「そうだ アニメ，見よう」第93回は野﨑まど氏原作の「バビロン」。“自殺法”と謎の女性をめぐる社会派サスペンス

　2009年12月に小説「[映]アムリタ」（メディアワークス文庫刊）でデビューして以来，第34回日本SF大賞にノミネートされた「know」（ハヤカワ文庫JA刊）をはじめ，数々の話題作を世に送り出してきた野﨑まど氏。そんな野﨑氏の作品群の中でも“読む劇薬”と呼ばれるほど，過激な内容の作品が「バビロン」（講談社タイガ刊）だ。
　というわけで「そうだ アニメ，見よう」第93回のタイトルは，同作をアニメ化した「バビロン」。アニメーション制作はREVOROOTで，キャラクターデザインは後藤圭佑氏が担当。監督は「PSYCHO-PASS サイコパス2」や「infini-T Force」（関連記事）を手がけた鈴木清崇氏が務めている。

「バビロン」

　東京地検特捜部の検事・正崎 善（CV：中村悠一）は，ある捜査資料の中から，血痕や毛髪などとともに大量の「F」の字が綴じられた書面を発見する。正崎はその報告書を作成した准教授の因幡を訪ねるが，彼は全身麻酔機を使用して死亡していた。
　捜査を進める正崎は，政治家の野丸（CV：宝亀克寿）の秘書と謎の女性が，因幡の元へ足しげく通っていたことを突き止める。野丸は，町田市，八王子市，多摩市，相模原市が合併した新たな行政区画「新域」の域長選挙に出馬中の議員。因幡の捜査を進める正崎は，秘書の足取りを追うことにするが，その途中で部下の文緒（CV：小野賢章）が突如自殺してしまう。自殺の原因を追う正崎は，謎の女性・平松絵美子＝曲世 愛（CV：ゆきのさつき）と接触するが，彼女は事情聴取後に姿をくらました。


　事件の捜査が進行する中，新域域長選挙で野丸の対抗馬であった齋 開化（置鮎龍太郎）が域長に就任。齋は自殺を容認する法案「自殺法」を宣言し，それと同時に64人の男女が飛び降り自殺を図るのだった。

正義感が強くひたすら真面目な正崎。相棒の死の謎を追う

　“第2の東京”新域をめぐる陰謀に巻き込まれた，検事の苦闘を描いているのが本作「バビロン」だ。いわゆる社会派サスペンスかなと軽い気持ちで視聴を始めたところ，物語は製薬会社の不正事件から，政治絡みの陰謀へと発展し，やがて「自殺法」という，人類にとって命題とも言えるテーマへと急成長。あれよという間に，「自殺は人間にとって是か非か」「正義とは，悪とはなにか」を考えさせられることになり，正直思考が追いつかない有様だった。

「自殺法」は人間にとって必要なものだと語る齋 開化

　原作の野﨑氏は，TVアニメ「正解するカド」（関連記事）や映画「HELLO WORLD」で脚本も手がけており，どちらもジェットコースターのようなストーリー展開で，視聴者をぐいぐい引き込んでいた。今回もその手腕は十分に発揮され，数話もいかないうちに「バビロン」の世界へと連れ込まれてしまった人も多いのではないだろうか。
　人間の生と死，善悪の定義など，さまざまなテーマが隠されている本作だが，まずはこのスピード感にあふれた，サスペンスフルなストーリー展開に翻弄されるのが，“野﨑ワールド”を楽しむコツなのかもしれない。

文緒に代わり正崎を助ける瀬黒陽麻（CV：M・A・O）と九字院 偲（CV：櫻井孝宏）

人を自殺に追い込むミステリアスな美女

　齋が掲げる「自殺法」の裏で，事件を複雑にしているのが，謎の美女・曲世 愛の存在だ。曲世はどうやら他人を自殺に追い込むことができるようで，文緒や曲世の身辺を調査していた刑事，事情聴取に同席していた立会事務官までも自殺させている。
　彼を追い込んだ方法はいたってシンプルで，耳元で何かを囁くだけ。どんな内容なのかは分からないが，自殺者がみな満足そうな死に顔をしているところを見ると，絶望させて……というわけではなさそうだ。


　第5話で明かされた曲世の過去で，彼女が話すだけで，それどころか見るだけで相手を虜にできるということが分かったが，その異常性が際立つばかりで，真意は分からずじまい。
　果たして何の目的で，齋達に協力しているのか。正崎が今後，曲世の「正義って何かしら？」という，問いかけに答えることができるのかどうかも，見どころとなりそうだ。

話題を呼んだ衝撃の第7話

　衝撃的な第7話「最悪」が放送され，SNSで議論を呼んでいる。オンエア前から「関係者の理解もあり何とか放送にこぎつけた」と制作サイドが語るその内容は，確かにヤバかった。ネタバレになるので多くは語れないが，“曲世 愛の異常性，ここに極まれり”といったところか。
　そして，気になるのは正崎の心理状態だ。これまで自分の“正義”を信じて突き進んできた正崎だったわけだが，その信念が曲世の放った“毒”によって揺らいでしまうのか。続く第8話「希望」が待ち遠しい。



　本作は第1～3話で第1章「一滴の毒」，第4～7話で第2章「選ばれた死」と，章立てでストーリーが進行しており，章ごとにエンディングが変更されている。次話からは，第3章「曲がる世界」へ突入するわけだが，その前にこれまでの振り返り放送（第1話は出演声優達によるオーディオコメンタリー付き）が挟まり，第8話は12月30日に放送される予定となっている。
　少々イレギュラーなスケジュールだが，曲世役のゆきのさんによると「正崎さんが悪に飲み込まれて次に動くために必要な時間」とのことなので，これまでに見逃してしまった回がある人は，この機会に物語を補完しておくといいかもしれない。

　なお，原作の小説「バビロン」シリーズはまだ完結していない。つまりアニメのラストがどうなるかはまるで予想ができないわけだ。最後にとんでもない“どんでん返し”を仕込むことの多い野﨑作品だけに，最終話まで気を抜かないで見届けたい。

TVアニメ「バビロン」公式サイト

TVアニメ「バビロン」公式Twitter

放映データ
2019年10月～

キャスト
正崎 善：中村悠一
曲世 愛：ゆきのさつき
九字院 偲：櫻井孝宏
文緒厚彦：小野賢章
瀬黒陽麻：M・A・O
守永泰孝：堀内賢雄
半田有吉：興津和幸
野丸龍一郎：宝亀克寿
齋 開化：置鮎龍太郎

スタッフ
原作：野﨑まど『バビロン』シリーズ（講談社タイガ刊）
監督：鈴木清崇
キャラクター原案：ざいん
キャラクターデザイン：後藤圭佑
音楽：やまだ 豊
アニメーション制作：REVOROOT
製作：ツインエンジン
主題歌：Q-MHz feat. uloco.「Live and let die」

■Blu-ray情報

「バビロン」Blu-ray BOX


品番：VPXY-71786／価格：￥26,000+税

【本編ディスク】
２枚（#1～#12 収録）

【仕様】
本編約288分＋映像特典／カラー／ステレオ／リニアPCM／2枚組／16:9（1080P High-Definition）

＜仕様＞
描き下ろし三方背ボックス

＜特典＞
映像特典
・ノンクレジットOP、・ノンクレジットED ほか

封入特典
・『バビロン』スペシャルブックレット

＜法人別特典＞

【Amazon】
・描き下ろし 2つ折りディスク収納ケース

【アニメイト】
・マグカップ(正崎善愛用ver.)

【あみあみ】
・アクリルプレート
(C)野﨑まど・講談社／ツインエンジン