職人の勘や経験をAIが守る。養蚕業での初めてのAI導入を成功させた話

【PR】この記事はソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社「Neural Network Console」のスポンサードコンテンツです。

古くは2、3世紀に大陸から伝わったとも言われている養蚕業。1930年ごろには国の主力輸出品だった生糸を支える蚕(カイコ)がいま、存続の危機に瀕している。

「年々規模が小さくなっている産業なので、これまで『どうにか新しい技術を導入したい』と思いを持つ人はいても、新しい挑戦はできなかったそうです。でも養蚕業は他の産業に比べて手作業が多い分、AIが役に立つ余地がある。カイコの世界にAIを入れることに抵抗はありませんでした」

こう語るのは、群馬県蚕糸技術センターの下田みさとさん。下田さんは蚕糸研究係として、カイコの品種育成や繭の品質調査、養蚕農家向けへの卵の提供を担当している。

縮小を続ける養蚕業において、下田さんはいかにAIを導入・活用し、技術の継承に挑んでいるのだろうか。事例を追った。

いま養蚕業が抱える「伝承」という課題

「カイコを育て、繭をつくる」養蚕業は、明治時代は日本の基幹産業として発達していったものの、化学繊維の登場などにより需要が減少。現在では生産量・養蚕農家数ともに減少の一途を辿っている。生産量は1930年の40万トン、養蚕農家数は1929年の221万戸をピークに、2018年には生産量110トン、農家数293戸にまで落ち込んだ※。

「新蚕業プロジェクト方針」(農林水産省)外部リンク

現在、蚕糸業に携わる人材の高齢化と後継者不足により、経験に基づいたノウハウの継承が困難になっている。そうした技術のひとつが孵化卵の見分け作業だ。直径1.5mmにも満たないカイコの卵を、目視で正常なものとそうでないものとにひとつひとつ仕分ける。

卵1蛾区(卵300〜600粒)を見分ける時間は5〜10分と長くないものの数が多く、10名が1日中見分け作業に取り組んでも数日かかる状態だった。

見分けるコツが言語化しづらく、一朝一夕では伝承できない技術。高齢化している作業者の負担も少なくない。こうした現状をどうにかできないか、と考えていた矢先、下田さんは「画像認識」という言葉を思い出す。

――下田
「AI技術について詳しく知りませんが、”画像認識”という単語を聞いたことがありました。卵の画像から卵の状態を見分けられるAIがあれば、この作業を自動化できるのではと思ったのです」

Neural Network Consoleとの出会いと活用

AI導入を思い立った下田さんは、職場の後押しも受け、中小企業の技術支援を担う群馬県立群馬産業技術センターの町田晃平氏に相談をすることに。同センターでは2016年ごろからAI技術の活用に力を入れており、町田さん自身も技師として、県内・外の中小企業100社超にAI技術の導入支援を受け持った経験がある。

下田さんの相談にも「データを提供していただければ、画像分析AIを作れる」とふたつ返事で快諾した。

――町田
「AI開発を始める段階で真っ先に思いついたのが、ディープラーニングを詳しく知らない人でも操作できるNeural Network Consoleでした。まずはAIを試してみたい、という下田さんにぴったりだと思ったのです」

NNC導入の決め手は、操作性の良さと運用コストの低さ

Neural Network Console(以下NNC)は、ソニーが提供するAI開発ソフトウェアだ。

出典:SONY、深層学習プログラムを生成する「Neural Network Console スターターパック」でAI活用を加速化

画面上の関数ブロックをドラッグ&ドロップで動かすだけで、コードを書かずにAIの作成・テスト・性能アップの調整ができる。

関連記事:非エンジニアがソニーのNeural Network Consoleで画像分類モデルを作ってみた

無料ダウンロードできるソフトウェア版のほか、Chromeなどのウェブブラウザで利用できるクラウド版もあり、気軽に始められるといえるだろう。

町田さんが「ぴったりだ」と直感したもうひとつの理由が、ランニングコストの低さだ。

AIは導入して終わりではない。データを学習させたら実際に運用して成果を見て、さらに認識精度を上げるために調整し、再び運用する……というサイクルを回す必要がある。

加えて、AIの複雑な演算には、高速で演算を処理する装置(GPU)が必要だ。NNCは高性能の演算処理装置が低コストで活用でき、かつ学習・評価に使った分だけ利用料金が発生する仕組みになっている。

――下田
「専用の画像認識ソフトウェアを導入するのに、いきなり数百万円を投資するのは難しいな、と頭を抱えていたんです。だから町田さんからNNCの話を聞いて、低コスト・プログラミングなしでAIが作れると知ったときは、身を乗り出して『ホントにできるんですか?』と聞き返してしまったくらいです」

100枚の画像から熟練作業者並みに分類ができるAIが完成

こうして町田さんはNNCのサンプルを元に、孵化卵の状態を分類できるAIを制作。数十の卵がまとまった写真をアップロードするだけで、卵を分類し個数を数えられる仕組みだ。

「ディープラーニングの認識精度を高めるには大量のデータが必要」ともいわれる中、AIに学習させた画像は100枚ほど。分析精度も熟練作業者並みと、専用のAI画像認識ソフトに引けを取らない分析結果を出せるという。

下田さんが学習用に提供した画像データ

下田さんが「何よりありがたい」と感じているのが、作業工数の削減効果だ。AIを使った場合の分析時間は、画像1枚(卵300〜600粒)あたり1秒に短縮された。

これまではカイコの飼育1回分の孵化調査に10人、計60時間を費やしていた。しかしAIを使うことで、撮影前の処理や撮影、画像分析を含めての作業時間は6時間未満になり、たった1人で完結できるそう。

作業者の負担を減らしたいと考えていた下田さんにとっては、まさにAIによって課題解決ができたというわけだ。

直感的な操作で、プログラミング未経験者でもAIの調整ができる

NNCを使って感じる優れた点は操作性の良さだ、と二人は口をそろえる。「関数ブロックを選んで、ブロックを積み重ねるかピンを引くだけ」という分かりやすい操作は、AI開発のハードルを下げた。

――下田
「ブロックを動かして直感的に操作できるのが、いいところだと思っています。プログラミングの経験はありませんが、NNCの研修に参加し簡単なニューラルネットワークの組み立てなどは私自身でもできました」

実際に下田さんは、セミナーを1度受けただけでNNCの基本操作を理解できたという。

解説動画も無料で用意されている

恩恵を受けられるのは初心者だけではない。開発を担当した町田さんも、「AI開発スピードが段違いに早くなった」という。

――町田
「認識精度を上げるための数値(パラメータ)を修正すると、他の部分も自動的に調整してくれる自動補正機能が気に入っています。ブロック操作と合わせると、プログラミングの負担が減ります」

制作した画像分析AIは検証段階のため、本格的な導入はもう少し先、とのことだが、今後の展望についてたずねると目を輝かせて語ってくれた。

――下田
「養蚕農家へ安全な卵を提供するための微粒子病の検査など、孵化卵の見分けと同様に年々できる人が減っている技術があります。AI分析によって属人化を防ぎ、次世代の人への継承や教育に役立てたいです。

少し先になるかもしれませんが、ベテラン農家さんの経験と勘をどうにか数値化し、新しく養蚕を始めようという人に、『養蚕アプリ』のような形でわかりやすく情報提供できるようにしたいとも考えています」

――町田
「システムを作れる人を巻き込みながら、『産業用AIと言ったら群馬』と言ってもらえるような体制を整えている最中です。

産業の現場や中小企業の方々にNNCを知ってもらい、私たちはローコストで気軽にAIを活用するお手伝いをしていきたいですね」

NNCでAI開発を始めるには

NNCを使い始めるには、以下サイトの「無料で体験」をクリックし、GoogleアカウントもしくはSonyのアカウントでサインインするだけだ。

操作方法は動画や、サポートドキュメントで説明されているほか、社員が直接レクチャーするセミナーも開催している。

AI開発のハードルを下げるNNC。AI導入の最初の一歩として、利用を検討してみてはいかがだろうか。

AIの活⽤事例を探せる検索プラットフォーム「e.g.」を発表します

レッジは、AI活用事例の検索プラットフォーム「e.g.(イージー)」を開発し、Open-β版を本日11月18日にリリースしました。

2020年初頭に正式版としてのサービス提供開始を予定しています。

「e.g.」とは?

e.g.は国内外のAI活用事例を網羅的に集め、分かりやすく解説した検索プラットフォームです。ユーザーは事例を無料で検索・閲覧・保存することができ、事例掲載企業への問い合わせもe.g.上で可能です。

事例は大きく業界別、用途別、技術別の3つの要素で絞り込むことができ、ユーザーは求めている事例に短時間でたどり着くことができます。

e.g.の特徴

  • 利用料無料
  • 事例数国内1位(※自社調べ、400件)
  • 業界・用途・技術の掛け合わせで検索可能
  • 事例掲載企業への問い合わせもe.g.上から可能(※許可をいただいた一部企業様のみ)
  • 気に入った事例を保存できるClip機能
  • 事例ページをそのまま共有できるシェアボタン

AI導入検討層が「事例を探せない」という問題

ビジネスにおけるAI導入が進んでいます。しかし、矢野経済研究所の調査によると、国内民間企業のAI導入率は2.9%と、未だ多くの企業がAIの恩恵を受けているとは言えない状況です。

レッジでは、これまでのAIコンサルティング事業、メディアやイベント運営を通して、AI導入検討企業の方々から、以下のような質問を多く受けてきました。

  • AIで何ができるのか分からない。どうやって勉強すればいいのか?
  • ◯◯業界でのAI事例はどういったものがありますか?
  • 良いベンダー知りませんか?

