コスプレ映えする埼玉県の“地下神殿” 首都圏外郭放水路の実態に迫る
地下階段を下りる騎士がたどり着いた底は、天井高くそびえ立つ59本もの巨柱に支えられた“地下神殿”でした。ここは埼玉県春日部市にある「首都圏外郭放水路」の調圧水槽と呼ばれる場所です。
同施設は、首都圏の外側(主に埼玉県東部)の浸水被害を抑えるため、総工費2300億円をかけて2005年に誕生。地下約50メートルに延長約6.3キロメートルものトンネル形式の排水施設が建設され、春日部市周辺の中川・綾瀬川流域の浸水被害を軽減することが可能に。春日部市周辺は、お皿の底のような形をしていて水が溜まりやすく、これまでは大雨の度に河川が氾濫していました。しかし、同施設が完成してから10年で防いだ被害総額は約1008億円と言われ、1980年代と比較しても浸水被害は約10分の1に抑えられています。
世界最大級の地下放水路として国内外で注目され、美しく荘厳な雰囲気から、特撮ドラマやファッション雑誌、アーティストのPV、映画などの撮影で多く利用されるほか、一般の方に向けた無料の見学会も開催されています。ただし、イベント開催は断っており、この日は特別な許可のもとでコスプレ撮影をさせていただきました。
“心臓部”龍Q館
首都圏外郭放水路の心臓部である龍Q館
国土交通省治水課によると、国が管理する地下放水路は現在6ヵ所あり、同施設は5番目に建設されたとのこと。全部で5本ある立杭(たてこう)の内、河川が氾濫した際に水を引き込むのは第2〜5坑。雨が降ったら堤防の低い所から地下トンネルに流れ込む仕組みです。
同施設の管理第一係長・長康行さんによると、平時は職員3人のほか、見学会手伝いや施設操作専門のスタッフがおり、緊急時には増員する体制。6〜10月の出水期が一番忙しく、年平均7回ほど稼動しています。24時間365日管理会社が遠隔監理しているので、平時であれば職員は通常勤務し、台風など予想される時期は早めに対応できるように待機しています。
1日100人までの見学会は年間約1万8000人が訪れる人気ぶり。職員が駐在する龍Q館と“地下神殿”調圧水槽を見ることができます。龍Q館の正式名称は庄和排水機場で、立杭を入口に地下トンネルを流れてきた洪水を調圧水槽から巨大ポンプで江戸川に排水するのと、各流入施設の操作や監視をする役割を持つ首都圏外郭放水路の心臓部です。
巨大ポンプは全部で4台あり、1秒間に最大200立方メートル(25メートルのプール1杯分)もの排水が可能。小さい洪水ならひとまず貯めますが、大きい洪水は集めると同時に排水します。過去最大の流入を記録した2015年9月の台風17号・18号では、約1900万立方メートル(東京ドーム15個分)も排水して浸水被害を最小限に抑えています。
トンネルの中を水が流れていく様子(画像提供:国土交通省 首都圏外郭放水路)
水が貯まっている状態の調圧水槽(画像提供:国土交通省 首都圏外郭放水路)
“地下大神殿”調圧水槽
調圧水槽
調圧水槽は、地下トンネルを流れて来た水の勢いを弱め、江戸川にスムーズに流すための巨大水槽。地上の入り口から116段の階段を下りた約22メートルの位置にあり、長さ177メートル、幅78メートル、高さ18メートルと広大な空間には、重さ500トンもある巨大な59本の柱が見えます。平時は空洞なので地下水で調圧水槽が浮かび上がるのを防ぐために柱を設置しています。
階段降りたすぐそこには第1立杭が見えます
天井の一部は開閉できるため、地上の自然光がわずかに差し込む“地下神殿”。階段を下りた手前には第1立杭があり、奥に進んで行くと排水ポンプに繋がっています。調圧水槽内の掃除も人力とブルドーザーで定期的に行っているそうです。広大なコンクリートの空間が持つ観賞用に造られたかのような美しさは、耐久性と機能性を追求して無駄を削ぎ落した結果です。
龍という漢字は昔から水害が起こりやすい地に名付けられると聞きます。浸水被害を抑えるために生み出された“地下神殿”を、リポーターをしてくれたコスプレイヤーのゆうさんと一緒に見て回りながら、水害に苦しんだ埼玉県東部の歴史に思いを馳せました。
この日の衣装は手造り製です
とにかく大きくて広い
記者: 日本コスプレ通信
世界中のコスプレイヤーやコスプレイベントを取材し、魅力を世の中にお伝えしていきたいです。取材と執筆、写真撮影は基本的には1人でやっています。コスプレに関する情報をお待ちしています。