2019/11/26

このアニメ絵の児童書がすごい「おしりたんてい編」

このアニメ絵の児童書がすごい「おしりたんてい編」

文:堀越英美/絵:やべさわこ

小学校低学年の子供がこぞって読む児童書と言えば、少し前までは『かいけつゾロリ』シリーズですが、今は断然『おしりたんてい』シリーズが人気です。2018年の「“こどもの本” 総選挙」では5位、6位、11位、12位、14位、17位、71位、73位に見事ランクイン。お遊び要素が多く、小さな子供たちにとっては物語への良い導入になっているようです。視覚優位の障害を持ち、字だけの本は苦手な支援級2年生の次女も、最近書店で『おしりたんてい』をおねだりするようになってきました。

おしりたんてい

おしりたんてい あやうし たんていじむしょ トロル(著/文), トロル(イラスト) - ポプラ社 | 版元ドットコム

『おしりたんてい』には、対象年齢3歳以上の絵本シリーズ(既7冊)と、対象年齢6歳以上のよみものシリーズ(既10冊)があります。小学生の子供たちが主に読んでいるのは、よみものシリーズのほう。我が家で最初におねだりされたのも、よみものシリーズの最新刊『おしりたんてい ラッキーキャットは だれの てに!』でした。「子供はおしりとかうんことか好きよね~」などとナメた態度で購入してみたら……いやいやとんでもなかったです。

最新刊なのでストーリーの詳細は省きますが、まさか児童書のクライマックスが、デスメタルバンドのシークレットギグだなんて。「Hey!SHIRI!おめぇの パッション ぶつけてやりな!!!」と女子ボーカルが叫べば、なぜかシークレットギグに参加しているおしりたんていが、おしりの割れ目(おしりたんてい的には口)に楽器をくわえて「プフォホーン!」。

「あつい ギグは よどおし つづきました」。そんな児童書の地の文あります?

おしりたんていがこんなにキレのいい(おしりだけに)お話だったとは……と感心した私は、子供たちにねだられるままに少しずつ揃えることにしました。

おしりたんていは、顔こそおしりですが、女性の依頼人をレディーと呼び、ティータイムと読書を愛するエレガントな知性派探偵です。どの楽器もたしなむ程度にはできるというのですから、本物の紳士ですね。口癖は「フーム、においますね……」。犯人を割り出すときの必殺技は、「しつれいこかせていただきます」の決め台詞で顔の割れ目から放たれるおなら。おならを放った瞬間、アニメ絵のキャラたちが劇画調になるので、とてつもなく臭いことが察せられます。

推理よみものといっても、迷路やおしり探し、暗号など、幼児から楽しめるパズルがあちこちに登場し、物語を読むのが苦手な小さな子供を飽きさせません。意外や意外、高学年の子供もおしりたんていが大好き。というのも、イラストのあちこちにはりめぐらされた細かいヒントから、おしりたんていと一緒に推理を楽しめるからです。『ミステリーマガジン』2018年7月号で特集が組まれたくらいですから、推理部分の楽しさは大人のミステリーファンのお墨付き。

もっとも本書の魅力を伝えるには、私の通り一辺倒の解説より、子供の言葉のほうが適切かもしれません。よみもの版『おしりたんてい』シリーズ既刊10冊のうち、我が家の子供たちがお気に入りの6冊を、子供のコメント付きでご紹介します(子供が読んだ順なので、刊行順ではありません)。

『ラッキーキャットは だれの てに!』

(あらすじ)
カフェ「ラッキーキャット」のマスターに付き添ってオークション会場を訪れたおしりたんていと助手のブラウン。マスターが欲しがるまねきねこ3体セットには、とある秘密が……。併録はシークレットギグのシーンが激アツな「おもいでの まねきねこ」。

[小6の感想]
凝りすぎててやばい。5周目までいける。1周目は物語を読んで、2周目は尻を探して、3周目は町の中の人を見る。街の場面でボールぶつけられているゴリラを撮ってるカフェガイドのインタビュアーが、次の町の画面でその写真を持っているとか、ダンゴムシの鉄道オタクが鉄道カフェのうんちくをかたむけている場面の前ページでちゃんと鉄道カフェが載ってるとか、伏線の張り方がとにかくやばい。こういう小ネタを見つけるのが気持ちいい。巻末にバンドインタビューまで載ってる。巻を追うごとに凝ってきていて、普通の絵本と違って飽きない。

[小2の感想]
ライブで「ゆきー」っていうところとお金をくつにかくすところがおもしろかった。

『かいとうVSたんてい』

おしりたんてい かいとう VS たんてい

おしりたんてい かいとう VS たんてい トロル(著/文), トロル(イラスト) - ポプラ社 | 版元ドットコム

(あらすじ)
オオヤギ家に仕える執事からの依頼で、がけの上のお屋敷にやってきたおしりたんてい。大泥棒「かいとうU」がオオヤギ家に伝わるお宝「ほしぞらのかがやき」を奪うという予告状を送ってきたのだ。おしりたんていとかいとうUの知恵比べの決着やいかに? 助手ブラウンの警察犬学校時代の思い出話「ブラウンのものがたり」を併録。

[小6の感想]
高学年ともなると絵の中の細かいヒントで「こいつが怪しい」って最初からわかるからそれが楽しい。かいとうUは中二病っぽくて嫌い。怪盗は完璧でいてほしい。おならに負けないでほしい。目の色はカラコンで変えればいいと思う。ところでUってうんこのU?