しかし、いずれも基礎的なリテラシーを持っていなければ、検索して解決するのも難しく、「何がわからないのかわからない」状態となってしまいます。

企業がAIを自社のビジネスに導入する際、必ずと言っていいほど、まずは先行する他社の事例から探し始めるのが常です。

しかし、これまでAI事例はそもそも世に出ている数が少なく、また網羅されていないため、担当者はメディアを見たり、セミナーに参加したりすることでしか事例を探すことができませんでした。

個別で事例を見つけたとしても、ひとつひとつが難解なため、読み解いていくのが難しいといった問題や、ひとつのサイトでまとめて閲覧することができないために、ひとつのフォーマットで読みたいのにも関わらず、別々のフォーマットで閲覧せざるを得ない、またはひとつのフォーマットに手作業で統一し、それを会議で閲覧するなどの手間がかかっていました。

そのようなニーズを踏まえ、AI活用事例がひとつのフォーマットに統一されており、かつ検索作業もひとつのプラットフォーム上で行えるようにする。かつ産業・用途・技術の3つの軸で探せるようにすれば、AI担当者の負担は大きく軽減するのではないか。そう考え、e.g.の開発に至りました。

e.g.の名前の由来

「e.g.」という名前は、ラテン語で「例えば」「例を挙げると」を意味するexempli gratia と、“簡単に検索ができる”ということで、英語のeasyをかけています。

今、AIでどんなことができるのかを事例を通して知る。事例を知ることで、自社のビジネスにどう活かすのかを考え、一歩目を踏み出す。その一歩目を踏み出すサポートをするサービスです。

事例掲載にご協力いただけるパートナーを募集しています

今後、世界中でますますAIをビジネスに活用する企業が増えると予想されます。現在の掲載事例数は400ですが、AI活用事例の増加に伴い、事例掲載数もさらに増加させ、AI導入を検討している企業をサポートしていきます。

また、AIプロジェクトを推進可能な企業やAIツールなど、AIプロジェクトを一歩進める一助となる情報を整理し、データベースをより強固にしていく予定です。

e.g.への事例掲載や、事例を踏まえたユーザーからのAI活⽤の相談に乗っていただけるパートナーも随時募集中です。詳しくはこちらからお問い合わせください。

データの価値を守る。AI文脈で語られるブロックチェーンによる信用創造

第三次AI(人工知能)ブームと言われて久しいが、近いタイミングでブロックチェーンも注目されるようになった。AI(人工知能)とブロックチェーンは異なった技術ではあるが、一概に無関係な技術とは言えない。現在注目を集めるこの2つの技術は、これから世界のシステムを根本的に変えうるブレイクスルーの技術になりつつある。

AI(人工知能)文脈でブロックチェーンが語られることはあまりないだろう。ブロックチェーンとAI(人工知能)合わせるとどのような価値を生まれるのだろうか。

本稿では、KPMGコンサルティングでブロックチェーンのプロジェクトに携わるシニアマネジャーの宮原 進氏にブロックチェーンとAI(人工知能)の関係性について聞いた。

ブロックチェーンとは?暗号通貨ブームを巻き起こした新たなデータ共有技術

――改めて、ブロックチェーンとはどのような技術なのでしょうか?

――宮原
「ブロックチェーンとは、暗号資産(仮想通貨)の取引を自動処理して記録する技術として2009年に誕生したデータ共有の仕組みです。

不特定多数の参加者が存在する市場において、ブロックチェーン誕生以前には、セキュリティを強化した特定のサーバーにて中央集権的に取引データを管理するほかありませんでした。ブロックチェーンの誕生で、複数のコンピュータに分散して取引処理およびデータを保存することによって、特定の管理者を不要とすることが可能となりました。

さらには取引の自動処理とデータの共有化により改ざんの難易度を上げ、取引および保存されたデータに信用を置くことで、取引相手への信用が不要となることがブロックチェーン最大の特徴です」

ブロックチェーンの革新的な点は、不特定多数のユーザーが参加して記録をシェアし監視することで、不正を防止できること。従来信用の担保が難しかった個人間の金銭取引でも利用ができるようになるところだ。

金融分野におけるブロックチェーンは以下の3つのメリットがあるという。

1.データが改ざんできないこと

ブロックチェーンは分散して記録されるうえ、その記録は暗号化されている。そのためデータを改ざんしたとしても、分散して記録されたデータと改ざんされたデータとを照合すれば不正を検出することができる。

2.中央集権を不要とすること

一元管理される取引データを扱う管理者は、信用が担保された金融機関での取り扱いしか成立しなかった。すると、特定の金融機関に集権的にデータが集まるため、独裁的なコントロールが生まれるリスクがある。

さらには中央集権の場合、システムがダウンすれば利用不可となるが、ブロックチェーンだと共有者間で同じデータを持ち寄っているため、1つのデバイスが落ちても、その他デバイスで補完できるためシステム自体はほぼ影響を受けないというのが特徴である。

3.信用創造のコストを下げること

ブロックチェーンは仕組みから取引および保存データに信用を置くことができるため、取引相手に信用を求めない。そのため、従来はコストでありリスクであった取引相手との信用創造が不要となる。


これらのメリットをもれなく享受できたのが暗号通貨をはじめとした金融分野だが、ブロックチェーンはこれからますます活用の幅が広がると考えられている。

――宮原
「ブロックチェーンは、ビットコインなどの暗号通貨で使われる技術だというイメージが先行していますが、じつはさまざまな場面で使われています。

以下の条件下であればブロックチェーンの活用の余地があるといえるでしょう。

  • 価値あるものを多数の参加者間で取引する
  • その取引に不正の余地がある
  • 取引参加者全員が分散してデータを持ち、取引やデータ自体に信用を持たせることで、参加者に信用がなくても、データそのものの価値を守ることができます。

    もともとはフィンテックとして認識されている技術でしたが、ブロックチェーンの仕組みが注目され、幅広い領域で広く活用されるようになりました」

    ブロックチェーンのメリット。データそのものに価値を持たせる

    ――それではどのような文脈でブロックチェーンが使われているのでしょう

    ――宮原
    「サプライチェーンやシェアリングエコノミー、不動産登記、コンテンツビジネスなどでもブロックチェーンは活躍します。これらの取引のなかで、ブロックチェーンはデータの品質を担保します。

    たとえば物流、生産から小売までの流路をつなぐビジネスです。流路の途中で不正が入ってしまう、または疑いの余地がある場合、最終的な商品の価値は下がってしまいます。

    確実な流路であることをブロックチェーンによって証明することで、商品の価値を保つことができ、ひいては生産者の価値を上げることにつながります。消費者にとっても、安心して商品を手に取ることができます。ブロックチェーンは、物流における商流の質を上げることに一役買っているのです」

    また、eスポーツ分野ではゲーム内に登場するトークン取引にもブロックチェーン技術が使われているという。実際の金銭ではなくても、価値が変動しうる取引に活用できるのだ。

    では、これからの時代を代表する技術である「AI(人工知能)」と「ブロックチェーン」はどのようなシナジーを生んでいくのだろうか。

    ブロックチェーンとAI(人工知能)の関係。シナジーは間違いなくある

    ――ブロックチェーンとAI(人工知能)の関連性を教えてください。

    ――宮原
    「AI(人工知能)はデータを学習してデータを処理する、アプリケーションの発展版です。一方ブロックチェーンはデータベースの発展版だと考えることができます。

    既存のシステムがルールベースで処理していたものを、AI(人工知能)はより柔軟に処理できるようになりました。

    従来のデータベースは、一箇所にデータが集まっているため、不正を防止するためにはひたすらセキュリティを強化しデータを隠すことで品質を維持していましたが、ブロックチェーン技術を活用することで、データの共有と品質維持を両立することを可能にしました」

