瀬戸の花嫁 君よ貴方よ   作:kairaku

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危険な賭け  その1

平家の隠し洞窟

 

 

永澄達一行は洞窟の奥へと進んでいた。

魚盛に修行の場として案内された平家由来の洞窟はある程度人の手が加わっているのか

普通に歩ける程度には道が整備されていた。

 

特に予想外であったのは洞窟の明るさで、岩肌に囲まれた洞窟がどういう訳かぼんやりと光っており、洞窟に挑む前に魚盛に渡された懐中電灯が必要ないほど明るかった。

 

「凄いな……ゲームのダンジョンみたいだ……」

 

「なんかワクワクするねぇ永澄さん」

 

中坊らしいお粗末な感想を述べる永澄。

と、まるで遠足に来ているかのような呑気さで洞窟を歩く燦。

 

「ふむ。私も何となくしか分からないがこの洞窟自体何らかの術、もしくは結界が施されているようだな」

 

「ハァ? こんな広い洞窟一つ覆える結界って聞いたことないんですけど~」

 

悩ましそうに口に手を当て分析しながら歩く明乃。

そんな明乃の解析をかったるい感じで聞く瑠奈。

 

洞窟の中は一本道でただただ歩いてばかりであったが修行中とは思えぬほど普段通りの面々だった。

 

何だかんだお喋りしながら一時間。

その間、特に分かれ道等といった目立ったトラブルも無くただただ洞窟内を歩く一行。

 

更に一時間。流石にお喋りにもただ歩くのも疲れ一旦休憩。

広めの道のところで座り作戦会議をする。

 

「ふぅ~~~~疲れた。結構歩いたな~~」

 

実は探索中ずっと担いでいたリュックを降ろす永澄。中には事前に魚盛が用意していてくれた物が色々と入っている。

 

「はい、永澄さんお水」

 

「ありがとう燦ちゃん♪ ――ん、ん、ぷは~~~生き返る!!」

 

「ったくモヤシボーフラがっ! 情けない奴じゃのぅ」

 

リュックに入っていた棒のチョコ菓子をタバコのように齧りながらチクチク責める巻。

 

「うるさいぞ巻! お前こそずっとリュックの中にいたくせに!!」

 

「まぁまぁ」

 

疲れている永澄とは対称的にまだまだ元気な様子の燦。

甲斐甲斐しく他のメンバーにお菓子を配ってる。

 

「あ~~だる~~。ほんと何も起きないじゃない。テレビ収録だったらテープ回してるだけ無駄ね。全カットよ」

 

「確かに、少々拍子抜けだな。宝を守る洞窟なんだ、何か罠でもあるかと思っていたが」

 

瑠奈が洞窟の先を伺う。先は薄暗く、道は続いている。

 

「しっかし長い洞窟よね。まだ先が見えない感じ」

 

「そうじゃね。まだ先が長いんじゃろか?」

 

「平家秘蔵の洞窟だ一日中歩くかも知れん」

 

「うわっ勘弁。アタシもう帰ろうかな~~」

 

「そんなぁ瑠奈ちゃん~~」

 

休憩中でも元気のいい三人。それを見て深い溜息を出す永澄。

 

「どうしたん永澄さん?」

 

「いや俺体力ないなーってさ。別に体力に自信があるわけじゃなかったけど……帰ったらもう少し鍛えようって」

 

「そうね! ちょっと情けないわね! 男として!」

 

近くの岩に寄っかかりバリバリと煎餅を齧る瑠奈の言葉がグサリと永澄の胸に突き刺さる。

 

「ううっ!! というか意外だ……瑠奈ちゃんがこんなに体力あるなんて」

 

「ああ~~ん? アイドル稼業舐めてんの?」

 

「いやそういうわけじゃないけど……。不知火さんはともかく、瑠奈ちゃんや燦ちゃんもだけど全然疲れた感じないね」

 

「そう言われればそうじゃなぁ~~」

 

「……ふむ。実は歩きながら感じていたが……どういう訳か『変身(なれそう)』な気がするのだ」

 

「へっ? アンタも?」

 

