トレハロースはきのこ類や酵母などに含まれている自然界に存在する糖で、私たちの身近な食品の中にも存在します。
トレハロースは「太古の昔から地球上に存在」しており、古くから生命とかかわっています。
クマムシ、ワムシなどの微小動物、イワヒバなどの植物が砂漠などの厳しい環境の中で生き続けられるのは、トレハロースが生体内に存在するためであるといわれています。
トレハロースは、細胞やたん白質を凍結や乾燥によるストレスから保護する作用を有していることが、多くの研究者により実証されています。また、トレハロースは昆虫の体液に含まれており、飛翔のエネルギー源としても機能しています。
現在、トレハロースは菓子や食品だけでなく化粧品、入浴剤、農業花卉園芸等々幅広く使用されており、海外での利用も増加しています。
トレハロースはどこにあるの?
先にご説明したように、トレハロースは私たちがいつも口にしている多くの食品の中に含まれています。
なかでも、きのこ類に多く含まれており、乾燥重量当り20%以上にも及びます。酵母にもきのこ類と同程度に含まれ、パンやビールなど発酵食品を介してトレハロースを摂取していることになります。
そして、摂取したトレハロースは麦芽糖と同じように、小腸でブドウ糖に分解され、吸収されます。
トレハロースの消化吸収については後述します。
<食物中のトレハロース>
昔から科学者の注目を集めていた
トレハロースの存在が初めて学術的に明らかになったのは1832年のこと。ウィガーズが麦角中に発見したのです。そして1859年には、バーサローによって、トレハラマンナ(ペルシャ地方に生息する象鼻虫が作るもの)から分離されトレハロースと名付けられました。
以来、トレハロースが持つ不思議な力が様々な分野に応用できるのではと期待され、研究が盛んに行われました。しかし、トレハロースを抽出するのは難しく、抽出できても価格が1kgあたり3~5万円もする高級品。トレハロースを大量生産する方法が見つからないかぎり実用化は不可能とされていました。
1994年、林原は世界で初めて微生物・酵素技術を使った「でん粉からの量産」に成功。価格が約100分の1にダウンしたことにより、利用範囲が広がりました。
一滴の水で生き返る生物
人間をはじめとする生物は、水分がなくなると生き残れません。しかし昔から、完全にひからびて死んだような状態でも水をごく少量加えただけで生き返る生物の存在が知られていました。たとえば、砂漠に生息するイワヒバという植物、クマムシ(緩歩動物)、酵母などは乾燥して何年たっていても水さえ加えれば生き返ります。この復活現象は長年の間、「不思議な現象」として原因が分からぬまま扱われていました。
近年になってこの不思議な「復活現象」には、生物の細胞内にある糖が大きく関わっているということが分かりました。その糖こそ「トレハロース」なのです。トレハロースが水に代わって細胞を守る働きをしているなどといわれています。
干し椎茸がもどるのもトレハロースのおかげ
もっと身近な例を挙げてみましょう。干し椎茸は何カ月おいた後でも、お湯あるいは水に浸すと、元の状態にもどります。これもトレハロースの働きのためといわれています。椎茸に含まれているトレハロースが多ければ多いほど、より元に近い状態になることが実験でわかっています。
昆虫はトレハロースをエネルギー源に
バッタ、イナゴ、ハチなどの昆虫は、長い距離を飛んだり、長い時間跳ねたりすることができます。小さな体のいったいどこにそんなエネルギーが?と感心してしまいます。これらの昆虫の体液中にはトレハロースが蓄えられていて、これを必要な時にブドウ糖に変えています。人間など哺乳類の血糖はブドウ糖ですが、これら昆虫の血糖はトレハロースというわけなのです。
トレハロースの消化吸収
食品や飲料とともにお腹に入った糖質は、腸管にある酵素で分解され吸収されます。腸管にはいろいろな酵素が存在し、例えば、砂糖(スクロース)はスクラーゼという酵素によってブドウ糖(グルコース)と果糖(フラクトース)に分解されて腸管から吸収されます。麦芽糖(マルトース)はマルターゼという酵素によってブドウ糖に分解され吸収されます。
そして、トレハロースについても、トレハラーゼという腸管に存在する酵素によってブドウ糖に分解され吸収されます。
※ヒト腸管でのトレハロースを分解する能力は個人差があるため、体質によって、一度にたくさん摂りすぎると一時的におなかがゆるくなることがあります。
上述のとおり、トレハロースは腸管で消化吸収されますが、消化吸収パターンが麦芽糖やブドウ糖の場合と少し異なることがわかりました。
ブドウ糖を食べると急激に血糖が上がり、30分後ぐらいにピークとなり、その後急激に低下します。ところが、トレハロースの場合は、血糖値のピークが低く、血糖上昇・降下が緩やかです。(グラフ1参照)
インスリン分泌も血糖のパターンと同様の穏やかな動きを示し、トレハロースはインスリン刺激の少ない糖質といえます。(グラフ2参照)
健康な日本人を対象に、グルコースまたはトレハロースを 25 g 経口摂取した場合の血糖値と血中インスリン値の推移を比較しました。試験は第三者機関へ委託して実施しました。
被験者 | |||
20人 男 : 10人 女 : 10人 | |||
体重 : 57.3 ± 9.4 kg | BMI : 20.8 ± 1.4 | 年齢 : 39.0 ± 7.0 歳 | (平均値±SD) |
出典:Yoshizane C. et al., Nutrition Journal 2017 16:9. DOI:10.1186/s12937-017-0233-x を改変