登場人物:オババは私の姑。ディズニー狂で元気一杯の76歳。以前の【結婚と毒親】シリーズでは、多くのオババファンができました。そして、今回は戦国時代に意識が飛び、他人の身体をアバターとして生きるオババ&アメリッシュのお話です。
(前回までのあらすじ:1573年、アバターとなった母娘を生かすため兵隊になる決意をしたオババとアメリッシュ。7人の仲間と一緒にオトリとして編成された部隊に配属されてしまい、なんとか逃亡。明智光秀が築城した坂本城まで戻った)
戦国時代の日本の国境
日本は海に囲まれ地続きで国境がないって、当たり前に思えているけど。
でもね、戦国時代の人間は歩いている道のどこかで別の国になったんだよ。現代みたいに国境をカッチリと線で分けることもないし、国境警備隊やらゲートがあったわけでもなく、江戸時代にあった関所もまだないけどね。
そうそう、知ってる?
戦国時代から続く江戸時代。
徳川家が天下を支配していたけど、それって、今でいう連邦制であって現代の日本の政体とはちがったんだ。日本国内を国というか州に近い形で大名が支配していたから、例えば、尾張の税と美濃の税が違ったりしてたんだよ。余談だけど。
で、戦国時代はゆる〜〜く国がわかれていた。国境があった。なんなら国内にボーダーがあるって、かっこつけてみてもいい。
当時の織田が支配したいたのがオレンジ色の内部であって、
例えば、私がいる近江は琵琶湖の周辺をいい、京都よりの地域が1573年には織田信長の勢力下にあったわけで。その要所に坂本城を建て、比叡山と京都を明智光秀に監視させていた。
もともとは三好長慶が支配していた場所で、まあ、京都へ上洛する拠点でもあり、土地の取り合いも含め激戦地というわけ。
意地とか名誉欲とか復讐とか、ともかく今の時代でも感情がからめば大変なことで、たとえば遺産で揉めるなんて、どこの家族でもあって、そういうことって人間が生きてる限りなくならない。その規模を大きくしたのが国取り合戦なのかもしれない。
坂本城周辺の琵琶湖近辺は、私たち小荷駄隊ホ組には自国で、ま、野盗とかいるけど自分の国だから、ある程度は守られているってこと書きたかった。
これって、現場にいると最重要なことなんだ。敵国に明智の一員ってわかる姿、例えば旗印なんか掲げて入るって、そりゃ、かなり怖いわけさ。
私とオババは450年間に人類が培った叡智と才覚、それもお婆ちゃんの知恵袋的経験で乗り切るつもりなんであります。
できんのかって?
ま、見ててご覧!
近江と京都間にある山城
三の丸にあるそこは兵士たちがくつろぐ場所らしいけど、雨露を凌ぐ程度の本当に簡易って、これで簡易、いっそ外だろってほど適当な場所だった。
私の身体は1573年に住む20歳の女性でも、さすがに疲れが激しくて、誰でもわかると思うけど疲れると人ってイライラする。
宿泊所の粗末な寝床、1日2食の粗末なって、粟や麦にその辺の草を放り込んだ雑炊で味付けは塩か味噌だけ。バリエーションといえば、中にはいる野菜に変化があるくらいだから、飢えていないけど、これを食べるのかって、そこでもイラっとした。
白いご飯が夢にでてくるし、ステーキだって、ケーキだって夢でみたけど、もうね、夢がね、味まで確信するほどリアルな夢になっていた。消費期限切れで固まったアンパンだってご馳走になるから。
「どうした。食べないのか」と、小頭のトミが聞いた。
「いえ」って声が拗ねてた。
仲間は全員もう食べ終わっていて、オババでさえも。
でも、頭のなかで21世紀のグルメが回っているわけさ。
雑炊には鶏肉でしょ。卵でとじるでしょってな不平で、昆布出しとかカツオ出しとか・・・、そういえば、確か明智光秀は信長に言われて、徳川家康を山海の珍味でもてなしたはず。
あいつら、きっと、こんな時でも、こんな食事じゃない。
そう思うと、ますますイラついたんであって。
「トミ!」
その時、遠くから声がかかった。
見た顔で記憶を探して、ああ、私たちをしれっとオトリの旅にだした、あの男だって気づいたよ。
「帰ったのか」
「帰って悪いのか」
「テンがいないようだが、ダメだったか」
「誰が帰ってこなくとも、テンだけは帰るわ」と、トミが言った。
「ま、そうだな。ホ組は全員帰るか、運がよかったな。他は全員が討ち死にだったようだ」
「全員か」
「ああ」
「ともかく、運が良かったな、ま、今日のところは休め」
運がよかったと?