「え? なになに?」

 

瑠奈が驚き、燦が首をかしげる。

 

「『人魚モード』よ! なんか海に浸かってる感じするっていうか、スイッチ入れっぱなしというか?」

 

「む~~~~ん…………あっほんまじゃ!!」

 

「アンタってほんとに……」

 

「えっと……やっぱりここが海底だから? 水を得た魚じゃないけど、やっぱり魚人の人達って海にいる方が元気出るもんなのかな」

 

「後半はその通りだが、人魚は海底であっても直接足に水を浸けなけば人魚になるスイッチ的なモノは入らないのだ。悩ましい」

 

永澄の推理に半分同意しつつ、残った謎が明乃を悩まらせる。

 

「不思議じゃね。言われんと確かに海に浸かってるみたいじゃ、洞窟の中なのに」

 

「いや……しかしこれは好都合かもしれない」

 

「「???」」

 

「ここなら人魚の力を存分に使える!」

 

「「あっ!!」」

 

「え? え? なにするんですか?」

 

人魚じゃない一般ピーポーの永澄には燦達が何を思いついたのか分からない。

しかし頭のアンテナ(鍛えられた本能)警告(スクランブル)を鳴らしているのは分かる。

 

「ふっふっふ。まぁ見てなさい!」

 

瑠奈が自信あり気にいうと人魚モードに変身した。

ボン、ボン、と燦達も人魚の姿になる。

 

「いくわよ!!」

 

瑠奈の掛け声と共に人魚三人娘が息を吸う。

察した永澄が「あっ――」という、殺人ミステリーによくある偶然見つけた事件の証拠品で何となく誰が犯人か分かってしまった瞬間その疑わしい人物が背後で凶器を振り上げいるシーンの被害者みたいな声を出した。

 

隔壁(こまく)閉鎖! 衝撃に備えろ!!)アンテナボイス

 

 

「「「MAAAAAAAAAAAA――――!!!!」」」

 

 

瞬間。大気を震わす超音波が洞窟の隅々にまで響き渡った。

 

 

キーーーーーーーーー√Vーーーーーーン

 

 

「――――むっ!」

 

「――――んっ!」

 

「――――ふっ!」

 

ビリビリと揺れる空気の振動から何かの気配を感じる燦達。

 

「……あったわね」

 

「ああ、思いの外近くにあったな」

 

「けど不知火さんよく思い出したなぁ『ソナー超音波』! 懐かしいなぁ~~子供の頃これでようマグロの群れ追っかけたなぁ」

 

「フフッ、実は私もよくこれで遊んだ」

 

「これ海の中じゃないと出力調整難しいのよねぇ」

 

あはははと人魚だけが共有できるあるある話に花を咲かせる女子チーム。

と、その背後で目とか耳から自主規制液を垂れ流しながら倒れているザクロ永澄。

 

「た……耐性貫通――――。三人は……む……り……」

 

「ああああっ!!?? 永澄さん!!」

 

 

 

燦に背中をさすってもらいながら歩く永澄。

 

「ごめんな永澄さん」

 

「ははは……大丈夫大丈夫、ちょっと脳みそ沸騰しただけだから……」

 

全然大丈夫じゃないことを言いながらも燦に強がりな痩せた笑顔を見せる永澄。

しかし痛みに耐えた?かいはある結果になった。

 

「ここから約100m。ソナーに岩や草じゃない金属的な反応があった。形ははっきりと分からんが間違いなく自然物じゃない」

 

明乃が確信をもって言う。

 

「やっぱり凄いな不知火さんは! 頼りになるぜ!」

 

「コラーー!! アタクシ様にも感謝しなさい!!」

 

「はいはい、さすが瑠奈ちゃん」

 

「ムカつくわ!! ペナルティポイント追加ぁぁっ!!」

 

ばちーーーん!! と瑠奈の曲線美溢れる脚が鞭のようにしなり永澄のケツを蹴り上げる。

 

「空気がお尻から!?」

 

経験がある人にしか分からない痛みに悶える永澄。慌てる燦。

そんな漫才を尻目に明乃はソナー超音波で感じた微かな『違和感』を口に出さずにいた。

 

