瀬戸の花嫁 君よ貴方よ   作:kairaku

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赫い絆  その2

???

 

 

鯛やヒラメが舞い踊るとはおとぎ話に出て来るが、多分それは本当の話で。

浦島太郎の見た『竜宮城』とはこの城の事だろう。

 

ただの人間からすればそんな感想しか出てこない雅な城の中に瀬戸蓮と政はいた。

広い会場にいかにも身分が高そうな魚人がグラスを片手に世間話をしている。

 

「魚人貴族同士の懇談会と言えば聞こえはええけど……フン。ほとんど毎晩やってる懇談会って何なんやろね?」

 

「姐さん、ここは抑えて――」

 

いつもの白シャツの上に黒いスーツを纏った姿の政が他所向けの煌びやかな着物に身を包んだ蓮を窘める。

 

「おおこれはこれは蓮様! お懐かしゅうございます。お父様とは仲を戻されたので?」

 

一人のコバンザメの姿をした魚人が目ざとく蓮を見つけ、すっかり板に付いた揉み手で近付いてくる。

 

「ふふ、そんなところですわ」

 

わざとらしいくらいお上品に笑みを浮かべ言葉を返す蓮。

 

「それはめでたいですな! お父様はお嬢様の事を大分気に病んでられていたご様子で――」

 

「あの親父がそんな玉かっての」

 

「えっ?」

 

「ゴホンッ! ――すみません。実はまだあっしら『大御所様』にご挨拶が済んでませんので」

 

強引に話題を変える政。

 

「お、おお、これは申し訳ございません。大御所様は今席を外しているようで、なんでしたら大御所様が来られるまで良い『ご投資』の出来る企業の魚人を私がご紹介しますが?」

 

腰を低くニッコリと笑うコバンザメの魚人。

 

「うふふ。大変興味深い話ですが……まぁ何事もまずは大御所様にご挨拶が済んでからでないと」

 

「はははっ! それもそうですな」

 

「ではちょっと。大御所様が来られるまでお色直しを」

 

会場の外の廊下に出る蓮と政。

 

「フンッ!!」

 

蓮の拳でバキィと壁にヒビが入る。

 

「姐さん……」

 

「大丈夫さ。ちょおおおおっと腹が立っただけさ」

 

(全然大丈夫じゃねぇ)

 

「さぁもたもたしてられないよ。アイツらがいないなら好都合さ」

 

「へい」

 

エレベーターに乗り込む二人。

 

「地下二階に」

 

「……しかしその、本当に大丈夫なんですか? いくら姐さんでも」

 

「今更言うんじゃないよ。瀬戸内組の将来がかかってんだ」

 

ポーーンという到着音と共に扉が開く。着いたフロアは暗く、人影も無い。

 

「不用心ですな」

 

「まぁここに何があるか知ってる魚人のが少ないからね」

 

最低限の明かりだけしかない廊下を進むと家紋のような模様が刻まれた扉の前に立つ。

 

「これは太陽と竜の、天帝の印!?」

 

「下がりな、これは魚人貴族にしか開けられない」

 

蓮が模様に触れる。すると模様が一瞬だけ淡く光った。

ガチャリと扉が開く。

 

「行くよ」

 

やや緊張した面持ちの政を連れ蓮は開いた部屋に入る。

部屋の中は明るく扉からは想像も出来ないほど広かった。

 

「こいつはすげぇや……まるで魚人の歴史の博物館だ」

 

黄金に輝く日本甲冑。魚人と人間が戦っている姿が描かれた絵巻物。どこかの通販番組で見た槍。

様々なものが一つ一つ丁寧保管されていた。

 

「コラ、そっちじゃないよ」

 

蓮は迷いなく部屋の奥へ進む。

ここがどういう場所か知っている政はいまだ心に迷いがあり、弱音を口にする。

 

「やはり引き返しましょう姐さん。確かに急に決まった天羅譜負御務(てらふおうむ)の件は怪しいですが」

 

「…………」

 