    AI(人工知能)とブロックチェーンは技術のレイヤーが異なるため、両者がもつ特徴をそれぞれ活かしてシナジーを効かせることが可能だという。具体的にどのような相乗効果があるのだろうか。

    ――宮原
    「AI(人工知能)の文脈で言うと、学習の質を高める際に大量のデータを必要とします。

    たとえば医療データを用いてAI(人工知能)に推論させる際、医療データは個人情報保護の観点から、患者が通う医院だけに閉じていて、十分なデータ量を確保できていませんでした。

    ブロックチェーン技術を活用し患者データのセキュリティを上げることで、個人情報を除いた形で多くの症例データを確保することが可能となります。それをAI(人工知能)に学習させることができれば、学習の質も飛躍的に向上します。

    つまりデータ量を確保し、AI(人工知能)に高精度な学習をさせるプラットフォームとして、ブロックチェーンを使うことができます」

    AI(人工知能)は精度が命である。その精度を向上させるにはアルゴリズム選定のほかにも、データの質・量が重要だ。データの質・量をブロックチェーンで担保することで、新たなAI(人工知能)の可能性を生み出しそうだ。

    ブロックチェーンの未来。真価が見えた先にあるブロックチェーンの可能性

    ――ブロックチェーンのこれからについてどうお考えですか?

    ――宮原
    「一時の熱狂は冷めたと感じています。以前はブロックチェーンもバズワードとなって、特徴や利点を鑑みずに導入検討、PoCが行われてきました。ふたを開けるとブロックチェーンである必要がないようなケースも多々ありました。

    現在はブロックチェーンの真の価値が見えつつある段階なので、それにふさわしいアプローチができればと思います。IoTの発展に伴って、データの価値が高まると言われています。いわゆる従来のビッグデータ基盤だけではなく、ブロックチェーンのようなデータを分散させるアプローチも重要度が増していきます」

    ――宮原さんとしてはブロックチェーンにどのような期待を寄せていますか?

    ――宮原
    「KPMGジャパンとしてブロックチェーンのビジネスへの活用に取り組んでいます。

    たとえば、監査とコンサルティング(アドバイザリー)ではアプローチの方向が異なっており、監査はクライアントのもつ暗号資産に対する会計監査やブロックチェーンシステムに対するシステム監査をどのように行うかに着目しています。

    一方、コンサルティングでは、ブロックチェーンの技術でいかにビジネスの価値を高めることができるのかという観点に着目し、活用した際に発生するリスクについても視野に入れて取り組んでいます。

    ブロックチェーンを可能性のある技術として多角的に捉え、課題解決に活用していこうと考えています」

    凍結した会議を共創の場へ。AIによる分析とコンサルタントの知見が生み出すシナジーとは

    ビジネスの現場におけるテクノロジーを用いた新たな業務改善事例は、日を追うごとに増え続けている。なかでも、RPAやOCRなどの急速な普及により、定型的な業務の生産性が向上した例は少なくない。

    一方、会議や交渉といった対人コミュニケーションによる意思決定の場は、ほかの業務とは違い事例が乏しいのが現状だ。

    そんななか、富士通アドバンストエンジニアリング(以下FAE)は会議の様子と発話キーワード量を分析し、情報伝達が主体の会議を新たな価値が創出される『共創型』の会議に昇華させる仕組み「AI会議改革ソリューション」の開発に取り組んでいる。

    FAEは、この「AI会議改革ソリューション」の開発を組織改革を得意とする総合コンサルティングファームの株式会社フューチャーマネジメントアンドイノベーションコンサルティング(以下FMIC)と共同でおこなっている。

    なぜ、FAEはコンサルティングファームと手を組み、AI会議改革ソリューションの開発に踏み切ったのか。経緯をFAE イノベーション推進センター センター長の渡辺 佳男氏に話を聞いた。

    コンサルの知見をAIに落とし込み会議を分析

    AI会議改革ソリューションの特色は、AIによる分析と、コンサルタントによる直接指導を組み合わせたところにあるという。

    日本でも有数の総合家電メーカーであり、総合ITベンダーでもある富士通。FAEは、富士通におけるAIやIoT、ブロックチェーンといった先端技術の研究開発を手がけ、培った技術力を武器に多くの困難な課題に対してソリューションを提供してきた。

    FMICと進めた「AI会議改革ソリューション」の共同開発も、FAEに持ち込まれた難題の1つだったという。

    ――渡辺
    「もともとは、組織変革におけるAI活用についてFMICから相談を受けたのが始まりです。

    ただ、受託開発プロジェクトとして要求通りのモノを作るだけではおもしろくない。テクノロジーによる組織変革に関する知見は、我々のソリューション開発の糧にもなるはずだと考え、FMICとの共同開発を開始しました」

    多くの企業に共通する業務のなかで、会議は特に課題が多いことから会議改革を目指したという。

    FMICの培ってきた会議改革における知見とフレームワークを、FAEの技術力でAIに落とし込む形で開発がおこなわれた。

    ――渡辺
    「実際にプロジェクトを始めると、コンサルティング業界の持つフレームワークや知見はAIとの親和性が高いことがわかりました」

    FMICは、会議あるいはミーティングを6つに分類している。

    会議の6分類

    • 共創
      参加者同士が活発に意見を交わし、新たな発想を生み出している状態
    • 共鳴
      参加者が深く思考し意見を交わすことで、課題解決、アイデアの具体化を行なっている状態
    • 共感
      一部の人が主導し、意思決定やアイデア交換を行なっている状態
    • 共有
      代表が発表する形で情報共有と多少の意見交換を行なっている状態
    • 伝達
      代表が情報伝達を行ないつつも、参加者の集中度は低い状態
    • 凍結
      一方的に指示が飛び、悪い緊張感が漂っている状態

    AI会議改革ソリューションでは、会議の状態を上記の6つに自動で分類することで、会議の状態に応じたコンサルティングサービスを提供できるよう設計された。

    取得データの策定にはコンサルタントの知見が活きたという。

    ――渡辺
    「会議の画像から姿勢を検知し、その時々の発話キーワード量と合わせて解析することで会議の質を分析する仕組みを作り上げました。

    分析結果の質を向上させるため、コンサルタントにヒアリングをおこない重み付けをすることで、AI分析結果とコンサルタントの分析の差を小さくしていきました」

    教師データはどのように集められたのか

    AI会議改革ソリューションの開発には、会議内の様子を撮影した画像と録音した音声が教師データとして使われている。

    画像に関してはまだしも、会議の音声には機密情報も含まれるため、収集が難しいように思える。

    FAEは、音声自体を録音するのではなく、発話キーワード量を記録することで、この障壁を乗り越えたという。

    ――渡辺
    「AIで会議を分析する際に重要なのは、話の内容ではなく、出席者がどれだけ自発的にコミュニケーションに参加しているかです」

    渡辺氏によると、AI会議改革ソリューションは発話キーワード量に焦点を当て、内容ではなくその場の盛り上がりを分析することで、会議の状態を評価しているという。この手法を選択したことで、データ取得の障壁を下げることに成功している。

    だが、音声情報自体は取得しないように設定したとはいえ、協力を依頼していた企業の反応にはやはりばらつきがあり、取得データはそれほど多くはならなかった。

    そのため、自社で主催するハッカソンやチームでおこなうイベントの様子を追加し、完成にこぎつけた。

    現在では、会議の様子を撮影した画像から会議の質を簡易分析することが可能だという。

    組織改革コンサルとAI開発を進める意義

    AIにより出力された結果を効率的な改善につなげるためには人の手助けが必須だと渡辺氏はいう。

    実際、豊富な知見を持つコンサルタントによる分析結果の解釈とクライアントに対する直接的な指導により、実証実験では、共鳴、共創に分類される会議の割合が25%から51%へと、劇的に向上した。

    ――渡辺
    「AI会議改革ソリューションは会議改革を起こすきっかけや手助けにはなりますが、人を変えるのは結局プロフェッショナルの仕事です。

    つまり、AI会議改革ソリューションはコンサルタントの新たな武器であり、より良いサービスを提供する付加価値だということです」

    現在、FAEとFMICはAI会議改革ソリューションを体験したい参加企業を募っている。

    会議の生産性向上を目指す。AIとコンサルタントの知見を活かしたソリューション誕生。

    富士通アドバンストエンジニアリング(以下 FAE)とフューチャーマネジメントアンドイノベーションコンサルティング(以下 FMIC)は、AIによる会議の診断とコンサルティングファームの持つ指導スキームを掛け合わせた「AI会議改革ソリューション」の提供を開始した。

