時にはこんなオーバーロード【短編保管】   作:NEW WINDのN

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―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~の番外編です。

こちらに移しました。
一応読み切り用に書いているつもりです。


―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 番外編
もうひとつの黒と緑の物語


「コキュートスを呼べ。たしかナザリックに戻っているはずだ」

「かしこまりました」

 今日のアインズ当番は、一般メイドのシクススだ。彼女は完璧な礼をしてから部屋を退出しようとしていたが、アインズはその背中に声をかけた。

「ああ、言い忘れていたな。ここではなく闘技場に来るように伝えておいてくれ」

「かしこまりました、アインズ様」

 シクススが完璧な礼をして出ていくと、アインズは収納から一つのアイテムを取り出す。それはヘルメットのような飾りのついたペンダントだった。何となくだが、アインズが首から下げているペンダント緑の矢(グリーン・アロー)と似た雰囲気を感じるが、それは正解に近いだろう。これは類似アイテムであり、同じ限定ガチャで出た当たりアイテムのひとつなのだから。まあ、当たりの中ではハズレ扱いされていたのだが。

 

(·····たしかスパルタンという名称だったかな……ARROWでは、主人公の仲間(サイドキック)だったはずだけど……一つ気になることがあるんだよなぁ)

 気になっていたのは、アインズがアローを知った経緯と同じものだった。そう"声"である。ARROWの主人公アロー(オリバー・クイーン)の日本語吹き替え版の声と、アインズ──当時はモモンガだったが──の声がソックリというかほとんど同一。ギルド内では同一人物説が流れるほどだった。もっとも、鈴木悟がいた世界はARROWから100年は経っているので同じはずはないのだが。つまり他人の空似である。

 だが、そのそっくり具合は、声優が本職であるギルドメンバーぶくぶく茶釜のお墨付きを頂いている。

 

(·····この世界に来るまでは知らなかったんだけど、ってNPCはユグドラシルでは喋らなかったから知るはずもないのだけど……コキュートスの声って……スパルタンに似ている気がするんだよな)

 アインズはそんな事を考えつつ、ペンダントを揺らした。

 これは所謂アメコミヒーローものとのコラボイベントでのみ入手出来たアイテムであり、その時はDC系が対象だった。

 アメコミヒーローは、DC系(バットマン、スーパーマン等)と、マーベル系(スパイダーマン、アイアンマン等)に大別される。

 多数のヒーローのなかで、スパルタンは特殊なキャラクターである。

 元々DC系ヒーローの中にスパルタンという名のヒーローはおらず、ドラマARROWで生まれた番組オリジナルのヒーローなのだ。

 スパルタン(本名はジョン・ディグル)は、褐色の肌の元軍人。全8シーズンに渡って放送されたARROWにおいて、ファーストシーズンからファイナルシーズンまで出続けている数少ないキャラクターだった。

 ファーストシーズン第一話でオリバーのボディガード兼運転手として登場し、オリバーがフードの男──後にアロー、さらにはグリーン・アローと名乗る事になる──と知った後も変わらず友情を育み、軍人あがりの射撃の腕と格闘術でオリバーの戦いを支え続けた。ストーリーの中盤からは、顔を隠す為にヘルメットを着用し、スパルタンのコードネームを名乗る。そして時にはオリバーの代役でフードを被り、グリーン・アローとして活動する事もあった。

 そんな主要キャラのスパルタンの声が、コキュートスに似ていると思ったのはつい最近の話だ。

 

「まあ、これを見つけたからなんだがな……」

 アインズは骨の指で宝物庫に眠っていたアイテムをもう一度揺らしそれを眺める。

(これを置いていったのは誰だったか。それはともかく確かめてみるか。コキュートスの声はエフェクトがかかったような感じで分かりにくいのだが、たぶんソックリなはずなんだ)

 アインズは、指輪を起動し闘技場へと転移する。

 

 

「アインズ様」

 アインズが着いて直ぐにコキュートスが姿を現した。息は乱れたりしていないが、かなり急いで来たのは予想がつく。

「よく来たな、コキュートス」

「御方ノ、オヨビトアレバ即座ニ」

 コキュートスは跪き、恭しく頭を下げた。

「うむ。お前の忠義嬉しく思うぞ」

 もうアインズはこの程度の事では反応はしない。この世界に来て数年。人間さすがに慣れるものだ。まあ、今のアインズは人ではない何か、人とは違う何かになっているのだが。

 

「アリガタキ御言葉」

「さて、お前を呼んだのは、ちと確認したい事があったからだ」

 アインズの言葉に僅かにだがコキュートスの雰囲気が硬くなる。

「何カ、アリマシタデショウカ」

「警戒は必要ないぞ。お前はよくやってくれている。今回は、お前の新たな可能性を探ろうと思ってな」

「新タナ可能性?」

 コキュートスは理解出来ていないようだ。

「そうだ。現状維持は後退を意味するからな。細かい説明は省くが、まずはコレを身につけてスパルタンと唱えてみよ。使い方は身につければわかるだろうから」

 アインズはペンダントを渡す。それを恭しく両の手で受け取ったコキュートスは、それを首にかけ装備する。様々な種族を選べたユグドラシルならではだが、サイズはコキュートスに合わせて変化している。