「役所に忍込んでまで調べた書類は間違いなく本物でした。その証拠に書類には天帝が認めた証の『天印(てんいん)』の判が押されて――」

 

「そこがウチには気になるんよ」

 

「え?」

 

「天印は確かに天帝が認めた証で天帝だけが使えるもんさ。けどウチはあれを使える魚人をもう一人知っている」

 

「――!! まさか!?」

 

部屋の一番奥。先ほど扉に刻まれていた天帝の模様が細工がされた厳重そうな金庫があった。

蓮が金庫に触れる。

 

「開けられるんですかい?」

 

政の疑問に蓮は答えず。

溜息を出す。

 

「――――いや……もう……『開けられている』」

 

 

「そこまでだ」

 

 

白いコート姿の男が音も無く蓮達の後ろに立っていた。

 

「てめぇは――銀!!」

 

「いけませんなぁ、おいたが過ぎますぞ瀬戸蓮様」

 

銀は目深に被った帽子の隙間から鋭い視線を蓮に浴びせる。

 

「ここは魚人貴族の御方でも大御所様の許可を頂かなければ入れぬ『深・正倉院(しん しょうそういん)』。然るに私の立場からすれば蓮様を捕えなければなりません」

 

「……アンタぁ、知ってたのかい」

 

「はい?」

 

「ここにあった物を」

 

蓮は静かに、しかしはっきりと怒気を纏って銀を睨み返す。

 

「さて、なんのことやら」

 

蓮が銀の方へ体を向けると政が一歩前へ出る。

 

「なるほど、抵抗する気まんまんですかな。――どうしますか大御所様!」

 

ぬらりと。ゆっくりと。銀の後ろから老魚人が現れる。

平安貴族を思わせる着物を纏い、腰の少し曲がった体を妖術師を思わせるような樫の杖が支えている。

 

顔付きはナマズの魚人のようでいて、しかしその顔の縁から首にかけては爬虫類を思わせる厳めしい鱗がびっしりと生えており。

異形の多い魚人であっても更に異形な姿をした魚人であった。

 

百戦錬磨の二人が息を呑む。

 

魚長(うおなが)様……」

 

「オォ蓮ちゃんや、久しいのォ! そんな仰々しく呼ばずに。昔みたいに叔父様と呼んで欲しいのォ~~」

 

しゃがれた声を少し弾ませ、細い指で口元の長いナマズ髭を伸ばした。

 

大御所と呼ばれる魚人の登場に思わず後ろに下がる政。

瀬戸内組若頭になる前、つまりはまだ修練剣士の一役人であった頃の自分が激しく動揺している。

 

(『平氏』『源氏』をもまとめる魚人貴族筆頭『藤氏(ふじし)』!その家長、藤原魚長(ふじわらのうおなが)! 天帝により『貴族制度が生まれた時から』今日に至るまでその権力を維持し巨大化させてきた生ける怪物。正に貴族中の貴族の魚人!)

 

「叔父様……これはどういうことですか」

 

「はて?」

 

蓮が金庫を開ける。

中には赤い台座があるだけでその台座の上には何もない。

 

「ここにあるはずの『もうひとつの天印』! あれは非常時、天帝に何かあった時にだけ使うことの許されるもんじゃ!」

 

「ふむ、これかな?」

 

魚長は袖から黄金に輝く判子を取り出し見せつける。

魚長の手にある天印を見て蓮は膝から崩れ落ちた。

 

天印を使った命令は天帝の権力、威光そのものである。

本来その行使を実行せんが為に生まれた魚人貴族(とっけんかいきゅう)が天帝に成り代わって命令を下すなど天帝への冒涜にほかならない。

 

「姐さん……」

 

悲痛な表情で魚長を睨む蓮。

 

「それを持ち出しただけでも死罪は免れない大罪じゃきん……。どうして……なんで……」

 

「ふうむ蓮ちゃんや、何か勘違いしとるのォ」

 

判子をしまい、今度はその手を銀に向ける。

その意味を正しく理解している銀が火がついた煙管を魚長に差し出す。

 