    FAEとFMICは昨年10月に開始していたPoCの結果から、「AI会議改革ソリューション」が会議の質の向上に役立つことがわかったため、2019年8月からサービスとして本格的に始動する。

    「伝達型」の会議から「共創型」の会議へ

    AI会議改革ソリューションは、AIによる画像や動画の分析結果をもとに会議の状態を診断し、会議改革への知見をもつコンサルタントが直接指導をおこなう包括的なサービスとなっている。

    画像や動画から参加者の姿勢テーブル上の物体などを検知し、分析しているという。

    AIが会議の状態を診断することで、いままでの定性的な診断結果に加え、参加者の姿勢や何がテーブル上にあるかといった要因から定量的に会議の質を分析できるようになるという。

    FMICは、会議を新たな発想が生まれる「共創」の場に変えることで人材育成、チームビルディング、創造性の強化といった課題の解決につなげていきたいと意気込む。

    AI会議改革ソリューションとして提供されるサービスは以下の通り。

    サービス名 サービス内容 提供価値 詳細・費用
    AI簡易診断 会議5場面の写真を分析し、会議の質を簡易的に診断 AIと会議改革コンサルタントによる簡易診断レポートの作成

    簡易診断内容の他社比較

    費用
    9,090円
    (税別)

    レポート
    3営業日以内

    AI診断 + 共感・共鳴・共創 会議手法®️ 半日コース FMICのコラボレーションコーチ®️の改善手法を体験し、AIが会議の変化を分析 会議の質の向上をその場で体感

    AIツールによる分析結果をリアルタイムで表示

    費用
    60万円-
    (税別)

    所要時間
    3時間

    参加人数
    5-20名

    AI診断 + 社内コラボレーションコーチ®️ 育成コース 上記2サービスに加え、クライアント社内でコラボレーションコーチ®️を育成 会議の質の向上

    組織活性化

    社内コラボレーションコーチ®️の育成

    費用
    360万円-
    (税別)

    期間
    2ヶ月

    参加人数
    1-2部門

     

    Ledge読者限定で無料診断を実施

    AIによる簡易診断は結果はコンサルタントのコメントとともに記載され、会議の生産性を高めるためのアクションが列記される。

    今回、Ledge.aiの読者に向けFMICは20社限定で画像によるAI簡易診断を無料で提供する。

    会議の様子を5枚以上撮影し、以下のフォームから申し込むことで簡易診断への参加が可能となる。実際にAIに触れるまたとない機会だ。多くの人に試してもらいたい。

    AI×HoloLensで製造現場の課題解決に取り組む。MR(Mixed Reality)がもたらす変革の最前線

    5月29、30日にかけて行われた日本マイクロソフト主催のエンジニア向けテックカンファレンスde:code 2019で、HoloLens 2(ホロレンズ 2)の年内国内発売が発表された。

    そんななか、KPMGコンサルティングはいち早く複合現実(Mixed Reality:MR)の可能性に着目し、Microsoft HoloLens(以下 HoloLens)を活用したソリューション「Holographic Manufacturing」を開発したと言う。「Holographic Manufacturing」をはじめとしたAI(人工知能)とMR技術の融合について、KPMGコンサルティングのシニアマネジャーのヒョン バロ氏に話を伺った。

    製造現場でHoloLensを導入。両手を解放し、ベテラン作業員のナレッジを活かす

    KPMGコンサルティングの製造業企業向けソリューション「Holographic Manufacturing」は、国内大手製造企業の製造現場で試験導入が進められている。その現場の1つが造船だ。

    船舶の製造現場では、部品点数は数万点から数百万点にのぼり、ベテラン作業員といえどもすべての部品を把握することは難しい。ましてや、経験の浅い作業員では都度、それぞれがどのような部品なのかは紙の仕様書で確認する必要がある。

    そのため、作業者のわからない部品は「仕様書を調べる」という作業は必須だ。つまり、両手での作業が必須な現場で作業を中断したうえで、ページをめくるという作業が入ることになる。

    また、多くの製造業企業において、熟練作業員が長年の経験で培ったノウハウはアニュアル化されておらず、将来ベテラン作業員の退職に伴ってナレッジが継承されないという課題がある。

    バロ氏によると、こうした製造現場の課題に対してAI(人工知能)とMR技術の親和性は非常に高いという。

    ――バロ
    「製造現場において、部品を仕様書で確認する作業は非効率です。作業を中断して仕様書を確認する時間を合算すると、結構な時間になるんですね。

    この課題に対して弊社は、AI(人工知能)でアプローチしました。まず部品1つ1つを画像認識でAIに学習させ、さらに部品ごとに仕様書と同様の関連情報を付与しました。

    そして、このアプローチへの親和性がもっとも高かったのが、スマホやタブレットのように片手がふさがるデバイスではなく、ヘッドマウントディスプレイ(HDMI)のHoloLens(ホロレンズ)だったのです」

    HoloLens(ホロレンズ)と部品情報を学習したAI(人工知能)を組み合わせることで作業者の両手を解放した。これまで識別が困難だった微妙な部品の違いも、画像認識技術によって高精度で識別できる。

    作業者がHoloLensに装着されているカメラで部品を撮影すると、部品の関連情報がHoloLens(ホロレンズ)の画面上に表示される。作業が直感的に行えるだけでなく、部品の取り違えなどの作業ミスやそれによる手戻りも防げる

    また、経験の浅い作業員が関連情報だけではわからないことやベテラン作業員のアドバイスを受けたければ、HoloLens(ホロレンズ)のビデオ会議機能を使い、部品の画像を見ながら別の場所にいるベテラン作業員と会話することもできる。

    ――バロ
    「仕様書を確認したり、熟練技術者に問い合わせたりする時間の短縮が期待できます。

    これは企業規模でみると、非常に大きなインパクトがあります。

    たとえば、とある製造企業における試験導入では、一部の作業工程においてこのソリューションで90%の部品識別精度を達成し、作業時間も短縮できました。今後、対象の作業を拡げることで、全体の製造過程の作業効率の向上が期待できます」

    現実世界とデジタル(仮想)世界を融合するMRの大きな利点は、その直感性と両手が使えること。

    ユーザーニーズはあるのか。AI×HoloLensの生み出すシナジー

    ―― 現場の声はどうでしょうか?

    ――バロ
    「現場のほとんどの作業員はもちろんHoloLens(ホロレンズ)に触るのがはじめてです。もはやアベンジャーズの世界ですよね(笑)使用回数を重ねて徐々に慣れていく感じでした。HoloLens(ホロレンズ)はシースルーレンズであるため、ある程度の危険が伴う現場でも問題なく使えます。

    ただ、現状ではデバイスが重くて大きいため長時間使えないのが難点です。将来デバイスの小型軽量化に期待します」

    使用者の声を聞くと、やはり最初は戸惑うことも多いようだ。しかし、テクノロジーとは遠く無縁な人でもすぐに慣れて使いこなせるところがHoloLens(ホロレンズ)のデバイスとしての革新的なところだろう。

    さらにバロ氏は、AI(人工知能)とMRは組み合わせることでより一層大きな価値を生み出すという。

    ――バロ
    「AI(人工知能)とMR、どちらも将来の基幹技術になることでしょう。両者は組み合わせることによってシナジーを生み出します。

    たとえば、HoloLens(ホロレンズ)は人の目線から画像データを撮影できます。ユーザー目線の主観データが取得可能ということです。ゆくゆくは音声/動画データ位置情報などリアルな生のデータが取得できます。

    リアルなデータが蓄積され学習が進むと、製造現場でのMR活用は作業者にとって熟練した職人が隣で教えてくれている感覚により近づきます」

    KPMGコンサルティングの展望。人とAIのマリアージュ

    ――今後の展望を教えてください。

    ――バロ
    「スマートグラスも続々販売され、MRはこれからますます伸びていく市場です。現状はB to B市場が活発ですね。デバイスが高額なため適正価格になるまで消費者へはなかなか浸透していきづらいと考えています。

    いずれはB to Cの市場も視野に入ってくると思いますが、まずは1つでも多くB to B市場でユースケース作っていきたいと考えています」

    ――バロ
    「KPMGコンサルティングが提供するソリューションにおけるコアバリューはバックエンドのアルゴリズムと画像認識。アルゴリズムは独自に開発しています。これを製造業をはじめとするあらゆる産業に広げていきたい。

    私たちのアルゴリズムを、HoloLens(ホロレンズ)というデバイスと掛け合わせてヒトとAI(人工知能)のマリアージュを実現していきます」

    KPMGコンサルティングが取り組んでいるのは、ハードウェアではなく、ソフトウェアだ。これから世界規模で巻き起こるだろうヘッドマウントディスプレイやMR技術の興隆に大きく寄与する取り組みになりそうだ。

    その先に、ヒトとAI(人工知能)のマリアージュした世界がある。AI(人工知能)が人間の作業をすべて代替することなく、AI(人工知能)と人間が相互補完し合うような関係を目指すというのがこの構想だ。

    この先MR技術はAI(人工知能)と人間が歩み寄るきっかけをつくり、互いの距離を縮める手助けをしてくれるのかもしれない。

    セキュリティ・DX・AIのミライを話そう。「Macnica Networks DAY 2019」が7/4〜5開催

    近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進され、データを起点としてさまざまなものが「つながる」時代となった。また、「つながる」ことにより、サイバーセキュリティにおいても網羅すべき点はさらに拡大し、重要性は増している。

    クラウド、デジタル時代に突入したいま、新たな価値の創造に向け、企業は何をすべきなのか?