これが運なのか? 最初から死ぬってわかってたろうが・・・
その時だった。
「待て!」と、オババが低い声を出した。
いや、オババが言わなければ私が声を上げたと思う。
宿泊施設は10畳くらいの広さで、その場には、私たち以外に3名ほどしかいなかった。
「なんだ」と男が答えた。
「知っていたであろうが」
「なんのことだ」
「今回の荷が偽物であったことだ」
オババが怒っていた。めったに感情的に言葉を出さないオババが怒ったときは怖い。
男は貧相な顔をゆがめて、横柄にアゴをあげた。
「あ〜〜ん、そんなこたぁ、知らねえよ」
「嘘を言うな! 荷物は木屑や木材のゴミ山だった。その辺で拾って集めて米俵を作ったのは、お前達だろう」
「お前らの知ったこっちゃねぇ」
「謝れ! 味方を殺しておいて、謝ることもできんのか」
「てめぇ!」
私もなにか怒鳴りたかった。しかし、子どもの頃からだけど、どんなふうに怒っていいのかわからない。嫌なことを言われても、その瞬間に返すことができずに、アワアワしてしまう。
そして、あとで悔しいって思うんだよ。
自分でもバカだと思うけど、人の悪意を気づくのが、いつも3歩ほど遅いんだ。そして、そういう場合の3歩って致命的なほど遅い。
「だまらっしゃい!!」
オババの声が地に響いた。
そのとき、その場にいる全員が、オババに怒鳴られた男も含めて、全員が思ったのは、オババを怒らせると怖いってことだと思う。
全員が凍りついたときに、テンが帰ってきたんだ。
テンの歩き方は音がしない。ネコ属の歩き方。
そして、彼女は濡れていたんだ。雨が降ったわけではないのに、着物も髪も、ずぶ濡れだった。
異様な姿のまま、オババと男に関心も示さず、すっと横をすり抜け、そのまま奥の暗がりに進んだ。
男はその様子に鼻白み、オババから手を離すと、その勢いでオババが尻餅をついた。
「いいか、次はないぞ。次にやったら全員が牢だ! トミよ、よく言って聞かせとけよ」
そう捨て台詞を吐いて男は去った。正直、私はほっとした自分を持て余してた。
トミが近くにきた。
「おい、いいか。こんなことは2度とやるな。迷惑だ」
ふたりはしばらく睨みあい、オババが何か言いかけたがやめたよ。
「わかった」
「テンよ!」
と、トミが暗がりで休むテンに声をかけた。
返事はない。
「ケガはなかったか」
また、返事はない。
気になって暗がりに集まると、テンは目を閉じている。
ずぶ濡れのまま、横になっているが息が荒い。
思わず額に触れようとすると、不意にその手を掴まれた。アザになりそうなほど強く掴まれ、気づくとテンが美しく凄絶な顔で睨んでいる。
怖いと思ったんだよ。美しい顔って普通以上に怖いんだ。
「熱をみたいだけよ。心配いらない」と、私はおずおずしながら言った。
「テン、手を離せ、大丈夫だ」
テンは深く息をした、と、手首が軽くなった。
額に手を当てると熱い、やはり熱を出していて、
手近にあった布で顔を拭ってもすぐに汗が滲んでくる。
「乾いた着物はないの? このままでは悪くすれば肺炎になる」
「はいえん?」と、トミが聞いた。
「この時代で肺炎になったら死ぬよ。乾いた服を」
「カズ! なんでもいい着替えを探してこい」
「いいかい。体を見るから」
「テン、こいつは妙な知恵がある、言われた通りにしろ」と、トミが言った。
私はテンの服を脱がしたんだ。
白い肌には多くの古傷があり、現代なら虐待を受けて育った子のようで痛ましい。そして、脇腹が切れているのを発見したんだよ。すでに血が固まっているところをみると、それほど深い傷ではないと思う。
「オババ」
「ああ、血は固まってるし、浸出液も出てない。傷は深くはない」
「抗生物質はないけど」
「アメ、私の子どもの頃なら、この程度の傷はほっといた、大丈夫だ」
「この熱は」