「ふぅ、蓮ちゃんもさっき言っておったろ。非常時がどうたらと、つまり『今そういう事』なんじゃよ」

 

「それは――いったい――――」

 

「ここじゃゆっくり話せんな。ささ、儂の部屋に行こうぞ。いい酒もある」

 

己の罪の意識を感じさせぬ気楽さで、魚長はくいっと酒を飲むポーズを取る。

しかし蓮は動かず、政が一歩前に出る。

 

「ん? なんじゃ下郎。貴様は打ち首じゃぞ? この正倉院は魚人貴族だけが入ることの許される神聖な場、薄汚れたメザシ風情が入っていい場ではない」

 

蓮に見せた気のいい親戚の叔父さんの表情は消え。

相手を人間、いな魚人とも何とも思っていない冷徹な顔を見せる魚長。

 

「生憎、貴族だなんだのっつう、まともな世間から爪弾きにされた身でしてね。

……それでもまぁ、世の中で勝手に生き続ける自分ですから。そりゃあ世間にも迷惑かけて生きてまさぁ」

 

魚長の凍った視線をサングラス越しに受け取る政。

 

「そんなあっしですが、ようやく一つ世の中にいいことが出来そうで」

 

上着を脱ぎ捨ていつもの白シャツ姿に。

腰に忍ばせてあった匕首(あいくち)を抜く。

 

「腐った悪徳貴族の首でも取れば少しは世の中明るくなりやしょう!」

 

仁義というもの教えてやろうと怒りに燃える政が魚長に構える。

 

「叔父様、いや――藤原魚長!」

 

瀬戸蓮が立ち上がり、着物を締め、片足をずいっと前に出し、怒りと共に踏み鳴らす。

 

「天帝に代わってここで仕置(ケリ)つけたらぁ!!」

 

その光景を魚長は紫煙と共に吐き汚す。

 

「ここを血で汚すのは忍びない。銀、捕えろ」

 

「――はい」

 

「……てめぇに出来んのか銀」

 

「…………」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

魚盛の屋敷

 

 

朝。

暗いはずの海の底にもどういう訳か地上と変わらぬ日差しがあった。

どういう原理と考えたところで魚人の常識がそもそも非常識なもので、考えても仕方ない。

 

「ん、んんっ……」

 

いつもの煎餅布団と違い、間違いなく上等で高級な布団の寝心地は最高で。

新鮮な畳の香りと相まってマイナスイオン的なリラックスが脳に沁み込んでくる。

 

昨日の疲れもあり、本当はまだまだ寝ていたい。

 

「朝だ……起きなきゃ……」

 

そんな正直な欲求を抑え、目を覚ます。

普段は母親に怒鳴られ起こされている中坊は自発的に布団から出る。

 

そんな当たり前なことを今日初めて何となく意識してやってみた男。

満潮永澄はほんのちょっぴり昨日より成長した。

 

「ふああ~~あ、おはよう燦ちゃん」

 

昨日宴会した大部屋に行くとちょうど朝食の準備を手伝っていた燦に会う。

 

「おはよう永澄さん」

 

上品な和服に割烹着の姿で気持ちの良い挨拶を返す燦。

 

「…………」

 

「どうしたん?」

 

「いや、なんかそれ似合ってるなぁって」

 

「え!? も、もう永澄さんったら。魚盛さんが貸してくれて……か、からかわんといて――」

 

照れる燦にドキリと心臓が高鳴る永澄。

いつもと変わらぬ朝の挨拶で、朝食を手伝う燦もいつもの事だ。

 

だが今朝の燦の姿に永澄はときめいてしまう。

 

まだ中坊の永澄にその感動を上手く言葉に出来ないが。

自分の奥さんが烹着姿で朝ご飯を用意する様は正に日本男子の夢の具現化だった。

 

お互い何となく見つめ合う。

 

ガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシ

シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ

 

それをぶち壊す雑な歯磨き音。

 

「る、瑠奈ちゃん!?」

 

「な~~に朝っぱらから発情してんのよ」

 