    そんな疑問に答えるイベントが、7月4日、5日にかけて開催される。株式会社マクニカ/マクニカネットワークス株式会社主催のカンファレンス「Macnica Networks DAY 2019」だ。

    本稿ではイベントの概要と見どころをお伝えする。

    DAY1はサイバーセキュリティ・DXで構成

    カンファレンスは2日間にわたって開催される。7月4日「DAY1」は、マクニカネットワークスの主軸事業であるサイバーセキュリティに、DXを加えたセッションで構成。

    基調講演にはエレベーター、エスカレーターのメーカーであるフジテックの常務執行役員 デジタルイノベーション本部長の友岡 賢二氏が登壇し、同社が実践するセキュリティやDX推進における情報システム部門の役割について語る。

    フジテック株式会社 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡 賢二氏

    毎年開催される「MNCTF(Macnica Networks CTF)」も見どころだ。「CTF」とはCapture The Flagの略で、セキュリティやハッキングスキルを競うコンテストを指す。

    CTFは世界中で行われており、最高峰はラスベガスで行われる「DEF CON CTF」、日本では「SECCON CTF」などが有名だ。

    MNCTFでは、webサーバーに公開された問題を解くごとにポイントが加算され、合計スコアを競う。一般の企業、組織のセキュリティ運用で求められるスキルに関する問題が出題される。個人戦で、1社から複数名参加できる。

    またDXのセッションでは、各業界を牽引してDXを推進している企業を招聘し、パネルディスカッションを行う。

    各社が取り組むDXの経験や、DX推進にあたり検討が必要となる組織やビジネスプロセス、要素技術について深堀りする。データマネジメント戦略の事例講演や、コンテナセキュリティに関するセッションも用意されている。

    DAY2テーマはAI・IoT

    7月5日「DAY2」では、マクニカグループが展開する「macnica.ai」ブランドを通じた情報発信が行われる。

    AI、IoTを取り巻く国内外のさまざまなノウハウやユースケースを中心に、

    • マクニカグループ顧客の事例
    • AI、IoTの世界的な動向
    • AI導入プロセスのコツ
    • 機械学習
    • ディープラーニング
    • データ処理

    などのさまざまなテーマが話される。

    基調講演には「激動のAI時代に生き残る術とエクスポネンシャル思考」と題し、エクスポネンシャル・ジャパンの代表取締役 齋藤 和紀氏が登壇する。

    エクスポネンシャル・ジャパン株式会社 代表取締役 齋藤 和紀氏

    これからの時代に組織の舵取りをするに当たり、テクノロジーで未来を見通す力を考察し、身につける方法が語られる。

    また、AIとIoTを活用した「スマートストア」を推進するトライアルのセッションにも注目だ。「リテールAI活用で「流通情報革命」を加速する!」というタイトルのもと、リアル店舗を持つ小売企業のDX事例が語られる。


    株式会社トライアルホールディングス 取締役副会長 グループCIO 株式会社Retail AI 取締役会長 西川 晋二氏

    トライアルは、AIカメラの自社開発、長期間にわたるデータの蓄積、AIによる各種データ活用の自動化など、AIとIoTを活用し、快適な顧客体験を提供する「スマートストア」を推進している。「メガセンタートライアル新宮店」のリニューアルオープンは話題になった。

    セッションでは、スマートレジカート、AI駆動のデジタルサイネージ、電子値札などの活用など同社最新ストアでの取り組みを紹介しながら、DXのリアルな事例が紹介される。

    開催概要

    会期 2019年7月4日(木)、5日(金)13:00~17:40(受付開始12:00)
    ※7月4日(木)MNCTFのみ、9:45~(受付開始 9:15)
    対象 DAY1:
    対象企業内情報システム/ITインフラの企画、設計、運用に携わる方
    お客様へ情報システム/ITインフラをご提案される立場の方
    DAY2:
    AI、IoTやデータアナリティクスなどの企画、運用に関わる方
    製造業でのIoT、スマート工場化を検討している方
    参加費 無料※事前登録制
    主催 株式会社マクニカ、マクニカネットワークス株式会社
    参加費 無料
    特設サイト https://www.macnica.net/mnd/mnd2019/index.html/

    企業の暗黙知を形式知に。経営層の意思決定をAIで支援する

    AIの役割の1つは、人間には不可能だったことを可能にすること。人間の能力を拡張するケースでの活用が多い。では、企業経営の意思決定ではどう活用できるのだろうか。

    KPMGコンサルティングでは、経営とAIという文脈でクライアント企業の経営課題に寄り添ったAI活用のソリューションを提供している。長年コンサルティング業務に携わり、AI領域のディレクションも行う、KPMGコンサルティング株式会社 ディレクターの山本直人氏に、経営課題に対してAIでどのようなアプローチを取っているのかを聞いた。

    暗黙知を形式知化する。見えない経営課題を自然言語処理で浮き彫りに

    ――コンサルティング企業ならではのAIに関する取り組みについて教えてください

    ――山本
    「私たちは、経営の意思決定を高度化する、という点にAIを活用することで企業の競争力を強化するという活動を行っております。現状、企業の意思決定が暗黙知ベースで行われ、結果打ち手の精度に欠けているという状況にあると考えます。私はコンサルティング活動のなかで、クライアントと数々の深い対話を行いますが、そのなかで識別される試行錯誤の過程で生み出されるデータこそ価値あるデータであると考えます。

    たとえば、担当者の報告書メールなど。企業の基幹システムではなく個人のラップトップや共有サーバーに残っている自然言語情報には多くの知見が含まれております」

    とりわけCXOやビジネス部門のリーダーなどの意思決定者からすると、現場から上がってくるのは良い結果の報告だけであったりなど、バイアスがかかった限定された情報のみの場合が多い。

    現場の担当者が作成する報告書(日報など)をリアルタイムにすべて読みこみ、現場でどのようなことが起こっているのか、課題は何なのか、その課題はどのようなビジネスインパクトを帯びているのか、関連する事柄は何なのか、という点を包括的に把握するのは、人間の認識能力の観点でも不可能であろう。

    そこで、AIの自然言語処理を用いて、社内に溢れている見えにくかった情報を可視化するのが、KPMGが取るアプローチのひとつである。このことを山本氏はこのように表現する。

    ――山本
    「KPMGのアプローチは暗黙知を形式知にすること。

    たとえば、我々の取組みの一例を紹介すると、自然言語処理で、クライアントの内部の情報をできるだけ吸い上げます。さらに外部の情報、公開論文や特許情報、クライアントの属する業界の公開情報など、意思決定の外的要因になりうる情報を取得し、内部の要素と関連付けます。

    そして、重要トピックをグラフ構造で関連ある情報まで含めて体系的に可視化し網羅的な視点を提供したり、ダッシュボードといった形式で現場の状況を見える化するのがKPMGの基本的な取り組みです。必要なデータを正しく瞬時に取り出すことがポイントで、そこがAIで支援していることと言えます」

    このように、人間の情報処理能力では処理しきれなかったデータ/情報をAIに学習させ、人間が把握しやすいように情報を再構築することで意思決定者を支援できる。
    ――たとえばどのような業界でどんなデータを扱うのですか?