(意外と近くにあった『宝物』……。偶然と言えば偶然だろう。実際結構歩いたしな……)

 

しかし宝を発見したとき何となくだが思ったことがある。

『人魚の声に反応して現れたのではないか?』そんな突拍子のない想像が頭から離れない。

 

「悩ましい……」

 

明乃は小さく呟くと宝がある場所へ進んでいく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

瀬戸内組本家 燦ちゃんの実家

 

 

和室の部屋で男が一人胡坐をかいて座っていた。

 

太い男だった。

 

森の太い樹木がそのまま着物を着たような男だった。

首が太い。腕が太い。足が太い。手が太い。指が太い。拳が太い。

 

顔に太く刻まれた二つの刀傷を歪ませ。

ウウゥやらムゥゥやらそう聞こえる唸り声を出しながら。

 

瀬戸豪三郎が眼前の紙を睨んでいた。

 

畳に置かれた紙は一枚。直筆かつ達筆で淡々と文章が書いてあった。

豪三郎の重圧で空気が歪んだ部屋に間の抜けたような襖が開く音が響く。

 

「おやっさん呼びましたギョ?」

 

マグロ顔の下っ端魚人がぞろぞろと三人入ってくる。

豪三郎は返事をせずただ黙っている。

 

「ええっと……とりあえずこれ読ませてもらいますギョ」

 

困った三人はとりあえず畳に置かれた紙を豪三郎に断りを入れて読む。

 

「マグ郎、なんて書いてあるんだギョ?」

 

「俺っちにも読ませるギョ」

 

「待て待てええっと………………」

 

三人で読み進めて、みるみると青ざめる。

 

「「「ギョ――ギョギョ――――!!!!!!」」」

 

絶叫する三匹。再び無造作に襖が開いた。

のっそりとシャーク藤代が現れ無感情のいつもの調子で報告する。

 

「巻から連絡がありました。永澄君の試練にお嬢も付いていったそうです」

 

淡々と語る藤代の言葉にようやく重い口を開く。

 

「征くか――」

 

ただ一言発すると瀬戸豪三郎は太い腰を上げた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

再び洞窟 

 

 

「反応があったのはここら辺のはずだ」

 

永澄達一行が宝があるであろう場所にやって来た。

その場所は狭い洞窟の中でもぽっかりと空いたように奥行きがあり、いかにもな場所だった。

 

「あっ! あれ!」

 

燦が指差し駆けだす。永澄達も付いていく。

恐らく洞窟の最奥であろう壁際に綱を引いて祀ってある場所があった。

 

「こ、これが……」

 

「平家のお宝……」

 

「これがぁ??」

 

それは割と近々に見たモノであった。

確かに黄金に輝いており。お宝と言えばお宝っぽいが。

 

しかしなぜこれがと思わざる得ない。

 

「これ井戸よねぇ……」

 

一応瑠奈が確認する。

 

「うん井戸だ」

 

永澄が同意する。

 

「井戸じゃ」

 

燦も困惑する。

 

「………………」

 

明乃だけはそれをじっと見る。

 

「っていうかこれ多分『移し井戸』だろ。俺の家に置いてあるヤツ」

 

「これが魚人貴族に対抗できる切り札?」

 

「ん~~これ持って帰れるんじゃろか?」

 

「いやいや流石にそれは……やっぱり使うのか?」

 

前のひど~~い経験から苦い顔する永澄。

 

「でしょうね。つうかこれ動くの?」

 

「中には一応水が溜まってるけど……行先のメモリがないな」

 

ガシガシと金色に輝く移し井戸を蹴る瑠奈。覗く永澄。

 

「おい瀬戸内の用心棒」

 

明乃が永澄のリュックを揺らし寝ていた巻を起こす。

 

「あぁん? なんじゃ役人。人が寝ている――」

 

「いいからこれを見ろ」

 

不満たらたらの顔で井戸を見る巻。すると急に真面目な顔になりリュックから降りると井戸の縁に立つ。

 

「これが平の姉さんの守ってたお宝……」

 