燦と永澄の間に突然割って入ってきた瑠奈に狼狽える二人。

 

「瑠奈ちゃん!? その、もうすぐ朝ごはんの準備出来るきん! え、えーとお魚焼けたかな~~」

 

「お、俺も顔洗ってこよ~~」

 

「ふん!」

 

永澄についてくる瑠奈。

大きめの洗面所でお互い身支度をする。

 

「ぺっ! アンタ分かってんでしょうね。ここには遊びで来たわけじゃないのよ」

 

「分かってるよ。俺が組長に――魚人貴族に負けないようになる為に魚盛さんに修行をつけてもらうんだ!」

 

「しかし本当にそんなことが出来るのだろうか」

 

「わっ!? 不知火さん!?」

 

いつの間にか永澄の横で顔を洗っている不知火明乃。

 

「どのような修行かは分からんが、正式な天羅譜負御務までの僅かな期間で大物魚人貴族と渡り合う術を学べるとは私には思えん」

 

「むむむっ!?」

 

「やっぱり私様がスポンサーに付くのが一番手っ取り早いわよ」

 

「そ、それは、最後の手段で……」

 

弱気な永澄。

 

「おーーい朝ごはん出来たで~~」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「ムグムグ、さて」

 

食事を食べ終え魚盛が堰を切る。

 

「昨日の話の途中だけど、心変わりはないね」

 

「! もちろんです!」

 

「ん。なら……おい!」

 

「ヘイ!」

 

魚盛の合図で下っ端魚人がいそいそと永澄にあるものを届ける。

 

「これは?」

 

「ふっ、向こうで着替えてきな」

 

しばらくして別の部屋で着替えた永澄が襖を開け現れる。

 

「ど、どうかな?」

 

瀬戸豪三郎が組長モードの時に着ている男物の着物を身に付け。

肩には濃い紺色の羽織を纏い。

 

組長(仮)姿の満潮永澄が照れながら姿を見せる。

 

「わぁ! 永澄さんかっこええ!」

 

「え!? そうかな!? ありがと燦ちゃん!!」

 

「着物着ると足の短さが目立つわよ下僕」

 

「う、うるさいやい!」

 

「うんうん似合ってるよ。よっしゃ! 早速行こうか、ついてきな!」

 

 

魚盛の屋敷 裏庭

 

 

「裏庭にこんなものが!? ここが修行場!?」

 

連れて来られた裏庭には天井が見えない程の巨大な絶壁。

そこにぽっかりと空いた大きな洞窟があった。

 

洞窟の入口には綱が引かれお札のようなものが張ってあり、神社仏閣に似たどこか厳かな雰囲気があった。

 

「そうだよ。満潮君にはここに一人で入ってもらう」

 

「ここに……」

 

ゴクリと唾を飲む永澄。

 

「この中に『平家』が代々守ってきた宝物がある。それを見つけるのが修行だ」

 

「お宝かぁ、一体なんなんじゃろ」

 

「初めに言っておくけど、一度この中に入ったら宝物を見つけるまで出てきちゃいけない。つーか出てこれない」

 

「えっ? それはどういうことですか?」

 

「言った通りだよ。宝を見つけられるまでこの洞窟からは出られないってことさ。そしてそうなったとしてもアタシらはアンタを助けない」

 

「つ、つまりこの中にある宝物を見つけられなければ、俺、この中で餓死!?」

 

「だろうね」

 

うが~~と頭を抱える永澄。瑠奈が抗議する。

 

「ちょっといくら何でも意味不明過ぎるわよ! そもそもそれが何の修行になんのよ! そのお宝ってのも何!?」

 

「そいつは言えない。そもそもこの場所を君らに教えてるってだけでも破格の対応なんだよ。……アタシら魚盛の子孫は魚人貴族を剥奪されてからも守り人としての使命を全うし、ようやく信頼の証としてその宝を――って言っても分かんないか」

 

魚盛は煙管に火をつけ吹かす。少しだけ遠い目をすると再び視線を永澄達に戻す。

 