「おそらく、この子は川で体を洗って消毒したんだろう。動物的な勘だな」
「じゃあ、風邪を引いた」
「だな」
「風邪薬はないよね」
「ないな」
テンの着物を脱がせて、乾いたものに着替えさせた。
痛いとか、辛いとか、なにも言わない。いったいどういう育ち方をすると、こんなふうに無感情になるのだろうか。
あとでトミに聞いたんだけど、テンが戦っている間に、味方の兵が来て襲撃者たちを皆殺しにしたということだった。
私たちは、そのためのオトリだったようだ。
乾いた時代だ。
翌日から、私たち小荷駄隊は違う荷物を運ぶことになった。
テンは苦しいだろうに、私たちの後ろをついてきたんだ。
今度は戦場までだったが、無事に届けることができ無事に戻れた。そんなことを数回続けたあと・・・
ある日、小荷駄隊ホ組は城内に呼ばれた。
そこで、私は明智光秀を見ることになったんだよ。
・・・つづく
*内容は歴史的事実を元にしたフィクションです。
*歴史上の登場人物の年齢については不詳なことが多く、一般的に流通している年齢などで書いています。
*歴史的内容については、一応、持っている資料などで確認していますが、間違っていましたらごめんなさい。
参考資料:#『信長公記』太田牛一著#『日本史』ルイス・フロイス著#『惟任退治記』大村由己著#『軍事の日本史』本郷和人著#『黄金の日本史』加藤廣著#『日本史のツボ』本郷和人著#『歴史の見かた』和歌森太郎著#『村上海賊の娘』和田竜著#『信長』坂口安吾著#『日本の歴史』杉山博著#『雑兵足軽たちの戦い』東郷隆著#『骨が語る日本史』鈴木尚著(馬場悠男解説)#『夜這いの民俗学』赤松啓介著ほか多数
戦国時代の農民の価値
焚き火について
いつもコメントありがとうございます。本当にとてもとても嬉しいです。
さて、前回のブログで『追われている最中に焚き火は命取り』というコメントをいただき、私も同じことを考えていたので返答いたします。
今回の襲撃は三好勢のゲリラ攻撃の一部、いくらでも代替えのきく雑兵を狙ったものではなく、あくまでも荷物を奪おうと計画したものだと思って書きました。ということは、彼女らを狙って深追いすることはなかったと思い、野犬などの襲撃を防ぐために焚き火が必要だと思ったのです。
当時、農民兵は領主に対する帰属意識は薄かったと思います。戦国時代です。住む国土の支配者はよく変わります。そして、戦国大名にとって農民兵はモノという意識があったようです。
その領地についてくる働き手であり、敵側として戦場で殺害することはあっても、雑兵を皆殺しにはしませんでした。そんなことをすれば、支配した後の働き手や兵が不足するからだったそうです。
ーーーーーーーーー
*異世界へ転生したオババとアメリッシュの物語は、下記ブログからはじまっています。
NHK大河ドラマ『麒麟がくる』
沢尻エリカ容疑者が薬物で逮捕され、代役が決まっても、現場は、おそらく地獄でしょうね。
ところで、文春オンラインの緊急アンケートによりますと、「撮り直ししなくてよい」が51.9%とのことでした。このまま沢尻さんで放映してもいいという意見が多かったんです。ちなみに、「撮り直しすべき」が48.1%でした。
アンケートをしたのがオンラインだからかな?
NHKは受信料で放映している公共放送で、取り直しにより何億という損害がでることは想定できます。これを沢尻サイドからの違約金とかなんとかでまかなえるんでしょうか? 事務所、保険入ってるよね?
そんなこんなで、沢尻容疑者を使うのもしっくりこないけど、取り直しもなんだかなぁとは思いました。
もし、このアンケートが私にきたら「しなくていい」に一票いれるのは、あくまでも、受信料の無駄遣いが嫌だからであって、おそらく、多くの方がそんな気持ちなんでしょうね。