 

「ナルホド·····スパルタン」

 キーワードに反応しペンダントが輝き、コキュートスがその光に包まれる。

「おおっ……これは」

 光が消えた時、そこには蟲人の姿はなく、代わりに黒いバトル用スーツに身を包み、バイザー付きのヘルメットを被った人間がいた。口元は露出しているので浅黒い肌だとわかる。

「人の姿になった気分はどうだ、コキュートス」

「そうですね。体のサイズの違いや、腕が二本しかないことに違和感があります。アインズ様」

 コキュートスの声はいつもとは違う明瞭な声だった。

(やはりな。思った通りソックリだ)

 アインズは確信を経て満足げに頷いた。コキュートスの声は、スパルタンと同じだと。

(茶釜さんに判定して欲しかったなぁ·····)

 懐かしいメンバーの顔を思い浮かべる。顔と言ってもピンクの肉棒なのだが。

 

「そうか。まあ、それは慣れるしかないな」

「はい。·····アインズ様、ところでこの姿は……」

「その姿は、スパルタン。ヘルメットを外した時の名前はジョン・ディグルという。私が変身しているアロー改めグリーン・アローの仲間(サイドキック)だ」

「アインズ様の都市でのお姿の!」

「そうだ。そして、これには幾つか意味がある。全ては話さないから自分でも考えてみるとよい。一つの理由は、人の姿になることで人間の生活を直に知ることができるからだ。蟲人であるお前は、そのままの姿ではやはり警戒されてしまうのは否めないだろう。人間という種族は脆弱であり、姿形が違うものを受け入れにくいのだ。まあ、それは変えて行くつもりだがな。無論今すぐには無理だが、いずれはそういう目を取り払っていきたいと思っているのだよ。それにお前達守護者は人を軽く見る傾向があるからな。まあ、コキュートスならば強き戦士などには興味を示すかもしれんが、私はもっと視野を広くしてもらいたいのだよ」

「なるほど。さすがはアインズ様」

 コキュートスはウンウンと頷いている。いつもとは違う人間の姿で。

「それと私としても、よい練習相手が欲しくてな。もちろんいつもコキュートスには戦士としての動きを教えて貰っているし、感謝しているのだぞ」

「勿体なきお言葉」

 いつもとは違う滑らかな声にコキュートスは若干戸惑いを覚えているように見えた。

「……コキュートスと訓練するのもよいのだが、たまには人型の強敵が欲しくてな。スパルタンの格闘能力は、私が変身するグリーン・アローとほぼ互角という事になっているのでな」

「なるほど、それで闘技場でというわけなのですね」

 2人は自然と距離を取り始めていた。

「そういうことだ」

 アインズはアイテムを起動し、人ならざるもの姿から、緑のフードを被り矢筒を背負ったグリーン・アローの姿へと変わる。

「おお、これは歴戦の勇者という雰囲気になりますな」

「いや、勇者じゃないぞ。英雄(ヒーロー)だ。さあ、かかってこいコキュ……いやスパルタン」

「なるほど、英雄(ヒーロー)ですか。それでは、こちらも失礼いたします。アインズ様……いえ、グリーン・アロー!」

 フードを被ったアインズと、ヘルメット姿のコキュートスは同時に拳を振るった。いや、言い直そう。グリーン・アローとスパルタンは同時に拳を振るった。

 

 

「おー、これは貴重な物が見れるねぇ」

「見てていいのかな、お姉ちゃん」

「馬鹿だねぇ。ここは私達の階層だよ。見られたくなければ、別の場所でやるでしょ」

「そうだよね」

「そうそう。それに見逃す方が不敬だよ」

 双子の闇妖精(ダークエルフ)は、繰り広げられる激しいバトルを瞬きもせずに見つめている。

 

 スパルタンの右ストレートを僅かに左に首を振って躱すとグリーン・アローは死角となる位置から左フックを放つ。

「っとぉ」

 それをスパルタンは素早いダッキングで躱し、低い姿勢から右のボディフックを繰り出す。

「させん」

 トンと地面を蹴って後ろに飛んでそれを回避し、着地と同時に走り込んでグリーン・アローは右の前蹴りを繰り出す。

「ぬんっ!」

 両腕を十字に組んでブロックすると同時に体を反時計回りに回転させて回し蹴りを繰り出す。ゴウッという風切り音。すんでのところでグリーン・アローはそれをスウェーで躱す。

「これだ。やはり楽しいな」

「だいぶ体に馴染んできたようです」

 スパルタンの高速左フックがグリーン・アローの顔面を打ち抜く。

「ぐああっ」

 あっさりと体が浮き上がり壁際まで吹き飛ばされてしまうが、くるりと回転し壁に激突する前には地面に着地してみせる。

「今のはなかなかだ」

 動揺をみせずに言い放つが、内心かなり焦っている。

(なんだ今のは、今までとスピードもパワーも段違いだぞ。本当に体に馴染んできたのか? )

 ここで考える時間を与えずにスパルタンが追撃に突っ込んでくる。

「くっ、はやいっ!」

 やはり先程までとはスピードがまったく違う。

(互角のはずじゃないのか)

 設定では格闘戦の戦闘力は大差なく、ほぼ互角とされていたはずだが、今は完全に負けている。

(なぜだ!)