「まぁ満潮君がその宝を見つけることが出来れば、間違いなく魚人貴族に対抗できる力が手に入るよ」

 

「下僕の下僕、魚盛はああ言ってるけど信頼できるの?」

 

「分からん。ただ歴史ある平家の宝がただの金銀財宝ではないだろう。この私が持つ『明星』みたいな武器だろうか? ……悩ましい」

 

「宝に辿り着くまでどれくらいかかるんですか?」

 

「そいつも言えない。でも宝さえ見つかれば帰りの生還は保証できるよ」

 

燦の疑問に素っ気なく答える魚盛。

 

「さてどうすんだい満潮君。やるの? やらないの?」

 

(ぐぐ……正直めちゃめちゃ怖い! 洞窟の中で餓死なんて嫌だっ!!――――けど!!)

 

「永澄さん……別にそんな無理せんでも……」

 

隣で心配する燦の顔を見て。

 

笑顔を見せる。

 

「魚盛さん、俺やります!!」

 

「永澄さん――」

 

「そうか・・・・・・。やっぱりアタシの目に狂いはなかったね。満潮君、アンタ漢だよ」

 

「下僕……」

 

「満潮永澄……」

 

「心配しないで燦ちゃん、すぐ戻って来るよ!」

 

永澄は自分の胸をドンっと叩く。そして洞窟に向かい――

 

「待って!!」

 

大声に立ち止まる永澄。

振り向くと決意した顔で燦が立っていた。

 

「燦ちゃん?」

 

「アタシもついてく!!」

 

「へっ!!??」

 

「待ちな! 流石に燦ちゃんに何かあった日には蓮ちゃんに、瀬戸内組に申し訳が立たないよ。今回は諦めな!」

 

「嫌じゃ!!」

 

永澄の手をしっかりと両手で掴む燦。

 

「もう置いてかれんのは嫌じゃ! 例えどんなとこでも永澄さんについていくきん!!」

 

「燦ちゃん……」

 

強く握る手が燦の覚悟を表している。

永澄は少し迷い。しかし優しくもう一つの手で燦の両手を包む。

 

「そうだね。俺達、夫婦だもん」

 

「うん!」

 

燦が強く、そして嬉しそうに頷く。

 

「魚盛さんお願いします!」

 

「お願いします!」

 

魚盛に頭を下げる燦と永澄。

 

「……顔を上げな」

 

燦の顔をじっと見る魚盛。

 

「その目。昔の蓮ちゃんを思い出すよ。豪ちゃんとの駆け落ちを決めた時の……」

 

魚盛は優しく微笑み。燦の頭に手を置く。

 

「そうだねアンタの人生だ。満潮君を支えてあげな」

 

「はい!!」

 

「燦様が行くなら私も行くですぅ!」

 

「巻ちゃん!?」

 

ひょっこり燦の肩から現れる巻。

 

「巻、お前いたのか……」

 

「いたわボケしばくぞコラ。ふん、ボーフラが野垂れ死のうと知ったこっちゃないが燦様が行くなら話は別じゃ。ワシもついていったらぁ」

 

「ありがとな巻ちゃん!」

 

「はいですぅ! 燦様のボディガードは巻にお任せですぅ!」

 

「お前は俺の用心棒だったろ!!」

 

永澄と巻が言い合いになり笑う燦。

その様子を見て溜息混じりで永澄達の前に出て来る瑠奈。

 

「はぁ~~仕方ないわね、乗り掛かった舟か……」

 

「瑠奈ちゃん?」

 

「私様も行ってやるわよ。ボケ同士のアンタ達じゃ道に迷いそうだしね」

 

「え~~ウチ、ボケ違うし~~」

 

「自覚がないからボケなのよ!」

 

燦と瑠奈のいつものやり取りにフッと笑って明乃も前に出る。

 

「やれやれ大所帯になりそうだな」

 

「不知火さんも!?」

 

「当然だ。私は既にお前の剣だ。お前が行く所はどんなとこでもついていくさ」

 

「不知火さん……」

 

見つめ合う二人。

 

「む~~~~~~ん」

 