「どうだ?」

 

巻が振り返りニヤリと笑う。

 

「魚人貴族御用達の移し井戸。じゃが金色の移し井戸の話は聞いたことないわ」

 

「ああ、私も初めて見た」

 

「どいういうことなんだ?」

 

「『期待できる』ってことだ。この移し井戸の先にこそ真の宝がある」

 

明乃はそこで少しだけ唇をつり上げる。

期待と不安。永澄はごくりと唾を飲み込んだ。

 

「そう。じゃっ、行かないとね♪」

 

一歩前へ出て井戸の傍に近付く瑠奈。

 

「うん。そうじゃね」

 

燦もそれに倣う。

 

「永澄さん」

 

「下僕」

 

燦と瑠奈が手を差し伸べる。

 

「満潮永澄」

 

明乃が肩に手をやる。

 

「おうコラいくぞ」

 

その反対の肩に巻が乗る。

 

「みんな……」

 

理不尽に突き付けられた天羅譜負務から魚人貴族に対抗するため組長になった。

そして自分を鍛える為、燦ちゃんと結ばれる為、ここまで来た。

 

永澄は顔をグッと引き締めると燦と瑠奈の手を握る。

 

「行こう!!!!!」

 

永澄+巻、燦、瑠奈が井戸に飛び込み最後に明乃が飛び込んだ。

 

(あばばばばばばばば!!??)

 

予想通り激しい水流で溺れる永澄。

しかし前の時と違い二人の人魚が永澄を導く。

 

燦達に導かれながら次第に冷静になっていく永澄。

前に使った移し井戸と違い水中が澄んでいて輝くように光っているのが分かる。

 

(なんかあったかい――南の島の海に来たみたいだ……)

 

行ったことはないが永澄のイメージする『美しい海』がそこにはあった。

やがて自分が呼吸出来ない人間であることを忘れ。

 

更に輝く向こう岸へ――――

 

………………………………

……………………

…………

 

 

 

??????

 

 

「ハッ――」

 

気が付くとそこは星空だった。

星の輝きと夜の闇が五分五分で、夜なのに目を開けたばかりの永澄はその眩しさで一度目を閉じた。

 

「良かった……永澄さん起きた」

 

「あっ、燦ちゃん……」

 

再び目を開けた時、逆さで映る燦の顔があった。

虚ろな頭でその意味を考え、状況をゆっくりと確認する。

 

波の音と手の平に伝わるサラサラとした砂の感触でここが海の近くの砂浜だと認識。

その割に頭だけが柔らかいものに支えられていると認識。

 

その理由を手で触って確認。

 

「な、永澄さん!?」

 

柔らかい。しかし弾力がある。撫でる。つるっとしていて触り心地良い。

上の方にいくに連れ触り心地が良くなってる気がする。

 

「永澄さん――だめぇ――」

 

布地の感触。ゴムひも? この先は更に柔らか――。

顔を真っ赤にする燦ちゃんの顔。

 

「あっ――」

 

気付く満潮永澄この野郎。

 

「ご、ごめん燦ちゃんちょっと錯乱してたというか寝ぼけてて――」

 

「だ、大丈夫じゃきん。永澄さんゆっくりしてて……な?」

 

「ほんとごめん――わざとじゃ――」

 

「気にせんで…………でもその手ぇ……」

 

「………………」

 

「………………」

 

――――さわ。

 

「んん――――」

 

 

 

「燦様~~~~♪」

 

びくびくびくびくーーーーーー!!!!!!!!

