太田好治
「炎上を怖がっちゃいけない。電源を抜いたら消えてしまう世界です」――筒井康隆85歳が語る「表現の自由」
11/28(木) 7:43 配信
「もうあらゆるものを書き尽くした」。作家・筒井康隆さん(85)は、60年近くにわたり、ジャンルを超えて小説を書き続けている。いち早くネットワーク社会とかかわり、新たなツールを創作に取り入れて、アナログとデジタルの境界を飄々(ひょうひょう)と行き来してきた。今もTwitterを更新して、時に炎上する。現在の情報化社会をどう見るのか、表現の自由とは何か。筒井さんに聞いた。(撮影:太田好治/Yahoo!ニュース 特集編集部)
50年以上前にYouTuberを予見
都会のど真ん中に、静かなたたずまいの邸宅が忽然(こつぜん)と現れる。囲炉裏を囲む板の間で、着物姿の文豪、筒井康隆さんは穏やかに語り出した。
「今、僕は85歳になったか。年をとればとるほど、危険なものも平気で書けますよね。もう先がないんだから」
筒井さんは1934年に大阪で生まれた。20代の頃、父と弟3人とSF同人誌『NULL』を創刊。江戸川乱歩に見いだされ、1960年、短編「お助け」が雑誌『宝石』に転載された。これが商業媒体でのデビュー作となり、以来60年近く小説を書いている。SFにはじまり、純文学、エンターテインメント、ライトノベルまで、ジャンルの垣根を軽々と超え、日本文学をけん引してきた。
星新一、小松左京とともに日本SFの礎を築き、こんなふうに例えられることもあった。「SFという惑星を、星新一がパイロットとして発見した。小松左京がブルドーザーで地ならしをして、新しい都市ができた。そこへスポーツカーで口笛を吹きながら、筒井康隆が乗り込んできた」。星、小松、そして最近では眉村卓など、同世代の作家たちの多くがこの世を去った。
「寂しいとは思いませんね。作家というのはもともと孤独だから、あんまり孤独は感じないです。ただ、今は人生100年時代っていうから、下手したら100歳まで生きるかもしれんのだよな。困ったことに、どこも悪いところがないんですよ」
それでも「頭がぼーっとしてきて、昼間から酔っ払ったみたいになったり」と、老いを実感することはあるという。どんな日々を過ごしているのだろうか。
「朝起きて、まず冷たい水を1杯飲みます。すると大腸が動き出す。朝ご飯は自分で作る。かみさんの分も作ります。ベーコンと、それからご飯に卵の黄身だけかけて食べるんです。白身は白身だけの目玉焼き、白身焼きにします。シャケとあぶった明太子と海苔を少しと、大根おろしにちりめんじゃこをかけて。食べた後、テレビのニュースを見ながらコーヒーを飲む。午後はパソコンでネットサーフィンをしたり、ブログを書いたり原稿を書いたりTwitterを見たり、なんやかんやと」
今も年に数回、新作小説を発表し、谷崎潤一郎賞、山田風太郎賞では選考委員を務める。神戸と東京を行き来しながらテレビ番組やトークショーへも出演する日々だ。
「今度『波』に載る『南蛮狭隘(きょうあい)族』が30枚。これに4カ月近くかかってるかな。今は1日に2、3行しか書かない時もある。純文学は谷崎賞、エンタメは風太郎賞の候補作を読む。これでその年の一番いいやつを読めます。風太郎賞はやめられないんですよ。終身契約してます。でも終身は無理だよね、死ぬ前にぼけてくる」
小説の中でさまざまな老人を書いてきた。60代以降の作品で老人を描いた代表的なものに、『敵』『わたしのグランパ』『愛のひだりがわ』『銀齢の果て』がある。「頑固な老人も面白いし、ぼけてきてめちゃくちゃするのも面白い」。今年、新書『老人の美学』を上梓。小説の登場人物や知人のケースを取り上げながら、老人のあるべき姿や孤独との向き合い方を論じた。
「周囲に老害をまき散らさないようにしなきゃいけないよね。僕の場合はどんな老害があるのか、自分じゃ分からない。人に言われた場合は気をつけようと思うけれども。何でしょうな、腹が立ったらちょっとでかい声を出したりはします。文学賞で僕に落とされた作家なんかは、老害だって思う人もいるかもしれん。でもこれは仕方ないんだ。誰かが落ちるんだもん」
『銀齢の果て』(2006年)では、増大した老齢人口を調節するために「老人相互処刑制度」が開始され、70歳以上の国民が殺し合う世の中を描いた。高齢者がますます増えていく未来について聞くと、「面白くなるんじゃない? どんなことになるか、楽しみですね」と愉快がる。
未来を先取りするような作品を多く書いている。1965年に発表した初めての長編『48億の妄想』では、人々が街中の至るところに設置されたカメラを意識し、演じるように行動する社会を描いた。監視カメラを予言するようでもあり、今となってはスマートフォンのカメラやYouTuberも想起させる。さらにこの作品では、韓国との領有権をめぐる争いが武力衝突に発展するさまが描かれた。
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