    ――山本
    「弊社では製造業のクライアントが多いです。

    製造業はとくに設計図に至るまでの数々の報告書に知見が大量に隠れています。

    たとえば、技術報告書と品質報告書では、両者で語られることは異なっています。両方を網羅していなければ、検査漏れや故障などのリスクが伴います。

    そのため相互の関係性をAIの自然言語処理で形式知として示すことで、社内の弱い部分を浮き彫りにすることができます」

    コンサルティングのなかでAIは新しい技術要素だが、実際にAIがコンサルティングと絡むとどのようなシナジーが生まれているのか。

    経営コンサルティングにおけるAIのポジション。戦略を練るために活用し、意思決定を支援する

    ――経営のコンサルティングにおいて、AIの立ち位置を教えてください

    ――山本
    「王道のコンサルティング活動としてBPRが挙げられますが、業務フローやデータ流れ図などを分析し、業務の重複を見つけて業務フローを正規化する、といったことを行います。しかしAIを業務の中に適合することができると既存の業務フローは根底から変化します。

    経営コンサルタントとして業務の本質を見極め、そこにAIを組み込むことにより、従来のBPRでは得られないような大きな効果を生み出す、というところがポイントと考えます」

    AIは人間のできない部分、諦めていた部分を補い、拡張する手段となっている。そのため今後はAIが介在することが前提となり、AIに支援された経営が企業を成長に導く未来が約束されそうだ。

    こうした動きに伴って、KPMGコンサルティング株式会社はAIの正しい認識をクライアントに届けるため、社内に蓄積された大量のAI活用事例を用いてコンサルタントを教育しているそうだ。これからはAIで目指せる世界観を正しくクライアントに伝達することが求められるという。

    また、コンサルティングのなかでAI込みの世界観を作っていくためには、コンサルタントが経営のゴールを示すだけではなく、プロトタイプを泥臭く回し、ゴールまでの正しい道のりを示す必要があると山本氏は言う。

    ゴールを示すだけではなく、ロードマップを敷くためにどれだけ小さく回すのか

    ――KPMGコンサルティング株式会社が提供するAIサービスの特徴は何ですか?

    ――山本
    「KPMGのAIソリューションは、各社にカスタムメイドで提供していることが特徴です。

    コンサルタントとして、AIでたどり着ける未来をクライアントに示した上で、プロトタイプを繰り返す。どれだけ小さく回すかが重要です。それを地に足をつけたかたちで計画し、各社個別でAIのポテンシャルを最大化していきます」

    ――山本
    「そういう意味では、これからのコンサルティング会社に求められるのは、

  • AIをきちんと作る技術力
  • 外的環境変化を読み取り、クライアントの競争力強化のAIソリューション提案力(コンサル的能力)
  • 提案したAIソリューションを実現してく技術力
  • なんです」

    AIの支援により意思決定者の情報力は格段に上がり、起こりうるリスクも未然に防げる。クライアント毎の経営における課題を鑑み、これまでリーチできなかった情報に到達できた世界観をどれだけ想像できるかが重要だ。

    しかし、ここで山本氏は、AIはあくまで技術領域の1つであり、経営の未来を描くうえでAIは本質ではないと言う。

    部署規模 → 全社規模 → 業界規模へ。新たな技術でエコシステムをデザインしていく

    ――山本さん個人としては、これからのコンサルティングの世界観をどのように描いていますか?

    ――山本
    「私としては、個社で止まっているデータを業界全体に展開していくこと。社会実証のようなかたちで、今はブラックボックスになりがちなクライアントのデータを横断的に活用し各産業を盛り上げたいです。

    まずは部署で止まってしまいがちなデータを社内全体で活用できるように広げていくことが先決です。

    また、各社でデータ活用の度合いはさまざまなので、ゆくゆくはそれらを業界全体として平準化して底上げしていきたいと思っています」

    部署規模から、全社規模へ。社内規模から業界規模へ。 さらに、山本氏は需要に対しAI人材が圧倒的に少ない現状において、ナレッジをPlatform化することで効果的なナレッジ享受の仕組みを作りたい、という抱負を語る。

    ――山本
    「いまはたまたまAIに取り組んでいるのですが、AIは1つの技術要素にすぎないです。

    これからはAIを含めた、IoTやブロックチェーンなどポテンシャルの高い技術に精通すること。それらが組み込まれたエコシステムをトータルデザインすることが、次のステップです」

    新たな技術革新で取り組みの内容は徐々に変化するかもしれない。しかし、KPMGコンサルティングの根底にある本質的なアプローチはこれからも変わらないようだ。

    AIの権威が語るコンピュータービジョンが社会実装される未来

    第三次AIブームの火付け役と言える出来事の1つである、コンピュータビジョンの飛躍的精度向上。この技術的ブレークスルーは2012年、当時、トロント大学の教授だったジェフリー・ヒントン氏を中心としたチームが、ImageNetで圧倒的な画像認識精度で優勝したところまで遡る。

    それ以前より、AI・コンピュータービジョン分野で活躍を続けていた研究者の1人が台湾国立清華大学准教授のミン・スン氏だ。

    現在、Fortune誌の「AI革命を牽引する50社」や、CBInsightsの「世界で最も有望なAI企業100社」に選出されているAI企業、Appier Inc.にて、Chief AI Scientistを務めるミン・スン氏。

    技術的ブレークスルー以前からAIの研究に携わり続ける権威が語る、コンピュータビジョンが社会実装される未来とは、いったいどのような姿なのだろうか。

    過去の変遷を踏まえ、コンピュータービジョンの社会実装にはどのような障壁が存在しているのか。障壁を乗り越えた先で、どのような未来の姿が形成されていくのか。ミン・スン氏の意見を聞いた。

    半世紀以上の研究の末、迎えたブレークスルー

    ――まずは、コンピュータービジョン分野の変遷について教えてください。

    ――ミン・スン
    「コンピュータービジョンが日の目を浴びるまで、長い時間がかかりました。2012年、ジェフリー・ヒントン氏率いるトロント大学の開発したAlexNetがImageNetで優勝し、コンピュータビジョンがブレークスルーを迎えたことをご存知のかたは多いと思います。

    しかし、科学技術分野としてのコンピュータービジョンは約70年の歴史があります。すでに1960年代には、コンピュータビジョン分野の原型が生まれていました。

    さらに、2012年から注目を集めているディープラーニングも、コンセプト自体は数十年前から存在していたんです」

    1960年代後半、日本国内でも郵便番号の自動認識が実用化されていることから、コンピュータービジョンが長い歴史を持っていることがわかる。

    ディープラーニング自体も1979年には福島邦彦氏によって原型が発表されている。

    しかし、物体や、人の顔などを高い精度で認識できるようになったのは2012年以降だ。2012年、いったい何が起きたのだろうか。

    ――ディープラーニング技術以外の要因で、何がコンピュータービジョンのブレークスルーに繋がったのでしょうか?

    ――ミン・スン
    デジタルカメラの普及と画質の向上、さらにGPUなどのコンピューティングリソースの進歩による影響が大きいですね。

    ディープラーニングを実際に利用するには、大量のデータが必要ですし、そのデータを処理するための高度な演算能力が必要となります。ディープラーニングという根幹技術に加え、その技術を支える要素が揃ったタイミングが2012年だと認識しています」

    現在のコンピュータービジョンは、特定条件下では人よりも高い認識精度を叩き出している。

    スマートフォンの顔認証や自動運転車への搭載、パンの自動認識レジなど、コンピュータービジョンの商用化が進む産業界とは対照的に、公的な場における防犯カメラへのコンピュータビジョンの導入といった社会実装に向けた足取りは重い。

    社会実装における障壁

    ―― AIが人を超える画像認識精度に到達した今でも、コンピュータビジョンの社会実装は試験導入段階にあります。何がコンピュータービジョンの社会実装を阻む障壁となっているのでしょうか?

    ――ミン・スン
    「社会実装への障壁は、定量的なものと定性的なものがあります。

    定量的な実装障壁でいうと、通信にかかる制限や費用などが挙げられますが、コンピュータービジョンの特性をもっとも必要としているのは、人口減少や高齢化に悩まされる地域です。

    そのような地域は人口が少ないうえ、経済規模も都市部に劣る傾向にあるため、コンピュータービジョンの導入・運用費用がボトルネックになりがちです。

    また、山岳部や過疎地域では、通信環境も整っていないことが多いため、連続的に大量のデータを送り続けるのが難しいケースもあります」

    たしかに、現行の通信規格では、無数のデバイスから送られてくる動画や画像を捌ききれず、通信に遅延が発生してしまう可能性が大きい。

    また、少ないデバイスで広範囲をカバーしようとすると、最新の撮影デバイスのみが対応している4Kや8Kといった高解像度の画像が必要となるため、コストやデータのサイズが一気に膨らむ。

    個人利用や商業施設の場合、限定的な範囲での送受信であるため、それほど高度な通信レベルは必要とされていないが、地域や都市全体をコンピュータービジョンで網羅するにはいまだに不安が残る。

    ――ミン・スン
    「定性的な実装障壁は、プライバシーに対する考え方AIのブラックボックス問題などがあります。

    こういった、人の考え方に関わる障壁を取り払うには、カメラで取得したデータの取り扱いや、AIが何を根拠に答えを出しているのか説明していく必要があります」

    AI、特に画像や動画を取り扱うコンピュータービジョン分野では、プライバシーに関する懸念の声があがっている。

    また、AIが結論を導き出すまでのロジックがブラックボックス化されていると考える人たちは一定数存在している。そのため、日本政府の人間中心のAI社会原則案にも表れているように、AIが出した結論に対する説明責任を示すことが求められている。

    こうした定性的・定量的な障壁が取り払われたとき、社会はどのように変わっていくのだろうか?