 かろうじて攻撃を躱し、防御しながらアインズは考える。姿はグリーン・アローでも思考はアインズのものに変わりはない。

(まさか、俺はこの体を使いこなせていないのか? )

 この地に来た直後からアインズはグリーン・アロ──―当時はアローを名乗っていたが──として活動している。魔道国を立ち上げてからはフードを被ることも少なくなったものだが、この姿での戦闘経験は豊富だ。

(戦士としての資質の差か?)

 考えられるとすればそこだろう。

(もしそうならば、俺もまだ成長できるのかもしれないな。驕りがあったのやもしれん)

 それはある意味仕方ないのかもしれない。アインズとしても、アローあるいはグリーン・アローとしても本気で戦ったことなどないのだから。常に余裕のある戦いしかしていない。最大の強敵はセバスが姿を変えたブラック・バトラーだったが、所詮は身内のお遊びバトルに過ぎない。

 知らぬ間に力を加減する癖がついたとしてもおかしくはないだろう。

(ならば、リミッターを解除するまでだ!)

 スパルタンの猛攻にさらされながら隙を伺う。

(ん? 振りが大きい!)

 スパルタンの連打の終わりがやや大振りになる癖に気づく。

(罠ではなかろう。癖で間違いないか·····普段は剣を振るっているわけだし人としての姿で戦うのも、格闘戦も初めてだからな。これくらいは当然か)

 防御に徹しながら再び様子を見る。やはり連打の締めのは大振りになるようだ。

(勝機を見逃すわけにはいかないな。そろそろだ。準備しておこう)

 反撃のチャンスはすぐに来た。連打終わりに繰り出す右ストレートの振りが大きい。

「とあっ!」

「なにぃっ!」

 軽くジャンプして躱すと呆気にとられるスパルタンの顔を太腿で挟み後方に高速回転! この世界で最初に出した技、あな安宿で繰り出した得意のフランケンシュタイナーで、スパルタンとなったコキュートスの頭を地面に突き刺すように叩きつける。

「グハッ!」

 呻くスパルタンの右腕をそのまま腕ひしぎ逆十字固めに決めた。

「グアアアアッ!」

 勝負有りである。関節技を初めて受けたスパルタンに外し方はわからないはずだから。

「ここまでにしようスパルタン·····いやコキュートスよ」

 アインズは技とともにグリーン・アローへの変身を解いた。

「さすがはアインズ様」

 そう言ってスパルタンは、コキュートスへと戻った。

「よき戦いであったぞ、コキュートス。さすがだな」

「アインズ様ニハ、カナイマセン」

「いや、そんな事はないぞ」

 アインズはコキュートスを労う。

 

 この後、グリーン・アローの隣に時折スパルタンという名の冒険者が並ぶ事があったという。影のように付き従いながら、息のあった動きをみせる。人々は新たなる英雄(ヒーロー)の誕生だと囁きあったという。

 

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都である城塞都市エ・ランテル。その中で、スラム街──今は亜人街となったが──その境に店を構えるクラブ VERDANT(ヴァーダント)。この店のオーナーは、オリバー・クイーンという。その正体がグリーン・アローであるという事は、ほとんど知られていない。

 そのグリーン・アローがアインズ・ウール・ゴウン魔導王の偽装身分(アンダーカバー)である事はさらに秘事である。

 実はこの店と、その隣にある漆黒の店SCHWARZ(シュヴァルツ)は、ナザリック資本で作られており、初期には資金稼ぎに大きく貢献したものだ。

 

 

「なあ、聞いたか。新しいヒーローの誕生らしいぜ」

 店のチーフバーテンダーであるルクルットは、仕事終わりで顔を出した隣りの店長であるペテルに酒を出しながら話かける。

「聞いた聞いた。モモンさんやグリーン・アローさんと互角の強さらしい」

「あの二人と互角かよ。すげえなそりゃ」

 この二人は一度だけだが、漆黒とともに依頼を受けた事のある元冒険者だ。

「だよな。それにしてもモモンさんとグリーン・アローさんと互角な人が今まで知られていなかったのが凄いと思う」

「ほら、英雄は英雄を知るっていうからさ。惹かれ合うんじゃないかなぁ……。ああ、俺も惹かれ合う女の子と出会いたいぜ。お前はいいよな、ブリタがいるからよ」

「はは……。まあ、そのうち出会うよきっと」

 いつもの事なので、ペテルは流す事にする。

 

 今日もエ・ランテルは平和に一日が終わろうとしていた。

 






この世界では漆黒の剣は生存しています。



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