2004.10.1季節の薬草

ステゴビルの花

「坂戸文化かるた」にも「ステゴビルやしろの杜に白い花」と詠われている本植物は本州中部各地に遺存的に分布し、めったに見ることができない貴重な植物です。埼玉県では坂戸市入西(白花)と秩父(淡紫色花)の2ヶ所しか確認されておらず、県の天然記念物に指定されています。坂戸市入西のものはそのむかし、入西小学校の校長であった長島伝十郎先生が発見されたそうですが、自然開発の影響をもろに受け、今、その数は激減しています。
 本植物はニラやノビルに似ていますが、これらに特有のにおいはなく食用としての利用価値がなかったようです。ニンニクやネギなどを総称して「蒜」と言いますが、本植物は小さくて食用にならないので捨てて利用しない蒜という意味で「捨子蒜」の名がついたそうです。ユリ科の中でも本植物の属するCaloscordum(ハナビニラ)属は日本に自生するステゴビルと中国のハナビニラがあるだけの小さな属です。ステゴビルは9月に約20cmの花茎を伸ばし先端に5~6個の白色または淡紫色の花をつけます。花被片は長さ約1cmの線状披針形で花被片の下部が合着しているので合弁花のように見えるのが特徴です。花が終わっても結実するまで花茎は伸び、その後、結実した果実は垂れ上部から枯れ始めます。そして、11月中旬には新しい葉が伸び出します。この葉は本州西南部では越冬し本州北部では12月に枯れ、翌年3月初旬に再び芽を出し長さ約30cmの線形葉に成長するのですが、夏には枯れて花の咲く秋に葉はありません。
   
(薬学部 白瀧義明)

ステゴビル

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