    コンピュータビジョンの普及で形成される未来

    ――ミン・スン
    「治安の良い国に住んでいると、意識する人は少ないかもしれませんが、世界規模でみると、テロや凶悪犯罪の脅威は高まっています。

    コンピュータービジョンはテロを計画段階で防ぐことに役立つはずです。防犯カメラは、犯罪を取り締まるためではなく、抑止するための社会基盤として働くでしょう」

    ――ミン・スン
    「また、医療・福祉のような公共性の高い分野は、コンピュータービジョンとの親和性が高いです。レントゲンやMRI画像に加え、患部の画像など、さまざまな画像データが入手できる病院はデータの宝庫といっても過言ではありません。

    一部では、コンピュータービジョンを用いた診断が試験的に始まっており、医師による診断と同レベル以上の精度で特定の病気を検知できるものが生まれています。

    説明可能なAIにより、社会におけるAIに対するバイアスが払拭されれば、医療分野は一気に変わるでしょう。

    これらの未来はありえない話ではありません。近い将来、実現される未来です」

    「肩書きよりもデータ」AIの権威がスタートアップに身を投じた理由

    FoxconnやHTC、ASUSに代表される製造業中心国家だった台湾に、近年、Google、IBM、MicrosoftといったAI分野で圧倒的な存在感をみせる企業が開発拠点を次々と立ち上げている。

    AI先進国へと変貌を遂げようとしている台湾で注目を集める研究者の1人が、台湾発のAIスタートアップ「Appier」でChief AI Scientistを務めるMin Sun(ミン・スン)氏だ。

    ミン・スン氏は、2014年から2017年まで、台湾で理系の名門として名高い国立清華大学で准教授として活躍した。

    アカデミックの世界で数々の功績を残しているミン・スン氏。大学教授としての順風満帆な未来を投げ打ち、なぜ激動のスタートアップ業界で挑戦することを決めたのか。

    本稿では、AIに魅了されたミン・スン氏のこれまでの歩みと、スタートアップで挑戦する決意の裏側に迫る。

    ミン・スン氏登壇決定。無料セミナー「AI TALK NIGHT

    第8回目となる今回のテーマは「Innovation Beyond Borders」。世界各国でのAI活用トレンドや、日本のAI業界における課題や勝機などを多角的に議論します。具体的な事例を交えつつ、業界最前線のゲストにたっぷり語っていただきます。

    偶然から始まった、AI研究者としてのキャリア

    ミン・スン氏は、絵に描いたようなエリートコースを辿ってきた。台湾国立交通大学を優れた成績で卒業し、渡米。スタンフォード大学の修士課程を修了した。

    その後、ミシガン大学で博士号を取得し、ワシントン大学に博士研究員として在籍。その過程で、Google Brainの創始者の1人で、AIの第一人者であるAndrew Ng氏や、Google CloudにおけるAI、機械学習研究のトップを務めたFei-Fei Li氏と出会い、共同でプロジェクトを行なった。

    台湾に帰国してからは、台湾国立清華大学で准教授に就任し、数々の論文で最優秀論文賞を受賞してきた。学術分野で華々しい経歴を築いてきた彼とAIの出会いは、大学院進学までさかのぼる。

    今ではAI分野における最高頭脳の1人となったミン・スン氏だが、大学時代は半導体基盤の設計者を目指し、勉学に明け暮れていたという。

    ――ミン・スン
    「出身地が半導体の生産地として世界的に有名だったこともあり、大学では漠然と基盤設計者としての道を進むのだろうと考えていました。そのため、大学を卒業し、新たな学びを求めて渡米したときも、専攻希望は半導体分野のままでした。

    ですが、半導体分野を学んでいる学生はアジア人しかいなかったんです。新しいことを学んでいるのは確かでしたが、台湾にいるのとそう変わらない環境であることに危機感を覚えていました。

    そんななか、たまたま目にとまったのが機械学習でした」

    ミン・スン氏がスタンフォード大学院に入学した2005年当時、機械学習はほとんど認知されていなかったという。

    だが、機械学習はミンスン氏が求めていた、台湾にはない新たな学びそのものだった。

    ――ミン・スン
    「統計学的には不可能だと言われていたことが、機械学習では可能になる。つまり、機械学習は『不可能』を『可能』にするアルゴリズムなんです。

    私が目指していた基盤設計者の仕事を代替できる可能性がある技術を目の前にして、半導体を学び続ける気にはなれませんでした」

    数ある機械学習の技術分野のなか、画像認識はとくに魅力的に見えたとミン・スン氏は語る。

    今でこそ大きな注目を集めている画像認識だが、2005年当時には深層学習を用いた高精度なモデルは存在していなかった

    そんななかミン・スン氏が取り組んだ研究は、1枚の2D画像から3D画像を生成する、「3D reconstruction」と呼ばれる研究だ。

    彼はこの研究をAndrew Ng氏と進めるだけでなく、Y Combinatorからの支援を受け、スタートアップを立ち上げるに至っている。

    Y Combinator
    シリコンバレー発のシードアクセラレーター。シード段階のスタートアップに対し、投資したうえで事業開発指導をおこない、数多の企業を成功へ導いたことで知られる。主な投資先にDropboxやAirbnbがある。
    ――ミン・スン
    「1枚の2D画像から3D画像を生成することは、当時は困難でした。物理の観点から見るとわかるように、奥行きには2点からの観測が必要だからです。

    ですが、人が経験で理解できる奥行きを、機械学習で再現できないはずはないと信じ、実現までこぎつけました。

    後にも先にも、これほど印象的な研究はありませんね」

    充実した研究生活のなか、秘めていた思い

    大学院卒業後は、Andrew Ng氏の紹介を受け、Fei-Fei Li氏のもとで博士課程を過ごし、ワシントン大学で博士研究員として研究を続けた。

    AIに注目が集まるようになってからは、企業や大学から引く手数多だったという。長いアメリカ生活の末に、ミン・スン氏と同じく、台湾出身の女性と結婚もしていた。

    しかし、ミン・スン氏は9年間の海外生活のなかで秘めていたある思いを行動に移すため、長いアメリカ生活に終止符を打った。

    ――ミン・スン
    「アメリカで学び始めた当初から、学んだものを台湾に還元したいという思いを抱えて過ごしてきました。2014年、AIに関する研究がにわかに盛り上がり始めたことをきっかけに、その思いは焦りに変わりました。

    今ならまだ、台湾も世界と戦える。そのための技術を伝えるため、帰国を決意しました」

    台湾に帰国して間もなく、ミン・スン氏は自らの故郷にある国立清華大学に、准教授として招かれた。

    研究者に必要なのは、肩書きよりもデータ

    故郷に戻ったミン・スン氏は、准教授就任初年度からCVGIPにおいて最優秀論文賞を3年連続受賞するなど、精力的に活動を続けながらも、大学生の教育にも力を入れていた。

    CVGIP
    正式名称 Computer Vision Graphics and Image Processing
    台湾国内で開催されているコンピュータビジョンの研究会議。毎年、約200本の論文が採択され、そのうち3-5本が最優秀論文賞に選ばれる。

    2014年から2017年の間に30本以上の論文を発表し、なかには1000回以上引用された論文もある。

    だが、ミン・スン氏は1つの経験を通してスタートアップで働く魅力を感じ始めていた。

    ――ミン・スン
    「2017年の夏、Appierの創業者で、旧知の仲でもあったChih-Han Yuからサマーリサーチプログラムの招待を受けました。

    長年私の教え子たちを支援してくれていたこともあり、参加を決めたのですが、その時に感じたスタートアップ特有のスピード感がとても心地よかったんです。

    ビジネスにおける研究は、アカデミックの研究とは異なります。短期間で、中・長期的なビジネス活用を描きながら研究していく必要があるため、アカデミックとは違う楽しさがありました」

    ――ミン・スン
    「膨大な量の生きたデータに触れられるビジネスの現場は、研究室よりも輝いて見えました。これ以上の環境は大学では再現できないと感じ、スタートアップへの参画を決めました。

    研究者には、肩書きよりもデータが必要なんです」

    “It’s not true that you can only do great things in the US.”

