹殺され、あるいは、勝者に都合よく改ざんされる運命にあったことは言うまでもない。
「これが正しい歴史だ」とは誰も言えないのである。系図においても然り。「本当に正しい系図」というものは存在しないかもしれないと筆者は考えている。それでも、新たに入手した情報は系図に書き込み、誤りと気付いたものは、その都度、修正するという作業をずっと繰り返してきた。恐らくこの作業は、命ある限り続くだろうと思う。今回刊行した『別冊本』は、その中間報告的な系図と考えて頂けたら、筆者の心の重荷も、だいぶ軽減されることになる。どうか、本文の理解を深める参考書といった位置付けで、この『別冊本』を楽しんで頂ければ幸いである。
なお、系図に示した実線は「血縁関係」を表わし、横二本線は婚姻関係を、縦二本線は養子縁組を示した。親子関係が疑われるものは点線で示し、籍が変っても、本人と同一人物であると確認できる場合は点線でつなげて示したものもある。
目次
『義経北紀行伝説』を読み解く
源義経 周辺系図解説
目次
源義経周辺系図解説について ………………3
付録図1 関係人物生没年表 ………………14
付録図2 源頼朝の時代 国名と勢力図 ………………15
付録図3 源平合戦図 ………………16
付録図4 奥州合戦 頼朝軍と奥州軍 参戦武将図 …………17
付録図5 奥州合戦地図 ………………18
付録図6 平泉付近図 ………………19
付録図7 樋爪舘略図 ………………20
付録図8 頼朝の勘気を受けた東国武士一覧 ………………21
付録図9 大河兼任の乱 合戦図 ………………22
付録図10 泰衡逃走経路推定図 ………………23
付録図11 幻の中世都市 十三湊 ………………24
付録図12 義経北国落ち経路 ………………25
付録図13 白山神社周辺図 ………………26
付録図14 義経北行経路 平泉?蝦夷 ………………27
付録図15 北行経路詳細図1 ………………28
付録図16 北行経路詳細図2 ………………29
付録図17 義経の平泉から蝦夷地までの北行推定ルート …30
付録図18 義経北行の旅に加わった人々 ………………31
付録図19 義経一行の中央アジアへ至るルート ……………32
付録図20 義経大陸渡海の道程 ………………33
系図一―? 源氏・奥州関連系図 ………………34
系図一―? 奥州藤原氏系図 ………………35
系図一―? 藤原基成系図 ………………36
系図一―? 源義経と山本義経系図 ………………37
系図一―? 源有綱系図 ………………38
系図一―? 武田・蠣崎・松前氏系図 ………………39
系図一―? 白山別当家系図 ………………40
系図二 奥州藤原秀衡系図 ………………41
系図三―?―A 義経周辺系図 ………………42
系図三―?―B 義経周辺系図 ………………43
系図三―? 源頼朝 関係系図 ………………44
系図三―? 北条政子周辺系図 ………………45
系図三―? 鎌倉・朝廷関係図 ………………46
系図三―? 後白河法皇周辺系図 ………………47
系図三―? 久我氏系図 ………………48
系図三―? 鈴木三郎重家系図 ………………49
系図四―? 樋爪氏 関係系図 ………………50
系図四―? 樋爪流 泉氏・松ヶ野氏系図 ………………51
系図五―? 清原氏系図 ………………52
系図五―? 金売橘(吉)次系図 ………………53
系図六―? 安倍氏系図 ………………54
系図六―? 安倍貞任・藤原氏関係図 ………………55
系図六―? 藤崎流 安藤氏系図 ………………56
系図六―? 安藤流 秋田氏系図 ………………57
系図六―? 安倍宗任流系図 ………………58
系図六―? 安倍則任流系図 ………………59
系図六―? 津軽氏系図 ………………60
系図六―? 安倍正任流系図・大河兼任系図 ………………61
系図六―? 安倍貞言系図 ………………62
系図六―? 松浦氏系図 ………………63
系図七―? 足利氏系図 ………………64
系図七―? 斯波氏系図A ………………65
系図七―? 斯波氏系図B ………………66
系図七―? 斯波氏系図C ………………67
系図七―? 斯波氏系図D ………………68
系図七―? 大崎氏・最上氏系図 ………………69
系図七―? 奥田氏系図 ………………70
系図七―? 猪去氏系図 ………………71
系図七―? 雫石氏系図 ………………72
系図八―? 佐藤氏系図 ………………73
系図八―? 佐藤基治系図 ………………74
系図八―? 佐藤重氏系図 ………………75
系図九 比企氏 島津氏 関連系図 ………………76
系図十―? 小山朝光 関連系図 ………………77
系図十―? 和田氏・畠山氏・梶原氏・
河越氏・三浦氏・長田氏系図 ………………78
系図十―? 佐々木氏系図 ………………79
系図十―? 伊達氏略系図 ………………80
系図十―? 大江氏系図 ………………81
系図十一―? 南部氏系図A ………………82
系図十一―? 南部氏系図B ………………83
系図十一―? 南部氏系図C ………………84
系図十一―? 南部氏系図D ………………85
特別系図 天照大神の正后と十二后 系図 ………………86
特別系図 天照大神 周辺系図 ………………87
特別系図 日本の神々と荒覇吐系図 一 ………………88
特別系図 荒覇吐系図 二 ………………89
特別系図 天忍日尊系図(大伴氏系図) ………………90
特別系図 天穂日尊系図(千家・北島氏系図) ………………91
特別系図 穂積氏系図 ………………92
特別系図 大物主系図 ………………93
特別系図 天兒屋根尊系図 ………………94
特別系図 物部氏系図 ………………95
特別系図 海部・尾張氏系図 ………………96
特別系図 神功皇后系図(天之日矛系図) ………………97
特別系図 武内宿禰系図 ………………98
特別系図 坂上田村麻呂系図 ………………99