[小2の感想]
かいとうUがバッとする(マントをひるがえす)ところが好き。かいとうUが流れるときうんちみたい。ワンコロけいさつがっこうにおかしがいっぱいあるところが好き。

『かいとうと ねらわれた はなよめ』

おしりたんてい かいとうと ねらわれた はなよめ

おしりたんてい かいとうと ねらわれた はなよめ トロル(著/文), トロル(イラスト) - ポプラ社 | 版元ドットコム

(あらすじ)
ケロケロ王国の王様ケロ16世に頼まれたおしりたんていは、秘宝「ひかりのベール」をかいとうUから守るために結婚の儀式に参加する。花婿に変装したかいとうUの手に危うく「ひかりのベール」が渡りそうになるが、花嫁のベールの下にひそんでいた顔は……。かいとうUのイケメンぶりが光る脱獄ストーリー「おりの なかの けいかく」を併録。

[小6の感想]
カラスは光りものが好きという性質を使っているところとか、実際の動物の習性を利用したキャラクターづくりが面白い。かいとうUは怪盗のくせに相変わらず詰めが甘い。

[小2の感想]
ネコがばっしゃーんて爪出して流されるところがおもしろかった。でもかいとうUは(何も盗んでないのに)なんで逮捕されたの?
([小6の返答]余罪がすごいからっしょ。じゃなきゃ怪盗って呼ばれないっしょ。)

『おしりたんてい いせきからのSOS』

おしりたんてい いせきからのSOS

おしりたんてい いせきからのSOS トロル(著/文), トロル(イラスト) - ポプラ社 | 版元ドットコム

(あらすじ)
おしりたんていのもとに届いた助けを求める謎の手紙。まだ見ぬ依頼人を救うため、おしりたんていと助手のブラウンは地図に書かれたジャングルへと向かう。しかけだらけの遺跡の奥で待っていたのは、おしりたんていの父親「おしりダンディ」だった。探偵事務所の取材に訪れたカフェガイド記者のウソを暴く「あやしい ほうもんしゃ」を併録。

[小6の感想]
網にかかったおしりたんていが網からはみ出しているところがかわいい。あと2話目の最後でおしりたんていが悪者にも紅茶をごちそうしてあげるところがかっこよかった。イケメンじゃないけどかっこいいというのはこういうことだと思う。菅田将暉とおしりたんていどっちがかっこいいと聞かれたらおしりたんていと答える。でもだいすけお兄さんには負ける。

[小2の感想]
めいろととうぞくをたいほするところがおもしろかった。

『おしりたんてい あやうし たんていじむしょ』

おしりたんてい あやうし たんていじむしょ

おしりたんてい あやうし たんていじむしょ トロル(著/文), トロル(イラスト) - ポプラ社 | 版元ドットコム

(あらすじ)
名探偵「キャ―ロット・ホース」と名乗る男がおしりたんていの住む町にやってきた。キャーロットは一番の名探偵はどちらかを決める勝負をおしりたんていに挑む。母親世代のハートをつかむタイトルの「おとうさまは しんぱいしょう」を併録。

[小6の感想]
ライバルに挑発されているのにおしりたんていが冷静なところがよかった。

[小2の感想]
わるものがたいほされるところがおもしろかった。

『おしりたんてい むらさきふじんの あんごうじけん』

おしりたんてい むらさきふじんの あんごうじけん

おしりたんてい むらさきふじんの あんごうじけん トロル(著/文), トロル(イラスト) - ポプラ社 | 版元ドットコム

(あらすじ)
サツマイモ農園を営む「むらさきふじん」が探偵事務所を訪れた。先祖が残した手紙の暗号を解いて、宝を探してもらいたいという依頼だった。さっそく農園を訪れ、暗号で示された場所に向かうおしりたんてい一行。地下迷路などの謎をくぐりぬけ、おしりたんていが出会ったものとは……。併録の「おやつどろぼうは だれだ」では、お勉強にも役立ちそうな「すいりのための3かじょう」(おぼえて・しらべて・りかいする)が登場。

[小6の感想]
最初からあやしい奴はわかってた。新聞でわかった。おしりたんてい事務所の電話番号が「1104(いいおしり)」なのがツボ。地下迷路で出てきた受験生モグラが最後にパーティに参加してるのもいい。最後のさつまいも料理のフルコースがめっちゃおいしそう。

[小2の感想]
おいも食べたい。

Amazon:おしりたんていシリーズ

  • Writer

    堀越英美

    ライター。著書に『不道徳お母さん講座』(河出書房新社)『女の子は本当にピンクが好きなのか』 (ele-king books)等。訳書に『世界と科学を変えた52人の女性たち』(青土社)、『ギークマム』(オライリー・ジャパン、共訳)。

  • やべさわこさん
  • Illustrator

    やべさわこ

    1994年生まれ。オリジナルのイラストをSNSで発表し始め、2018年5月からイラストレーター(マンガ家)として活動し始める。昭和の歌や懐かしい風景を偏愛している。

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