    機械学習との偶然の出会いから始まったAI研究者としての道。AIが日の目を見ない時代から研究を続けてきた彼を支えたのは、新しい学びへの飽くなき探究心だ。

    彼は、研究の場を大学からスタートアップへと変え、肩書きにとらわれない、研究者としてもっとも必要としているものをどのように得ていくか行動で示している。

    AIの研究者として重要なのは、大学で教授という肩書きを持って研究することではなく、研究に必要なデータがありつつ、自分が誇りに感じる場所で研究できるかどうかだ。

    最後は、ミン・スン氏とのインタビューで印象的だった言葉で締めくくりたい。

    “It’s not true that you can only do great things in the US.”

    デジタル中心の世界で再流行するアウトドア。仕掛け人が明かすIT活用

    ショッピングや予約、友人とのコミュニケーションなど様々なことがインターネット上で可能になり、あらゆることが便利になってきています。

    ですが、その反動からか、現代人が日常生活の中で大自然の中に身を置く機会はどんどん減っているのではないでしょうか。

    そんな中、自然とともにあるアウトドア業界は盛り上がりを見せています。近年発表されたオートキャンプ白書によると、アウトドアアクティビティの中でも特に人気の高いキャンプは、5年連続で参加人口が増加しているとのこと。

    大きな盛り上がりをみせるキャンプ業界の中でも著しい成長を続けているのが、新潟を代表するアウトドアメーカー 「スノーピーク」です。

    スノーピーク取締役のリース能亜氏は、同社の急成長の一端にはIT活用があるといいます。

    実際、スノーピークでは2018年3月、フラーと共同開発したスマートフォン向けの公式アプリを公開してから約半年という短期間で、Webの全機能をアプリに集約させるなど、ITへの取り組み強化が急ピッチで進んでいます。

    スノーピークはいったい、ITをどう捉え、どう活用していくのでしょうか。

    アウトドア業界が盛り上がりを見せる理由からスノーピークのIT活用まで、その全貌をリース氏に聞きました。そこには、ユーザーとのより深い繋がりを考える姿勢がありました。

    リース能亜
    経営コンサルタントを経て、2017年、株式会社スノーピークに執行役員ビジネスプロセスイノベーション本部長として入社。2018年取締役執行役員経営企画管理本部長、2019年1月より取締役執行役員商品本部長CSOに就任。

    デジタル中心の世界で本当に必要な「繋がり」

    ―― 現代人は生活の中心にインターネットがあり、アウトドアへの接点が減っているように感じます。そんな中、なぜアウトドア産業が盛り上がりをみせているのでしょうか?

    ――リース
    「技術の進歩で何がどう変わったか整理すると、まず大きく変わったのはコミュニケーションのあり方です。

    インターネットが普及するまでは、コミュニケーションは対面が基本でした。ですが、今ではメールやオンラインチャットなどが多くなってきています。リアルな世界で繋がる機会があっても、SNSを通じて連絡を取り合うように。自然と人との繋がりも同様です。すぐそこに自然があるのに人はインターネット上で自然を感じようとしています。」

    ――リース
    「そんな中、技術の進歩で繋がりが弱くなっているからこそ、家族の絆や友人との絆を大事にしたいと考え、キャンプを始める人たちがいます。そういった人たちが年々増加しているため、バブル期から減り続けていたキャンプ人口が徐々に増加しているのだと考えています。」

    実際、子連れでキャンプを楽しむファミリー層が全体の6割以上となっていることからも、キャンプで家族との絆を深めている人たちが一定数いることがわかります。

    しかし、キャンプの人気が徐々に高まる一方、いまだにキャンプは難しいというイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。

    キャンプのネガティブなイメージは、キャンプに挑戦する際の心理的なハードルから生まれているとリースさんは言います。

    キャンプを始める3つのハードル

    ――リース
    「キャンプには、

    • ノウハウ
    • コスト
    • コミュニティ

    という3つのハードルがあります。

    キャンプしようと思い立ったとき、どう準備するのか、どう楽しむのかわからない状態からスタートするのが普通だと思います。ですが、そういう状態でキャンプしようとすると、『また今度やろう』、『今回は準備不足だから』という風に、諦める理由を探してしまうことになりかねません。

    そのハードルを乗り越えたとき、次にぶつかるのがコストの壁です。初めてのキャンプで道具を一気に買い揃えようとすると、なかなかのお金が必要になりますが、レンタルだと手順がわからないなんてことが起こってしまいます。

    最後のハードルは、誰とキャンプに行けばいいのかわからないこと。キャンプ人口が増えているとはいえ、日本では人口の6%程度しかキャンプ人口はいないので、身近にキャンプに興味を持っている人がいないなんてことはありえる話。一緒にキャンプを楽しむ人を見つけるには、キャンプコミュニティに参加するのが手っ取り早い手段ですが、キャンプコミュニティとの接点を作る段階でつまづいてしまう人が多いのが現状です。」

    リースさんが指摘する3つのハードルは、他のアウトドアやスポーツなどでも共通なんだそうです。
    多くの業界に共通する課題なのに、いまだに残っているということは、解決が難しいということ。

    スノーピークはこれらのハードルを下げるためにどのようなアプローチをしているのでしょうか。

    ――リース
    「それぞれのハードルを下げるため、コミュニティの形成に力を入れ続けています。というのも、スノーピークユーザー同士が繋がり自発的なコミュニティが生まれることで、キャンプのノウハウがコミュニティ内で共有されるようになり、キャンプにかかるコストを支払うことに対する考え方も変わってくると考えているからです。

    また、スノーピークのユーザー同士だけでなく、スノーピーク社員とユーザーを繋げたり、社員やユーザーと、キャンプ未経験者を繋げるイベントも開催しています。キャンプ業界は、ファッション業界のような流行に左右されるビジネスモデルではないため、固定ユーザーの存在はブランドを支える大きな資産となります。ユーザーとのつながりを大切にしながら、そのコミュニティの輪を広げていくことに力を入れています。」

    人同士の繋がりを大切にするスノーピークだけあり、問題へのアプローチも、繋がりが中心。

    今回、アプリをアップデートした影にも繋がりを強める何かがあるのでしょうか。

    ITに力を入れるスノーピーク

    ――ユーザーを大事にするスノーピークのスタンスと、Webの全機能をスマホアプリへ集約した今回の施策には、何か関係があるんでしょうか?

    ――リース
    「今の時代、顧客との接点はモバイルデバイスが中心です。実際、ウェブサイトへのトラフィックは6-7割がモバイルデバイスからきています。

    一昔前の勝負所は、各企業がポイントカードを発行し、そのカードが財布の中に入っているかどうかでしたが、今の時代、デジタルな世界での顧客接点の有無が命綱です。

    特に、私たちのようなブランド企業は顧客に直接的に価値を提供できる接点がないとブランドとして成り立ちません。そのため、時代に合わせた顧客接点を作り続けていく必要があります。今の時代、アプリは実店舗・Web・イベントなどと並ぶ、顧客とブランドの重要な接点。公開当初はアプリの機能が顧客管理や購買活動、ニュース配信といった購入前のバリューチェーンのみに限定されていましたが、今回のアップデートにより、スノーピークの大切にしている購入後のアフターケアを含む、Web上にある全機能がアプリに集約され、新たな顧客接点として確立されたと思っています。」

    今回のアップデートで、Webサイトに追いついた形となるスノーピーク公式アプリ。今後、公式アプリにどのような変化が起こっていくのか気になります。

    ――リース
    「Web上の機能をアプリに集約したことで、アプリを通して顧客データを収集する基盤が出来上がりました。

    とはいえ、今はどのようなデータを集め、どう活用していくのかを検討している段階。イベント参加や、購入ギアのサイズ・種類、実店舗訪問履歴などをアプリで取得し、顧客へネクストアクションを提案できるような形はいいかもしれませんね。」

    技術の活用を支えるぶれない理念

    リースさんは、テクノロジー活用はアウトドア業界でも必要不可欠だと前置きした上で、最先端技術、特にAIの活用はまだ時期尚早だと語ります。

    ――リース
    「繰り返しになりますが、スノーピークは顧客とのリアルな接点を大事にしてきたブランドです。だからこそ、コールセンターなどの顧客接点には人対人のコミュニケーションが必要だと考えています。
    効率化のためにAIを導入するのはいい選択だとは思いますが、私たちは顧客に対してより親身なサービスを開発するために技術を活用していきたいと思っています。」

    アプリも最先端技術も、結局は目的達成のための手段です。流行手法の利用を手段ではなく目的化し、失敗してしまう会社が多い中、スノーピークが急成長を続けているのは、ぶれない理念のために技術を手段として使いこなしているからなのかもしれません。