「ハッ!?」

 

少しだけ頭のセンサーが反応し後ろを振り向く。

永澄の後ろですっごくデフォルメされた燦が唸り声?を上げながらスライムみたいな動きでグニグニしている。

 

「えっ? 燦ちゃんどうしたの!?」

 

「む~~~~~~~ん」

 

「燦ちゃん!?」

 

燦の謎の現象にあたふたする永澄。

 

(あぁ燦様ぁ……)

 

(バカ夫婦……)

 

(悩ましい……)

 

「くっくっくっ、はっはっはっ! 若いっていいわね!」

 

魚盛は豪快に笑う。

 

「さぁ行ってきな! しっかり宝もんを見つけてくるんだよ!」

 

「「はい!!」」

 

燦と永澄は手を繋ぎ洞窟へ歩き出す。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

深・正倉院

 

 

重い金属音が部屋中に響く。

 

 

「はあああああ!!」

 

「おおおおおお!!」

 

銀の持つ日本刀が煌めく。達人的な剣裁き。

しかしそれを難なく匕首で受け止める政。

 

「でしょうなっ!――しかし!」

 

一歩銀が後ろに引く。

 

「フッ――!」

 

「む――!?」

 

ガチリと再びの金属音。一瞬で距離を詰める銀。

 

「その短刀では――!!」

 

強靭な足腰から放たれる踏み込み。政の持つ匕首ごと断たんとする一撃をその短い刀身で政が受け止める。

 

「ぐっ――!?」

 

重い一撃に政の顔が歪む。

金属が擦れる音をさせたまま互角の押し合い――にはならず。勢いをつけた分だけ銀の刀が政に迫る。

 

「――なめんじゃねぇ!」

 

怒気と共に銀の刀を強引に押し返す政。

 

「――チッ!」

 

舌打ちと共に一旦離れ再び踏み込みを狙う銀。

が、その瞬間を狙った政の前蹴りが銀の腹にめり込む。

 

「ぐぅ――!?」

 

苦悶の表情を浮かべる銀。一歩下がるつもりが無理矢理二歩下げさせられる。

互いの間に僅かな距離ができる。

 

「こいつぁはこう使うんだ――!」

 

その間を政が駆ける。匕首より体を前に出し、刀身を包むように肩から体当たりを狙う姿勢で銀に迫る。

ヤクザの鉄砲玉がやる、体のどこを切られようが絶対に相手を刺すという殺し技でこの斬り合いに決着をつける政。

 

「終いだっ――!」

 

――――パァン

 

無慈悲な銃声が銀の腰から響いた。

 

「ぎ、銀……てめぇ!?」

 

「すみませんね『先輩』。時代は変わったんですよ……」

 

脇腹を赤く染め、勢いを失いながら銀の横に政は倒れた。

 

「政ぁああーー!!」

 

蓮が絶叫する。

 

「おい銀。まったく、血で汚すなと言ったろうに」

 

やれやれといった感じで魚長が銀を非難する。

 

「すみません魚長様。至急片付けますので」

 

落ちた帽子を拾い、銃をしまう銀。

 

「アンタァ! 覚悟は出来てるんだろね!!」

 

怒りの限界はとうに超え、蓮が吠える。

ビリビリと部屋の空気が振動し、蓮の周りから順に物が勝手に壊れていく。

 

「こいつは不味い。ここのお宝全部消し飛びますよ」

 

「……仕方ない」

 

魚長が杖で床を叩き合図のようなものを送る。

 

「来い、『インドラ』『ロンクウ』」

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

「捕えた二人は別室で眠らせてあります」

 

「あの男もか?」

 

「まぁ、手札は多いことに越したことはありませんので」

 

「……好きにしろ」

 

魚長は手に持つ天印を見つめる。

 

「時は満ちた――」

 

老人とは思えぬ握力で天印が魚長の手の中で握りつぶされる。

 

「今度こそ儂が全てを手に入れる」

 

 

続く!!

 

 




夏になると書きたくなる。
何年やってんだという感じですが……。

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