 

瞬時に正座する永澄、燦。

そこへ巻がトコトコ近づいてくる。

 

「燦様ぁ~休憩できる海小屋を見つけたですぅ~早速いきましょうですぅ~」

 

「あ、ありがとう巻ちゃん」

 

「ヤァマキサンイイオテンキデスネ」

 

「なんじゃボーフラ生き返ったんか。んん――?」

 

二人を見比べる巻。何かを察する。

 

「な~~~~んか変な空気じゃな~~~~」

 

「な、なんもないよーー」

 

圧倒的疑惑の眼差し。燦はハハハと誤魔化し、永澄はピカソ調の顔面でカクカク頷く。

 

「それより! 海小屋行こう巻ちゃん! ここちょっと冷えるきん。ホラホラ~~」

 

巻を強引に手に乗せ急かす燦。仕方なしに案内する巻。

その後ろを今だピカソ顔で付いてくるエロ澄にピリリと稲妻が走る。

 

(後で『遺言(いいわけ)』聞いちゃるからなぁ)

 

(HAHAHA! イッテルイミガワカリマセーーン)

 

 

 

砂浜を歩き海小屋を目指す道中、永澄は辺りをキョロキョロと見回す。

 

「こ、ここはどこなんだ――」

 

魚人の住む、珊瑚や海藻が石や草のように生えていて、頭の上を泳ぐ魚がいる場所を「海の世界」と言うならば。ここは言わば「星の世界」。

 

見上げなくとも砂浜の先からは星々が見え、頭上にはいくつもの光っては消える流星がある。

 

「まるで宇宙へ来たみたいだ……」

 

小学生の頃遠足で行った科学資料館。そこで見たプラネタリウムを思い出す。

 

「不思議なとこじゃね」

 

「うん。……あっ、そういえば瑠奈ちゃんと不知火さんは?」

 

「あそこじゃ」

 

巻が顎をしゃくった先にこの砂浜に来て初めての建造物あった。

 

「わぁ本当に海小屋だ」

 

開放的に作られた木造の小屋に御馴染みの「氷」ののれんが飾ってある。

看板は古くて読めないが典型的な海小屋だった。

 

「あっ来た。さ~~~~ん!」

 

「来たか」

 

瑠奈が座敷に上がって寛いでおり、屋台スペースでは何故か明乃が焼きそばを焼いていた。

 

「わぁええ匂いやね♪」

 

「順応早すぎだろ……」

 

座敷に置かれた長机でそれぞれの焼きそばを囲む永澄一行。

 

「お店の人は?」

 

「いなかった。リュックも流されてしまってな。仕方なく食料を借りて私が作ったが」

 

永澄の質問に奥の冷蔵庫からラムネを出しながら明乃が答える。

 

「いいのかなぁ~~」

 

「へーきへーき。ワタクシ様のカードだってあるんだから」

 

「ああ、あの無敵カード……ってカード使えるか?」

 

今の状況からは考えられないくらいのほほんとした会話しながら焼きそばを食べ始める。

 

「ムグムグ、うん美味しい!」

 

「まぁまぁね」

 

「美味しいよ不知火さん!」

 

「ほうかほれはほかった」

 

一人だけちゃっかり山盛りの焼きそばをほうばる明乃。

巻は焼きそばに手をつけずラムネをストローであおっていた。

 

焼きそばを食べながら改めて真面目に今の状況を議論する。

 

「で、ここはいったいどこなんだ?」

 

「わかんなーーい」

 

「私もこのような場所が魚人の世界にあると聞いたことがない」

 

あっけらかんと答える瑠奈に唯一の頼りの明乃も分からないと言う。

この場所の雰囲気からしてここに真のお宝があるのは間違いない気はするが。

 

「う~~~~ん」

 

「燦ちゃん?」

 

「ウチ、なんかここ来たことあるようなぁ~~」

 

「ホント!?」

 

「いや、多分ないよ? でも永澄さん引き上げてる時なんかここ見たあるな~~って」

 

「デジャヴュというかな?」

 

不思議な感覚に悩む燦をじっ~~と見ていた瑠奈はそれとはまったく関係ない話題を切り出す。

 

「っていうかさぁ~~ワタクシ様的に溺れた下僕をどうやって起こしたかが気になんのよね」

 

「る、瑠奈ちゃん!? い、いまそんな話してる場合じゃないきん!」

 

「怪しいわね。私達先行かせてさぁ~~下僕と二人でナニやってたわけぇ?」

 

「え~~あ~~う~~~~」

 

しどろもどろになる燦。

永澄も助け船を出したいとこだが瑠奈の疑問に違和感を覚える。

 

(さっきのアレか!? あれ? でも俺が気絶中の時の話みたいだし――)

 

「ウチお水取ってくるわっ――!!」

 

言い訳のように小屋の奥へそそくさと逃げる燦。

 

「チッ――」

 

(なんか怖い……)

 

黙る瑠奈にただただ焼きそばをかき込む明乃。

なんか修羅場の空気に耐え切れず、視線を虚空へとさまよわせる永澄。

 

「え~~と……おっ! な、なんだろうこれ~~」

 

神棚らしきところで不思議な置物を見つける。

 

「あーーん? 別に興味ないわよ」

 

「いやいやそんなこと言わずに! なんか仕掛けっぽいの付いてるし、玩具かな?」

 

一見するとただ地球儀のようだが周りには十二星座の模様が入った枠がくっつており。

他にも細かな細工や何かのスイッチ的なモノまで付いてる。

 

なんでもいいから話題を変えたい永澄が持ち手を掴みそれを長机に置く。

 

「……ただの地球儀じゃないの?」

 

「あーー懐かしい!」

 

水の入ったコップを持って帰って来た燦が永澄の持つそれを見て目をキラキラさせてはしゃぐ。

 

「これアレじゃろドライブインとかにある『占うヤツ』! 瀬戸内におった頃、近所の食堂に行く度にお母ちゃんにやらせて~ってせがんだなぁ」

 

「ああっ! あれか『ルーレット的なので占うヤツ』! 俺もガキの頃、喫茶店とかで見た見た!」

 

はしゃぐ満潮夫婦(仮)。ますます面白くなさそうな瑠奈。

ちょっと複雑な家庭環境かつ都会でお嬢様に育てられた瑠奈にはコレが置かれていた飲食店に行った経験がないようだ。

 

「だ・か・ら! 『占うヤツ』って何よ!? アタシそんなのやったことないんだけど!?」

 

「いや~~ウチもちゃんとした名前は分からんけど……とにかくやって見せるきん。まず自分の星座んとこにお金入れて――ってあれ? どこに百円入れたらええんじゃろ?」

 

「どれどれ――」

 

「触るな!!!!」

 

突然の大声にピタリと周りが止まる。

 

声の主の明乃はいつもの冷静な顔を崩し青ざめている。

修練剣士にあるまじき動揺した姿を隠しきれない。

 

「いいか。それに絶対に触るな。これはまさか、いやでも――なぜ!?」

 

「な、なによ。これ何なの?」

 

「占うヤツじゃろ?」

 

「違う! 私は役人の試験を受けるときにこれと似たモノを教科書で見た事がある……国宝……いや魚人の神器!!」

 

 

「――『山河社稷図(さんがしゃしょくず)』」

 

 

「「!!!!????」」

 

突然の声に振り向く一同。

その先に――――1/8サイズくらいの少女のフィギュアが立っていた。口に青のり付けて。

 

「あっ、俺の焼きそば……」

 

「資格無き者が触れればたちまち吸い込まれ~~地球のどっかに落とされるぞ~~」

 

突然現れ口に付いた青のりを落としながら物騒なことを言うフィギュア1/8。

 

「しゃ、喋った!? ……巻の親戚?」

 

「知らんわボケ。フキでも持ってれば分からんけど」

 

「バ、バカモノ!? 全員控えるんだ!! この御方はもしや――――!!??」

 

明乃の動揺も関せず、少女はゆっくりと燦に向き直る。

全員が息を呑んだ。

 

それだけの所作で人形サイズの女の子から空気全体が動いたようなオーラを感じたのだ。

 

「瀬戸燦じゃな~~」

 

「は、はい」

 

「まぁ~~まずは(わらわ)の自己紹介を~~」

 

独特の間の伸びた喋り方からとは真逆の。

知らずに背筋が伸びるような厳かで雄大な何かがそこにはあった。

 

「妾は齢46億歳。魚人とこの惑星(ほし)(おさ)むる者――」

 

 

「『天帝』~…『天羅(テラ)』である」

 

 




今更の今更。すみません。 5/12 だいぶ加筆しました。

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